監査役からみた日本版SOX法対応Q&A(ニュースリリース)
本日は東京霞が関にて、会計制度監視機構の第2回会合に出席してまいりました。初めて弥永教授とお会いし、帰り道も弥永教授と「法と会計の狭間の問題」について、すこしばかりですがお話をさせていただき、また勝手な持論なども述べさせていただきました。なおこの会合の件は(内容的にはたいへんおもしろい方向に進んでおりますので)また別の機会にエントリーさせていただきます。
さて、日本監査役協会では注目すべきニュースリリースがいくつか出ておりますが、当ブログとの関連では「監査役からみた財務報告に係る内部統制報告制度に関するQ&A」が見逃せないところであります。実は私も来週、日本監査役協会全国会議(10月7日から10日まで神戸にて)の司会兼報告者という(とんでもない)大役を仰せつかっております。第二分科会「内部統制に係る監査事例報告」の担当ではありますが、当分科会に延べ2000名近くの監査役の方が出席されるご予定だそうでして、恥をかかないでつつがなく大役を務めさせていただくためにも、この時期に本部からニュースリリース付きで公表された上記Q&Aの内容は、どうしても気になるところであります。第二分科会では会社法および金融商品取引法上の内部統制と監査役の対応をメインテーマとしておりますので、このQ&Aよりも少しフォーカスが広がりますが、神戸へお越しの監査役の皆様方には、ぜひ事前にお目通しいただきたい内容になっております。
ちょうど10年ほど前、日本監査役協会では鳥羽教授のもと、「企業経営に果たす内部統制の役割」と題して、内部統制の構築とそこに果たすべき監査役の役割についての研究が始まったわけでありまして、これはかの有名な大和銀行事件で「内部統制システム」なる概念が登場するよりも以前のお話であります。今回の全国会議も、またこのQ&Aも、そういった歴史の重みを感じつつ、またこの10年の世の中の流れなども斟酌しながら受け止めたいと思いますが、なにぶんにも私自身にこれを受け止めるだけの実力が備わっていると自負できるものはございませんので、雑駁な感想のみ記しておきたいと思います。
まず「はじめに(金融商品取引法上の『財務報告に係る内部統制』における監査役の職責と責任について)はぜひお読みいただきたいところであります。いわゆる日本版SOX法と監査役との適正な立ち位置(そのなかでも最も重要な点)が簡潔に記述されております。ただ、ここだけ読んでも何が重要なのか理解できないところもあるかもしれませんが、それは後のQ1からQ9までの内容を理解することで補うことが可能になっております。なお、監査役も日本版SOX法における評価対象である(統制環境のひとつである)ことを明言し、監査役がその職責をまっとうしないことが「重要な欠陥」になりうる点を監査役協会がはっきりと示されたことは、私には少し新鮮に映りました。(この点はQ3でも触れられております)
具体的なQ&Aの内容につきましては、ホットな話題となっております「重要な欠陥」と取締役の法令違反、善管注意義務との関係、事業報告における「期ずれ」問題、外部監査人による内部統制監査に対する報酬同意権限の問題、監査役会議事録、監査調書の監査人への開示問題など、どの企業でも参考となるような論点への原則的な回答が簡潔にまとめられております。ただし、いずれの問題も「はじめて監査役協会で検討された」というものではなく、すでに2~3年ほど前から検討され、回答が模索されてきた論点について、やっと「わかりやすい内容」をもって書きだされたものといった印象を受けました。この「わかりやすい」というのが重要でして、平易な文章で説明しても、ツッコまれないだけの理論的な展開がここ数年で繰り広げられた結果であると評価できるのではないでしょうか。
ただ、私なりの疑問点を申し述べるとするならば、Q6の「会社法において行う必要のある監査役の会計監査と、財務報告内部統制の報告制度において監査人が行う内部統制監査との関係」についての、監査役のスタンスの説明は、未だ一般の監査役の皆様方には理解が困難ではないかと思います。(どうにかもすこし、わかりやすい説明にはならないもんでしょうか)また、内部統制への監査役のチェックは、そのプロセスをチェックすることが重要である以上、たとえ重要な欠陥が是正されたとしても、次年度以降ふたたび重要な欠陥が顕在化することは普通にありえることだと認識しております。このQ&Aも「是正することが重要」ということを強調している点は評価できるのでありますが、いったん重要な欠陥が是正されたり、内部統制が有効と評価されてしまえば、あとは問題がないといった 誤解を監査役の方々に与えてしまう懸念がある、といった印象を少し持ちました。たとえば、当ブログでも以前議論させていただいたように、企業業績が思わしくなくなり、内部監査部門の人数を減らしたり、経理部の有能な人材が離れていってしまったような場合、会社の経費削減が内部統制の有効性にどのような影響を及ぼすのか・・・という問題も、2年目以降の日本版SOX法のなかでは大きな論点になってくるのではないかと考えております。(さらに、重要な欠陥があること自体は取締役の職務執行上の法令違反はあたらないけれども、是正をしないことが法令違反に該当する、といった整理だと、「なにをもって是正されたと判断するのか」とか「どれほど放置すれば是正しないことにあたるのか」といった監査役にとっては悩ましい問題が新たに発生することは事実であります)また、最近は監査法人さんのほうから業務プロセスの評価範囲の問題として、売上、売掛金、棚卸資産以外の評価項目の追加(たとえば人件費、固定資産等)を求められるケースも増えているようでありますが、そういった場面で全社的内部統制が良好であることを、監査役なりの業務監査結果(リスク評価)をもって(項目の追加が不要であることを)説得することも、まさに「監査人と監査役の連携協調」の一場面であります。なにかのマニュアルに頼ることなく、企業が直面する財務リスクに臨機応変に対応することでなければ「プロセスチェック」は困難ですし、また監査役の職務自体が「統制環境」のプロセスに組み込まれていることとも矛盾するものであります。そういったあたりを、もう少しQ&Aの中で表現していただければ・・・と私なりに考えたような次第であります。
| 固定リンク
コメント
司会の大役、ご苦労さまです。
監査役監査(会社法)と内部統制評価・監査(金商法)は、法制度上整合性がとれているわけではなく、この点について監査役協会は従来から「監査役の独立評価はモニタリングに当たらない」という見解をとっており(実施基準(公開草案)に対する意見 平成18年12月20日)、内部統制評価の対象外との立場であると思われますが、今回の監査役が統制環境の一部とする見解は、制度運用面での解決策として、監査役も内部統制評価の対象としたものと推察されます。
このあたりも論点のひとつかと思われますので、会議の議論などについてのエントリーを楽しみにしています。
投稿: 迷える会計士 | 2008年10月 1日 (水) 22時23分
まったくご指摘のとおりかと思います。監査役による会計監査人の会計監査への監督という点との整合性については、理屈のうえではいろいろあると思います。ただ、監査役と外部監査人との連携・強調を重視するほうが事実としての「監査役の地位向上」には資するものだと考えておりますし、私もこの判断に賛同するものです。(今後の議論の展開について、注視しておきたいところです)
投稿: toshi | 2008年10月 2日 (木) 02時15分