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2008年11月24日 (月)

公正取引委員会の常識と社会の常識にズレはないのか?

みなさま、連休はいかがお過ごしでしょうか。私はこの三連休は仕事がたてこんでいるため、早朝から深夜まで事務所以外の某所にて業務に忙殺されております。(ジャッジⅡの最終回はまだ視ておりません。)とくに日曜とか祝日の晩に仕事をするのは少し物悲しいですねェ(あぁ、なんか美味しい鰻が食べたくなってきました・・・泣笑)

さて、新しい公正取引委員会の委員に現委員会事務総長(企業法務の世界ではたいへん著名な方ですよね)の方が就任する予定だったようですが、過去にこの方の「肩書詐称」(弁護士資格を持たないにもかかわらず「弁護士」の肩書を冒用した)の事実が発覚したために、自民党がいったん国会に提出した人事案の撤回を行ったようであります。(詳しく報じる毎日新聞ニュースはこちら)

とくにこの方を擁護する意図ではございませんが、最初このニュースを読んだとき「なんでこんなに大騒ぎになるのだろうか?この程度で人事案を撤回するのはおかしいのではないか?」と感じました。法律実務書に出版社のミスで「弁護士○○」と記載されたのは、おそらく一橋大学大学院教授と某法律事務所のシニアコンサルタント、そしてご出身が東大法学部といった肩書から、つい出版社がこの方は弁護士資格を取得しているものだと錯覚したことが原因のようですから、ご本人に落ち度があるわけでもなく、とくに人事案を撤回するほどのことでもないですよね。また、たとえ「弁護士」といった肩書を付したとしましても、それが架空人の職業として付されているだけであるならば、ご自身を詐称するものでもないのでそれほどたいした問題でもないのでは・・・・・、といった印象を抱きました。(そもそもこの方のご経歴からすれば、独禁法を語るにあたりわざわざ「弁護士」と詐称する必要もないでしょうし)

ただ、よく考えてみますと、それほど単純なものでもなさそうであります。たしかに肩書詐称か否かを検討すべき論点としましては、この事務総長さんが1994年から95年ころにかけて、「国際商業」というきちんとした(格式の高い)専門雑誌に、「弁護士 大野金一郎」なるペンネームを使用して独禁法関連の連載記事を執筆されていたことに絞られるものと思われます。この「国際商業」のバックナンバーの目次をもとに2005年ころまでさかのぼってネット上で確認してみますと、けっこうたくさんの日本を代表する知識人の方々が執筆されているようであります。しかし執筆者の方のほとんどが実名で論稿を発表しておられるようで、どうみても架空人の名前を用いて記事を執筆されている方はいらっしゃらないようであります。(原典を確認したわけではありませんので、不確かな面はありますが)

そもそもこの雑誌の読者の方々は「弁護士 大野金一郎」を実在の人物と認識して記事を読まれたのでしょうか?それともあらかじめ独禁法に詳しい人が架空名義で記事を書いていることを認識していながら読まれているのでしょうか?前者だとすると出版社を含めて、とんでもない事態になってしまいますから、おそらく(まちがいなく?)後者だと思われます。そうしますと、読者の方々が架空の人物に「弁護士」の肩書がついていることについてどのような印象を持つか・・・という点を検討しておく必要がありそうです。これは記事の内容との相関関係で判断すべきだと思いますが、問題となっている雑誌の記事はおそらく独禁法関連の論稿だと思われますので、たとえ仮名であることが読者にあらかじめ理解されていたとしても、読者は「おそらく事務所の関係で実名を出せない経済法に詳しい弁護士が書いたものだ」と連想するのが自然ではないでしょうか。そうしますと、たとえ架空名義であったとしましても、そこに「弁護士」なる肩書を使用してしまった事務総長さんの場合、やはり肩書詐称と批判されてもいたしかたないのでは・・・と、ちょっと今のところは思い直しております。

しかし、自民、民主、共産はじめ、「肩書詐称とはけしからん!」と怒っておられる政治家のセンセイ方のほうが「社会の常識」だとするならば(公取委も「軽率だった」と反省しておられますし)、公正取引委員会の常識とはいったいどんなものなのでしょうか?先のニュースによれば、公取委は問題となる架空名義での弁護士詐称についてあらかじめ検討したうえで「たいしたことはない」と考えて事務総長さんを推薦したようであります。おそらく事務総長さんも、自身の問題がこれほどまでに大きなニュースになるなどとは想像もしておられなかったはずであります。いわば一般の人たちがこの「弁護士 大野金一郎」なる表示についてどのように感じるか?という点を軽率に考えていたものでありまして、これは景表法違反によって公取委から排除命令を出された企業とほぼ同じような気持ちを抱かれたのではないでしょうか。おそらく公正取引委員会も、また委員に就任予定であった事務総長さんも、それぞれ合理的な理由による反論をお持ちだとは思うのでありますが、こうやって新聞に報道され、国会議員の方々より(与野党こぞって)批難されてしまいますと、ただ一言「公取委はうそをついた」「事務総長はうそつきだ」で終わってしまうのであります。もう今からでは期待できないものとは思いますが、ここでぜひ、公取委および事務総長さんの合理的な理由に基づく反論を拝聴したいところであります。

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コメント

山口先生

一般論として、弁護士資格がない方が、法律事務所にコンサルタントとして所属して活動される場合、いろいろ制約がありそうですね。そういう制約があるとしても、素人からはなかなかわかりにくく、出版社の担当者などに誤解があったとしても、ある意味無理からぬことかもしれません。ましてや著名な方となると、・・・。そして、出版社の誤解と同様に、そのサービスを受ける依頼者にも誤解があったとしたら、それはあまり適当ではないかもしれません(あくまで一般論です)。無意識のうちに前提とする事実関係を、誤解なきように、きちんとした「表示」がなされないといけない、ということはビジネスで企業活動に求められる傾向が強いように思われますので、業種を問わず、問題は考えるとよいかもしれません。

弁護士に関しては、法曹資格なく、どの範囲まで「アドバイス」ができるか、弁護士独占の問題も関係することもあって、こういう機会に「議論」がきちんと整理されるとよいかもしれません。企業の法務部も、100%子会社以外にリーガルサポートをすると、「弁護士法違反」のおそれがあるなどとされている訳ですから、コンサルタントの肩書でできることも「きちんとしたルール」がその背後になければならないはずですね。

学者、官庁、アドバイザー・弁護士、の間を行き来することが増加する中で、ルールメーキングはどうなっているのでしょうか?
一度ご意見を伺いたいです。(注:あくまで一般論としてです。)

投稿: 辰のお年ご | 2008年11月24日 (月) 15時24分

toshi先生、たいへんご無沙汰しております。架空名義といえば、最近貴ブログでもハンドルネーム詐称事件がありましたね。「47thさん」という人が、全くジャンルの異なるブログに登場しても誰も文句は言わないでしょうが、貴ブログに登場するからこそ、あの「ふぉーりんあとにー」の先生?てな具合になってしまいますから、架空名義というものもおそろしいものだと思います。(ちなみに、私も関西の人間でして、あのロースクール問題で著名な品田教授とは違いますので、あしからず)

ところで、今回の公取のエントリーは非常におもしろいのですが、別のニュースではこの「弁護士 大野金一郎」なるペンネームは複数人で共有されていた、とあります。つまり連載記事の執筆者は何名かいて、執筆者全員が「弁護士 大野」で記事を発表していたんでしょうね。もし複数のスタッフが記事を連載していたことを雑誌の読者が知っていたとすると、結論は少し変わる可能性もあるんじゃないでしょうかね。「弁護士大野金一郎」というのは、あくまでも連載記事の枕詞にすぎない、とみることはできないでしょうかね?あくまでも一般の読者がどうみるか?という視点からですが。。。(こうやって考えると、けっこうおもしろいですね)

投稿: 品田 | 2008年11月24日 (月) 16時21分

公正取引委員会は存続するのでしょうけれど、あの時のような結果にはならないでしょう。1997として
銀行は国民からみればたぶん、そのようにみえるのでしょうけれど。
国家からみれば企業と独立行政法人です。見落としてしまいがちでしょうけれど、企業の優遇そして公益法人。そしてこれで独立行政法人です。
人事院について、つまりは優秀な人材、これまた見落としがちですが、役人の履歴ではありません。あの唯一のというわけではありませんが、人材のハント(選定)です。これをワーストと捉えがちですが、実際はその逆です。優秀な人材の確保。ただ人事院の幹部の3人に1人がマスコミのOBですね。この厳しい今日びの世の中で困った話です。あの唯一。

投稿: chicara | 2009年6月22日 (月) 20時58分

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