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2008年10月31日 (金)

アパマンショップHD株主代表訴訟高裁判決と「経営判断原則」の射程距離

昨日は速報版ということで備忘録程度のエントリーでありましたが、控訴人代理人の方がWEB上に東京地裁判決、東京高裁判決(および時系列表)をアップしていらっしゃいますので、早速各判決全文を読ませていただきました。(ちなみに、東京地裁判決は取締役側が勝訴判決、東京高裁判決は株主側勝訴判決です)毎度申し上げることですが、おそらく本件判決は旬刊商事法務さんや、金融・商事判例さんなど、格調の高い法律雑誌に、これまた格調の高い法律学者(実務家)の先生方が判決全文掲載とともに小稿をお書きになると思いますので、あくまでも「田舎の弁護士」による感想程度とお読みいただければ結構であります。また、こんな田舎弁護士の感想でありましても、未だ確定していない事件について、どちらかの立場に有利に援用されるような論点についてブログで公表することは、いわば「エチケット違反」になりますので、本当に判決を読んだかぎりでの第一印象程度にとどめておきたいと思います。

本件株主代表訴訟は、アパマンショップHD(以下、ASHといいます)と、その母体企業であった某会社とのいろいろな紛争勃発の背景があって、その延長線上で某会社と関連のあるASHの株主の方々が提起した裁判のようでありまして、本件事案特有の背景事情もあるようですが、そういった背景事情にはあまり深入りせずに、オンブズマン株主さん方が提起するものと同じイメージでとらえておきたいと思います。(客観的な評価額が1万円の株式を、なぜ5万円で買取の申込をしたのか、という点も、本件の背景事情に起因するところが大きいように思いましたが、そのあたりは捨象しておきます)なお、最近刊行されました「経営判断ケースブック」(日本取締役協会編 商事法務)によりますと、株主代表訴訟も最近は裁判例が集積されてきたわけでありますが、取締役による「具体的な法令違反」型の類型においては役員敗訴の傾向が顕著ではあるものの、具体的な法令違反を伴わない、つまり純粋な「経営判断」型の類型においては、公開企業の役員が敗訴する事例は極めて例外的、とされております。(同書25頁参照)そして、私が地裁判決および高裁判決を読ませていただいたかぎりにおきましては、おそらく本件は経営陣の具体的な法令違反を問題とするものではない、つまり純粋な「経営判断」型の類型に属する代表訴訟でありまして、その意味では経営者が敗訴したこと自体が、極めて珍しいケースに該当するのではないでしょうか。

東京高裁の判断理由をみましても、まず通説的な経営判断原則に関する説明から始まるわけでありますが、

ASHが完全子会社を企図するアパマンショップマンスリー社(以下ASMといいます)の未公開株式の評価額を(中立的立場にあった監査法人さんが)1万円程度と算出しているにもかかわらず、5万円での買取りに応じる意向をASMの株主らに対して通知していることや、そういった買取通知の一方で、買取通知に応じないASMの株主に対しては、株式交換契約による株主の強制排除の手続きを進めており、その交換比率によるとASMの株式を1万円程度に算定(交換比率はASH:ASM=1:0.192)している事実、さらにASHは、もともと66.7%のASM株式を保有していたのであるから、とりわけ5万円での買取通知によって株主の応諾をとりつける必要はなかったのではないか、といった疑問点などを重視しながら、客観的な1万円という株価と、5万円での買取とのかい離について、合理的な根拠もしくは理由は示されておらず、結局のところ「取締役の経営上の判断として許された裁量の範囲を逸脱したものである」

と結論付けております。この東京高裁の判断過程は、まさに日本における「経営判断原則」に関する判例上の通説的な枠組みのなかで捉えられておりまして、上場企業の役員の法的責任につき、こういった枠組みのなかで判断される場合には、たしかに取締役には広範な裁量権がある、として取締役の善管注意義務違反の主張が否定されるケースがほとんどであったと思われます。そもそもリスクの高い状況のなかでの高度な判断が要求されるのが「経営判断」ですから、後付けの理由は許されず、判断時の状況を厳密に再現する必要があることは当然だと思います。しかしながら、そういった判断枠組みを利用してでもなお、本件では取締役らの経営判断は善管注意義務違反と評価されたわけでありますので、一定範囲においては裁判所も経営判断に介入する場合があることを明らかにしたものであり、その判断過程こそ、今後慎重に吟味しておく必要があろうかと思われます。

今回の高裁判決についての私的な意見はなるべく控えさせていただきますが、ただ脊髄反射的に素朴な疑問として頭に残っていることだけを書きとめておきます。まず、ひとつめは取締役の経営判断が許された裁量の範囲内にあるかどうかを検討するための認定事実については、地裁判決でも、高裁判決でも、いずれも「経営会議」における言動が問題となっておりまして、「取締役会」での審議内容についてはまったく考慮されていない、という点であります。「取締役の経営判断に合理的な根拠が認められる以上、どのような審議の場であってもいいのではないか」といった考え方が正しいのだろうとは思いますが、一般には「取締役会」での審議事項が問題となるケースが多いのではないでしょうか。そもそも3人の監査役による「判断形成過程」を審査する機会もないところで「経営判断原則」は適用される、というのも少し違和感をおぼえるところであります。

この点につきまして、被控訴人である取締役らのご主張としては、「この程度の判断はそもそも内規では社長の専権事項になっており、社長が独断で判断してもいいのであるが、念のために経営会議で審議をし、また顧問弁護士の意見も聴くことにした」とのことであります。地裁もほぼ同様の判断を前提にしていると思われますが、高裁は「ASH社の場合当期純利益が4億7900万円程度であるところに、ASM社の株式買取価格を1億5800万円とするのであるから、会社にとって大きな影響の出る金額である」としております。私などは頭が固いものですから、裁判所が経営判断の適法性について介入する場合には、その会社意思の形成過程(デュープロセス)にこそ踏み込むべきだ・・・といった印象を持っておりまして、だからこそ「取締役会でどのような資料が出され、どのような審理を経たのか」といったことの事実認定が不可欠だと思っておりました。しかし、こういった地裁と高裁の判断の違いをみますと、そもそもどのような意思形成過程をたどるべき問題なのか(たとえば社長の独断でいいのか、経営会議は必要なのか、それとも取締役会での審議が必要なのかといった問題)その「業務執行の重大性からみた意思形成過程の在り方」に関する議論もしなければならない・・・ということになるのでしょうね。そうなりますと、事案によってはずいぶんと裁判所が重たいものを背負うこともありうるのではないかと考えますが、いかがなものでしょうか。(たとえば重要な業務執行の一環として取締役会で審議しなければならないような経営判断について、内規により経営会議で審議すれば足りるとされているケースだと、経営判断原則の適用においてどのような影響が出てくるのでしょうか)

そしてもうひとつの疑問でありますが、上場企業たるASHの取締役3名は、完全子会社化を企図するASMの(株式交換契約当時の)取締役でもあったわけでして、そうなりますと、子会社であるASMの株主からみても、また親会社の一般株主からみても、ASMの株式買取交渉については利益相反関係に立つことになります。(株主との交渉につきましては、会社法上の利益相反取引ではありませんが)つまり、控訴人らからみて、被控訴人らはASHのために忠実に職務を執行することを期待できる立場にはなかったわけでありますが、ASHの取締役の方々が、こういった状況において経営判断を下す必要があることにつきまして、高裁でも地裁でもまったく問題にはされておりません。私は、こういった状況では取締役には広範な裁量権が認められているわけではなく、たとえば監査法人による未公開株式の公正価格が算定されているとするならば、そういった価格をかなり強く尊重すべき立場に立たされているのではないかと考えるのでありますが、このあたりはどうなんでしょうか。本件のような状況においては、そもそも判例で認められているような「経営判断の原則」が枠組みとして利用されるのかどうか、という問題点であります。

以上のような疑問点とは別に、本件高裁判決は、「弁護士の意見を聞いたから、といって意思形成過程に問題がなかったとは言えない。」として、これまた地裁判決とはかなり結論を異にしております。これも短絡的に経営判断原則と専門家意見聴取は別である、と一概には言えないと思いますが、本件ではかなり具体的に法律的観点からの弁護士意見が出されているようですが、こういった場合にも経営者の方々は免責されるものではない・・・ということについて、一石を投じた判決になるものと考えられます。(本件は、そのままでも司法試験の設問事例になりそうなほど、おもしろい論点が他にもありますが、とりあえず本日は個人的な疑問だけということで。)

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2008年10月30日 (木)

アパマンHD株主代表訴訟、経営陣に賠償命令(高裁逆転判決)

(30日午後 追記あり)

100%子会社化する際に、株式を買い受ける価格が不当に高額であったために、親会社であるアパマンHD(大証ヘラ)に損害を生じさせた・・・というものだそうです。地裁判決と高裁判決を比較しながら全文を読んでみたいですね。

法と会計の狭間の問題とか、経営判断原則(裁量権の逸脱)とか、いろいろな論点がありそうで、このまま最高裁に受理されるとなると、けっこう重要な判例になるのではないでしょうか。(日経ニュースはこちら)5万円でも買取を拒絶された株主がおられるようですが、そういった少数株主に対する会社側の対応なども、ひょっとすると問題になっているのかもしれません。(とりいそぎ、備忘録のみ)

(30日午後:追記)

nico2さんより教えていただきましたが、当裁判における控訴人(原審原告株主側)代理人弁護士の方のブログにおいて、当裁判に関するコメントが出ております。そこで、東京地裁判決、東京高裁判決および時系列表が閲覧できます。(ありがとうございました)さっそく、ざっとではありますが地裁判決と高裁判決に目を通しました。たいへん興味深い内容であり、別エントリーにてコメントさせていただこうかと思っております。

また、補助参加されていたアパマンショップHDより、適時開示リリースが出ております。今回の判決については(会社としても)極めて遺憾であるとのことで、被控訴人たる取締役3名は上告に向けて弁護士と協議中とのことだそうです。

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2008年10月29日 (水)

市場安定化対策における「空売り規制」と正当防衛理論

空売り規制に関する閣議決定に基づき、金融庁のHPにはすでに一部改正された金融商品取引法施行令がリリースされております。「空売り」とは、一般に株式を保有しないで、もしくは株式を借り入れて売付を行う行為のことを指すものでありますが、金融庁は、このたび空売り規制を強化する市場安定化対策を決め、本日より東証もこれに歩調を合わせることになりましたので、これが奏功してか、本日は日経平均もかなり上昇していたようであります。なお10月30日にもまとまる追加経済対策のなかには、金融庁が必要に応じて全面的に空売りを禁止することができるような対応策も盛られる、ということのようであります。(ニュースはこちら

このたびの「空売り規制」強化につきましては、経済団体からの要請もあり、また世界的な金融不況が同時に発生していることなどから、どこの新聞、ニュースの内容をみましても、あまり「空売り規制はおかしいぞ!」なる論調が見受けられないようです。「時価会計の一時凍結」について、大いに議論されているのとはずいぶんと雰囲気が違うように思うのは私だけでしょうか。

しかし、平成14年に金融庁が空売り規制を強化(このときは売り崩しによる相場操縦を防止するための価格規制と明示義務)したときの日経新聞(たとえば平成14年3月29日、同年5月5日)や、朝日新聞(たとえば平成14年4月25日)などの報道によりますと、空売り規制については「正常な価格形成をゆがめる」とか「官製市場」「過度の市場介入」といった言葉でかなり批判的だったわけでして、ましてや昨年はアメリカにおいてSECの説得力のある検証のもと、空売りに関する価格規制の全面撤廃まで行われた(ただし、本年7月に復活!)わけですから、なにゆえ今回は、空売り規制に伴う市場への悪影響についての問題点が浮上してこないのか、ちょっと私には理解できないところであります。(緊急の対応だから・・・という点では、6年前とあまり変わらないのではないかと思うのでありますが。)

もちろん、特別に青臭い理屈を並べ立てるつもりではございません。実質的には金融機関の株価維持の必要性(自己資本規制、それにともなう中小企業への貸し渋りの低減)や、国際協調の必要性により、世間的にはあまり抵抗なく規制されるところだとは思うのであります。しかしながら、そもそも投資家保護と公正な市場価格形成の確保を目的とする金融商品取引法の制度趣旨と、今回の空売り規制とは相反するものではないのか、といった点について、それほど明確には議論されてきていなかったのではないでしょうか?健全な市場形成にあたって、貸し株市場が成熟することや活発な空売りは、必要性の高いものである、ということは疑いのないところだと思いますし、空売りの弊害については相場操縦行為の取締りによって対応すべきではないか、といった議論もずいぶんと昔から行われているところであります。つまり「空売り」自体が悪いのではなくて、価格形成作用に著しい障害を与えるような態様の空売りだけが排除されるべきである、というものであります。したがって、実質的な必要性は理解できても、これが金融商品取引法の枠内(施行令、内閣府令)によって対処される以上は、その行為規制に関する法的な理屈についてもクリアしておく必要があると考えられます。

これを「超法規的措置である」と言ってしまえばそれまででありますが、それでは思考停止状態に陥っているに等しいと思いますし、この理屈であれば会計基準の変更についても「緊急事態であるがゆえに一時停止すべし」といった理屈が成り立ってしまうわけであります。ということで、平成14年の空売り規制強化と、今回を比較してみて、共通しているのが「空売り規制強化と同時に、過去の空売り事例の取締り強化」であります。平成14年の空売り規制強化の場面では、外資系証券会社など合計7件が実際に空売り規制違反として(金融庁から)行政処分を課されております。そして今回も、空売り規制強化と同時に直近における違反事例について厳格に対応する、とされております。つまり、「こんな違反事例が実際にあるからこそ取締りを強化をするのだ」といった流れが必要になるのではないか(つまり、空売り規制強化と直近事例の摘発強化はセットになっている)と、ふと考えました。金融庁の裁量によって空売りを全面的に禁止する、などといった強化策の正当性については明らかとは言えないけれども、空売りによって市場の価格形成作用が歪められるような「急迫不正の侵害」が認められる場合には、金融商品取引法における保護法益を守るためには、その違法性が阻却される・・・といった理屈が考えられるのではないでしょうか。

こういった理屈からしますと、必然的に外資系金融機関(の日本支社)をはじめとして、いくつかの金融機関に対しては、おそらく比較的早い時期にこれまで通用していた空売り規制に違反した、として行政処分が課される事態が想定されるところであります。それが「空売り全面禁止権限付与」に関する唯一の正当化根拠になってくるのではないかと思うのですが、金融規制法に詳しい方々はどういったご意見をお持ちでしょうか。(空売り規制には「適用除外事由」が細かく規定されておりますが、除外事由との関係はどうなるんでしょうかね?)

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2008年10月27日 (月)

伊藤ハム社におけるクライシス・マネジメント(危機管理)を考える

(27日午後 追記あり)

依頼者の方からお歳暮には例年「伊藤ハム」の詰め合わせセットをいただくことが多いのですが、こういったことがありますと、贈っていただく方も(今年は)伊藤ハム製品は差し控えよう・・・と躊躇してしまうかもしれませんし、ずいぶんとタイミングが悪かったのかもしれません。ご承知のとおり、東京工場で使用する地下水に基準値の3倍程度のシアン化合物が混入していたことで、200万点以上に及ぶ商品回収を始めた伊藤ハム社でありますが、本日あたりはイオングループやイトーヨーカ堂はじめ、大手スーパーの商品棚からも、ウィンナー製品が消えたようであります。工場で使用する井戸水が集中豪雨の影響で一時的に汚染されたもののようでありますが、この原因事実については伊藤ハム社としては非難されるところは少ないものの、やはりなんといいましても、9月24日の時点で工場の現場担当者が井戸水の汚染を認識していながら、経営トップには10月22日まで知らされていなかった(あくまでも記者会見で公表された事実による)・・・ということでありますので、これが「企業不祥事」の部類に属するものとするならば、いわゆる「二次不祥事」型の問題が発生したことになります。

1 マスコミ対応としての問題点

23日の日清食品HD社の防虫剤成分混入問題の記者会見では、経営トップである社長さんが冒頭謝罪し、また防虫剤成分混入の原因事実についても説明された(説明内容については批判されているところもありますが)わけでありますが、その2日後の伊藤ハム社の記者会見には社長さんは登場されておりません。(業務担当取締役の方々が会見されたようであります)この違いは何に由来するものなのでしょうか?実際に健康被害が生じていることの違いか、それとも「食の安全」に対する社会的影響度の差異に由来するものなのか、そのあたりが私にはよくわからないところであります。ただ、記者会見に臨んだマスコミの方々からすれば、「なんで社長が出てけえへんねん!これって挑発的ちゃうか?」といった印象を持たれませんでしょうか?たしか伊藤ハムさんは、2005年の輸入豚肉に関する関税法違反事件で法人が起訴されたときにも、当時の社長さんは総務担当取締役さんを代理に立てて裁判に出席しなかったことから検察の反感を買い、また裁判所からも(異例の)検察求刑を上回る罰金判決を受けたことがあったと思います。(もし間違っておりましたらご指摘ください。訂正いたします)そういったご経験からも、「危機管理」には経営トップが先頭に立って会社を守る必要性を痛感しておられるのではないかと思うのでありますが、どうなんでしょう。そもそも3年前の不祥事の際、再発防止策としてCSR委員会が設置され、法令遵守とともに「報連相(報告・連絡・相談)の充実」を掲げておられたのでありますから、社内連絡体制の不備が原因だったとすれば、重く受け止めていただきたいと思います。

2 行政対応としての問題点

これまた公表されている事実関係からしますと、経営トップが井戸水の汚染を知った10月22日の翌日(23日)に保健所へ報告を行い、ただちに公表するようにと指導を受けたにもかかわらず、まる二日公表が遅れた・・・ということのようであります。つまり、会社側のご説明では、公表するのは当然だけれども、関係取引先への通知を行ったうえで公表したかったから遅れた・・・というものでありますが、本当にそういったお気持ちだったのでしょうか?日清食品さんの場合のように、すでに公(おおやけ)になっている場合ならばまだしも、健康被害も発生しておらず、(NHKニュースによりますと)実際にも保健所からは口頭注意で済む程度の問題でありますので、はたして経営トップに「公表すること」へのインセンティブは働いたのでしょうか?このあたり、保健所へ報告すれば世間に公表せずに済むのではないか、商品回収に動かなくてもいいのではないか、といった経営陣の希望的観測があったのではないでしょうか。しかしながら、予想に反して保健所からは自主公表することを強く要望されたために、今回の事実開示に至ったのではないでしょうか。もし、私の推測がはずれていて、経営トップに事実が報告された直後に自主公表を決めたとすれば、それは経営トップとしての企業倫理観は素晴らしいものあり、企業不祥事体質が希薄であることの証拠だと思います。

Naibukokuhatu0022 つい先日、「内部告発~潰れる会社 活きる会社~」(諏訪園貞明、杉山浩一著 かんき出版 1470円)が出版され、私が読了した本は既に付箋でいっぱいになっております。著者である諏訪園氏は、「金融財政事情」などをお読みの方々はご承知のとおり、この6月まで経済産業省の課長さんだった方で、NOVAの内部告発を受けて同社の立ち入り調査を行ったり、また公正取引委員会の担当官だった頃にはリーニエンシー制度の運用にも携わっておられた方であります。この著書のなかで、企業不祥事に対する役所の論理について語られているところがありまして、この10年で役所の対応が180度転換し、また今後も現在の対応方針が変わることはないであろう、と述べられております。行政の対応が事前規制(行政指導)型から事後規制(行政処分)型へと変容するなかで、企業に事故が発生した場合や、企業が事件を起こした場合など、不祥事に対する行政の対応はますます厳格になるであろう、とのこと。その理由は、行政の不作為についての国民の不満がますます大きくなっていることと、「行政指導」なる手法は、企業の立場からみれば「行政が指導してくれたので、適法であることのお墨付きをくれた」と勝手に解釈する傾向があり、消費者保護対策が重視される社会ではもはや成り立たない、ということだそうであります。(なるほど・・・)こういった諏訪園氏の解説を拝読しますと、まだまだ企業側も「行政に報告さえすればなんとかなる」といった考えが色濃く残っているように思いますし、「WHO(世界保健機構)の基準値よりも低い程度なのだから、これくらいで公表する必要はないのではないか」といった安易な考えに至ることも十分予想できるのではないでしょうか。しかしながら、行政としては報告を受けた以上は、「なにもしない」わけにはいかず、企業側の自主公表および自主回収によって、健康被害発生の可能性を低減させることまでを求めるのが正規の対応方法という認識だったように思われます。

3 「法令遵守」だけでは社会的信用を守れない時代

最近の汚染米の転売先業者、サイゼリア社、日清食品社そして伊藤ハム社など、「食の安全」に関わる事故に巻き込まれた企業は、一見被害者的立場のように思えるのでありますが、危機対応をひとつ間違えると、いわゆる「二次不祥事」として、マスコミとその背後に控える消費者を真っ向から敵に回してしまうリスクを発生させることとなります。ただでさえ、景気悪化によって企業の経営体質が芳しくないなかで、コンプライアンス的な観点からも、非常に恐ろしい時代になったと改めて痛感いたします。なお、ご紹介した諏訪園氏、杉山氏の著書は、書名こそ「内部告発」とされておりますが、内部告発に関する現状の紹介だけでなく、企業不祥事を防止するための対応策を役所の論理、マスコミの論理、経営者が抱えるリスクなどの分析から具体的に解説されており、非常に参考になるところであります。(先日ご紹介いたしました朝日新聞記者の方々による「ルポ 内部告発」を併せて、お勧めしたい一冊です。)

(27日午後:追記)

NHKニュースにより、25日に口頭注意があったと書きましたが、本日の読売新聞ニュースによると、水道法違反の疑い(水道水の汚染を発見した場合には、すみやかに報告しなければならない、との規則に違反)により口頭注意があった、とのことだそうです。

また、日経新聞社会面によりますと、PB(プライベート・ブランド)にて製造していた60万品については、販売者に迷惑がかかることになるために「公表および回収については得意先の自主判断にまかせるべきだ」として、対象製品から差し引いて公表していたそうであります。(消費者保護重視、といいましても、こういった状況はかなり企業にとっては厳しい場面が想定されますね。)ということは、やはり上記本文において記述したように、自社製品につきましても、ギリギリまで公表および回収することに逡巡されていたのではないでしょうか。かなり疑問の残るところであります。

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2008年10月26日 (日)

「ジャッジⅡ島の裁判官奮闘記」は法律家からみても素晴らしい内容です。

昨年好評だったドラマの続編「ジャッジⅡ島の裁判官奮闘記」の第一回を視ました。シリーズの続編モノは期待ハズレに終わってしまうことも多いと思いますが、率直に言って前篇よりもドラマの内容がしっかりしていて、法律家の目からみても「よくこれだけリアルに描ききっているなァ」とビックリいたしました。休日開放している島の小学校の校庭で、5歳の男の子が設置物(営造物)から落ちて怪我をする、両親が小学校(町)を相手方として、営造物責任(国家賠償法2条)を問うわけでありますが、裁判官の安易な和解勧告が原告にも、そして被告(実際には小学校)、そして最後には島の生活にも大きな影響を与えてしまう・・・という設定は、実際にこういった紛争に関与した人間としても、非常にリアルであります。(通常は安全配慮義務違反の有無が問われることが多いのですが、「休日開放における生徒以外の幼児の事故」というところがミソなんでしょうね)あまり裁判になじみのない方からしますと、怪我をした子供の父親(俳優の保坂さん)が味方である代理人弁護士の対応に激怒する場面が「おおげさ」に思えるかもしれませんが、あれこそ普通の依頼者の姿であります。あのような依頼者を畑弁護士(浅野温子さん)のように冷静に説得しなければならないのが現実でして、これも深く頷きながら視ておりました。

ただ現実の裁判官の方々からみて、このドラマの主人公の姿はどう思われるのでしょうかね。「常時150件も裁判を抱えているのに、そのうちの1件にこれだけ没頭できるというのはありえない」という感想も聞かれるかもしれません。「安易に和解を勧告して失敗したからといっても、それは双方の弁護士に紛争解決能力がないからであって、なにも裁判官が謝罪するようなことではない」という意見も出るかもしれませんね。ただ、先日のドラマ「監査法人」における「期待ギャップ」ではありませんが、裁判員制度が始まるにあたり、国民にとって期待される裁判官像というものが、このドラマでは如実に表現されているといってもいいのではないでしょうか。このドラマでは、最終的には主人公の裁判官は苦悩の末、原告(慰謝料請求の関係からみてたぶん子供と両親)の請求を棄却する判決を下すわけでありますが、判決を不服とした原告らがなぜ控訴をしなかったのか(判決を真摯に受け止めて、新たな人生を再出発させようと決意できたのか)・・・という結末に至る場面にも現役の裁判官の方々は目を向けていただきたいと思います。裁判外における人間ドラマによって、この紛争が一件落着するに至ったことは、おそらく主人公の裁判官も知らないところが実はミソであります。(超リアル♪)「国民の目線」で紛争をみていただきたい・・・・・、つまり裁判員制度は国民が裁判に参加するだけでなく、職業裁判官もまた新たな目線で裁判に参加する制度なのであります。※1

長年、美容整形の被告(医師側)代理人をつとめておりますが、裁判にまで発展する美容整形トラブルのうち、8割程度は「もしトラブル発生直後の医師もしくは看護師の対応が誠実なものだったら、謝罪で済むか、もしくは簡単な示談が成立していたはず」だと私は確信しております。裁判員制度が開始されるいまこそ、裁判官の方々にも、紛争はどのように解決されるべきなのか、あらためて知っていただきたいと思います。

弁論終結前の和解期日にもかかわらず、弁論を経過せずに判決言渡しに至ったり、判決書謄本に裁判官の押印があるなど、「ありえねェ~」とツッコミを入れたくなるところはございますが(^^;、そんなことはまったく気になりませんでした。唯一「ありえねェ~」と気になるのが小学校の担任の先生と新任の刑事書記官に扮するのが安めぐみさんと酒井彩名さん(ムム、ウラヤマシイ・・・)ということぐらいでしょうか(^^;; 次回は刑事事件の「共犯関係」に焦点を当てた話のようで、これも実におもしろそうです。第二話以降も期待しております。

※1;もちろん裁判員制度は刑事事件についてのみ開始するものでして、民事事件について「裁判員」が参加するものではありません。

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2008年10月24日 (金)

持合い株式の減損処理と株主への説明責任

あまり新聞やニュースなどで報じられておりませんが、昨日(10月22日)スティールパートナーズ(ジャパン・ストラテジック・ファンド)が江崎グリコ社に対して、グリコ社が政策目的により保有している株式(いわゆる持合い株式)について、その損失の対処を要請したようであります。(スティールパートナーズのHPはこちら)23日の日経朝刊におきましても、3月決算の上場企業について、ここ半年ほどでリリースされた保有株式の有価証券評価損が3000億円を超えるものであった、と報じられておりましたが、私自身も、「有価証券の評価損計上が株式持合いに与える影響はどの程度なのだろうか?」と考えておりましたので、まさにこのスティールの損失対処要求につきましては、グリコ社にとっても「想定の範囲内」にあったのではないかと思われます。江崎グリコ社としては、この10月6日にて、今年度第2四半期に有価証券投資につき22億円の評価損を計上するとリリースしておりましたし、スティール自身も、以前から持ち合い解消を求めておりましたので、こういった対処要求に至ったものだと推測されます。ただ、現実の株価がこのように低迷しているところでありまして、持合い株式についての減損処理をしなければならない企業も相当数出てくるものと思われますので、一般の上場企業におきましても、すこし検討しておいたほうがよろしいのではないでしょうか。

金融商品に関する会計基準によりますと、持合い株式は「その他有価証券」に分類されるため、評価益が出る場合には貸借対照表上の「純資産の部」に計上されるわけですが(純資産直入法)、評価損が出る場合には損益計算書上で「当期の損失」として処理されることになるのですね 原則的には評価差額の合計額は純資産の部に計上することになる(例外的には「保守主義」との関係から、評価益は純資産の部に計上し、評価損が出た場合には損失として処理する場合もあるようです)ようであります。ただし、市場性のある株式の場合、時価が著しく下落した場合には、評価損については当期の損失として処理しなければならない、とされています。(金融商品会計基準20)そして、市場価格のある株式の相互持合の場合には、時価が取得価格の50%以下となる場合には「著しく下落した」場合に該当するために(金融商品実務指針90,91)、合理的な反証がないかぎり減損処理を行う必要があるわけでして、ここ2~3年に株式の持ち合いを開始したケースでは、今期あたり、この減損処理を行う必要のある上場企業が相当数出てくるものと思われます。つまり、株式の持合いも、株価の暴落がなければ大きな問題になることもないと思いますが、減損処理を行う必要が生じた場合には、評価損がまともに企業業績を圧迫することになりますし、その結果株主にとりましても、剰余金の配当や、株価の下落など大いに利害関係を有することにもなるわけですから、(もし今後も持合いを解消しない、といった判断を下すのであれば)株主に大きな不利益を課してでも、会社によって株式の持ち合いが経済的合理性のあるものとして必要であることを十分説明する責任があるのでしょうね。すくなくとも、一般の株主は大きな利害関係人ですから、「持合いを継続する合理的な理由」とか「損失を計上してでも持合いを維持すべき経済的合理性」など、明確に説明する必要があるような気がします。敵対的買収防衛に備えての持ち合いです・・・とか、「株主に対する利益供与のおそれ」が生じるような説明方法は避けるべきでしょうから、説明にも十分な配慮が必要になってくるものと思います。

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2008年10月23日 (木)

架空循環取引発覚による過年度修正は「重要な欠陥」になるのか?

(23日午後追記あり)

他人様(ひとさま)にご紹介しただけで、偉そうに申し上げるつもりは毛頭ございませんが、やっぱり期待に違わぬオモシロサの「会計腐蝕列島」。 最新エントリーの「架空取引はやめようをなくそう」は、これまで私がいろんなブログや本などで読ませていただいた中身よりもかなりマニアックで興味をそそるものであります。なるほど、架空取引といっても、いろんな目的で行われるものであり、また発覚防止のためには物の流れまで仕組む(っていうか、それでも架空取引と呼ぶのでしょうか?)ものもあるんですね。数字の裏にある人間ドラマに焦点をあててみないと架空取引発覚の困難性はわからないですし、なによりも内部統制の限界に近いものとして冷静に分析されているところがリアルだと思います。しかし、「ピーナッツ6個」って・・・(^^;、私よりもかなり年配の方だったのですね。。。

さて、架空循環取引に限るわけではございませんが、不正会計が明るみに出た企業(新興市場だけでなく、大手名門企業も含む)におきまして、不正が発覚した事業年度の内部統制報告書では「重要な欠陥あり」との監査意見が付されるケースは今後どれほど出てくるのでしょうか。(リスク管理の一環として、こういったことは考えておく必要がありますよね)先日、内部統制報告書における開示内容について、一般の投資家がどういった関心を抱くのか(もしくは全く関心がないのか)といった点が少し話題になりましたが、まず理屈とは別に、おそらく一般の投資家の皆様は、「なんであんな架空取引で問題になった企業なのに『内部統制は有効』とする報告書に適正意見が付くの?」と疑問を抱かれるケースは十分予想されるところであります。今後、実際に内部統制監査の報告をすべき監査法人さん方としましては、理屈の問題としては(評価の時点においては)重要な欠陥なし、とする意見が妥当だとしても、先に述べたような一般投資家の素直な疑問を無視することもできないような気がいたします。そして、最近の(連結子会社を含めた)上場企業における不正会計事件に関する報道や、不明瞭な会計処理に基づく過年度決算の修正リリースを読みますと、こういった事例において「財務報告に係る内部統制には重要な欠陥が見当たらなかった」と公表するには、株主や投資家に対する「それなりの」説明責任が問題となるケースも出てくるのではないでしょうか。やや短絡的かもしれませんが、「重要な欠陥」に該当するかどうかは、その企業における虚偽表示リスクに関する将来指標だということは頭では理解できても、一般の方々にとってみては、直近の会計不正に関するペナルティ表示として理解されるところが大きいのであり、この乖離をどう埋めるのか、それとも埋める必要はなく「重要な欠陥あり」とする意見を出していくのか、そのあたりがとても興味のあるところです。(なお、架空取引が発覚したといっても、それが内部調査で発覚したのか、内部通報によるものか、外部への告発によるものか、監査法人による指摘によるものかなど、モニタリングや自浄作用が機能した結果かどうか、という点も問題になるのかもしれません。)

また理屈の問題としましても、架空循環取引が組織ぐるみでなされており、経営上層部も絡んでいる・・・という場合には、そもそも実施基準でいうところの「内部統制の限界」に該当するケースも多いのではないでしょうか。内部統制の限界というのは、どんなに内部統制をしっかり整備(構築、運用)していても、関係者が証憑隠滅を共謀したり、経営者が統制を無視することによって「内部統制がまったく機能しないこと」を認めるものでありまして、もし、上記のような架空循環取引が「内部統制の限界事例」とされるのであれば、たとえ新聞報道されるような大きな架空取引によって過年度決算が修正されたとしても、それは「重要な欠陥」とは評価されないのではないでしょうか。(重要な欠陥とは、是正可能な内部統制の不備を指すものであり、将来的に是正されるべき重要な課題のことであります。そもそも是正したくてもできないような『内部統制の限界事例』であるならば、そもそも不備にも該当しない、ということになりそうです)架空循環取引を、もうすこし構成要素としてはバラバラにして、どの部分をどのように統制していけば再発が防止できるか・・・ということを検証する必要があるのかもしれませんが、どうもよくわからないところであります。架空取引が発覚したケースで、よく法定監査を担当されていた監査法人さんが「財務諸表監査のために依拠すべき内部統制が認められず、意見を表明できないので辞任する」と解説されますが、そもそもそれが「内部統制の限界」を超えたものと評価される以上(つまり内部統制がしっかりと整備されていても架空取引は監査論の域を超えて発生しうるものである以上)、財務諸表監査のために依拠すべき内部統制の問題とは関係がないのではないかと思うのであります。

そこで、あくまでも理屈の問題ではありますが、「一般に公正妥当と認められる内部統制評価の基準」「内部統制監査の基準」と「重要な欠陥」との関係について、すこし検討してみたいと思います。たとえば全社的内部統制について一般に公正妥当と認められる内部統制の「枠組み」に準拠して内部統制が整備運用されていることと、全社的内部統制に「重要な欠陥と評価されうる不備が存在しないこと」とはいずれも「内部統制の有効性判断」という意味では同義であるかどうか、という点であります。以前もすこし問題としましたが、「重要な欠陥」の意味について、経営者と監査人と意見が食い違う・・・というのは、あくまでも一般に公正妥当と認められる経営者評価、監査の基準に(お互いが)準拠していることが前提でありますが、もし経営者が「重要な欠陥」の判断基準すら理解する能力がない場合、いったい監査人はどのように意見を述べるべきか・・・というのも、同様の問題を含むものと考えられるのではないでしょうか。(以下、長くなりましたのでつづく)

(23日午後:追記)本文とは関係ありませんが、昨日エントリーしましたプロデュース社の不正会計の件、今朝の日経新聞でも大きくとりあげられていましたね。ジャスダックでの表彰式を終えた直後の不正発覚ということだそうです。ジャスダックの表彰理由も

ネガティブな内容でも積極的に公表する姿勢に好感がもてる。資料を読むだけで状況をかなり的確に理解できる

ことだそうで、なんか皮肉な結果になってしまったようです。新聞記事では疑惑の会計士さんのお名前もはっきり出ておりますが、昨日のエントリーで書きましたとおり、今回の事件はこれまでにないほどに「市場の信頼性を喪失させる」という意味におきましてはきわめて悪質だと思いますが、いかがでしょうか。

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2008年10月22日 (水)

プロデュース社の粉飾決算と会計士の関与(備忘録程度)

昨日は、ビジネス法務に関するエントリーではありませんでしたが、思いのほか多くの方のアクセスをいただきまして、ありがとうございました。(こういった話題のほうがアクセスが増えるのですね。やはり当ブログは普段かなりマニアックな話題をとりあげていることを再認識いたしました。)さて、9月18日から始まったプロデュース社(本社;新潟県長岡市 9月26日民事再生申立中)への証券取引等監視委員会の強制捜査の結果として、2005年12月の上場時期より監査に関与されていた公認会計士さんが粉飾にも関与されていた疑いが強まっている・・・と読売新聞ニュースが報じています。この会計士さんが所属する(非常勤?)監査法人は強制捜査の直後(9月24日)にプロデュース社に対して「法令遵守や会計基準遵守など監査嘱託者責任を履行していないこと」を理由として契約を解除しておられるようです。(EDINETと本ニュースの内容から、すぐに会計士さんは特定されてしまいますね。この方の決算書解説本は以前、読ませていただいた経験があります。)

このニュースの内容では2005年12月、つまり上場時から粉飾決算を続けていた、とありますが、これは本当なのでしょうか?もし本当だとしますと、取引所(JASDAQ)をも騙したことになりますし、普通の粉飾決算の動機(上場後の業績悪化の糊塗、買収や資本政策のための時価総額の向上、担当役員の名誉欲など)に基づくものでもないようでして、きわめて大きな問題を投げかける事件ではないでしょうか。上場を一年後に控えた2004年、新潟地震によってプロデュース社の業績は大きなピンチに立たされたようでありますが、困難を乗り越えて無事、予定どおりに上場に至ったそうであります。しかしながら、実際には無理な状況での上場申請だったのかもしれません。本件における粉飾決算の動機を考えるにあたり、当該地震と粉飾決算との関係についての検証が必要ではないかと思われます。(とりいそぎ、備忘録のみにて失礼します)

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2008年10月21日 (火)

官僚が決定権を握るルール体系(政省令は無用の長物?)

10月20日の日経新聞朝刊「領空侵犯」にて、楽天会長(兼社長)の三木谷氏が「法律を肉付けする省令や通達などの『装置』を操作する権限を官僚が握っているのは問題」として、重要事項は官僚が決めることへの疑問を呈しておられます。三木谷氏が指摘しておられる2007年の建築基準法改正による業界の混乱や2006年の電気用品安全法について中古家電への適用を巡る混乱につきましては、官僚の設定したルールの不備(もしくは不徹底)によってもたらされた事例として、当ブログでも当時いろいろと議論させていただいたところであります。

法律で定めるならまだしも、大切なことが国会審議を経ずに役人の胸三寸で決まるのはおかしい。官僚支配からの脱却ということが唱えられているが、その早道は省令というわかりにくい制度をやめることです。国民生活への影響が多大なルールづくりを官僚任せにしては、国会議員の職務放棄では。(日経記事より引用)

という三木谷氏の意見につきましては私も正論だと思います。ルール作りを官僚まかせにすることの弊害は、おそらく事後規制社会が機能しない場合にはますます企業社会に閉塞感を生むことになるように思われます。平等原則(行政目的によるルールが平等に適用されうるか)、比例原則(行政目的を達成するためのルールとして、最小限度の権利侵害にとどまっているか-過度に萎縮的効果を与えていないか)、他事考慮(別の行政目的を達成するためにルールが活用されていはいないか)といった点について、事後規制社会における行政ルールの在り方については十分検討する必要があると思います。もちろんこれは立法府だけの責任でなく、司法によるルール形成機能が働いていないところにも弊害の原因はあるものと考えております。

ただ一方において、官僚にも言い分があるはずです。今年3月、薬害エイズ事件において厚生省官僚(元)が「不作為」の刑事責任を問われました。これは最高裁判決です。現場の公務員ではなく、政策法務に従事する官僚が「何もしない」ことについての刑事責任を問われる意味は大きいと思います。世の中の動きをキャッチしながら、何もしないとその違法性を刑事、民事(国家賠償)で問われる時代・・・、ということになりますと、行政官僚も皆、政省令の策定や行政指導、ガイドラインの策定などに必死になることが考えられます。片方で「官僚支配からの脱却」といわれて「何もするな」と言われ、もう片方では「不作為の過失」を問われて「なにもしないことは違法だ」と言われ、いったい官僚はどうしたらいいのでしょうか。単に「重要事項は官僚が決めるな」と言い放つだけでは問題は解決しないように思われます。また、最近の食品偽装問題や悪徳商法対策など、消費者行政に期待されるところは、行政ルールやガイドラインを用いて機動的な対応が要求されるところが大きい場面も想定されるところだと思われます。

政策法務に関しては私も詳しいところではありませんが、規制緩和→国民の厳格な自己責任→行政によるルールは最小限度、という流れと、規制緩和→国民の自己責任を厳格には問えない(保護行政の必要性)→機動的な行政手法の活用→司法による検証手続きの確保、といった流れを考えながら、バランスをとる必要があるのではないでしょうか。

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2008年10月20日 (月)

製品偽装事件における「自主申告」のインセンティブを考える

最近は会計士さんの「期待ギャップ」問題のなかで「不正発見義務」「不正報告義務」などが話題となるところでありますが、みなさまご承知のとおり、会計監査人として「不正を発見する」端緒の8割程度は内部告発、内部通報によるものである、ということだそうでして、内部統制の整備だとか、リスクアプローチによる監査体制といいましても、やはりそれだけで不正を発見できるほど現実は甘くはないようであります。そして会計不正問題と同様、産地偽装問題をはじめ、最近の企業不祥事の多くが「内部告発」を発端として世間の耳目を集めるようになる、というケースが急増しているようでありますが、その要因は、①公益通報者保護法など法的環境の変化、②企業コンプライアンスの重視③社会の内部告発者をみる意識の変化など、と一般には理解されているようです。

Ruponaibukokuhatsu 最近発売された朝日新書「ルポ 内部告発~なぜ組織は間違うのか~」(村山治 奥村俊宏 横山蔵利 共著 760円)は、朝日新聞記者の方々による企業不正発覚に至るまでの経緯、とりわけ「内部通報」や「内部告発」に焦点をあてた現実の人間ドラマをほぼ実名にて描写したものであります。(おそらく、今年3月より朝日新聞に連載されていた特集記事をもとに執筆されたものと思われます。)当新書において非常に興味深いのは内部告発をする人をフォーカスするのと同程度に内部告発情報を最初に受けとめた人(たとえば農水省や保健所担当官、自社窓口担当者、社内担当役員、弁護士そして新聞記者など)の「初動対応」にもフォーカスをあてている点であります。(私はむしろこの後者のほうがおもしろかったです)内部告発が企業コンプライアンスの推進に機能するかどうかは、一般には告発者の勇気ある行動に依拠しているように理解されておりますが(もちろん、それがもっとも重要であることは間違いないところですが)、それと同じ程度に内部告発情報の受け手側の初動対応の重要性にも依存するところが大きいと思われます。この情報の受け手側の初動対応に誤りがあると、その受け手側企業に大きな「二次不祥事リスク」が発生することが認識できるところです。大阪トヨタ自動車の件につきましても、告発者と外部窓口担当弁護士との初動対応から弁護士会の綱紀委員会議決書が発出されるまでの経過についてはゾッとするものでありまして、窓口業務を担当する私自身も深く自戒するところであります。

また本書は昨年から今年にかけて、広く報道された不祥事に関する取材記事だけではなく、内部告発を行った人を取り巻く環境や、内部通報制度を支える人たちなどにも焦点を当てて、おそらく今後も増えていくであろう「内部告発」や「内部通報制度」を企業や従業員がどう受け止めていくべきか、ということにも十分配慮されており、企業経営に関わる人たちにぜひお読みいただきたい一冊であります。私はちょうど一か月ほど前に「食品偽装事件にみる企業コンプライアンスとは?(その2)」のエントリーにおきまして、裏の世界にも内部通報窓口があり、裏取引を持ちかけられたことによって観念して農水省に自主申告をされた企業のことをとりあげました。そして本書を読んで驚いたのですが、国土交通省の試験をパスするために、性能偽装に及んだニチアス社の事例については、(裏社会との取引とまでは記述されておりませんが)けっして公益通報者保護法では保護されないような通報(及びその後の交渉)が発端となって(経営トップが性能偽装の事実をすでに知っており、「社内かぎりでの対応」と決めていたにもかかわらず)やむをえず自主公表に至ったという事実であります。一般消費者に被害が出ていないとか、すでに問題の製品が世に出回っていないなどといった安心感から、「この程度の不祥事であればとくに公表する必要がないのではないか」といった判断に傾きがちなのが「社内の常識」であります。この「社内の常識」に基づく判断がやむをえないものであるにしても、その判断が十分な「非公表のもたらすリスク」を斟酌したうえでのものであるかどうかは、おそらく自信をもって回答できる企業は少ないのではないでしょうか。(このニチアスの事実経過につきましては、本書を読むまでまったく存じ上げませんでした)内部告発に踏み切る社員の気持ちは「正義感」であっても、その正義感をくみ取る窓口は、その告発情報の「経済的価値感」で動くケースもあるわけでして、偽装問題が大きくマスコミでとりあげられるほど、その価値は高まるのであります。「正義感」による内部告発を企業がどう受け止めるか、その初動対応の適切性こそ、こういった「やむをえない自主申告」に至る可能性を低減する大きな要因になろうかと思われます。

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2008年10月18日 (土)

NOVA被害対策弁護団、複数の監査法人を提訴へ

(18日午後;追記あり)

本日は岡山にて、日本内部監査協会と岡山大学による共同セミナーの基調講演をさせていただきました。260名程度の方が参加され、盛況だったようです。(こちらのセミナーです)セミナー終了後の懇親会では中国銀行の監査室の方やキャノンの監査室長の方、そして「企業会計」の論稿や著書を拝読させていただいている北大の蟹江章教授とも、ガバナンスに関するお話などさせていただき、たいへん有意義な一日でした。(また、主催者の皆様、たいへんお世話になりました)

さて読売新聞(大阪版夕刊)によりますと、NOVA(破産手続き中)の元経営陣(社長だけでなく、他の取締役、監査役も含まれていますね)を相手として、20数名の被害者の方々が損害賠償請求訴訟を大阪地裁へ提起された、という記事が掲載されておりました。(ネットニュースはこちら)また、記事によりますと、被害者の方々はNOVAの法定監査を担当していたあずさ監査法人(ほか一監査法人)についても、NOVAによる授業料の前払金に関する不適切な会計処理を容認していたことで「粉飾決算を見逃していた」ものとして損害賠償責任を追及されているそうであります。

たしかNOVAの元代表者については、従業員の積立金を資金繰りに流用していたことについて業務上横領事件として立件されているにすぎず、受講生の方々を被害者とする事件については立件されていなかったと記憶しております。つまり受講生らの前払金の使途についてはまったく不明なままになっているはずであります。このままですと、たとえ刑事事件が進行したとしても、受講生の方々の前納金の行方は刑事事件の記録上でも明らかにされない可能性がありますので、被害者対策弁護団としましても、こういった民事訴訟を提起することになったのではないかと推測されます。若干読売新聞記事を引用させていただきますと、

原告側は、長期契約を勧誘し(1)契約金を莫大な宣伝広告費や教室数拡大の経費などに流用、(2)前払い受講料の45%を売上に計上していたのは利益を水増しした粉飾決算、(3)監査法人については違法な会計処理に反対意見(不適正意見)をつけることなく破たん必至の拡大路線に加担した、と訴えている

ところで、あずさ監査法人の粉飾見逃しに関する責任問題ですが、以前ご紹介した細野祐二氏の「法廷会計学VS粉飾決算」のなかでも公認会計士である細野氏が「NOVA社の財務報告に対するあずさの監査には大いに疑問あり」「日本有数の大監査法人によって行われた組織的粉飾事件」と指摘されているところであります。原告側はこの細野氏の問題提起を中心にあずさ監査法人さんの会計監査人としての責任を追及していく方針なのでしょうか。再度、上記著書の該当箇所を確認のうえ、あらためて問題点を追記しておきたいと思っております。

(18日午後;追記)

朝日新聞ニュースによりますと、NOVA元受講生の方々(弁護団)が提訴している相手方につきましては、当時の監査役5名と監査法人2社を含む、とありますので、この2社というのは1996年から2006年まで監査を担当されていた「あずさ監査法人」と、2006年以降担当されていた「アクティブ監査法人」ということでしょうね。監査役の方々は大手商社ご出身の常勤監査役の方のほか、3名は国税OBのエリートの方々と、あと1名は中央青山出身の公認会計士さんだと思われます。みなさま「財務会計的知見」はとんでもなくお持ちの方々ばかりのようですから、監査役の不法行為(過失)を基礎づける注意義務のレベルがどの程度と判断されるのか(たとえ社外監査役たる地位にある者としても、その会計監査業務を遂行するにあたり、「一般的な会計専門家としての高度の注意義務」が要求されるのかどうか)注目されるところであります。

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2008年10月16日 (木)

大手総合商社における架空取引を解説するブログ登場(必読)

会計士さんのブログや、「特捜検察VS公認会計士」でおなじみの細野氏の著書などを拝読して「おもしろい」と感じるのは、公表された企業情報と、会計専門家ならではの「机上によるものではなく、体得した知見」をもとに描かれる(推測される)「アートとしての会計処理」を解説していただくところであります。法律家の事実認定のスタイルとはかなり異質な思考過程をたどるところがたいへん勉強になりますね。

ということで、少し前から気にはなっておりましたが、当ブログにもときどきコメントをいただいております某公認会計士さんのブログ「会計腐食列島」がいよいよ伊藤忠商事社員によります1000億円規模(金額でかい!!)の架空取引をテーマとして、商社取引の実務からみた不正会計問題に切り込んでおられます。(次回は監査の視点から解説される予定・・・とのことで非常に楽しみであります。ちなみに、私は諸事情により、この件につきましてはコメントできません(^^;。ただ、現在大阪の裁判所に係属している某粉飾決算事例にもかなり事実関係が似ているようでもありますね。)偉そうに言うつもりは毛頭ございませんが、持論としては

ブログというものは商売の手段として書こうとするとつまらない・・・、何か世間に叫びたい衝動にかられたり、他人のためにサービス精神が旺盛だったり、自分のために本当の意味で備忘録として利用するなど、書くこと自体に明確な目的を見出しているブログこそ、おもしろい

と思っておりますが、こういったブログは以前ご紹介した活字フェチ弁護士さんの「企業法務のツボ」と同様、マニアックな匂いが漂っているものでして、私的には好きなタイプのブログであります。(あっ、もちろん「とも弁護士の備忘録」や「企業会計に関わる紛争についてのデータベース」のように、正統派のブログも大好きですよ(^^;; 右下の「お気に入り」をご参照くださいませ。。。いつもブログを御紹介するときに申し上げるところでありますが、どうか更新はときどきで結構ですので、長~くつづけていただけますようお願いいたします ちなみに TBできないようになってるみたいですね。。。)

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2008年10月15日 (水)

内部統制構築義務と代表取締役(社長)の法的責任論(近時の判例に学ぶ)

内部統制システムの構築義務違反と取締役(監査役)の法的責任に関する代表的な裁判例といえば大和銀行事件、ヤクルト事件、ダスキン事件などの株主代表訴訟が著名なところでありますが、最近(といっても昨年11月ですが)、第三者による不法行為責任追及訴訟(上場企業を被告とする損害賠償請求訴訟)において、代表取締役の内部統制構築義務違反が認められた判決が出されております。(代表者の内部統制構築義務違反を会社に対する善管注意義務違反と捉えるのではなく、民法709条の不法行為を根拠付ける注意義務違反行為として構成して「過失」を認定した事例であります。最終的には民法44条(法人の不法行為能力に関する規定;平成18年法第50号による改正前の事案)で会社自身に損害賠償責任を認めております。元事業部長による会計上の不正行為が行われた期間は、当該会社が東証二部に上場する前後にわたる平成12年9月から平成16年12月までの間であります。本件裁判につきましては、本年(平成20年)7月ころ発売された判例時報1998号141頁以下に判決文(東京地裁判決 平成19年11月26日)が掲載されておりますし、最近発売されております法律雑誌(中央経済社「ビジネス法務」11月号)や、金融商品取引法に関する最新の基本書(商事法務・金融商品取引法「資本市場と開示編」)などでもボチボチ紹介されているようであります。

民法(法人の不法行為能力等)第44条 (ご参考まで)

法人は、理事その他の代理人がその職務を行うについて他人に加えた損害を賠償する責任を負う。2 法人の目的の範囲を超える行為によって他人に損害を加えたときは、その行為に係る事項の決議に賛成した社員及び理事並びにその決議を履行した理事その他の代理人は、連帯してその損害を賠償する責任を負う。

この事件は、いろいろと特徴があるところでして、まず不正会計事件(元事業部長による長年の架空売上計上。すでに「有印私文書偽造・同行使罪」によって懲役1年6月執行猶予3年の有罪判決が確定)について、当該会社の社長さんが不正会計を防止するための体制整備義務を尽くしていなかった点に「過失」を認めたものでありますが、原告(元株主)の方はいわゆる「本人訴訟」なんですね。(つまり弁護士を代理人に選任せず、おひとりで東証二部上場企業を相手として訴えを提起しているものであります)また逆に、被告上場会社には、当然のこととして企業法務で著名な弁護士の方が代理人としてついておられ、内部統制構築義務は十分に尽くしていたこと、元事業部長の架空売上工作はどんなに内部統制構築義務を尽くしても防ぎきれなかったことについてきっちりと主張をされています。こういった極めて原告側に不利な状況(一般的に見て)であったにもかかわらず、原告は被告上場企業を相手として一部勝訴判決を得ることができた、という点が特徴的であります。また、第二の特徴としては、通常こういった不正会計事件の場合には、経営不振のために上場廃止になってしまったケースが多いと思われますが、当該被告企業は現在も比較的元気な中堅上場企業でありまして、この不正会計事件当時は監理ポスト入りし、また日経新聞等では上場廃止となるのではないかと書かれたのでありますが、その後監理ポストからははずれ、現在は何事もなかったかのように順調に経営をされている企業だということであります。つまり、本件は「とんでもない経営者がいたからこそ発生したような事件」ではなく、ごくごくまじめに経営されておられる上場企業でも、同じような損害賠償責任を負担しなければならない事態を想起させる点が特徴的であります。

ひょっとすると、本件判決を読まれた方は、「え!?これで社長さんは損害賠償責任を負わなければいけないの?」と思われるかもしれません。(だからこそ、上場企業の方々にはご一読いただいたほうがいいのではないかと思うのでありますが)流通市場における不実記載責任を認めた金融商品取引法21条の2が施行される以前(平成16年12月1日施行以前)の「有価証券報告書虚偽記載」に関する事例ということもあるでしょうが、いずれにしても会計不正を防止するための内部統制システムの構築義務の有無を詳細に検討したうえで、取締役の過失を真正面から認めている点については今後の実務には大きな影響を与えるものと言えるのではないでしょうか。

たとえば、

財務報告に係る業務プロセスの流れを示す「経理規程」は実際の事務手続きと合致したものになっているでしょうか(→これは裁判で大きな意味を持っております)

また、職務分掌は形式的、名目的なものではなく、人的な影響力を阻止できるほどに独立性を維持しているでしょうか(→本件では、上司の権力によって職務の独立性が排除されてしまうような脆弱な職務分掌が大きなポイントと指摘されております)

さらに、たとえ職務分掌の独立性が維持されているとしても、経理部の能力(リスク管理能力)がしっかりしているでしょうか(→売掛金の実在性を担保するための売掛金残高確認書を取引先に送付し、その返送を確認するシステムがしっかり稼働していたとしても、本件では長期滞留債権の確認方法としては不十分であることが指摘されております)。

疑問点としては、「こんな架空売上が何年も続いていたことについて、監査法人は不正に気がつかなかったのか?」といったところが出てきそうですが、東証に上場してわずか1~2年後に発覚したものですし、また監査法人による社長への指摘が発端となって発覚した、という事情もあります。(念のため)また本件事例は、その損害額立証や因果関係の相当性を認めている点についても(法律家に対しては)興味深い論点がありますが、一般の上場企業の皆様方に対しては、やはり上記の内部統制システムの構築義務違反の有無を検討するなかで、日本版SOX法対応の整備状況を振り返りながら「レベル感」を体得していただくには好例ではないかと考える次第であります。(長期滞留債権の消し込みなどにみられるような、経理部における売掛債権管理の稚拙さもあるかもしれませんが、ドキ!っとされる方もいらっしゃるかもしれませんよ・・・)さらに一点付言いたしますと、私からしますと、この平成12年~16年当時よりも、日本版SOX法が施行された現時点のほうがはるかに経営者自身に「不正会計リスクに対する予見可能性」は高いものが要求されると考えておりますし、その予見可能性をもとに、リスク回避義務のレベルも、(システム構築のための予算問題などを考えても)かなり高くなっているのではないかと推測いたします。(経営者としては、内部統制統括部署や内部監査室に「丸投げしています」といった理由はもちろん裁判では通用しませんし)なお、当該事件の発生(発覚)後に当該会社より東証へ提出された「改善報告書」を併せて読みますと、今後いかにして内部統制を強化していくか、内部監査制度を強化していくか、という点についての検討内容も参考になるところであります。(上記裁判の影響力に配慮して、当ブログでは被告会社名を伏せております。ご関心のある方は、上記判例時報等をご参考の上、詳細をお調べいただだければ幸いです。ただし判例時報におきましても被告企業名は明記されておりません。グーグル検索があるとすぐに判明してしまいますが。)

金融商品取引法第21条の2 (ご参考まで)

(虚偽記載等のある書類の提出者の賠償責任)
第21条の2  

第25条第1項各号(第5号及び第9号を除く。)に掲げる書類(以下この条において「書類」という。)のうちに、重要な事項について虚偽の記載があり、又は記載すべき重要な事項若しくは誤解を生じさせないために必要な重要な事実の記載が欠けているときは、当該書類の提出者は、当該書類が同項の規定により公衆の縦覧に供されている間に当該書類(同項第12号に掲げる書類を除く。)の提出者又は当該書類(同号に掲げる書類に限る。)の提出者を親会社等(第24条の7第1項に規定する親会社等をいう。)とする者が発行者である有価証券を募集又は売出しによらないで取得した者に対し、第19条第1項の規定の例により算出した額を超えない限度において、記載が虚偽であり、又は欠けていること(以下この条において「虚偽記載等」という。)により生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、当該有価証券を取得した者がその取得の際虚偽記載等を知つていたときは、この限りでない。

2  前項本文の場合において、当該書類の虚偽記載等の事実の公表がされたときは、当該虚偽記載等の事実の公表がされた日(以下この項において「公表日」という。)前1年以内に当該有価証券を取得し、当該公表日において引き続き当該有価証券を所有する者は、当該公表日前1月間の当該有価証券の市場価額(市場価額がないときは、処分推定価額。以下この項において同じ。)の平均額から当該公表日後1月間の当該有価証券の市場価額の平均額を控除した額を、当該書類の虚偽記載等により生じた損害の額とすることができる。

3  前項の「虚偽記載等の事実の公表」とは、当該書類の提出者又は当該提出者の業務若しくは財産に関し法令に基づく権限を有する者により、当該書類の虚偽記載等に係る記載すべき重要な事項又は誤解を生じさせないために必要な重要な事実について、第25条第1項の規定による公衆の縦覧その他の手段により、多数の者の知り得る状態に置く措置がとられたことをいう。

4  第2項の場合において、その賠償の責めに任ずべき者は、その請求権者が受けた損害の額の全部又は一部が、当該書類の虚偽記載等によつて生ずべき当該有価証券の値下り以外の事情により生じたことを証明したときは、その全部又は一部については、賠償の責めに任じない。

5  前項の場合を除くほか、第2項の場合において、その請求権者が受けた損害の全部又は一部が、当該書類の虚偽記載等によつて生ずべき当該有価証券の値下り以外の事情により生じたことが認められ、かつ、当該事情により生じた損害の性質上その額を証明することが極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、賠償の責めに任じない損害の額として相当な額の認定をすることができる。

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2008年10月14日 (火)

内部統制監査制度の必要性(法制度化)を考える

最近ライブドア刑事被告事件や、先日の長銀事件判決などから、「司法は本当に経済事犯を裁けるのか?」「そもそも専門性の高い会計・監査の問題について、法律家は(すでに適正と判断された会計・監査判断に対して)異議を唱えることは容認されるべきなのか」といった問題が提起されることが多くなりました。

「公正なる会計慣行」の問題は、法律と会計基準との問題だと認識しておりますが、会計監査と法律の問題というのはどうなんでしょうか。私は会計監査制度というのは、適正な会計基準(企業会計の原則)に準拠して(上場企業が)財務諸表を作成していることを担保するための「事前規制」の一つとして、あくまでも「法が認めた制度である」と理解しておりました(したがって、会計監査のミスの違法性を司法において問われるのもごく当然のこと)が、会計学の基本書を読んでおりますと、じつはそんな甘いものではなかったようです。

以前当ブログでご紹介した「会計監査論(第5版)」(著 山浦久司教授 中央経済社)第2章「監査のニーズ構造と制度化の論理」を読みますと、事業会社が会計報告を利害関係者に開示する制度があるところでは、会計監査というのは自律生成されるべきものであって、なにも「法律が監査制度を決めたから存在するものではない」ことが詳しく説明されております。会計専門職の方々はご承知のとおり、スチュワードシップ(モニタリング)仮説、情報仮説、保険(リスク分散)仮説など、いくつか説明方法が異なりますが、いずれにしましても、市場があって、会計報告を行うべき企業があれば、そこにはおのずと会計監査制度というものが生成されてくるべきものであるとのこと。なるほど、こういった考え方に立ちますと、法律と会計基準との関係と同様、法律と会計監査(法律学と会計学)との関係についても、「どっちが上」といった議論からは解放されるわけですね。ただ会計監査も現実には法制度化されているわけでありますが、「本来、自律的に生起するはずの会計監査のニーズを、あえて法規制の対象にしなければならない理由と論理過程は必ずしも明確ではない」とのことだそうで、実際のところはいまだ法と会計監査との関係についてはよくわかっていないところも多いようであります。

こういった「法律と会計監査」のファジーな部分を考えますと、たとえば財務報告に係る内部統制報告制度(いわゆる日本版SOX法)におきましても、いっそのこと内部統制監査という制度は廃止してしまってもいいのではないでしょうか。もちろん、現在は法制度化されておりますので、あくまでも立法論にすぎませんが、法制度化されずとも「自律的に生成するもの」でしたら、そのほうが開示制度になじみやすいようにも思います。「そんな制度、企業にとっては何の役にも立たない」と考えておられる上場企業でしたら、とくに監査を受ける必要もありませんし、内部統制をきちんと構築している企業でしたら、投資家への評価を受けるために任意監査制度によって内部統制監査を受けた内部統制報告書を提出すればいいわけでして、それなりの「差」が投資家にもわかる制度になりそうな気もいたします。そのかわり、企業情報の開示制度ですから、内部統制の有効性判断については企業側が責任をもてるように、監査役のひとりに「財務会計的知見」を有する人を就任させることでモニタリング制度を確保する・・・ということにすれば、かなり効率的な制度になるのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。

いまのままですと、来年6月以降、「国際会計基準の直接適用と公正なる会計慣行」を取り巻く論争と同じように、「法と会計監査の関係」がいろいろと取り沙汰されて、また「法と会計」に関する神学論争のようなものが増えてしまうような気がしてきました。

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2008年10月11日 (土)

アーバンコーポレイション社の情報開示につき、金融庁が違法と判断

私の監査役全国会議での司会ぶりは、とても納得のいくものではございませんでしたが、報告者でいらっしゃった株式会社ジャムコ、共和電業、中外製薬の常勤監査役の皆様方に助けていただき、なんとか無事終えることができました。(8月の第一回の打ち合わせ以来、本当にお世話になりました。)あのような異様な雰囲気(とても「関西人のノリ」で乗りきれるような甘いもんやおまへん・・・笑)のなかでアドリブをまぜて平然とお話できる葉玉先生や武井一浩先生は、やっぱり能力もあるし、「場慣れ」もされているんでしょうね。ホント反省しきりです。orz

1 課徴金納付命令(異例の金融庁自身による単独判断)

アーバンコーポレイション社(民事再生中)とBNPパリバ証券との第三者割当方式によるCB発行に関する「不適切開示」について、これまでいろいろな報道がなされてきましたが、10月10日付にて金融庁はアーバン社の臨時報告書の記載内容に「法令違反」の事実が認められるとして課徴金納付命令に関する審判手続きの開始決定を発出したようであります。(リリースはこちら)つまり、金融庁は今回のアーバン社がBNPパリバ証券とのスワップ契約の内容を一切明らかにしないままCB発行の事実を開示したことを「不適切」ではなく「違法開示」と判断したことになります。ちなみに課徴金の金額(150万円)は、金融商品取引法172条の2、第2項にしたがい、アーバン社が発行する算定基準有価証券の市場価格総額に10万分の3を乗じた金額(本件では788億円余×10万分の3)と、300万円のいずれか多いほうに、(対象となる継続開示書類が臨時報告書なので)2分の1を乗じた金額ということで算定されたものであります。

継続開示書類(有価証券報告書、四半期報告書、臨時報告書等)の虚偽記載に関する課徴金納付命令につきましては、ご承知のとおり金融庁設置法20条に基づき、証券取引等監視委員会の調査により、行政処分その他の措置について金融庁(内閣総理大臣)に勧告がなされ、その勧告をもとに金融庁による課徴金納付命令が発出するのが定例であります。しかしながら、今回は監視委員会による勧告抜きで、金融庁が独自の判断をもって課徴金納付命令を発出することになりますので、きわめて異例な状況であります。今朝(10月11日)の日経新聞の記事によりますと、金融庁が単独で判断した初の事例である本件については、「早急な対応が必要だった」とのことであり、今回のアーバン社の臨時報告書の記載を違法としたうえで、今後は金融庁、証券取引等監視員会が共同でBNPパリバ証券の責任に関する調査に乗り出す・・・とのことであります。

2 アーバン社の情報開示の違法性に関する疑問

当ブログでも、BNPパリバとのスワップ契約の内容が開示された日に「これは後日大きな問題になるのでは?」なるエントリーを書きましたので、アーバン社の情報開示に不適切な面があることは当然だと思っております。また、アーバン社の不適切開示の直後に同社の株式を購入された一般株主の皆様による損害賠償請求訴訟(役員に対する)についても、今回の金融庁の判断は追い風になるであろうことは間違いないところと推察いたします。ただ、今回のアーバン社の臨時報告書の記述がはたして「違法」と断定できるものかどうか・・・ということにつきましては、少しだけ疑問を抱いているところであります。

金融商品取引法が継続開示書類の虚偽記載により開示企業に課徴金納付を命じることができる根拠条文は172条の2であります。その条文によると、「重要な事項につき虚偽の記載がある(臨時報告書を提出したこと)」が要件となります。そして先のアーバン社に対する審判手続き開始決定の要旨を読みますと、臨時報告書の「新規発行による手取金の額およびその使途」の記載方法を問題としたうえで、当時の事実関係からすれば、スワップ契約の内容を引用しながら手取金全額をいったんパリバへ交付することや、最終的に財務安定のための債務返済に用いることが可能な金額は不確定であることを記載しなければならなかったにもかかわらず、これを記載しなかったこと自体を問題としております。(なお訂正報告書自身の虚偽記載は問題としていないので、アーバン社が実際に臨時報告書に積極的に記述している内容自体が虚偽とまでは判断されていないものと思われます)つまり、金融庁は、投資家保護のために、アーバン社は投資家が誤解されぬよう、本来記載しなければいけない記載内容をあえて記載しなかった点をとらえて「重要な事項につき虚偽の記載がある」と判断したものと思われます。

しかしながら、現行の金融商品取引法においては、継続開示書類に「重要な事項につき虚偽の記載がある」場合が課徴金の対象とされているにすぎず、重要な記載が欠けている場合は課徴金の対象とはされておりません。(旬刊商事法務1840号32頁。立案担当者のご解説参照)今年の金融商品取引法の改正(平成20年改正)で、この点が問題となったために、平成20年改正の金融商品取引法(金融商品取引法の一部を改正する法律:平成20年法律第65号)においては、この172条の2の条文に関して、「重要な事項につき虚偽の記載がある」という文言が「重要な事項につき虚偽の記載があり、又は記載すべき重要な事項の記載が欠けている」に変更されることになっております。(条文の変更はこちらを参照。ただし、同改正法は未だ施行されておりません)つまり、今回の法改正の趣旨からすれば、アーバン社の臨時報告書提出時点においては、未だ「記載すべき重要な事項の記載が欠けている」ケースは課徴金の対象とはならないはずであります。したがいまして、金融庁はなぜ、今回のアーバン社のケースを「違法開示」と捉えて、課徴金処分の対象となしえたのか疑問を抱くところであります。

実際にEDINETで公開されているアーバン社の6月26日付け臨時報告書と、8月13日付け「訂正臨時報告書」を読み比べてみましても、「手取金の使途」として記載されているところにつきまして、「手取金はいったんスワップ契約の条件としてパリバに返却することが記載されていない」ことが、全体としての「使途に関する重要事実に関する虚偽記載があった」とみなすこともできそうでありますが、しかしそういった実質的な解釈をとるのであれば、そもそも記載すべき重要な事実が欠けている場合も、最初から「重要な事実につき虚偽の記載がある」に含めればいいわけでして、今回法律の改正をしてまで金融商品取引法の文言を変更する必要はないはずであります。また先の金融庁リリースでは、「受領金の金額がそもそも不確定であり、いつどれだけの受領金を活用できるかわからないことについても記載すべきであるのに記載していなかった」点も問題とされておりますので、なおさら今回のアーバン社の件では「投資家保護のために記載すべき重要事項が欠けていた」点を問題としていることは明らかだと思われます。

私自身は、できればBNPパリバの関与についても事実関係を明らかにしていただきたい、という気持ちをもっておりますので、アーバン社の臨時報告書の開示が「不適切」→「違法」となることには歓迎するものであります。しかしながら、「違法認定」において、どうしてもひっかかるところがありましたので、エントリーさせていただきました。こういった金融庁の迅速な対応というものも「金融危機における市場健全化対策の一環」・・・ということかもしれませんが、たとえそうであったとしても、理屈がすっきりと通っていることは必要だと思いますし、とりわけプリンシプルベースによる金融行政を原則とするならば、なおさらのことと思っております。(ひょっとするとどこか基本的なところで誤りもあるかもしれませんので、修正の可能性もあります。)

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2008年10月 9日 (木)

上場会社コンプライアンス・フォーラムのお知らせ(大阪編)

(9日午前;追記あり)

8月に東証自主規制法人(COMLEC)、JASDAQ共催による上場会社コンプライアンスフォーラムをご紹介いたしましたが、予想どおり大盛況だったようですね(当日の模様は週刊経営財務の2887号に掲載されております)「こういった催事が東京では頻繁にあっていいですね。大証さんと共催で大阪でもやってくれたらいいですね。」と書いておりましたところ、「想ひ」が通じたのか(^^;、東京証券取引所自主規制法人主催、大阪証券取引所共催による「上場会社コンプライアンス・フォーラム in OSAKA」が開催されるようであります。日時は11月7日(金)、場所は中之島の国際会議場だそうです。東京は「渋谷公会堂」でしたよね。。。

旬刊経理情報(10月10日号)の巻頭言(論談)でも、東証COMLEC理事長さんがお書きになっているように、主たるテーマは「上場企業におけるインサイダー取引の未然防止策と今後の課題」ということでして、「市場の信頼を守る」とともに「市場の信頼を創る」ことを念頭に企業コンプライアンス啓蒙活動の一環として開催されるそうであります。前回の東京でのフォーラムでは(会場の関係などから)参加条件なども厳しかったようですが、今回の大阪フォーラムでは一般の事業会社も弁護士も会計士も、広く市場関係者のご参加についてWelcomeのようですので、私も早速申し込みました。証券取引等監視委員会の事務局の方のお話もお聞きしたいですし、先日のNHKインサイダー事件において第三者委員会の委員をされている國廣正弁護士の「インサイダー取引防止と内部統制」に関する講演もたいへん興味がございます。課徴金事例なども集積されてきましたし、形式的処罰規制としての「うっかりインサイダー」(これは証券取引等監視委員会の方々は「不適切な表現」とおっしゃっておられますが)にも話題が集中しているところですので、金曜日のお昼に国際会議場まで行く値打ちはあると思います。私も、裁判所(刑事事件)、行政庁(課徴金)、取引所(自主規制)それぞれが、どういった視点でインサイダー事件と向き合っているのか、少し予習をして臨みたいと思っております。

先の理事長さんの巻頭言でも「法令遵守体制」と「情報管理体制」に分けて論じておられるようで、重要情報が集まりやすい場所での管理のほかに、「重要情報が発生しうる場所」における情報管理にも配慮しなければならない、というのは「なるほど」と思います。たしかにインサイダー取引規定に該当する「重要な事実」は、常に社長さんや取締役会だけが情報の発信地ではないですよね。職務に関して重要な事実にアクセスしうる立場の従業員さんが発信地に近いということも考えられるところであります。東証、大証共催のコンプライアンス・セミナーなど、あまり関西では頻繁に行われないものかもしれませんので、ご興味のある方はぜひご参加いただければ、と思います。

(9日午前;追記)

読売新聞の朝刊を読んでおりましたらある会社のIR責任者の方のインサイダー疑惑に関する記事が掲載されておりました。今後はコノテのインサイダーが増えるのでは?ということで、9月25日に日本経営協会にて「広報・情報開示に関するコンプライアンス」という講演をさせていただきましたが、「知人」の名前を借りて自社株売買をする、というのは、本当にリスクが高いです。以前も「家族を不幸にするインサイダー」でも書きましたが、親族まで取り調べの対象に巻き込んでしまうリスク(しかも任意なので、期間が相当に長くなります)がありますので、くれぐれもご注意を。

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2008年10月 7日 (火)

株主代表訴訟(責任追及の訴え)における素朴な疑問

いつも拝読させていただいておりますGrande's Journalのgrandeさんより、ご要望がございましたので、10月3日の蛇の目ミシン工業株式会社(東証一部)のリリース(旧経営陣に対する株主代表訴訟のお知らせ)についてコメントさせていただきます。(実は本日のセブンシーズ・テックワークス株式会社の「株主による臨時株主総会招集請求に関するお知らせ」についてもたいへん興味があるのですが、こちらはまた別の機会に。)上記蛇の目ミシン社のリリースによりますと、株主代表訴訟判決に関する最高裁への上告受理申立が退けられ、この10月2日に旧経営陣5名に対して合計583億円ほどの損害賠償債務が確定した、とのことでありまして、5名の旧経営陣の債務が「連帯債務」ということになりますと、それぞれが583億円の債務を蛇の目ミシン社に対して負担している、ということになります。もちろんこのような巨額債務につきましては、到底役員個人が支払える金額ではなく、「いったい株主代表訴訟における巨額債務を役員が負担する意味がどこにあるのか?」といった批判も正直なところ、出てくるところであります。(もちろんD&O保険にも限界はあります)

ただ、私がこの蛇の目ミシン社のリリースを読んで、たいへん感動しましたのは、平成18年の最高裁差戻し判決が出た時点におきまして、原告株主代理人が会社の代理人となって被告取締役の責任追及にあたる旨の契約が原告と蛇の目ミシン社との間で締結されていた、というものであります。本来、株主代表訴訟の仕組みからしますと、取締役の責任追及をしない会社に代わって少数株主(単独株主)が取締役や監査役の責任を追及するわけですから、株主と会社との利害は原則として一致するはずであり、勝訴原告株主の代理人弁護士が会社の代理人となって(旧経営陣らの)責任追及に尽力する、という構図はそれほど驚くほどのことでもないものと思われます。しかしながら、平成13年の商法改正以後(会社法におきましても)、監査役の同意があれば、会社は被告取締役側に補助参加することが認められるようになりましたので(たとえば会社法849条)、かならずしも会社の利益と原告株主の利益が一致するとは限らないものとされ、会社の経営判断に関する違法性が問われる事例などでは、むしろ原告株主の利益と会社の利益とは相反するものである、と理解されるようになっております。

現に、取締役や監査役など相当数の役員について損害賠償債務が確定したD社の株主代表訴訟におきましては、D社によって原告株主代理人とは別の代理人が元取締役に対する債権回収にあたっておられるようでして、その実際に債権回収できた金額を根拠として原告株主代理人らの弁護士報酬が算定されようとしているようであります。(もちろん、これはD社側からの算定根拠に基づく提案であり、原告株主代理人の方々はこれに大いに異議を唱えておられ、いまだ解決がはかられていない模様であります)したがいまして、蛇の目ミシン社としましても、原告株主代理人による債権回収の委託を拒絶することがただちに違法ということにはならないものと思いますし、事実上敵対的な関係にある原告側の代理人を選任することにはかなりの抵抗があったものと推測されます。このような状況で、あえて原告株主代理人の方々に、元役員らに対する債権回収行為の代理権を付与したのは、おそらく蛇の目ミシン社としては、反社会的勢力との関係を将来にわたり排除することを社内外に示す「コンプライアンス的発想」によるものではないかと思われます。蛇の目ミシン事件は、その内容をご承知の方も多いと思いますが、大阪高裁では「脅迫されていた役員らには法令を順守するだけの余裕(適法行為への期待可能性)がなかった」として、善管注意義務違反による損害賠償責任は認められなかったのでありますが、最高裁はこれを覆して多額の損害賠償責任を認めたものでありまして、いわば役員らは会社のために違法行為に及んだ典型例であります。こういった事情のもとで、あえて原告株主らの代理人に債権回収を委託する会社の姿勢こそ、おそらく「断腸の思い」であったでしょうし、またそれほどまでの決意をもって「コンプライアンス宣言」を世に示したのではないかと推測いたします。

ところで会計に疎い弁護士の素朴な疑問ではありますが、こういった583億円もの損害賠償請求権が蛇の目ミシン社に確定的に帰属するに至った場合、会計処理はどのようになるのでしょうか?583億円の債権はただちに「特別利益」になるのでしょうか?(それだとあまりにも事実と乖離することになりますよね?)それともこの後、長い期間にわたって行われるであろう債権回収に要する期間、オフバランスの状態になっているのでしょうか?おそらく「将来予測」というものは「やってみないとわからない」わけで、どうにも説得的な金額の算定は困難だと思われるのですが。(だからこそ、先のようなお知らせリリースになっているのでしょうか?)また、ご存じの方がいらっしゃいましたらご教示いただければ幸いです。

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2008年10月 6日 (月)

不適切な開示と証券訴訟による事後規制の有効性

NERA証券さんでは、金融プラクティスセミナーの一環として「証券訴訟と損害賠償」に関する講演を10月30日に開催されるそうであります。(NERA金融プラクティスセミナーのお知らせ)ここのところ、西武鉄道事件、ライブドア事件に関する株主損害賠償請求事件の判決が出ており、最近はアーバンコーポレイション社、IHI社などの不適切開示事例についても株主集団訴訟が提起(もしくは準備)されております。また発行企業や発行企業の役員を相手方とする民事責任につき、原告側に有利となるような金融商品取引法の規定も活用されるようになりましたので、こういった集団株主訴訟が提起された場合における損害賠償額がどの程度になるのか、賠償額の立証をどのようにすればいいのか、賠償額と違法行為との因果関係はどのように立証すればいいのかなど、株主側も、また企業側も関心が高まるのは当然の流れのように思います。アーバンコーポレイションの不適切開示に関する2ちゃんねる掲示板の議論などにもあるように、たしかに発行企業ではなく、役員を相手方として損害賠償請求訴訟を提起したとしても、その個人的資力からみて、「勝訴判決は絵にかいた餅」(執行しても何もとれない)に終わってしまう可能性は否めないところだと思います。ただ、株主の皆様方としましても、「不適切」であることと「違法」であることとの差は明確にされたいでしょうし、少しでも被害填補がはかられる可能性があれば訴訟を提起したいとの意欲はお持ちでしょうから、積極的な訴訟提起の姿勢につきましては、私は賛同するものであります。また、たとえ副次的な効果でありましても、そういった勝訴判決が出ることで、グレーゾーンをなかなか取り締ることができない事前規制を補完する機能が発揮されることには十分な意義が認められるように感じます。

ところで、アーバンコーポレイション社の株主の方々による集団訴訟のケースでは、私が聞き及んでいるところですと、CB発行のリリースがなされた本年6月27日以降に、そのリリースを知ってアーバン社の株式を購入された方々を原告として募集するものであり、それまでアーバン社の株式を買い支えてこられた一般株主の方々は対象外ということのようであります(もし間違っておりましたらご連絡ください。訂正いたします)たしかに金融商品取引法を活用して役員の損害賠償責任を追及するということになりますと、情報開示規制違反によって損害を被った株主が救済の対象となりますので、リリース後に購入された株主の方のみが対象とされることになるのかもしれません。(本件では臨時報告書に記載すべきスワップ取引に関する事項が記載されていなかったことを法令違反と主張することになるものと思われます)しかしながら、リリース以前からアーバンコーポレイションの株式を保有している方々にとりましても、役員の責任追及を通じて訴訟における救済の道というものがあっても不思議ではないような気もします。たとえば、不公正なCB発行としての差止請求については、その権利行使の是非を判断するための情報開示がなされていなかったということであれば、役員に対する善管注意義務違反を問いうるのではないか、CB発行とスワップ契約が一体であれば、アーバンコーポレイション社のファイナンスに関する実質的な経済的効果は(すでに証券取引所によって規制対象となっている)MSCBもしくはMSSO(行使価額修正条項付き新株予約権)と同視すべきものでありますので、規制の潜脱行為ではないか、といったあたりの主張は検討されないのでしょうか。金融商品取引法による請求であれば形式面が重視されるでしょうが、会社法もしくは民法による責任追及ということであれば、実質的な取締役の行為について問題にすることが可能のように思います。(ただし、損害額、因果関係についてはやはり立証が困難な点は否めないかもしれませんが)いずれにしましても、投資家の事後救済といっても、その救済の範囲はごく一部にしか過ぎないのが現状ではないかと思われます。

なお、民事再生事件の関係者でもないかぎり、BNPパリバとアーバンのスワップ契約の真意についてはなかなかわからないところです。(これだけ巨額の損失リスクがあってもアーバン社が資金調達をしなければならなかった理由とか、下限価格175円の経済的合理性など)そこで、せっかく2008年4月より財務報告に係る内部統制報告制度が施行されたのですから、発行企業を被告とする訴訟ではありませんが、発行企業における内部文書の開示を訴訟のなかで求める方法など検討されるかもしれませんね。たとえば監査役が取締役会で決議された内容もしくは手続きについて、これを適法と判断した根拠資料など、最近の金融機関に対する文書提出命令に関する最高裁決定の流れからしますと、開示の対象になるかもしれません。(単なる内部資料ではなく、内部統制報告制度という法律に基づいて作成され、外部監査人に閲覧されることを予定して保存される文書であるため)今回は民事再生企業の役員個人が被告であるために、ちょっと苦しいかもしれませんが、一般の上場企業の不正会計や不適切開示が問題となるケースにおきましては、今後は内部統制報告制度によって作成、保存されている文書はどんどん開示命令の対象となり、こういったファイナンスの仕組みの是非についても外部の第三者に判明しやすくなる可能性は十分にあるものと考えております。またそういった文書開示命令申立にもかかわらず、文書を作成していないとか保存していないといった抗弁が出された場合には、主張立正責任が転換されるとか、内部統制構築義務違反など、企業やその役員の責任が認められやすくなる効果も発生するかもしれません。(あくまでも私見でありますが)

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2008年10月 2日 (木)

東洋電機製造社、日本電産に質問状送付(買収防衛手続き開始)

これまで多数の企業を買収してこられた日本電産社ですが、初めて明確な事前合意のない状況での買収提案を行った相手先企業(東洋電機製造社;東証1部)より、質問状を受領したそうであります。(東洋電機製造社のリリース日本電産のリリース)今年7月に東洋電機製造社が導入した事前警告型買収防衛策に沿った対応ということのようです。

東洋電機製造社としては、防衛ルールに則った手続きを開始されたわけですので、(当事会社としてはたいへんかと存じますが)今後の展開次第では、経済産業省から出されている「買収防衛策の在り方」報告書(指針)が実務でどのように反映されるのかが試される格好の機会になるかもしれません。とりわけ、最終的に友好的買収事案として収束していくとするならば、ファンドによる買収ではなく、競業(隣接?)他社による正式な企業価値向上策の出された上での東洋電機製造社役員らの説明責任がどのように尽くされるのか、また独立第三者委員会はどのような対応をとられるのか、とても興味深いところであります。(しかし、日本電産社から事前に公表されている事業戦略のプレゼンテーション資料は、素人にもわかりやすく、勉強になりますね。本日はとりいそぎ備忘録程度で失礼します)

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2008年10月 1日 (水)

監査役からみた日本版SOX法対応Q&A(ニュースリリース)

本日は東京霞が関にて、会計制度監視機構の第2回会合に出席してまいりました。初めて弥永教授とお会いし、帰り道も弥永教授と「法と会計の狭間の問題」について、すこしばかりですがお話をさせていただき、また勝手な持論なども述べさせていただきました。なおこの会合の件は(内容的にはたいへんおもしろい方向に進んでおりますので)また別の機会にエントリーさせていただきます。

さて、日本監査役協会では注目すべきニュースリリースがいくつか出ておりますが、当ブログとの関連では「監査役からみた財務報告に係る内部統制報告制度に関するQ&A」が見逃せないところであります。実は私も来週、日本監査役協会全国会議(10月7日から10日まで神戸にて)の司会兼報告者という(とんでもない)大役を仰せつかっております。第二分科会「内部統制に係る監査事例報告」の担当ではありますが、当分科会に延べ2000名近くの監査役の方が出席されるご予定だそうでして、恥をかかないでつつがなく大役を務めさせていただくためにも、この時期に本部からニュースリリース付きで公表された上記Q&Aの内容は、どうしても気になるところであります。第二分科会では会社法および金融商品取引法上の内部統制と監査役の対応をメインテーマとしておりますので、このQ&Aよりも少しフォーカスが広がりますが、神戸へお越しの監査役の皆様方には、ぜひ事前にお目通しいただきたい内容になっております。

ちょうど10年ほど前、日本監査役協会では鳥羽教授のもと、「企業経営に果たす内部統制の役割」と題して、内部統制の構築とそこに果たすべき監査役の役割についての研究が始まったわけでありまして、これはかの有名な大和銀行事件で「内部統制システム」なる概念が登場するよりも以前のお話であります。今回の全国会議も、またこのQ&Aも、そういった歴史の重みを感じつつ、またこの10年の世の中の流れなども斟酌しながら受け止めたいと思いますが、なにぶんにも私自身にこれを受け止めるだけの実力が備わっていると自負できるものはございませんので、雑駁な感想のみ記しておきたいと思います。

まず「はじめに(金融商品取引法上の『財務報告に係る内部統制』における監査役の職責と責任について)はぜひお読みいただきたいところであります。いわゆる日本版SOX法と監査役との適正な立ち位置(そのなかでも最も重要な点)が簡潔に記述されております。ただ、ここだけ読んでも何が重要なのか理解できないところもあるかもしれませんが、それは後のQ1からQ9までの内容を理解することで補うことが可能になっております。なお、監査役も日本版SOX法における評価対象である(統制環境のひとつである)ことを明言し、監査役がその職責をまっとうしないことが「重要な欠陥」になりうる点を監査役協会がはっきりと示されたことは、私には少し新鮮に映りました。(この点はQ3でも触れられております)

具体的なQ&Aの内容につきましては、ホットな話題となっております「重要な欠陥」と取締役の法令違反、善管注意義務との関係、事業報告における「期ずれ」問題、外部監査人による内部統制監査に対する報酬同意権限の問題、監査役会議事録、監査調書の監査人への開示問題など、どの企業でも参考となるような論点への原則的な回答が簡潔にまとめられております。ただし、いずれの問題も「はじめて監査役協会で検討された」というものではなく、すでに2~3年ほど前から検討され、回答が模索されてきた論点について、やっと「わかりやすい内容」をもって書きだされたものといった印象を受けました。この「わかりやすい」というのが重要でして、平易な文章で説明しても、ツッコまれないだけの理論的な展開がここ数年で繰り広げられた結果であると評価できるのではないでしょうか。

ただ、私なりの疑問点を申し述べるとするならば、Q6の「会社法において行う必要のある監査役の会計監査と、財務報告内部統制の報告制度において監査人が行う内部統制監査との関係」についての、監査役のスタンスの説明は、未だ一般の監査役の皆様方には理解が困難ではないかと思います。(どうにかもすこし、わかりやすい説明にはならないもんでしょうか)また、内部統制への監査役のチェックは、そのプロセスをチェックすることが重要である以上、たとえ重要な欠陥が是正されたとしても、次年度以降ふたたび重要な欠陥が顕在化することは普通にありえることだと認識しております。このQ&Aも「是正することが重要」ということを強調している点は評価できるのでありますが、いったん重要な欠陥が是正されたり、内部統制が有効と評価されてしまえば、あとは問題がないといった 誤解を監査役の方々に与えてしまう懸念がある、といった印象を少し持ちました。たとえば、当ブログでも以前議論させていただいたように、企業業績が思わしくなくなり、内部監査部門の人数を減らしたり、経理部の有能な人材が離れていってしまったような場合、会社の経費削減が内部統制の有効性にどのような影響を及ぼすのか・・・という問題も、2年目以降の日本版SOX法のなかでは大きな論点になってくるのではないかと考えております。(さらに、重要な欠陥があること自体は取締役の職務執行上の法令違反はあたらないけれども、是正をしないことが法令違反に該当する、といった整理だと、「なにをもって是正されたと判断するのか」とか「どれほど放置すれば是正しないことにあたるのか」といった監査役にとっては悩ましい問題が新たに発生することは事実であります)また、最近は監査法人さんのほうから業務プロセスの評価範囲の問題として、売上、売掛金、棚卸資産以外の評価項目の追加(たとえば人件費、固定資産等)を求められるケースも増えているようでありますが、そういった場面で全社的内部統制が良好であることを、監査役なりの業務監査結果(リスク評価)をもって(項目の追加が不要であることを)説得することも、まさに「監査人と監査役の連携協調」の一場面であります。なにかのマニュアルに頼ることなく、企業が直面する財務リスクに臨機応変に対応することでなければ「プロセスチェック」は困難ですし、また監査役の職務自体が「統制環境」のプロセスに組み込まれていることとも矛盾するものであります。そういったあたりを、もう少しQ&Aの中で表現していただければ・・・と私なりに考えたような次第であります。

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