モリテックス社の少数株主保護と買収防衛策の有効期限について
昨年、IDEC社との間でプロキシーファイトを繰り広げたモリテックス社でありますが、9月24日、独ショット社の日本法人がTOBによりモリテックス社の過半数の株式保有を目指すことにつき、賛同する旨のリリースを出されております。なお、賛同については、IDEC社から派遣されている(おそらく)取締役2名以外の6名の取締役によるものとされておりますので、今後のIDEC社のカウンター・テンダーの可能性に注目が集まっているようです。(事業提携を伝えるニュースはこちら)
9月24日付けモリテックス社のリリースに添付されている資料(株式会社モリテックス社に対する公開買付けの開始に関するお知らせ)を読みますと、過去1か月の株価平均の79,2%ものプレミアムを上乗せしたTOB価格もさることながら、特筆すべきは少数株主保護に関する具体的な記述がなされている点であります。まず、①少数株主保護政策について、すでに以下の点について資本業務提携契約において合意に達していることを示したうえで、②ショット社を含む議決権比率の高い株主からモリテックス社への不当な圧力に対して、モリテックス社がコントロールする方策を講じること、③モリテックス社による関連当事者との間の取引の公正性およびアームズレングス・ルールの順守などであり、基本的にショット社自身が日本における「少数株主保護に対する関心」を熟知している旨、宣言されております。
昨日(9月26日)の日経新聞では、記者さんの「今回の提携が大規模買付行為にあたらないと判断して、買収防衛策を適用しなかった理由は?」との質問に対して、モリテックス社の社長さんは
ショットとはモリテックスの企業文化や日本の商慣習を尊重し、少数株主の利益を無視するような大株主の論理を振り回さないなどの点で合意している。資本提携で両社の企業価値が向上すると取締役会で判断したため、(買付の是非を判断する)特別委員会の招集も必要なかった
と答えておられ、上記の少数株主保護に関する合意をショット社に対して買収防衛ルールを適用しなかったこととの関連で説明されておられました。しかし、私はむしろ、両社とも「一般の株主にやさしいTOB」を目指したものと理解しています。つまり、株主の判断として、ショット社と提携して企業価値の向上を目指すモリテックス社の株主としてそのまま残るのもよし、TOB価格に魅力を感じて、TOBに応募するもよし、ともかくTOB時の株主の判断にまつわる不安(TOBに応じないことで、結果として少数株主として残ってしまい、その後の組織再編等によって低価格で排除されてしまう不安)を排除した状況のなかで、株主の皆様が自由に判断してください、といった気持でショット社およびモリテックス社が一般株主に接している態度こそ特筆すべき点なのではないかと思いました。新光証券さんをフィナンシャルアドバイザーとして、公正価値算定報告書を吟味していることや、プレミアム価格の大きさも注目されますが、この一般株主への配慮が、今後のTOB実務の適法性および取締役の株主に対する説明責任の充足という観点からとても重要ではないかと考えた次第です。
なお、モリテックス社が「ショット社のTOBについては買収防衛ルールを適用しない」とする判断について、一点、非常に素朴な疑問が湧いてまいります。平成18年12月18日に取締役会判断によって導入されたモリテックス社の事前警告型買収防衛策でありますが、これは現在でも本当に有効なのでしょうか?同日のリリースを読みますと、この防衛策は平成19年の定時株主総会で選任された取締役が、総会直後に開催される取締役会におきまして、継続するか、廃止するかを決定することになっております。つまり、普通に読みますと、平成19年の定時株主総会時点までが有効期限と思われます。しかしながら、ご承知のとおり、モリテックス社の定時株主総会における取締役選任決議は、東京地裁によって取消判決が出ておりまして、その後の取締役会における「防衛策継続決議」も効力は有していないはずであります。その後の東京高裁での和解、それに続く臨時株主総会における取締役の選任決議はなされたものの、社長を含む数名の取締役が交代しておりますので「瑕疵が治癒された」とは言えないはずであります。(それとも、高裁で両者が和解をしたので「瑕疵」自体がそもそもなかったという判断でしょうか?しかし和解の効力は当事者間における相対的効力があるにすぎず、その後に実際に臨時株主総会で再度取締役の選任議案を上程しているわけですから、すくなくとも地裁の取消判決の対世効については「確定判決がなくても」無視できないようでありまして、やっぱり瑕疵自体は残るような気がしますが。。。また本年6月の定時株主総会においては取締役の選任議案は提出されておりません)ということは、現時点ではモリテックス社には買収防衛策は存在していない?ということになるのではないでしょうか。また、平成18年12月のリリースからすれば、モリテックス社としては、株主総会における取締役の選任議案とリンクさせることで買収防衛策の正当性の根拠を株主意思に求めておられるようですので、かりに現在も買収防衛策が生きているとしても、これを取締役会判断でショット社との関係で適用排除することはどういった理屈をもって可能となるのでしょうか?(取締役会独自の判断で適用を除外できるとすると、その旨が防衛ルールのなかで明示されている必要があると思うのでありますが。)もし買収防衛策の有効期限が切れている・・・という事態となりますと、IDEC社からのカウンター・テンダーが出てきた場合には、事前警告型防衛策に基づくルールが使えないのではないかといった疑問も生じるところであります。
(追記)防衛策の有効期限の点につきましては、ある方よりモリテックス社のガバナンス報告書を参考ください、とのメールをいただきました。内容を読ませていただいたうえで修正する可能性がございます。私の勘違いやリリースの見落としがございましたら、またご教示ください。
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