« 上場会社コンプライアンス・フォーラムのお知らせ(大阪編) | トップページ | 内部統制監査制度の必要性(法制度化)を考える »

2008年10月11日 (土)

アーバンコーポレイション社の情報開示につき、金融庁が違法と判断

私の監査役全国会議での司会ぶりは、とても納得のいくものではございませんでしたが、報告者でいらっしゃった株式会社ジャムコ、共和電業、中外製薬の常勤監査役の皆様方に助けていただき、なんとか無事終えることができました。(8月の第一回の打ち合わせ以来、本当にお世話になりました。)あのような異様な雰囲気(とても「関西人のノリ」で乗りきれるような甘いもんやおまへん・・・笑)のなかでアドリブをまぜて平然とお話できる葉玉先生や武井一浩先生は、やっぱり能力もあるし、「場慣れ」もされているんでしょうね。ホント反省しきりです。orz

1 課徴金納付命令(異例の金融庁自身による単独判断)

アーバンコーポレイション社(民事再生中)とBNPパリバ証券との第三者割当方式によるCB発行に関する「不適切開示」について、これまでいろいろな報道がなされてきましたが、10月10日付にて金融庁はアーバン社の臨時報告書の記載内容に「法令違反」の事実が認められるとして課徴金納付命令に関する審判手続きの開始決定を発出したようであります。(リリースはこちら)つまり、金融庁は今回のアーバン社がBNPパリバ証券とのスワップ契約の内容を一切明らかにしないままCB発行の事実を開示したことを「不適切」ではなく「違法開示」と判断したことになります。ちなみに課徴金の金額(150万円)は、金融商品取引法172条の2、第2項にしたがい、アーバン社が発行する算定基準有価証券の市場価格総額に10万分の3を乗じた金額(本件では788億円余×10万分の3)と、300万円のいずれか多いほうに、(対象となる継続開示書類が臨時報告書なので)2分の1を乗じた金額ということで算定されたものであります。

継続開示書類(有価証券報告書、四半期報告書、臨時報告書等)の虚偽記載に関する課徴金納付命令につきましては、ご承知のとおり金融庁設置法20条に基づき、証券取引等監視委員会の調査により、行政処分その他の措置について金融庁(内閣総理大臣)に勧告がなされ、その勧告をもとに金融庁による課徴金納付命令が発出するのが定例であります。しかしながら、今回は監視委員会による勧告抜きで、金融庁が独自の判断をもって課徴金納付命令を発出することになりますので、きわめて異例な状況であります。今朝(10月11日)の日経新聞の記事によりますと、金融庁が単独で判断した初の事例である本件については、「早急な対応が必要だった」とのことであり、今回のアーバン社の臨時報告書の記載を違法としたうえで、今後は金融庁、証券取引等監視員会が共同でBNPパリバ証券の責任に関する調査に乗り出す・・・とのことであります。

2 アーバン社の情報開示の違法性に関する疑問

当ブログでも、BNPパリバとのスワップ契約の内容が開示された日に「これは後日大きな問題になるのでは?」なるエントリーを書きましたので、アーバン社の情報開示に不適切な面があることは当然だと思っております。また、アーバン社の不適切開示の直後に同社の株式を購入された一般株主の皆様による損害賠償請求訴訟(役員に対する)についても、今回の金融庁の判断は追い風になるであろうことは間違いないところと推察いたします。ただ、今回のアーバン社の臨時報告書の記述がはたして「違法」と断定できるものかどうか・・・ということにつきましては、少しだけ疑問を抱いているところであります。

金融商品取引法が継続開示書類の虚偽記載により開示企業に課徴金納付を命じることができる根拠条文は172条の2であります。その条文によると、「重要な事項につき虚偽の記載がある(臨時報告書を提出したこと)」が要件となります。そして先のアーバン社に対する審判手続き開始決定の要旨を読みますと、臨時報告書の「新規発行による手取金の額およびその使途」の記載方法を問題としたうえで、当時の事実関係からすれば、スワップ契約の内容を引用しながら手取金全額をいったんパリバへ交付することや、最終的に財務安定のための債務返済に用いることが可能な金額は不確定であることを記載しなければならなかったにもかかわらず、これを記載しなかったこと自体を問題としております。(なお訂正報告書自身の虚偽記載は問題としていないので、アーバン社が実際に臨時報告書に積極的に記述している内容自体が虚偽とまでは判断されていないものと思われます)つまり、金融庁は、投資家保護のために、アーバン社は投資家が誤解されぬよう、本来記載しなければいけない記載内容をあえて記載しなかった点をとらえて「重要な事項につき虚偽の記載がある」と判断したものと思われます。

しかしながら、現行の金融商品取引法においては、継続開示書類に「重要な事項につき虚偽の記載がある」場合が課徴金の対象とされているにすぎず、重要な記載が欠けている場合は課徴金の対象とはされておりません。(旬刊商事法務1840号32頁。立案担当者のご解説参照)今年の金融商品取引法の改正(平成20年改正)で、この点が問題となったために、平成20年改正の金融商品取引法(金融商品取引法の一部を改正する法律:平成20年法律第65号)においては、この172条の2の条文に関して、「重要な事項につき虚偽の記載がある」という文言が「重要な事項につき虚偽の記載があり、又は記載すべき重要な事項の記載が欠けている」に変更されることになっております。(条文の変更はこちらを参照。ただし、同改正法は未だ施行されておりません)つまり、今回の法改正の趣旨からすれば、アーバン社の臨時報告書提出時点においては、未だ「記載すべき重要な事項の記載が欠けている」ケースは課徴金の対象とはならないはずであります。したがいまして、金融庁はなぜ、今回のアーバン社のケースを「違法開示」と捉えて、課徴金処分の対象となしえたのか疑問を抱くところであります。

実際にEDINETで公開されているアーバン社の6月26日付け臨時報告書と、8月13日付け「訂正臨時報告書」を読み比べてみましても、「手取金の使途」として記載されているところにつきまして、「手取金はいったんスワップ契約の条件としてパリバに返却することが記載されていない」ことが、全体としての「使途に関する重要事実に関する虚偽記載があった」とみなすこともできそうでありますが、しかしそういった実質的な解釈をとるのであれば、そもそも記載すべき重要な事実が欠けている場合も、最初から「重要な事実につき虚偽の記載がある」に含めればいいわけでして、今回法律の改正をしてまで金融商品取引法の文言を変更する必要はないはずであります。また先の金融庁リリースでは、「受領金の金額がそもそも不確定であり、いつどれだけの受領金を活用できるかわからないことについても記載すべきであるのに記載していなかった」点も問題とされておりますので、なおさら今回のアーバン社の件では「投資家保護のために記載すべき重要事項が欠けていた」点を問題としていることは明らかだと思われます。

私自身は、できればBNPパリバの関与についても事実関係を明らかにしていただきたい、という気持ちをもっておりますので、アーバン社の臨時報告書の開示が「不適切」→「違法」となることには歓迎するものであります。しかしながら、「違法認定」において、どうしてもひっかかるところがありましたので、エントリーさせていただきました。こういった金融庁の迅速な対応というものも「金融危機における市場健全化対策の一環」・・・ということかもしれませんが、たとえそうであったとしても、理屈がすっきりと通っていることは必要だと思いますし、とりわけプリンシプルベースによる金融行政を原則とするならば、なおさらのことと思っております。(ひょっとするとどこか基本的なところで誤りもあるかもしれませんので、修正の可能性もあります。)

|

« 上場会社コンプライアンス・フォーラムのお知らせ(大阪編) | トップページ | 内部統制監査制度の必要性(法制度化)を考える »

コメント

(以前にもコメントさせていただきましたが、法律の素養が十分にありませんので、誤解、理解不足等ありましたら、お許しください。)
「実質的な解釈」の問題については、おっしゃる通りに考えるべきではないかと思います。
ただ、今回は、形式的に解釈しても、虚偽の記載になるような気がします。内閣府令で要求されている「使途」と(おそらくは)「手取金の額」に事実と異なった記載をしていると思いますので。
金融庁の発表もそう書いてあるような気がします。

投稿: ロックンロール会計士 | 2008年10月11日 (土) 19時31分

ロックンロール会計士さん、コメントどうもありがとうございます。

私は(意地悪なのか)「使途」については「財務基盤の安定性確保に向けた短期借入金をはじめとする債務の返済に使用すること」とありますので、受領金(実際には97億でしたっけ?)をそういった目的で使用するのであれば事実と異なった記載とはいえないように思います。
また、そもそも「手取金の額」自体が事実と異なる(つまり受領金を「手取金」とみなす)のであれば、訂正臨時報告書の記載も「虚偽」になりますから、なぜそっちについては問題にしないのだろうか、と疑ってしまいます。

要は「手取金の額および使途」という項目は一体ととらえて、「手取金が300億と書いたのであれば、その300億円の使途を書きなさい。もし全額が一度に入らない場合ならば、その旨を記載しなさい」というのが内閣府令の考え方ではないかと思います。「その旨を書きなさい」と言われて書かなかったことは、まさに書くべきことを書かなかった、ということで、平成20年改正によってはじめて課徴金制度の対象になってきたのではないかと思われます。なお、今回は府令ではなく、法律の変更がなされるわけでして、法の趣旨に反する府令であれば法律が優先することになります。もしこれが「重要な事項につき虚偽の記載がある」に該当するのであれば、では改正法の「記載すべき重要な事項の記載が欠けている」との区別はどう考えたらいいのでしょう。いずれにしましても、「本来こうすべきであったのに、こういった記載をしなかった」ということが今後課徴金制度の対象になってくる・・ということは、開示制度におけるコンプライアンスを考えるにあたっては非常に悩ましい問題になってくることは間違いないと思いますね。

投稿: toshi | 2008年10月11日 (土) 21時37分

コメントにお答えいただき、ありがとうございます。
ご意見の後半が私にはよく飲み込めないのですが、前半については以下のように単純に考えております。
社債の払込み金をスワップに使えば、(社債の)手取金の使途はスワップへの払込であって、(社債の)手取金の使途が借入金等の債務の返済だとはいえない。
なお、社債の払込み金を、一旦、銀行預金などの元本が減らない資産に変えただけなら、実質的に考えて、使途は債務返済など別にあるといえるでしょうが、今回のスワップのように元本が減るリスクの高い投資にあてた場合、使途が別とはいえないように思います。
それと、手取金の額については、私も金融庁の言い分がよくわかりません。おそらく、最初のア社の報告内容を前提に、それに対する指導的な指摘をしたため、論理的にやや弱い表現になってしまったのではないかという気がします。判決書でも散見されるパターンではないでしょうか。

投稿: ロックンロール会計士 | 2008年10月12日 (日) 21時59分

はじめまして。

臨時報告書ではなく、「有価証券報告書」についても新株予約権付社債についての記述があります。71ページ目の「重要な後発事象」の部分です。臨時報告書ではなく、有価証券報告書という点に着目をした場合、こちらは虚偽記載に当たりますでしょうか。

http://www.urban.co.jp/ir/pdf/disclosure/disclosure2008_3.pdf

投稿: M.S | 2008年10月14日 (火) 22時55分

後半の部分ですが、私の理解が間違っていたらご意見いただきたいのですが、「記載すべき重要な事項が欠けている」というのは、本来ルール(たとえば内閣府令)のなかで「これは書きなさい」と規定されているにもかかわらず、それをわざと書いていないことを指すのか、それとも記載されていることだけでは重要な点において投資家が誤解するおそれがあるので、記載事項に応じて実質的に「記載しなければいけない事項」が発生する、という意味なのかという整理は必要ではないかと考えています。
もし後者だとしますと、開示に関する企業の負担はかなり増すのではないか・・・というのが私の疑問点であります。事案によっては意見が分かれるような悩ましい場面も想定されるのではないでしょうか。

M.Sさんのご指摘もたしかに問題になりそうですね。ただ今回は金融庁のリリースを中心に議論していたものですから、私も有価証券報告書までは見ておりませんでした。どなたかのブログでも、たしか問題にされていたように記憶しております。もう少し検討させていただきます。

投稿: toshi | 2008年10月15日 (水) 01時38分

toshi様
(すみません。今、コメントを拝見したんですが、ひょっとして、15日(水)のものは、私の12日(日)へのご質問でしょうか。もし関係なければ、お手数ですが、以下読み飛ばして下さい)。
①コメントに書いておられる内容は、一般論としてはおっしゃる通りだと思います。ただ、日常の個人間のコミュニケーションを考えていただければおわかりいただけると思いますが、相手の立場に立ってものを考える努力をするということは、大人の社会人にとっては当たり前のことだろうと思います。
もちろん、当たり前の立ち居振舞いをしないからといって、すぐに法的責任が問われるわけではないとも思います。
②今回のア社の場合、コメントにお書きになった問題以前のことではないかという気がします。
つまり、手取金を300億と書いたのであれば、その300億円の使途=スワップへの払込と書くべきであるし、(私はおかしいと思いますが)仮に手取金を97億?と書くのであれば、使途=債務等返済としてもよい。これらと異なることを記載するのは、事実とちがう記載なので、虚偽の記載(≠無記載)となる。

投稿: ロックンロール会計士 | 2008年10月16日 (木) 21時50分

度々失礼いたします。本日ロイター通信社より、有価証券報告書についても課徴金を課す旨の報道がございました。やはり有価証券報告書についても問題があったようですね。有価証券報告書についても金融庁は動いたようです。

アーバンの虚偽記載、有価証券報告書にも課徴金=金融庁
http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPJAPAN-34513820081024

2008年 10月 24日 18:32 JST
 [東京 24日 ロイター] 金融庁は24日、経営破たんしたアーバンコーポレイションの有価証券報告書の虚偽記載で、課徴金1081万円の納付命令の手続きに入ると発表した。

 今月10日には、アーバンの臨時報告書の虚偽記載で課徴金150万円の納付命令の手続きに入ったが、有価証券報告書も罰則の対象とした。虚偽記載の内容は同じだが、転換社債型新株予約権付社債(CB)の臨時報告書より、会社全体の財務状況を報告する有価証券報告書のほうが罰則が重く、課徴金額が大きくなった。

投稿: M.S | 2008年10月24日 (金) 22時40分

下記、金融庁HPです。

株式会社アーバンコーポレイションに対する課徴金納付命令に係る審判手続開始の決定について
http://www.fsa.go.jp/news/20/syouken/20081024-1.html

何度も掲示板を拝借させて頂きまして申し訳ございません。失礼いたしました。

投稿: M.S | 2008年10月24日 (金) 23時01分

ご紹介ありがとうございました。71ページ(後発事象に関する注記)読みました。また、私も本日の日経新聞のベタ記事を読んで、有価証券報告書に対する虚偽記載(法令違反)発令の事実を知りました。なぜ「手取金の使途」については早々に「虚偽記載」と認定して、後日「資金の使途」についても虚偽記載と認定したのでしょうね。いずれにしましても、これが法令違反ということになりますと、 転換社債発行時における役員さん方の法的責任論にも影響が出てきますし、ますます当時の発行に至った意思形成過程が知りたいところです。

投稿: toshi | 2008年10月25日 (土) 20時27分

アーバンコーポ虚偽で株主の請求を全額認容 東京高裁判決
http://astand.asahi.com/magazine/judiciary/articles/2010112600005.html

ついに株主が勝訴したそうです。当時はお世話になりました。

投稿: M.S | 2010年11月26日 (金) 20時15分

MSさん、おひさしぶりでございます。
朝日AJの記事で初めて知りました。すいません、まだ判決文は読んでおりません。じっくりと判決文、これから読ませていただきます。

投稿: toshi | 2010年11月28日 (日) 23時46分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: アーバンコーポレイション社の情報開示につき、金融庁が違法と判断:

» アーバンコーポレイションに対する課徴金納付命令に係る審判手続開始決定 [ある経営コンサルタント]
金融庁は、アーバンコーポレイションに対する課徴金納付命令に係る審判手続の開始を決 [続きを読む]

受信: 2008年10月13日 (月) 00時36分

« 上場会社コンプライアンス・フォーラムのお知らせ(大阪編) | トップページ | 内部統制監査制度の必要性(法制度化)を考える »