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2008年9月 2日 (火)

インサイダー取引のリスクマネジメント

福田総理が辞任表明ということで、消費者庁はどうなっちゃうんでしょうね?せっかく昨日のエントリーで消費者庁の情報集約能力は大いに期待できるような書き方をしましたので、なんとかこれまでの流れを今後も持続していただきたいと個人的には願っております。それともうひとつ実は法曹界にとって少しばかり話題になりそうな発表が9月初旬に予定されていたのですが、これもおそらく首相辞任劇で延期になってしまいそうです。

政治問題とはまったく関係ありませんが、1日の日経新聞朝刊の「法務インサイド」では、インサイダー摘発が相次いでいるために、企業の自社株買いも委縮している、といったお話が掲載されておりました。いわゆる「うっかりインサイダー」問題ですね。犯意がなくてもインサイダー取引が形式犯として処罰されるというものでありますが、「情報が偏在するなかで利益を獲得するのは不公平なので、利益をはく奪する制度」(課徴金の場合)というのであれば、とくに「うっかりインサイダー」の場合には倫理的に非難されるものではないはずです。企業にとって何が怖いかというと、「うっかりインサイダー」を悪意に満ちた犯罪行為のごとく社会に受け止められることによる社会的信用棄損ではないでしょうか。たしかに「うっかり」と言いましても違法行為スレスレ・・・ということではなくて、違法行為に該当すること自体を知らなかった、ということでしょうかから、上場企業の役員たる者が(たとえ悪意に満ちた行動ではなくても)軽率にインサイダー取引に該当する行動に至ったことは批難されるかもしれません。しかしこれは悪意に満ちた行動とは一線を画すものだと思いますし、そのあたりを社会から誤解されるリスク自体が本当に怖いところだと思います。

フランスではインサイダー取引を含む経済犯罪について厳罰化を促進する、ということが本日の日経ニュースで報じられておりますし、改正金融商品取引法の解説記事にもあるように、日本もおそらく市場の公正を害する行為については厳罰化(刑罰の加重だけでなく、対象行為の拡大を含めて)の方向に進むものと思われますので、企業としても真剣にインサイダー取引による法令違反リスクへの対応を検討しておくべき時期に来ているようです。なお、本日の日経新聞では全くとりあげられておりませんでしたが、インサイダー取引リスクが怖くて自社株買いが委縮してしまうのであれば、普通に信託方式による市場買付で取得すればいいのではないかと思いますが?(といいますか、すでに多くの企業がリスク回避の手段として信託方式による市場買付で自己株式を取得していますよね。株価操縦リスクからも解放されるでしょうし。)たしかに手数料を要しますが、「うっかりインサイダー」リスクによって(報道にありますように)業務提携に関する決定事実をいったん白紙撤回にするような取締役会決議を行うくらいなら、チャイニーズ・ウォールを敷いて自社株取引を行うほうがリスクマネジメントとしては適正ではないかと思うのですが、それでもなにか不都合があるのでしょうかね?(^^;

私からみると、(自社株買いリスクよりも)先日のサンエーインターナショナル社の元会長さんのように、リスクを回避した(野村證券さんからOKをもらった)にもかかわらず1000万円を超えるような課徴金処分を下されてしまうような問題のほうがよっぽど悩ましいリスクマネジメントだと思うのでありますが。軽率な人が「うっかり犯」で非難されるのならばまだ納得もできますが、法令遵守の意識を持ち、用心深い人ですら(形式的処罰犯罪であるがゆえに)処罰対象となる・・・というのは、本当に悩ましいですし、その萎縮的効果こそ問題とすべきではないでしょうか。

9月 2, 2008 インサイダー規制と内部統制の構築 |

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コメント

はじめまして。
いつも興味深く拝見しております。
私はわが国の過度な法規制に疑問を感じています。
純粋な刑法犯やインサイダー取引規制等主要な特別法規制の必要性自体には異論ないものの、多すぎる雑多な特別法(行政)規制にはうんざりします。許認可・届出制度・行政調査の多さ、分かりにくさには閉口しますし、行政刑罰(の多く)の実質的な違法性にも疑義があります。しかも、どうやら行政による規制はまったくもって徹底されていない様子で、調査に入るケースすら一握り。某役所の担当官は、「忙しいから通報があった事案のさらに一部しか調査できない」と言います。これでは「運が悪かった」という弁もあながち批判できません。「法に違反したではないか」といえばそれまでですが、規範に直面しない行為まで規制されているわが国の現状は経済の発展を(ひいては国民の自由をも)阻害しているのではないでしょうか(必要な規制もあることはもちろん否定しません)。マスコミ報道→過剰な世論制裁→業界不信、という流れの不条理も何かやりきれないものを感じます。
このような中では、何をやるにしても、新しいこと(事業や行動)をやろうとしたとき、「何か規制があるのではないか」という不安が常につきまとってしまいます。悪事を図っているわけでもないのに、目に見えないものにおびえなければならない。
ちょっと大げさに言ってますが、なんか危なそうだし面倒だからやめとこう、あるいは、よくわからないが(余分に費用をかけてでも)安全に行こう、という「萎縮」は、どの企業さんでも少なからずあるでしょう。
特別法も含めて「大丈夫だ」といってくださる専門家が少ないのも「萎縮」の一因かもしれません。(規制の当事者たる役人は免責発言で言葉を濁す始末・・・)
初コメントが愚痴になってしまいました。日本の過剰行政、過剰規制に憂慮してのことで、スミマセン。

投稿: JFK | 2008年9月 2日 (火) 22時44分

JFKさん、力作のコメントありがとうございます。金融庁の課徴金制度も、また農水省の行政調査も、そして公取委の排除措置も言えることかと思いますが、「争うこと」の経済的効果を考えた場合には極めて企業側が不利になってしまうのが現実だと思います。私自身、これらの事件の代理人を経験した数は少ないのですが、風営法行政については何度も警察と対峙したことがありますので、「萎縮的効果」の弊害は心得ているつもりです。本来は我々在野法曹こそ、こういったことにもっと関心を寄せなければならないとは思いますが、先の「経済的効果」を考えますとなんとも尻つぼみになってしまうのが現実です。
農水省関連では、ちょっと食肉偽装事件に絡んでおもしろい事件を知っておりますので、関係者にご迷惑にならない範囲でエントリー化したいと思っております。行政調査の現実を知っていただくためです。

投稿: toshi | 2008年9月 3日 (水) 01時47分

「うっかり」があるというのは賛成ですが、
「牽強付会失敗インサイダー」(これくらいは大丈夫だよね)
「結論ありきインサイダー」(社長が「絶対にやれと言うか
ら……」)というのも、現実にはあり得ると思うのですが、
いかがでしょうか。

投稿: Kazu | 2008年9月 4日 (木) 12時04分

「これくらいは大丈夫だよね」というのは、自社株売買に絡む問題でもけっこうあるように思いますし、もっとも「萎縮的効果」が発生する場面ではないかと思います。(「うっかり」であればそもそも萎縮的効果もありませんよね)

その場合のリスクマネジメントとしては、法律家の意見を聞いたり、証券会社の意見を聞くことが多いと思いますが、法律家の意見も要注意ですよね。というのも、文章で回答をもらってお気づきかとは思いますが、法律家も自身の責任回避のために多くの条件を付していたり、抽象的な意見しか記載されていないケースもあるようです。

形式的処罰犯ということで、「これくらいは大丈夫」も通用しない世界だと思います。答えになっていないかもしれませんが、このインサイダー予防のためには、こういったリーガルリスクに関する動物的な勘を持つ少数の社員の存在が大きくモノをいいます。

投稿: toshi | 2008年9月 7日 (日) 23時04分

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