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2008年9月16日 (火)

実践「現場発信のJ-SOX」~失敗を乗り越えた内部統制講座~

おそらく本日の世間での話題は「本当に日本はアメリカ経済と心中する気があるのだろうか?」といったことに集中しているのではないかと推測いたしますが、せっかく日経新聞の「法務インサイド」にて内部統制報告制度に関する話題をとりあげていただいておりましたので、一言申し上げます。9月15日の日経新聞朝刊の記事にて、内部統制報告制度(いわゆる日本版SOX法)が「思わぬ副作用」をもたらしている・・・といった(私が読むかぎり)比較的ネガティブな解説が出ておしました。その「副作用」といわれるものは何かと申しますと「中堅企業を中心に株式上場を取りやめる動きが相次いでいる」ことと「中堅上場企業を中心に、株式上場を維持するために必要なコストが急速に増加する傾向にあり、収益を圧迫しており非公開化(MBO)を検討する企業が増えている」ことだそうであります。私もIPO支援ネットワークの副代表を務めておりまして、大手のVC(ベンチャー・キャピタル)さんに支えられている上場準備企業が上場予定を延ばしているのを間近にみておりますが、いずれも景気動向を見据えてのVCさんのご意向に従ってのものでありまして、とくに内部統制報告制度が要因になっているというのは(少なくとも私の周囲では)聞いたことがありません。ただMBOを検討している企業が増えている・・・というのは、私自身もある監査法人さんから概況としては聞き及んでいるところですので、そのような状況にあるというのは現実なのかもしれませんね。もし、この日経記事のように日本版SOX法の「聖域化」が市場の活性化と健全化のバランスを失してしまっているのであれば、「一定レベルをクリアするための内部統制」について、ベストモデルを目に見える形で提供する必要があるのかもしれません。

Genbahassin001_2 業務用洗剤を主力商品とする東証二部の株式会社ニイタカは、従業員規模160名程度、売上120億円規模(四季報より)の典型的な中堅上場企業であります。その中堅上場企業の内部統制プロジェクト担当者はたった一人でありまして、その担当者の方がこのたび「現場発信のJ-SOX(失敗を乗り越えた内部統制講座)」なる本を出版されました。本日(15日)大阪梅田の旭屋書店の本店では、「内部統制コーナー」にたくさん平積みになっておりましたので、おそらく東京の大型書店でも発売されたものと思います。著者である雑賀(さいが)氏は、私も在籍しております内部統制研究会(関西で毎月1回開催している現場担当者や、IT統制、システム監査に詳しい監査法人担当者の方々が集まる研究会です。もう発足して1年以上が経過しました)に参加されている方でして、某金融機関にてシステム関連の仕事をされた後、ニイタカに転職されました。監修者でいらっしゃる法政大学の石島隆先生も、また(米国SOX法による監査を経験している立場から)執筆協力をされた元バイエル薬品監査部の鈴木氏も、上記研究会にご参加いただいております。最近は大手の監査法人さんが発行されている内部統制整備、運用評価に関する実務参考書が人気を博しているようですが、1年半かけて、監査法人担当者の方と相談をしながら、作り上げた内部統制システムの実務書というのは、ほとんどなかったと思います。この本は、先に述べましたとおり、「一定のレベルをクリアするため」の内部統制を完全に意識したものでありまして、ベストモデルを目に見える形で示したところに特徴があります。また、そのようなベストモデルを構築するなかで、雑賀氏は「いろいろと問題は抱えているものの、実施基準自体はたいへんよくできている」といった結論に達しております。まさに「内部統制の副作用」に悩む中堅上場企業の方々にぜひお勧めしたい一冊であります。(もちろん、ベストモデルといいましても、内部統制評価自体がプロセスの評価ですから、次年度に向けて改良(改善)が必要であり、人材育成が欠かせないことは当然であります)

最近、広報コンプライアンスや危機管理対応の広報リスクマネジメントに関する仕事をさせていただくなかで、不祥事発生時における事実集約や原因究明、開示と非開示の区別、マスコミへの公表事実の選択などを短時間のうちに適正に行うことが非常にむずかしいことを知りましたが、唯一効率化のための方法として、全社的統制→現場統制→全社的統制といった「サイクル」で組織一体的に危機管理対応を図ることがけっこう有効であると認識いたしました。(ただし危機広報というのは、内部統制と異なり、経営トップは何も言わなくても率先して事に当たるというところでありますが。もちろんコンサルティングの方に教わった部分もあります)まさに同じような感覚を、この本でも学んだような次第であります。サンプリングにおきましても、おそらく実際の現場では「不備」がゴロゴロ出てくることが予想されますが、ではどんな手法をもって虚偽表示リスクを低減していくことが可能なのか、中堅企業ならではの、経営トップが全体に目の届きやすい環境を活用した手法の試行錯誤は示唆に富むものであります。

雑賀氏が個人的な意欲で体制の整備を行ったことから、萌芽期から成熟期までの過程を理解しやすいところは長所でありますが、ぎゃくに社内におけるモニタリングの有効性をどのように高めていくのか、といった問題は残っているのかな・・・とも思いますし、また社内に「内部統制システムの構築や改善のわかる人」が一人しかいないこと自体が「リスク」と捉えられることもあろうかと思われます。また、決算財務報告プロセスやIT統制についてもこれで十分かどうかは不明なところもありますが、ともかく現時点での「ベストモデル」を提案され、多くの読者の方々の企業の内部統制整備、運用評価に役立つことを真摯に祈念されておられるようです。中堅企業にとっての内部統制実務書として、ぜひご一読いただければ幸いです。

9月 16, 2008 本のご紹介 |

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コメント

TOSHI先生

お久しぶりです。

私も日経の『法務インサイド』の記事のネガティブさには驚いており、書いた記者さんはどの程度取材して書いたんだろうかといぶかっております。

私の顧問先の企業も内部統制についてのコストをずいぶんと気にされていましたが、私は多くの中小企業は目に見えないものには金を出したくないという悪癖がかなりあり、管理系の本当に必要な部分に金をかけていないと思っておりますので、内部統制報告制度が見直しのきっかけになれば、と願っております。

というふうに書くとこのブログに書き込まれているたくさんの論客に批判されそうですが、30年近く弁護士をやって企業とお付き合いしておりますと、なんで同じような間違いを繰り返しているんだろうと思うことが多く、マネジメントや危機管理系の知識・経験の普遍化・共有化は特に中小製造業はにがてで、その原因はやはり内部統制にあると感じております。

ところで私もつつましやかにブログを開始しましたが、まだ操作方法がよくわからずリンクさえはれません。ココログで勉強して、このTOSHI先生の著名なブログとリンクさせていただきますのでよろしくお願いします。

投稿: とも | 2008年9月17日 (水) 01時35分

毎度お世話になっております。
今回はいろいろとありがとうございました。
中堅企業の担当であるtonchanです。実はこの本の著者でもあります。

せっかくですので、いくつかコメントさせていただきます。
>社内におけるモニタリングの有効性をどのように高めていくのか?
 中堅企業では「独立的モニタリング」を行いながら、担当部門の意識
(統制環境)を向上させてから「日常的モニタリング」を組込む方式が
有効だと考えています。その意味でまだまだ発展途上と言えます。

>「内部統制システムの構築や改善のわかる人」が一人しかいないこと自体が「リスク」と捉えられる
 全くその通りです。全社統制の体制についてのリスクと言えます。この
「リスク」が社会として認識されていけば、職業としての「内部統制構築」
が成立していくでしょう。興味のある部分です。

>決算財務報告プロセスやIT統制についてもこれで十分かどうかは不明
 この本では殆ど触れていない部分です。決算財務プロセスは監査法人の
得意分野ですので、現状でも結構良い参考書が有ります。その参考書をどう
使うかがノウハウかもしれません。
 IT全般統制は最低限ですが、十分かどうかは疑問です。

 せっかくですので、お礼の意味を込めてコメントさせて頂きました。
今後とも是非よろしくお願いします。

投稿: tonchan | 2008年9月17日 (水) 09時06分

>ともさん

ブログを始められたのですか??かなりビックリです!
ともさんのお名前で検索してみたのですが、まだ探しきれておりません。
よろしければ、このコメント欄でも結構ですので、アドレスを御紹介いただけますと幸いです。
ボチボチの更新でも結構ですので、できれば長く続けていただけますと、私も勉強になりますのでよろしくお願いいたします。(やっぱり熱いブログなんでしょうね)

>tonchanさん

すいません、私が推薦文を書いていることを記述しておりませんでした。(ちょっと恥ずかしいところもありまして)
私はこの本の特徴が、「現実の担当者が書いた本」であることの有意性だと思っております。したがって若干不足ぎみの点があろうとも、それが現実の担当者の到達点であることを知っていただければ他の実務書との差異も明確になってよろしいのではないかと思いますよ。
(でも、本当に売れるといいですね。)

投稿: toshi | 2008年9月18日 (木) 02時03分

またまた、架空循環取引発覚ですね。

ジャスダック上場のプロデュース(長岡市)が、18日から証券取引等監視委員会の強制調査を受けており、容疑が固まり次第刑事告発されるようです。
4年間に売上高が9倍になっていて、相当怪しいですね。

投稿: 迷える会計士 | 2008年9月19日 (金) 22時28分

TOSHI先生

自分でもブログを始めるなんてびっくりです。でも始めると楽しいですね!

ブログはこちらになりますのでよろしくお願いします。

http://aristo1954.cocolog-nifty.com/blog/

今は金融危機ですので、私の書き込みもこのトピックだらけですが、監査役として内部統制監査を開始しておりまして、内部統制の話題について書き込みを開始したいと思っておりますので、TOSHI先生といろいろとご意見を交換できればと思っております。

投稿: とも | 2008年9月20日 (土) 00時12分

>迷える会計士さん

ご教示ありがとうございます。深夜になってから別の上場企業の子会社による架空循環取引についても報道されていますね。こういったものは日本版SOX法導入による内部監査がきっかけになっているのでしょうかね。そうだとすれば、それなりに効果が出ているようにも思いますが。

>ともさん

閲覧させていただきました。すごい・・・の一言です。
葉玉ブログに続く著名ビジネス弁護士ブログの登場。。。
あっでも、最近「活字ふぇち弁護士さん」も、けっこう素晴らしい内容のブログを書いておられますし、楽しみが増えました(^^;近々、エントリーでご紹介させていただきます。

投稿: toshi | 2008年9月20日 (土) 01時51分

掲題の記事、私も読みましたが、皆さんとは別のところに引っ掛かりを感じました。監査法人が内示した報酬額、ちょっと高すぎませんか?
細かい事情はわかりませんが、売上規模からしてふっかけすぎのような気もします。
新手の追い出し方法ということはないでしょうか。

投稿: ロックンロール会計士 | 2008年9月20日 (土) 18時20分

9月15日の日経新聞朝刊の記事に触れられていましたが、本日ネットでこんな記事を目にしました。
++++++++++++++++++++++++++
本マニュファクチャリングサービス(2162)が冴えない 業績下方修正の発表で見切売りを浴びる
クライアントであるエレクトロニクスメーカーを始めとする企業の在庫調整や、減産の生産変動等の影響を受けて売上が減少し、J-SOXにかかる各種システム構築費用のコスト、2009年問題への対応にかかえる各種イベント活動にかかる費用が増加して売上総利益が悪化した点なども踏まえ、09年3月期通期の業績予想に関して営業利益を7億1,300万円→5億5,800万円へ、当期純利益も3億9,000万円→3億1,000万円へと下方修正したことが嫌気されている模様。

ジャスダックの日本マニュファクチャリングサービス(2162)の株価は09時58分現在、60,200円の2,300円安。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
業績の下方修正の理由に、J-SOXにかかる各種システム構築費用のコスト増を一つの要因としています。本当にシステムを導入しないとJ-SOXを乗り切るすべがなかったのか疑問ですが、中小の企業にとってやはりJ-SOX対応はかなり負担になっているのが事実ではないでしょうか。

投稿: 迷える内部監査人 | 2008年9月22日 (月) 19時28分

うーん、単なる言い訳でしょうね。
業績悪化の格好の口実にされている感じで(笑)。
もちろんウソではないでしょうけど、
大変なのはどこの会社も同じですしね。

投稿: 機野 | 2008年9月23日 (火) 16時11分

ロックンロール会計士さん、迷える会計士さん、ご意見ありがとうございます。私は会計士ではありませんので、相場とか、実情をよく存じ上げておりません。もし、相場の実態のようなものがありましたら、ぜひ教えていただきたいところです。

人事(ひとごと)のようで恐縮ですが、当ブログも「内部統制ネタ」を書くと、コンサルタントサイド、監査する会計士サイド、企業実務家サイドと、さまざまな「論客」がいらっしゃるので、いろんなご意見が出て楽しい(?)状況です。本当に勉強になりますね。ずるいようですが、私自身の意見はエントリーのなかで斟酌していただけますと幸いでございます。

投稿: toshi | 2008年9月24日 (水) 01時31分

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