« MBOにおける「構造的利益相反状況」に挑む社外取締役のロードマップ(その3) | トップページ | ビジネスパーソンのための裁判員制度入門(その1) »

2008年11月10日 (月)

CCO(チーフ・コンプライアンス・オフィサー)の適正なる行動と金融庁処分

先日のシャルレ社MBOにおける第三者委員会報告の内容も相当に生々しいものであり、読みごたえのあるものでしたが、11月7日付けにてSESC(証券取引等監視委員会)よりなされました投資運用法人に対する検査に基づく処分勧告の理由についても、かなり生々しいものでありまして、CCO(チーフ・コンプライアンス・オフィサー)の行動自体が当社の内部統制の大きな不備と評価されることとなる一例を示したものといえそうであります。(SESCの処分内容および理由はこちら)ちなみに、当該投資運用法人に運用委託をしている投資法人本体は、本日(10日)に上場廃止予定とのことであります。(本件に関する投資法人側からのリリースはこちらです

運用受託先の投資法人による第三者割当増資議案について、運用上の助言を当投資運用法人が行うにあたり、社外取締役のひとりが反対していた「投資委員会決議」でありますが、社内規定によりますと、議決権を有する社外取締役の全員一致が決議要件とされていたところ、その社外取締役の反対を押し切って多数決にて決議をしてしまったということで、当該決議時点においては、「全員一致要件」に関する社内規定の存在を誰も知らなかった、という点がまず一番大きなポイントだったことは間違いないと思われます。少なくとも、CCOの方がこういった社内規定の存在を当然の前提として熟知しておられれば、事前の根回しも可能だったでしょうし、根回しが奏功しなかった場合でも、別途対策を練ることが可能だったと思われます。(すくなくとも、その後の「石が転がり落ちる」ような不適切な行動に至ることはなかったものと推測されます)

その後の社外取締役への棄権勧誘、取締役会での不作為、議事録の不実記載、社外取締役への虚偽報告などの問題点は、処分理由を読んでおりまして、にっちもさっちもいかなくなってしまったCCOの様子が手に取るようにわかるものでありまして、実際、CCOの方にも諸事情があったものとは思いますが、とうてい企業の法令遵守体制を構築するために先頭に立たねばならない者としての行動とは理解できないものであります。(この程度の虚偽記載(虚偽の隠ぺい)は、企業運営にとって重要な問題ではない、とCCOにおいては認識されていた、ということもないと思いますし。)またこれを代表者が容認していた、というのもかなりショックであります。正直なところ、もし社外取締役が、こういった棄権勧誘の説得に応じて、社内で「うやむや」なまま、投資法人側が第三者増資決議を行っていたとするならば、内部管理体制の不備を理由に処分勧告を受けることもなかったと思われますし、普通の会社でもあまり笑える話ではない、と思う次第であります。こういった一連の行動は、本年4月下旬の事実でありますが、SESCが5月中旬から検査を開始していた、という点からみましても、不適切な行動が、行政処分を通じて表に出てしまうリスクというものも、改めて考えるべき問題のような気がいたします。今回は、金融商品取引法51条を通じて、金融商品取引業者への行政処分が介在することで表面化したものと思いますが、開示規制に関する金融庁の調査や、証券取引所の調査などが厳しくなるのであれば、一般の上場企業においても、たとえ法令違反が明確に認定されなくても、内部統制に欠陥があると指摘されるケースというものが増えてくるのではないでしょうか。

なお、このCCOの方はすでに辞任をされておられますが、企業人として、また弁護士として、企業法務に精通されておられる方による行動であったことも、私的にはショックであります。(そういえば、先日のシャルレの第三者委員会報告によりますと、シャルレ社の社外取締役の3名の方々は、「もし800円以下の株価に賛同するように求められるのであれば、みんなで辞任しよう、と話し合った」とありました。その「心意気」は社外役員にも、またコンプライアンス責任者にも必要な気概だと私は確信しています。)社内規定の存在に熟知されていなかった、ということよりも、むしろ進退を賭けてでも、コンプライアンスの責任者たる地位を全うしていただきたかった、といった点にこそ、残念な気持ちを抱いてしまいます。「所詮、CCOなどといっても、金融商品取引業者においてもこの程度のもの」といった諦念を抱かれないように、私自身にも本件と同様、ふりかかるリスクのひとつとして肝に銘じておきたいと思いました。

|

« MBOにおける「構造的利益相反状況」に挑む社外取締役のロードマップ(その3) | トップページ | ビジネスパーソンのための裁判員制度入門(その1) »

コメント

いつも的確に解説してくださっているので、拝見させていただいております。
ひとつ気になることがあります。

シャルレ社外取締役の心意気のことです。

私には、700円では自分達の訴訟リスクが高いので、800円に上げる交渉をした。としか思えないのです。

調査報告書によると、この案件の資金調達総額は最初から決まっていて、TOB買付株価を800円に引き上げることは、TOB直前に創業家からファンド傘下のSPCに譲渡した資産管理会社の譲渡価額を引き下げることになったとあります。しかし、同社の株式所有内容を見ると、創業家は生株も多数持っており、調整がつきやすかったのではないか。ということ。

そして、そもそも、調査報告の事実認定で、本件の社内での審議のさい、買付者側の介入を受け入れ、それにより社外取締役自らが事業計画を引き下げるよう修正していること。
賛同表明の適時開示には、O法律事務所の法的論点の説明を参考にしたと記載しているのに、その法律事務所の法律意見書を受け取らず、指摘に対してリーガルリスクの軽減(=透明性、公平性の確保)をせずに進めたことは、社外取締役に求められる客観性から鑑みて、非常に問題があると思っています。

また、同社は、委員会設置会社で監査役会が無いため、3人の社外取締役で監査委員会も構成していることから、社外取締役が報告書に記載しているような行動を取っているとすれば、さらに問題は大きいと思います。

この調査報告書が出されて、同社は再表明するための検証委員会を設置するとのことですが、まず、このような不公正なプロセスを踏んでしまった経営責任を明確にして、この社内のガバナンス体制の不備を改善することが先にすべきことではないでしょうか。

投稿: 匿名希望 | 2008年11月10日 (月) 15時09分

匿名希望さん、的確なコメントありがとうございます。たしかに「心意気」というのは、ちょっと安易な表現方法でした。ただ、私も今年経験しましたが、社外役員を辞任する、というのはその影響度を考えますと、「心意気」程度のものがなければできないわけでして、本件のように属人的なものが強ければ強いほど、逡巡するところは大きいと思います。そのあたりの社外取締役の心中を推測したものとお考えください。

なお、「このような不公正なプロセスを踏んでしまった経営責任」というのは、いったいどのような責任の取り方を指しているのでしょうか?
私は(その2)で書いたとおり、この報告書のスタイルは日興コーディアル調査委員会報告に類似したものだと認識しております。「利益相反状況」にある可能性が高いのであれば、取締役側にも忠実義務違反にはならない抗弁の余地を残したものである、と思いますので、本報告書の結論をもって不公正なプロセスと判断されても、ただちになんらかの責任には結び付かないのではないか(わざと、委員の方々が、そのような形式にしたのではないか)と考えております。

投稿: toshi | 2008年11月11日 (火) 22時23分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: CCO(チーフ・コンプライアンス・オフィサー)の適正なる行動と金融庁処分:

« MBOにおける「構造的利益相反状況」に挑む社外取締役のロードマップ(その3) | トップページ | ビジネスパーソンのための裁判員制度入門(その1) »