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2008年9月22日 (月)

全社的な内部統制の「重要な欠陥」の判断はむずかしい?

第一回の内部統制監査、監査人報告会、四半期レビュー立会など外部監査人との協議を通じて、各社における内部統制評価のレベル感も次第に明らかになりつつある時期ではないでしょうか。旬刊経理情報の最新号(10月1日号)では、大手監査法人に所属する会計士さん方による「内部統制実施半年前チェック」が特集されておりまして、「制度対応」「業務プロセス文書化」「整備、運用状況の評価」そして「有効性判断と内部統制報告書作成」それぞれのチェックポイントが紹介されております。どれも手際よく、比較的簡素化されてまとまっておりまして参考になります。とりわけ「不備の発見」から「重要な欠陥」を内部統制報告書で開示するまでの分類図表は、私もその思考過程においてまったく同感であります。

ただ、いずれのチェックポイントにおきましても、全社的な内部統制をどのようにチェックするのか、という点について、①42項目の評価ポイントを自社の状況に合わせて活用しなさい、②重要な欠陥の具体例が「実施基準」ではこうなっています、③全社的内部統制の評価手続きはきちんと記録しておきましょう、といったことだけが記述されているだけで、具体的な提案がなされていないのは少しだけ残念に思いました。財務諸表監査において、「重要なエラーが発見されない」という消極的な心証を「合理的保証」のレベルにまで積み上げる必要がある監査人の方々にとりましては、本来的業務に資するものとして、どうしても業務プロセス、決算財務報告プロセスへの関心が高まることはやむをえないとは思います。しかしながら、ディスクロージャーの充実によってコーポレートガバナンスの機能向上(「経営者の不正防止」と言って学会でご批判を受けましたので、このように申し上げます)を図ることが求められている金商法上での制度である以上、各社が全社的な内部統制をどのようにチェックをして、どのような判断過程をたどって「重要な虚偽表示に結びつくような不備は認められなかった」と評価したのか、この制度にとっては不可欠の作業工程であります。

この特集記事の最後のところは、「ただし、財務報告にかかる内部統制に責任をもち、かつその有効性を判断しうるだけの能力を持つ経営層に必要な情報が報告される体制は必ず必要である」と締めくくられておりますし、私も同感でありますが、皆様の会社におきましては、この「財務報告の内部統制の有効性判断をできる能力のある経営層は、どなたかおひとり頭に思い浮かびますでしょうか?もしそのような方が思い浮かぶのであれば、少なくとも私であれば、ぜひ上記のとおり、全社的な内部統制の有効性の判断過程をきちんと説明していただきたいと思います。なお、私の場合は、「重要な欠陥は是正することに意味がある」という立場から、有効な補完統制の有無、金額的重要性の範囲確定、(重大な虚偽表示の)発生可能性の有無において、全社的内部統制は重要な意味を持っていると解しておりますので、そのあたりのお話もしたいのでありますが、長くなりましたので、また別の機会にさせていただきます。

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コメント

まあ結局、いま現場では
ダイレクトレポート的会計監査が行われているわけであります。

「一体監査」などと言ってしまったゆえ、建付けはどうあれ内部統制に
関しても会計士が事実上直接監査をし、その手伝いを事業法人側がする。
あの資料を作れだとか、この資料を出せだとか(笑)、会計士の先生
がたにだいたい言われるとおりに資料を提供して、それを参考資料と
いうか証跡として監査法人側は監査の準備をされているわけであります。

どう考えても「財務諸表には関係ないやろ」という要請資料に関しては
しかるべき筋を通して要請を撤回させましたけど、なかなか抵抗しきれる
ものではありません。時間の無駄ですしね。

ですので、何が「重要な欠陥」かという重大課題に関しても、
とどのつまりは監査法人側の判断ということになるのでしょうな。
我々事業法人側が自らそんな落第点というか株価が落ちるようなことを
進んで表明するなんてバカなことはフツーはいたしません(笑)。

「重要な欠陥はどこの会社にもある(から心配せず表明せよ)」だとか、
「重要な欠陥というのは誤訳で(って訳した本人が言いなはんな(呆))
 せいぜい「改善が望まれる弱点」ぐらいの意味だから、気にするな」
とか、そういう学者さん、外野さんの意見は当事者でないから
言えるんですよ。

まず、金融庁の委員会メンバーの某有名企業さんとこが率先して、
「うちにだって、こーーーんなにあるんですよー」と
表明していただかないと(笑)。

投稿: 機野 | 2008年9月23日 (火) 16時28分

先日、金融庁の課長さんのお話をお聞きしました。いわゆる研修会というやつです。課長さん(+1名)は、「重要な欠陥」について、「対処すべき重要な課題、という程度の意味だから、お気軽にご記載願います」という意味のことをしきりに説明していました。なので質疑応答の際、私が、「いっそのこと『対処すべき重要な課題』という名前にしてしまえばいいと思うんですが、なぜそうしないのですか?」と、ちょっと意地悪な質問をしてみたところ、「『課題』では語感が弱くてインパクトがない」とか何とか、よくわからない回答をされてしまいました。
要するに、主務官庁として静観できるレベルの、当たり障りのない、しかもある程度意味のある内容の「欠陥」が、複数の会社から事例として出てくることを望んでいるようです。

完全に政治の世界です。理論のかけらもありません。ああめんどくさい。

話は変わりますが、
> 「経営者の不正防止」と言って学会でご批判を受けましたので、このように申し上げます
思わず笑ってしまいました。批判するほうは真面目なのでしょうか。おそらく真面目なのでしょうね。おためごかしって、意味わかりますか?と問いたいところです。
私は常々、「権力の大きさと不正リスクは比例する」と思っています。

投稿: こばんざめ | 2008年9月23日 (火) 21時55分

機野さん、こばんざめさんのご意見に全面的に賛同します。

>「重要な欠陥」の判断はむずかしい?
「むずかしい」のではなく、「できない」のですよ。
なぜなら、何が「重要な欠陥」であるかの明確な基準がないから。

従って、会計士に「これは重要な欠陥ですよ」と指摘されない限り
会社が自主的に開示することはありえないでしょうし、
もし会計士に指摘されたら、期末日までに全力で是正して
開示を回避しようとするでしょうね。

投稿: 漉餡大福 | 2008年9月23日 (火) 23時48分

機野さん、こばんざめさん、漉餡大福さん、コメントありがとうございます。まったくコメントがつかずさびしい思いをしておりました。いろいろと考えるところ大であります。(また、この件につきましてはメールもいくつか頂戴いたしました)
理屈や政治の世界で「こうやって開示しましょう」と考えても、では「改善すべき重大な課題」であって、すぐに正確性に影響が出るものではないと市場が理解してくれるかどうかといいますと、これは大きな問題ですし、株価に影響が出ないとは私も保証できないところが辛いですね。機野さんがおっしゃるように「うちにもこんなにありますよ」というのが本当はいいのでしょうが(そういえば裁判員制度の場合には、先陣を切って協力体制を宣言してくれた企業もありましたが)
しかし、実際には「重要な欠陥となるおそれのある不備」は指摘されても、開示までに必死で是正されるとなると、情報の集積もむずかしいですよね。これも期待できないんでしょうか。

ちなみに、「こばんざめさんのブログ」はご紹介してもよろしいんでしょうかね?ともさんのブログ同様、展開が非常に楽しみなのですが。。。

投稿: toshi | 2008年9月24日 (水) 01時22分

こんばんは。
実務をやっている身からすると、機野さん、こばんざめさん、漉餡大福さんらのおっしゃるとおりに思います。実務といっても私の場合内部統制は隣接業務ですが。

普通に経営している上場企業の場合、
「重要な欠陥」=「ありえない開示」
が共通認識ではないでしょうか。

そもそも、判決のごとくいきなり「重要な欠陥」という判断が下るのではなく、このままでは評価になりそうだということが事前に判るはずです。
これは重要な欠陥だな、などと悠長に言ってる前に、早急に課題を立てて連日徹夜でしょうね。それでもなお厳しい評価が出るなら、関係者は今までなにをやってきたんだということで、懲戒処分ですね。

投稿: JFK | 2008年9月24日 (水) 22時23分

> ちなみに、「こばんざめさんのブログ」はご紹介してもよろしいん
> でしょうかね?
はい。お願いします。だれも読んでくれないと寂しいので。。。

話は変わりますが。
こんなことを言ってもしょうがないんですが、内部統制報告制度を、財務諸表監査の意見形成と分離したのは、制度設計としてはセンスがないような気がします。内部統制の整備は手段であって目的ではないのだから。。。んー、よく考えてみれば、財務諸表の作成&公表も、それが目的なわけではないですね。。。

投稿: こばんざめ | 2008年9月24日 (水) 23時05分

たびたびお手間かけてすみません>toshi先生
懲戒のくだりは皮肉としても、NGが出た場合に担当社員が何らかの処分を受けることは十分に考えられます。
そのような場合の降格や減俸が許容されるか、というのは一つの論点になりうるのではないかと思っております。内部統制は経営者が主体となるべきと叫んだところで、一応構築準備期間を与えられたうえでの制度ですから、現実の責任は経営者もろとも社員も負うことになるでしょう。
まあ処分がなかったとしても、社内では普通に生きていけないでしょうし、同じ職種では転職も難しくなるでしょうね。
「重要な欠陥」というのは、講学上の概念にすぎない、とはいえないまでも、現状では忌避すべきデリケートなものではないでしょうか。

投稿: JFK | 2008年9月25日 (木) 00時07分

こんばんわ。

たしかに、基準もはっきりしないようなものを「重要な欠陥」として内部統制報告書に書けば、株価が下落するリスクがありますね。そんなことをするインセンティブは事業法人にはないでしょう。基準をはっきりさせないで、あやふやなことをいう役所もおかしいです。

でもお役所からいえば、一応の基準を示していてもやりたがらないのが企業だから、強制的にでもいわせる仕組みがいるし、いわなかったら虚偽記載として罰を加えなければならない、という発想になりがちだと思います。金融業界はその体質が非常に大きかったですが、いまでは自分たちで考えるしかないという諦めににた心境で(笑)理論武装して判断してやっております。

特に「株価が下落するようなことは発表しないよ」といったとたんに、「それみろ、だから強制しなければだめなんだよ」という考えになるし、ここのところ開示に問題が出続けている市場に身をおく株主としては、ぎょっとするのではないでしょうか。内部統制報告だけでなく、企業情報に関する開示の姿勢一般に疑問符がつけられませんか?

だから、皆さんの正直なご意見には、「正直だけど、こわいこといってませんか」と思えてしまいます。

私がおつきあいしている複数の会社は、それほど悲観的ではありません。内部統制報告に責任をもっている部署の人間は淡々と仕事をしていますし、経営陣も不備が重なって重要な欠陥となる場合がありうるし、その場合には評価日まで直すというコンセンサスがとれております(もちろん必死になるでしょうが)。直せないものもでてくるという感触は、内部統制構築の中では感じていないようです(皆さん、そう感じておられるのでは?)。ですから、私としては、機野さん、こばんざめさん、漉餡大福さん、JFKさんのご意見が世の中の多数意見であるとは、必ずしも思えません。

ただ、機野さんがご指摘された株価下落のリスクというものはあるでしょうね。市場が内部統制報告について理解していなければ、「どこどこの会社内部統制に重要な欠陥ありと報告」とトレーディング・ルームのスクリーンに出たとたん、売り注文をだしてしまうトレーダーたちがでる可能性は大いにありますね。それこそ金融庁は、証券会社のトレーディング・ヘッド達を集めて研修会くらいやっておくべきですね。作為的な相場形成となるおそれのある行為の解説とあわせてですが。

長々と失礼しました。

投稿: とも | 2008年9月25日 (木) 01時44分

重要な欠陥は、実務上そうそうありえないという議論も分かるのですが、一方で経理関連の分野においては、米国のように重要な欠陥を開示するという場合も十分にありえると思っています。

全社統制で重要な欠陥がある場合、業務プロセスの評価範囲が拡大することから、会社・監査人ともに作業量が拡大することになります。よって、双方ともに全社統制の重要な欠陥をつぶす、というインセンティブが働きます。

また、営業などの業務プロセスで重要な欠陥が出てきた場合、今までは当該プロセスの内部統制に依拠した上で、財務諸表監査において無限定適正意見を出していたのですから、過去の監査意見との整合性に問題が出てきます。内部統制監査の導入により、目標とすべき位置は高くなったとしても、ミニマムの合格ライン自体が変わるということであれば、今までの財務諸表監査の意見そのものを見直す必要があると思われます。

以上のように考えると、重要な欠陥を出す余地があるのは、今まで内部統制に依拠しない監査を行ってきた(と考えられる)経理部門の業務になるのでは、と思われます。この辺は監査法人の得意分野でありますし、業務プロセスの評価範囲拡大に繋がらないため、重要な欠陥を出しやすい部分だと思います。

会社の一担当としてはこのように考えるのですが、監査の専門家の皆様はどのようにお考えなのか知りたいところではあります。

監査法人の立場としては、会社側が重要な欠陥を出したくないと思っていたとしても、本質的にはそんなもの関係ない、ということではないかとも思えます。

投稿: FN | 2008年9月25日 (木) 01時52分

そもそも「重要な欠陥」を表明するのは事業法人側だったはずなのに、
いつの間にやらそういう前提さえ崩れきってしまったようで(笑)。

だいたい、期末までにすぐに修正できるような事柄なら
そんなの「重要な欠陥」ではない、ですよ。

もっと体制的組織的、事業法人にとって簡単には改善できないような
ことこそ「改善していくべき欠陥」でありましょう。
でもね、それは「重要な欠陥」にしなくてもよいようなんですよね…

                               .

なんじゃそりゃ・・・・

投稿: 機野 | 2008年9月26日 (金) 00時20分

私の場合、どんなテーマにあっても、
私なりの目的・問題意識からあえて直情的な路線でいってます。だれかがバランスをとってくれるだろうという他力本願的な気持も持っています。
意見をいうときよりも、返ってきた反応から学ぶことが圧倒的に多いです。

とも先生のような冷静な見方があると大変勉強になるし反省にもなります、そしてtoshi先生も一安心、といったところでしょうか(笑)

ところで、
内部統制報告制度はプロやコンサルタントだけのものではありません。
むしろ、圧倒的多数の素人を相手にした制度だと思う。そして、内部統制というものを熟知されている方々は希少で、また専門性が高いほど「第三者的」なのが現実だと思ってます。(無責任、という意味でなく)

最近、黄色い表紙の「八田・木村」本を読みましたが、自称専門家でも正確に理解していない者が居るとのことですね。
また、圧倒的多数が素人である中での制度だということ。
このような中で、後出しじゃんけんのように理論操作してもあまり全体への効果がないですね。

正論に忠実に仕事するのは当たり前であって、実務者としては更に現実の世界で何が起こるかを強く意識して動かざるを得ません。無論、「欠陥隠し」などやろうとも思わない。
理論と実践に悩むのは、ある意味「まじめなサラリーマン」だからだと思うのですが(笑)

<イメージを伝えるためのイメージ>
プロ=希少種 → プロ
経営者・内部統制担当者=少数 → セミプロ(少なからず素人も混じる?)
隣接業務担当者(私) →素人(知ってる人はよく知っている)
一般社員・投資家・市民=圧倒的多数 →ど素人(言葉だけに飛びつきやすい)
ちなみに機関投資家は素人から預託された金で投資する関係・責任上、
素人が危ないと思う会社に投資することはできない。

投稿: JFK | 2008年9月26日 (金) 18時48分

■金融庁企業開示課のセミナー資料
DMORIです。
先日Toshi先生が、金融庁企業開示課は公認会計士協会の人たちにどのようなセミナーを実施したのだろう、と書いておられましたが、そのセミナー配布資料を入手しました。

「内部統制報告制度について」21ページ版と、「参考資料」67ページ版です。
内容面では特に新しいものはなく、金融庁がこれまで発表してきた実施基準や11の誤解、Q&Aなどを繰り返しただけです。
ごく基本的な内容もあり、会計士の人たちにこんな分かりきったことまでページを割いて、どうするのだろうと思うところもあります。
しかし、これまでの公表文書を繰り返しながらも、このセミナーの趣旨として、
・過度に保守的な対応にならないようにしてもらいたい。
・中小企業など、企業規模によって簡素な仕組みを容認しており、鶏肉に牛刀をふるうような、大手向きのマニュアルを押しつけないようにしてもらいたい。
といった意図がよく感じられます。監査法人の皆さんは、その趣旨を感じたでしょうか。

たとえば、追加Q&A(問48)で挙げた、「重要な欠陥」というのは「今後改善を要する重要な課題」があることを公表することに意義があるとしています。
「重要な欠陥」だと指摘されると、本年の内部統制が「不合格」の烙印を押され、内部統制をやり直したうえで再モニタリングして、合格した結果の内部統制報告書にしなければならない、内部統制スタッフは黒星でボーナス評価にも響く…などと過敏になっている企業が多いわけですが、そうではなく本年の報告書を修正する必要はないし、次年度に改善していけばよいのだ、ということです。

また、企業の監査コスト負担を過大にしないために、米国SOX法とはこれだけ方策を施したというポイントを6点ほど、図表で示してあるページは、文章よりも分かりやすくなっており、有効な内容と思います。

●金融庁にも直接聞きましたが、この資料はホームページでの公表はしていないが、機密にしているものでもないとのことなので、紹介させていただきました。

投稿: DMORI | 2008年9月29日 (月) 14時39分

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