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2008年10月20日 (月)

製品偽装事件における「自主申告」のインセンティブを考える

最近は会計士さんの「期待ギャップ」問題のなかで「不正発見義務」「不正報告義務」などが話題となるところでありますが、みなさまご承知のとおり、会計監査人として「不正を発見する」端緒の8割程度は内部告発、内部通報によるものである、ということだそうでして、内部統制の整備だとか、リスクアプローチによる監査体制といいましても、やはりそれだけで不正を発見できるほど現実は甘くはないようであります。そして会計不正問題と同様、産地偽装問題をはじめ、最近の企業不祥事の多くが「内部告発」を発端として世間の耳目を集めるようになる、というケースが急増しているようでありますが、その要因は、①公益通報者保護法など法的環境の変化、②企業コンプライアンスの重視③社会の内部告発者をみる意識の変化など、と一般には理解されているようです。

Ruponaibukokuhatsu 最近発売された朝日新書「ルポ 内部告発~なぜ組織は間違うのか~」(村山治 奥村俊宏 横山蔵利 共著 760円)は、朝日新聞記者の方々による企業不正発覚に至るまでの経緯、とりわけ「内部通報」や「内部告発」に焦点をあてた現実の人間ドラマをほぼ実名にて描写したものであります。(おそらく、今年3月より朝日新聞に連載されていた特集記事をもとに執筆されたものと思われます。)当新書において非常に興味深いのは内部告発をする人をフォーカスするのと同程度に内部告発情報を最初に受けとめた人(たとえば農水省や保健所担当官、自社窓口担当者、社内担当役員、弁護士そして新聞記者など)の「初動対応」にもフォーカスをあてている点であります。(私はむしろこの後者のほうがおもしろかったです)内部告発が企業コンプライアンスの推進に機能するかどうかは、一般には告発者の勇気ある行動に依拠しているように理解されておりますが(もちろん、それがもっとも重要であることは間違いないところですが)、それと同じ程度に内部告発情報の受け手側の初動対応の重要性にも依存するところが大きいと思われます。この情報の受け手側の初動対応に誤りがあると、その受け手側企業に大きな「二次不祥事リスク」が発生することが認識できるところです。大阪トヨタ自動車の件につきましても、告発者と外部窓口担当弁護士との初動対応から弁護士会の綱紀委員会議決書が発出されるまでの経過についてはゾッとするものでありまして、窓口業務を担当する私自身も深く自戒するところであります。

また本書は昨年から今年にかけて、広く報道された不祥事に関する取材記事だけではなく、内部告発を行った人を取り巻く環境や、内部通報制度を支える人たちなどにも焦点を当てて、おそらく今後も増えていくであろう「内部告発」や「内部通報制度」を企業や従業員がどう受け止めていくべきか、ということにも十分配慮されており、企業経営に関わる人たちにぜひお読みいただきたい一冊であります。私はちょうど一か月ほど前に「食品偽装事件にみる企業コンプライアンスとは?(その2)」のエントリーにおきまして、裏の世界にも内部通報窓口があり、裏取引を持ちかけられたことによって観念して農水省に自主申告をされた企業のことをとりあげました。そして本書を読んで驚いたのですが、国土交通省の試験をパスするために、性能偽装に及んだニチアス社の事例については、(裏社会との取引とまでは記述されておりませんが)けっして公益通報者保護法では保護されないような通報(及びその後の交渉)が発端となって(経営トップが性能偽装の事実をすでに知っており、「社内かぎりでの対応」と決めていたにもかかわらず)やむをえず自主公表に至ったという事実であります。一般消費者に被害が出ていないとか、すでに問題の製品が世に出回っていないなどといった安心感から、「この程度の不祥事であればとくに公表する必要がないのではないか」といった判断に傾きがちなのが「社内の常識」であります。この「社内の常識」に基づく判断がやむをえないものであるにしても、その判断が十分な「非公表のもたらすリスク」を斟酌したうえでのものであるかどうかは、おそらく自信をもって回答できる企業は少ないのではないでしょうか。(このニチアスの事実経過につきましては、本書を読むまでまったく存じ上げませんでした)内部告発に踏み切る社員の気持ちは「正義感」であっても、その正義感をくみ取る窓口は、その告発情報の「経済的価値感」で動くケースもあるわけでして、偽装問題が大きくマスコミでとりあげられるほど、その価値は高まるのであります。「正義感」による内部告発を企業がどう受け止めるか、その初動対応の適切性こそ、こういった「やむをえない自主申告」に至る可能性を低減する大きな要因になろうかと思われます。

10月 20, 2008 内部通報の実質を考える |

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