MBOにおける「構造的利益相反状況」に挑む社外取締役のロードマップとは?
本日(11月1日)は第一土曜日ということで、毎月恒例の社外取締役ネットワークの関西勉強会に出席してまいりました。ほとんどの社外取締役の方は、「パナソニック、三洋電機買収へ」なる話題で盛り上がっておりましたが、私と、もうおひとりの方と、たったふたりだけですが、部屋の隅っこのほうで盛り上がっていたのが10月31日夜にリリースされたシャルレ(大証二部)の「当社株式に対する公開買い付けに関する賛同意見表明に至るまでの手続き経過等の調査に関する第三者委員会調査結果の報告について」であります。(それにしても長いタイトルですね)あまり新聞やニュースでも採りあげられておりませんが、いや、これ本当におもしろいですよ。月末の適時開示は、第2四半期決算の関係や不動産関連企業の倒産情報などでものすごい開示情報の数でありましたが、そんななかで、夜遅くなって開示されたものですから、あまり注目されていないのかもしれません。ちなみに、このシャルレ社は、ほんの1か月ほど前までは「テン・アローズ社」なる商号でして、昨年までは女子バレーボールの元日本代表の方が代表者に就任しておられ、創業家の動議によって解任されたことでご記憶の方もいらっしゃるんじゃないでしょうか。取締役は創業家出身の2名と社外取締役3名(委員会設置会社)の合計5名であります。(したがって本件では監査役さんは登場しません)
さて、このシャルレ社でありますが、9月19日に創業家とモルガン・スタンレー系PEファンドによりまして、MBO(マネージメント・バイアウト)による非公開化を行うことが公表されまして、シャルレ社としましては、この株式買取会社(特例有限会社)によるTOBについて、賛同の意思を同日表明いたしました。(当社株式に対する公開買付けに関する賛同意思表明のお知らせ-なお、このお知らせのなかに、商号を変更した理由も記載されております)シャルレ社株式の買い付け期間は11月5日までとされ(30営業日)、平穏無事にTOBが進むものと予想されていたのでありますが、なんと10月16日ころから「本件公開買い付けの株価算定手続きに違法ないし不公正な点があった」旨の内部通報が相当数なされたということであります。そこでシャルレ社としましては、内部通報がなされた場合の社内規約に基づいて、事実関係の調査を開始することとし、社外の弁護士らによる調査委員会を開設し、その調査委員会によってまとめられた報告書が、上記のリリース内容であります。(なお、この調査開始決定により、買付者は買付期間の延長を決定しておりまして、5日→13日に変更されているようです)しかし、内部通報制度というものは、こういったMBOの場面においても、大きな力を発揮してしまうものであるというのは驚きです。
そしてこの調査書の内容は必読です。(最近、このフレーズが多いような・・・(^^; )必読といいましても、M&Aに関心のある方、とりわけ先日のレックスホールディングス価格決定申立事件の東京高裁判決(「金融・商事判例」の最新号に掲載されています)や、経済産業省のMBO指針などをお読みになった方でないと興味が湧かないのかもしれませんが、たとえMBOにはご興味をおもちでなくても、企業買収時における株式の価格算定に興味のある方にはぜひともお読みいただければ・・・と思いますし(EYやKPMGも登場)、会社法における「取締役の善管注意義務」「社外役員の独立性」等に関心のある方にも、ぜひお考えいただきたい論点が詰まっております。ともかく、シャルレ社の取締役さん方がMBOを検討する当初から、TOBへ賛同するまでの社内の経過事実について、ここまで赤裸々に綴られた「事実報告」はこれまでなかったはずですし、この公表された事実と、シャルレの適時開示情報とを読み比べますと、「ずいぶんと印象がちがうやないの??」と(何の利害関係もない私ですら)ドキドキしてまいります。報告書を作成した法律事務所も、報告書に出てくる意見書作成(予定だった)法律事務所も、みなさまおなじみの関西の名門事務所ですし、とりあえずは、こういった目の覚めるような報告書を作成された先生方には敬意を表したいと思います。(以前、当ブログで日経の三宅伸吾さんが言われたように、やっぱり弁護士は「胆力」ですよね。)
今日は序論ということで、また休み明けにでも、この報告書の内容について、若干の感想などを述べてみたいと思っております。
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コメント
こんばんは。
こういったのが出てくると、また、MBO=だまし、といった図式が議論されそうで、ゲンナリです。
取締役会の意見が分かれたケースとしてLEOCのMBOというのがあり、直接本件とは違いますが、トラックバックさせていただきます。
個人的には、取締役会に停止条件付賛同表明、といった可能性もあってもいいかなあと。
「きちっとした議論」がなされた後、
「取締役会としては、本件の価格は交渉の結果XXX円以上上がらないとなりました。したがって、本件MBOに対する対抗提案を募集いたします。もし、提案がなければ、本提案で賛同表明決議をする所存です」と。
結局売りに出てしまった以上、株主に真意を問う、という線。かたくなに拒否してもそれこそ従業員や取引先への影響などが心配されます。本件はオーナーによるMBOですし、価格が低いからといって拒否しても、じゃあ誰が経営するの、となるような。
それか、取締役への罰則規定を強化するかどちらかでしょうか。
米国でも「仲良しクラブ」と言われていますので。
投稿: katsu | 2008年11月 2日 (日) 23時55分
MBO=だまし、なる図式が連想されてしまうと、たしかに問題ですね。経産省指針でも、有用性については争いのないところですし。私はMBOの有用性は認めつつも、会社法的には少数株主保護という面との調和を求める必要があるのではないか、という発想から関心を持っております。
取締役の罰則規定という視点についても、私は規制手法として重要な意味があると思いましたので、続編をエントリーいたしました。ちょっとマニアックすぎる話題かもしれませんが、ぜひ皆様方で検討いただきたいところです。
投稿: toshi | 2008年11月 4日 (火) 02時54分
MBO=だまし論で、げんなりさせているかも知れませんね。〔笑〕。
ほとんど、「ご指名」を受けた感じです。〔笑〕。
しかし、MBOの全てを問題にしているわけではありませんよ。
私は、「李下に冠を正すな」というつもりはありませんし、そのようなことを言った覚えもありません。MBO自体、かなり疑わしい取引ですが、そのことだけを問題にしているわけではないです。そんなことをしたら、体がもちません。〔笑〕。
しかし、「李下に冠を正した方がいて、その前後に現実に李(すもも)がなくなっている場合には、彼が犯人である蓋然性が高いのではないか」と言っています。価格が異常に安いケースです。この場合は、MBOだから安いのではないかと率直に考えるべきではないでしょうか?特に、その前に下方修正、その後に上方修正があった場合や、時価純資産さえ下回る場合、等はその蓋然性はさらに高いと思っています。
今回のケースは、「李下に冠を正した方がいて、実際に李がなくなっていて、彼が盗むところがビデオにはっきり写っていた」と言うケースです。今回のケースについては、議論の余地はないように思います。
もっともこれはレアケースですので、「ビデオに写っていない場合にどうするのか」というのが、少数株主にとっては、最も重要です。
私は、MBOについては、
(1) 多数の株主から、強制的に株式を取得するケースであるか
(2) LBOかどうか。
(3) 価格が、非常識と言い得るケースであるか。
(4) 再上場、株式譲渡を予定しているか
等により、分けて考えるべきと考えます。
そして、特に、LBOのケースで、価格が安い場合は、「MBO=だまし」の推定を働かすことも、決して不合理ではないと考えています。
また、裁判所の算定困難を救済するため、(4)のケースでは、再上場時まで、手続きを凍結するというのも、一つの方法と思います。
MBOの議論について、感じるのは、少数株主側のハードルの高さが、全く考慮されていない議論が多いと言う点です。投資家のほとんどは、訴訟など一生することはないと思ってますし、弁護士に相談する方法すら知らない方々です。かつて、私もそうでした。なお、私は、弁護士会の有料相談にいったところ、開口一番「商法はよく知らない」と言われました。結局、弁護士さんに「家庭教師」をして、こちらがお金を払って帰りました。〔笑〕。会社法に詳しい弁護士は少ないですし、また、会社法に詳しい弁護士は、個人株主など相手にしません。集団訴訟にして金を集めれば相手にしてもらえますが、集団訴訟をするには、凄まじい労力が必要です。本人訴訟では、なおハードルが高いですね。
従って、ちょっとやそっとの非常識では、裁判になどなりません。個人株主が訴えるのは、「これだけは許せない」「これは絶対にありえない」という、想像を絶するような事例だけです。少数株主は、「強姦は泣き寝入りしたが、殺人は許せない」と言って訴えているのです。このようなケースにおいて、「双方の言い分をよく斟酌して公平中立に見て」などという見方さえ、私は強い違和感を覚えます。にもかかわらず、「うるさい株主がごねている」というような見方をする方さえいます。
この辺は、もう少し公平な議論をお願いしたいところです。
投稿: 山口三尊 | 2008年11月 5日 (水) 02時54分
三尊さん、おひさしぶりです。また、たいへん貴重なご意見ありがとうございました。MBOに対する三尊さんのスタンスがよくわかりました。
後半部分については、私も気になっているところでして、少数株主側のハードルの高さについては、事後規制的な発想が言われつつも、実際には絵にかいたモチになってしまっているところだと思います。弁護士としては、「もっと司法救済を」と言ってしまえば簡単だし、かっこいいのですが、いざクライアントの方々のおしりをたたいても、・・・というのが現実です。
先日、そごうの元代表者を訴える株主らの裁判が確定しましたが、一審では数十名だった元株主原告が控訴審ではわずか3名、やはり一番しんどいのは弁護士よりも依頼者ご本人方なのですね。事後規制によって適正な企業法務が実現されるためには、あと100人くらいの三尊さんが必要だと思います(笑)
投稿: toshi | 2008年11月 7日 (金) 01時18分