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2008年11月20日 (木)

ある常勤監査役さんへのメッセージ

10月に監査役協会主催の「監査役全国会議」で司会をさせていただいたせいかもしれませんが、最近、監査役さんからメールや対応に関するご相談など頂戴することが多くなりました。(もちろん会社は大手の法律事務所さんが顧問なのですが、監査役会独自の案件・・ということで。)私は全国会議の基調講演のなかで、監査役が企業の不適切な行動を発見した場合には、できれば法的な権利を行使することなく、粘り強く経営陣と協議をし、その行動を社内で制御すべきではないか・・・、それが本当に監査役に期待されている職責ではないか、といったお話をさせていただきました。(鈴木・竹内「会社法」の立場もそのように説かれているものと理解しております。ただし、全国会議ではご異論もいただきましたが・・・)そんななか、ある上場企業の常勤監査役さんから、下記のようなメールを頂戴しましたので、ご紹介いたします。この方とは直接お電話でもお話をさせていただきましたし、某社の監査役さんであることは間違いございません。

こんにちは。初めてメール致します。私は、ある上場企業の常勤監査役(○○歳)です。いつも読ませて頂き勉強させて頂いております。先生の論旨には、いつも大変感銘を受けております。たたかわされている議論も濃いものであり、この様な場があることに感謝をしています。

さて、私は極めて厳しい状況にあります。全てを語ると大変な長文となりますし、守秘義務もありますので、シンプルに申し上げますと以下の状況です。
 
○○年入社し、今年の○月の総会で選任されたばかりです。
就任直後、社長からは、「モノ言わぬ監査役に徹しなさい、自分達のやっていること、経営は正しく、正義であるから、何も知らないアンタが要らぬ口出しするな」と言われました。しかし、実態は、例えば内部統制の全くの軽視(無視)、会計監査人に対する無理難題、株主に対する横柄な対応、異議を唱える社員を全て退職に追い込む、無茶な事業再編を行い、自分達の意に沿わない人は全て排除して完全に乗っ取り意のままにする等、無茶句茶です。私が何か少しでも意見、疑問を言いますと、8人(取締役+執行役員)の経営陣が、かわるがわる恫喝します。これまで心ある監査役も、経理担当課長も、社員も皆辞めたり、辞めさせられたりしています。私よりも先に監査役に選任された他の○○○さんも、○月には辞任しました。人の出入りが異常に激しいです。

私はこのままでは、行き着く先は、監査難民であり、破綻だと思っています。しかし、傘下の企業は数社、従業員は1000人近くにもなりましたので、彼らの生活や顧客への責任、勿論株主への責任、社会的責任もありますから、監査役としてこのまま放置する訳には行きません。まさに監査役の職責を果たす場面だと思っております。従いまして、自分の身を守る為の「辞任」という選択はありません。
しかし、例えば荏原の大森監査役のケースの様に、あれだけ会社に明白な違法行為があっても、会社は何ら罰せられていないという状況からすれば、監査役が反乱したところで、何にもならないのかと失望したりもします。日々、辛い状況が続きますが、今は貴ブログで勉強することが、一つの支えとなっております。
○月決算ですから、来年○月の株主総会、招集通知に記載する監査役報告書等への対応等、せっぱ詰まった状況になって来ます。私への圧迫も強まるでしょう。(注:文章内の数字ももちろんデフォルメしております)

お便りありがとうございました。このような場末のブログでも、職責を全うされるためになんらかのお役に立っているのでありましたら、望外の幸せであります。(企業名が特定されるおそれのあるところは修正させていただきました。)荏原のケースにおいて明白な違法行為があったかどうかは、私としては判断しかねますが、鈴木・竹内「会社法」の時代の監査役さんと、平成17年会社法の時代の監査役さんとは、時代背景が異なるなかで、その期待される職責というものも変容しているのかもしれません。右肩上がりの時代の監査役は、まさに「企業不祥事防止」を目的とした違法監査に専念していればよかったのかもしれません。しかし会社法のもとで、監査役の設置が会社自治にゆだねられるようになったことで、株主に代わる取締役の監視機関としての意味が明白となったわけであります。また、昨今問題とされている「会計監査人の独立性」についても、会社法の建前では監査役の独立性に依存していることになっております。たとえ違法行為差止請求権を行使することがないとしても、監査役は単に違法行為の是正にだけ目を向けていればいい、というものではないと思われます。

これまで「現実の監査役の姿」に同情してか、世間も監査役さんには寛容だったような気がします。しかし、当ブログでも取り上げましたが、ちょうど1年ほど前、三洋電機社の不正会計事件において、社外第三者委員会の委員長を務められた日本を代表する商法学者の方が三洋電機社の監査役さん方にたいへん厳しい結論を下されました。しかも、監査役協会の「監査役監査基準」を、善管注意義務違反の有無を判断する解釈指針として用いられたのであります。私はこれをひとつの「転機」だと認識しています。監査役への期待が高まる分、その責任追及も厳しくなっていくものと想像します。さらに、会計監査の世界だけでなく、監査役監査の世界においても、会社法で内部統制システムの構築が議論されるに及んで「リスク・アプローチ」的な発想が不可欠のものとなっております。もはや「経営に口を出すな」ということであれば、リスク・アプローチによる監査役監査は困難な時代になってきたのではないでしょうか。

ナナボシ事件判決では、裁判官は粉飾を見抜けなかった監査法人の債務不履行責任を認めたわけでありますが、裁判官は明確に「当社はワンマン経営の企業であるがゆえに、内部統制には大きな問題がある。したがって合理的保証の心証を得るためには、さらに監査のレベルを上げる必要があった」と述べております。(もちろん、監査人側からは異論のあるところだとは思いますが)監査に対する裁判所の現実の見方というのは、こういったものであります。ワンマン経営の企業の内部統制に問題がない、と裁判所に言わしめるためには、まさに監査役さんの頑張りがなければ誰が修正できるのでしょうか。発見的監査手法から予防的監査手法へと、監査の主眼が移行しつつあるなか、また内部統制の構築が会社法においても問題とされるなかで、私は業績にかかわらず監査役さんの頑張りが「持続的成長」に向けて大きな力になるものと確信をしております。

11月 20, 2008 未完成にひとしいエントリー記事 |

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コメント

山口先生
某監査役様

心中お察しいたします。
小職も、極小会社の常勤監査役をしております。
某監査役さんと同じ社外の人間で社内にも相談相手がなく、業務内容も
精通してないつらさ、よく理解できます。
そのうえ、大会社でありながらそのような状態であればなおさらつらい
ことと存じます。

上場している大会社がそういう状況であることにショックを受けて
おります。
荏原の件も疑問があり、以前山口先生に書き込みをしましたが、日本の
企業で上場する資格があるところは少ないのではないでしょうか。

小職の会社はIPOを目指して体制を整えましたが、昨今の状況から凍結
しました。
ただ、整備をする段階でコンプラ重視の経営に舵をきってくれました。
トップの意識がどうであるかによるのですね。
大会社であれば、小会社と違い、組織で動くのでこのようなひどい
ことがあることは想像がつきません。
(小職も、大会社に数十年勤務の経験がありましたが、このような
 ことはありませんでした。・・・気がつかなかっただけかもしれ
 ませんが)

そのような業務執行であれば、合併が多い会社なら早晩どこかで綻び
が出るのではないかと推測できます。
それまで、何もしないというわけにはいかないでしょうから、他人事
で恐縮ですが、某監査役さんに総会での発言をお願いしたいと思い
ます。
それまで、監査調書にしっかりと出来事を書いて、難しいでしょうが
証拠も集められ備えてください。

山口先生、こういう例が多くないことを祈りますが、多分同じ問題を
抱えている監査役さんがいると思います。
そうした方々の指南役、相談相手になってください。
そうしないといつまでも日本の会社はよくなりません。

投稿: ご苦労さん | 2008年11月20日 (木) 11時45分

コメントありがとうございます。代表者からいろいろと文句を言われるだけでなく、最近は株主や会社の管財人などから監査役全員に対して損害賠償請求訴訟が提起されるケースも出てきております。したがいまして、監査役さんも会社における自らの立ち位置をはっきり決めておく必要がありますよね。
また、本当に会社法や内部統制報告制度が期待している監査役の職責を全うするためには「監査役スタッフ」が必要だなぁと感じております。このあたりは、経営者もさることながら、監査役さんの熱心な働きかけも必要だと思っています。

投稿: toshi | 2008年11月24日 (月) 02時30分

初めて書かせていただきます。いつも興味深く読ませていただいており、また監査役の勉強会では度々、こちらで取り上げられたものをネタに勉強させていただいています。

監査役への期待が高まる分、その責任追及も厳しくなっていきますが、その一方で、監査役という役職の歴史は時代の流れと共に揺さぶられ、現在においても監査役が機能することを求められながらも金商法では監査役の立ち居地が不透明など、各法で温度差があります。
定められる立ち居地がいまひとつはっきりしないからこそ、自分で決めねばならない。監査役ほど、自分のバックヤードが立ち位置に影響するポジションは、ないのではないかと思います。

寄稿されている監査役方々は決してマイノリティーではなく、多くの監査役の方々が大なり小なり同様の悩みを持っておられるのではないかと思います。
恐らく悩みの大きい会社ほど「監査役軽視の空気感」が漂っているのではないかと思います。
その中で、監査役の「やる気」と「覚悟」だけを求めるのは少々酷なことかなと思われますし、「監査役スタッフ」がそれを解消するとも思えないのです。

まだまだ監査役の仕事そのものの認知や責任・重要度が理解されていないように思います。
偉そうなことを言いながら、その空気感の改善に有効な手立ては・・と言われると、私の少ない経験と知識では提案する事が出来ないのが情けないのですが、少なくとも法が求める監査役の温度差を解消するのはもちろん、高度なガバナンスを要求する証券取引所等がもっと監査役の地位向上に関与してもいいのではないかと思います。
昨今の取引所は上場後はもちろんのこと、上場審査時さえ一度も接見せず、上場セレモニー時には監査役の席すら用意されず一般社員とともに警備ロープの外・・。その扱いに私は「会社法では監査役の権限強化ウンヌンはタテマエで実質はやはりお飾りなんだな。」と誤解したものでした。きっと回りも少なからず何か感じたでしょう。私自身は幸いこの種の悩みは大きくはないほうですが「監査役軽視の空気感」はそのような所からも醸成されるのではないでしょうか?
素人が邪魔な意見差し挟みまして失礼いたしました。

投稿: ママ監査役 | 2008年11月26日 (水) 12時46分

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