景表法違反事例と「闘うコンプライアンス」の必要性
昨日の商品表示問題とも若干関連性のある話題でありますが、広告表示の適正性を確保するための法律といえば独占禁止法の特別法たる景品表示法が真っ先に頭に思い浮かぶところであります。当ブログにおきましても、過去にカー用品の「燃費向上」事件や、ANAのプレミアムシート事件などにおける公取委の排除命令への疑問を述べ、いずれもことごとく有識者(と思しき方々)より反論のご意見を多数頂戴いたしました。
経済法分野につきましては、それほど詳しい立場にあるものでもなく、多くの反論をいただいてもしかたないとは思っておりましたが、今月号のビジネスロージャーナル(2008年12月号)の広告法務特集におきまして、独占禁止法分野ではたいへん著名な法律事務所のパートナーの先生が「広告表示にもっと自由を~最近の景表法違反事例から考える~」なる小稿を発表しておられます。そしてこれがまた実に(私にとりましては)胸のすくような内容であります。以前のように誰がみても詐害まがいの悪質な広告ばかりであれば厳格な規制も当然だとは思いますが、最近は広告の在り方に対する企業の認識と公取委の認識のズレにより、頭をかしげたくなるような公取委の対応がみられる、とのことであります。現在の消費者保護行政に傾斜している景表法実務の運営においては、真剣にコンプライアンス経営に取り組んでいる企業ほど、表示に自信がもてなくなってしまい、一般人に向けた広告表示には消極的にならざるをえない時代になってきている、ということを問題の前提とされております。著者の方は、とくに具体的な事例に対するご意見を述べるようなことはされておりませんが、例のANAのプレミアムシートの事例についても紹介されております。
景表法問題は、あまり抽象的に議論することはおもしろくないので、具体的な事件が発生した場合以外にはブログ上で意見を述べることはしませんが、企業としても理屈のうえで「闘う」必要性の高い分野の一つではないかと考えております。たしかに公取委の判断を実際に覆すことはなかなか困難ではあります。くわえて一度「排除命令」が出てしまいますと、最近のCSR調達の風潮などからみて、対象商品が取引先大手販売店の陳列棚から消えてしまう・・・という事態も考えられ、企業としては泣く泣く命令に従わなければならないこととなります(これは私の経験からであります)。これでは排除命令を争いたくてもなかなか争えないわけでして、公取委の判断に不満をもつ企業にとっては司法的救済の道が実質的には閉ざされているようなものであります。そこで、昨日の食品偽装問題ではありませんが、景表法の制度趣旨を中心として、理屈の上であるべき方向性(たとえば消費者保護における「消費者」とはどういった人たちを指しているのか、広告を見た人が企業による説明や問い合わせによって誤認する可能性が乏しくなるのではないか、企業が広告によって訴求しようとしている点と公取委の問題としているポイントとはずれていないか、その公取委の注目するポイントが一般の消費者にとっても納得のいくものであるかどうか等)を議論するべきでありまして、正式な行政手続きを通じて、景表法における消費者保護行政との調和点を見出す必要があるのではないでしょうか。(以上、本日は備忘録程度にて失礼いたします)
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コメント
■コンプライアンスは不況の風に吹き飛ぶのか
DMORIです。
急激な不況で、非正規社員が契約を打ち切られ、住まいも追い出される事態が頻発しています。
契約期間が来年3月まであるにも拘らず、12月で契約解除の通告を受けたという人たちもいます。
ここで疑問ですが、非正規雇用の労働契約は、契約満了以前に会社側が契約を打ち切る場合の条件について、何も書かれていないのが、一般的なのでしょうか。
契約ですから、当事者の一方に継続が困難な状況が発生した場合にも、なにがなんでも継続しなければいけないというものでなく、その代わりに約定どおりに違約金などの責任を果たすことによって解約できる、というのが契約の原則だと思います。
それが、非正規雇用の契約の場合は、企業側が強い立場にあるので、そうした中途解約の場合の違約条項は盛り込むことなく採用されているのが、実態なのでしょうか。
このあたりがよく分かりませんので、教えていただければ幸いです。
※本来、非正規雇用でも、企業が債務超過に陥るなどの非常事態でない限り、安易な人員削減は許されないと思いますが、とりあえず契約の原則という観点で考えたものです。
●採用内定を取り消される学生も相次いでいます。
一部上場による大量内定取り消しということで大きく報道されたN地所。
ホームページを見ると「コンプライアンス・ポリシー」を堂々と掲げており、法令・社会的ルールを遵守し、すべての関係者の人権を尊重します、といった文章になっています。
内定を取り消す行為は、社会的ルールに反することだとは、思っていないのでしょうか。
少なくともコンプライアンスのページをサイトから取り下げるべきでしょう。
内部統制やコンプライアンスを推進してきた立場の者としては、N地所に限らず昨今の状況は、とても残念に思います。
コンプライアンスポリシーを、業績の良い時だけの格好づけ程度に考えてきた企業か、本当にコンプライアンスの意味が分かっている企業か、経営陣の真価が問われる時です。
投稿: DMORI | 2008年12月17日 (水) 12時42分
DMORIさん、こんばんは。
内定取消に関する問題は、いま一番悩ましい話題です。たいへん深刻な問題なので、あまりブログではとりあげないようにしておりました。一般論としては、会社の業績が著しく変化したような場合には、整理解雇の4要件を満たすような場合にかぎり、内定取消自体は有効とみなされるのではないでしょうか。(ただし安易な運用は禁物)ただ、解雇処分(内定取消)自体が有効ということにすぎず、金銭的対応を要するかどうかは別途考慮する必要があると思います。そのうえでコンプライアンスとの関係も議論すべきではないかと考えております。
投稿: toshi | 2008年12月22日 (月) 21時24分
■ウナギ産地偽装で詐欺罪の立件見送りに疑問
DMORIです。
魚秀による中国産ウナギの産地偽装事件で、神戸地検は12/25、不正競争防止法違反の罪で起訴しましたが、詐欺罪の立件は断念しました。
偽装ウナギを国産として買った仲卸業者の一部が、「偽装とうすうす気づいていた」と説明したことなどから、詐欺の被害を認定できないと判断したということです。
魚秀と仲卸業者の関係だけを見ると、そうなのかも知れませんが、消費者の目線が抜け落ちています。
最終的にお金を支払ったのは消費者であり、国産だという表示を全面的に信用して、国産レベルのウナギ代金を支払ったわけです。 仲卸業者のように「国産ではない可能性も、けっこうあるな」と感じていたわけではないのですから、消費者の立場としては「完全に財物をだましとられた」ことに当たるのではないでしょうか。
また、野田聖子消費者担当大臣は、マンナンライフいじめだけするのでなく、このウナギ事件こそ、「詐欺の立件見送りは、消費者の目線では不納得である」といった行動をしてもらいたいと思います。
投稿: DMORI | 2008年12月26日 (金) 13時13分
DMORIさん、年末にこんばんは。
レスが遅くなりまして、失礼をいたしました。
詐欺の立件では、こういったところで困難になるのですよね。詐欺で追及していくと、仲買業者のコンプライアンス問題にぶつかる・・・というのは、私も仕事で何度か経験をしております。
詐欺罪で立件しないのは消費者目線からみて妥当ではない、とのご意見ですが、ここもむずかしいところでして、消費者目線で立件しようとすると、仲買業者も当然のことながら詐欺剤の共犯として構成する必要がありそうです。そうしますと、本来、仲買業者の協力をもって捜査を進展させて、産地偽装者の犯罪立証に持っていくべきところ、その仲買業者の協力が得られない、という問題にぶつかってしまうのではないかと思います。
このあたりが産地偽装事件と詐欺とを関連付ける実務上の困難さがあるのではないでしょうか。
投稿: toshi | 2008年12月31日 (水) 02時09分
DMORIです。山口先生、レスありがとうございました。
おっしゃるとおり、詐欺罪の立件のためには、仲買業者も共犯に位置づける必要があり、そうすると仲買業者の捜査協力を得るのが難しい、かといって逮捕して捜査するのは行き過ぎになりかねず、躊躇せざるを得ない、ということでしょう。
今年の事故米事件を見ましても、この偽装手口を指南したと言われる男は、仲介業者、卸売り業者がたくさん絡んでくればバレにくい、仮にバレても詐欺罪の立件は難しいということを知っていたようでありました。
しかし消費者にとっては、明らかに詐欺の被害を受けているわけで、消費者としては景品表示法違反程度では納得しがたいですね。消費者担当大臣は、マンナンライフだけをいじめるのでなく、消費者の目線に立つなら、こうした面にもコメントを出してもらいたいものです。
今年一年、このブログの隅を何度か汚させていただき、失礼いたしましたが、来年もよろしくお願いします。
皆様よいお年をお迎えください。
投稿: DMORI | 2008年12月31日 (水) 08時20分
こちらこそ、よろしくお願いします。
DMORIさんとの意見交換といえば、今年2月の「日教組VS新高輪プリンスホテル」の一件が一番の思い出ですね。(笑)まだ最終的な決着がついていないと理解しております。
結論はどうあるにせよ、あの問題は風化させてはいけないですね。法令遵守とか、企業コンプライアンスの根幹にかかわる問題を含んでいるものと思います。2009年も、また類似問題が噴出するでしょうし、そのときにでもまたご議論いただければ・・・と。
投稿: toshi | 2008年12月31日 (水) 11時29分
■プリンスホテル全面敗訴は当然だが、司法命令無視への刑事罰も必要では
こんにちは、DMORIです。
グランドプリンスホテル新高輪が日教組への会場使用を拒否した問題をめぐる訴訟で、東京地裁は7/28、日教組側の請求を全面的に認める判決を出しました。
判決は、会場使用拒否の是非に加えて、ホテルは集会使用を認めるよう、東京高裁が仮処分命令を出したにもかかわらず、プリンスホテル側が無視し続けたことに対して、「司法制度の基本構造を無視するもの」と厳しく非難しました。
当然の判決ですが、このように裁判所の命令を無視する場合には、単にあとから賠償させるのでなく、指示した責任者に対して刑事罰を与えることができるような、法改正も必要ではないでしょうか。
裁判所が仮処分の決定を出せば、法治国家の中でまさか無視し続ける企業はないだろうという常識で成り立っていたのでしょうが、プリンスホテルのような無法者がいるのでは、日本の法秩序が揺らいでしまいます。仮処分命令に従わない責任者を逮捕できるルールも必要ではないでしょうか。
投稿: DMORI | 2009年7月29日 (水) 09時01分