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2008年9月24日 (水)

アーバンコーポレーションのコンプライアンスにみる内部統制の脆弱性

本業のほうがどうも忙しくなってまいりまして、祝日も終日事務所で書面を作成しておりましたが、ブログはできるかぎり更新いたしますので、引き続きよろしくお願いいたします。(すいません、コメントはまともにお返しできない状況が続いております)さて、ひさしぶりの「コンプライアンス経営はむずかしい」シリーズでありますが、今回は金融商品取引法違反による損害賠償請求訴訟の噂が出ておりますアーバンコーポレーション社の件をとりあげておきたいと思います。なお、9月20日の日経新聞でも「不適切な開示への誘惑」なる記事(大機小機)が出ておりましたが、訴訟提起の噂もありますので、不適切開示が果たして違法行為となるのかどうか、といった問題については立場上、意見を差し控えさせていただきます。

パリバとのスワップ契約部分を開示しなかったことの適法性は別として、すでに東証は、アーバン社による開示が不適切であったとしておりますし、「あの資金調達さえなければ、倒産という最悪の事態は避けられたかもしれない」(9月12日日経朝刊記事による、アーバン関係者の証言)ほどの事件だったわけですから、本件はアーバン社にとりましては企業情報開示に関わるコンプライアンス問題であることには間違いありません。そこで、すこし気になりましたのは、会社法務A2Zの3月号におきまして、「アーバンコーポレーションにみる『内部通報システム』と『コンプライアンス教育』」と題する特集記事(内部統制最前線)が組まれておりまして、そこでは「21世紀を代表する不動産価値創造企業をめざす」という経営ビジョンをもとに、アーバン社がすぐれたコンプライアンス教育に注力をしてきたことが内部統制室長インタビューのもと、広報されている内容であります。リスク情報の公表や反社会的勢力からの物品購入など、企業の信用維持のために必要なリスク管理についてもコンプライアンス研修の対象になっているようです。コンプライアンス研修などは、短期間で効果があらわれるようなものではありませんが、2006年秋ころから内部統制プロジェクトも開始されているようですので、おそらく1年以上は内部統制構築の一環としてなされてきたのではないかと推測されます。

私がいつもお世話になっているコンサルティング会社も関与しておりますし、その教育過程自体には多くの企業で採用されている実績の高いものではありますが、こういったコンプライアンス研修をどれだけやってみても、今回のような不祥事(と思いますが)は、発生してしまうわけでして、コンプライアンス経営において昨今よく指摘されるところの「現場コンプライアンスと組織のコンプライアンスとの分断」があったと言わざるを得ない事態に起因するものと言えそうです。コンプライアンス研修等を積極的に取り組む姿勢は、経営トップの「コンプライアンス重視」の意思を全社員に発信する意味もあるとは思いますが、やはり不祥事体質からの脱却という全社的な取組の一環として行われなければ、どこの企業でも今回のような事態が発生してしまうでありましょうし、コンプライアンス経営のもろさを露呈することになってしまうはずであります。メリルリンチも今後資産状況がまだどうなるのかはわかりませんが、少なくとも日経新聞の後追い記事「アーバンコーポレーション破たんの実相(上-パリバとの密約障害に)」が真実だとするならば、あのスワップ契約の不開示以外に倒産の危機を脱する別の選択肢があったのではないでしょうか。

これだけ内部統制システムを充実させていたとしても、切羽詰まった状況における経営トップの行動に誰もストップをかけることができず、多くの一般投資家に迷惑をかけてしまった現実には、正直、内部統制の無力感を抱かざるをえません。私自身も非常にショックを受けているところでありますが、こういった事件を今後防止するためには、市場の萎縮的効果を承知のうえで、あえてバスケット条項を用いてでも事後制裁の厳格化をはかる方向で考えるのか、あるいは速効性は期待できませんが、地道に経営トップの関与する不正を予防できる仕組み作りを作っていく方向で考えるのか、考えるべき時期に来ているのかもしれません。それぞれの選択肢によって、コンプライアンス・プログラムの内容は180度変わってくるはずであります。(しかし、本当にコンプライアンス経営はむずかしい・・・ですね・・・)

9月 24, 2008 コンプライアンス経営はむずかしい |

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» 経営者の不正を内部統制で防止することは難しいけど、そもそも経営者による不正がありそれをなんとかしなければならないと思ったからこそCOSOができたんですよね。。。 トラックバック まるちゃんの情報セキュリティ気まぐれ日記
 こんにちは、丸山満彦です。表題が長いなぁ。。。昨今、食品の産地偽装等、経営者の [続きを読む]

受信: 2008年9月25日 (木) 09時07分

コメント

 お気持ちは、とてもよくわかります。
ただ、内部統制自身は、経営陣が従業員等に
違法行為をさせない、あるいは最小限にとど
めるためのシステムであって、経営陣の故意
への対抗策は「相互牽制」ではないでしょうか。

 今回の場合、監査役による牽制機能がどこ
まで働いていたのでしょうか。パリバとの契
約について、まさか監査役が知らないところ
(つまり、きちんと招集を行った取締役会以
外)で決定した訳ではないと思うのだが。ま
た、リリースを見て監査役は社長やIR担当
役員にクレームをつけなかったのだろうか。
知りたいです。

投稿: Kazu | 2008年9月25日 (木) 10時39分

kazuさん、おひさしぶりです。(コメントありがとうございます)

経営管理とか、企業統治論(コーポレートガバナンス)と内部統制との関係などを重視しますと、kazuさんのおっしゃるとおり、経営陣の故意的な違法行為については内部統制は機能しない、といった結論になると思うのですが、「金融商品取引法」という開示制度のなかで内部統制が議論されるようになり、モニタリング機能が重視されるようになりますと、やはり統制環境自体も内部統制のなかで議論される、というのが私の立場です。(したがいまして、監査役がどれだけ社長に目を光らせているか、という点も、また牽制機構がきちんと運用されているか、という点も内部統制の有効性評価の対象と考えております)
監査役制度がどれだけ機能していたか・・・という点は、まさにkazuさんと同じ疑問を持っておりますが、ほとんどその点は議論されていませんよね。2年ほど前から固定資産の評価額が異常に膨れ上がっていたようですから、監査役であれば財務にも関心は寄せていたものと思うのでありますが・・・・。私も知りたいところです。
ちなみに、朝日新聞「私の視点」において某税理士さんがアーバン問題をとりあげておられますが、次回アーバン関連のエントリーでもご紹介したいと思っております。

投稿: toshi | 2008年9月27日 (土) 11時35分

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