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2008年11月 4日 (火)

MBOにおける「構造的利益相反状況」に挑む社外取締役のロードマップ(その2)

一昨日、ご紹介したシャルレ社(旧テン・アローズ社)のMBO(マネジメント・バイアウト)手続きに関する社外調査委員会報告書の件でありますが、これを自分の興味本位でご紹介するとなると、おそらく当ブログをお読みの皆様方には、マニアックすぎて最後まで読んでいただけないのではないか?といった不安にかられてきました。(いままでのMBO関連のエントリーについても、そんな雰囲気が漂っています・・・笑)ということで、こういった調査報告書を読んだうえでの感想だけをとどめておくことにいたします。といいますか、「MBOってなんやねん?」という方には、ほとんどご理解いただけないかもしれません。(すいません)

そもそも取締役の利益相反行為(利益相反取引ではありません)というものを、法律上どのように規制していくべきか、という点についてはこれまであまり議論されてこなかったところではないでしょうか。(いや、実は私が不勉強だったから、そのように感じているだけかもしれませんが・・・)取締役が株主のために忠実に職務を執行することが期待できないケースの典型例ということになるわけでありますが、こういった行為を規制するためには、たとえば事前規制によってルールを強制適用するとか、経済産業省のガイドラインや、コンプライアンス(レピュテーショナル・リスクの顕在化)の問題としてとらえて、いわゆるソフトローの発想で規制するといったことも選択肢の一つかもしれません。

ただ、これが一番適切なのかなぁ・・・と思いますのは、利益相反取引を事後的に規制する手法、つまり違法な利益相反取引があったとして、関与した取締役の善管注意義務違反を主張することで損害賠償請求訴訟を提起したり、TOBの結果次第では残った株主が強制排除されるであろう企業再編手続きにおいて株式買取請求権を行使(その後の価格決定申立)することで、その適正性(適法性?)を担保していくことかもしれません。たとえば、先日のレックスHD社の価格決定申立事件高裁判決におきましては、取締役の利益相反状態における行動につきまして、不当に株主の利益が侵害されたおそれがあったとして、裁判所はこの事実を適正価格算定の基準期間選定の判断に反映させています。そして、このシャルレ社の件におきましても、もし社外取締役の方々の判断に不適切な面があるとするならば、最終的には株式非公開化によって強制的に排除されてしまう少数株主の方々による価格決定申立や、取締役に対する善管注意義務違反に基づく損害賠償請求によって、MBO時における取締役の適正な行動をエンフォースする、ということが「規制方法としての最適解」ではないかと思います。

そのように考えますと、MBO時における対象会社の取締役の「外形的な」行為規範を定立して、認定された具体的な事実をこれにあてはめ、「とりあえず、外形的には株主の利益を忠実に守る行動がとられた可能性があったか、なかったか」を判断する、そしてかりに対象企業の取締役らに株主の利益に忠実に業務を執行していない可能性が認められた場合には、(立証責任の転換というほど厳密なものではないかもしれませんが)経営判断として忠実に職務を執行したことの主張を取締役側に展開させるだけの余地を残す・・・といった調査報告書の書き方についても納得のいくところであります。(たしか、日興コーディアル社の不正会計に関する特別調査委員会の手法も、こういったものであったと記憶しております)

本件については、「社外取締役のロードマップ」なるタイトルをつけておりますが、とくに社外取締役に限るわけではなく、MBO手続きにおいて特別に利害関係を有していない社内取締役の行動についても同様に論じることができるように思います。ただ、MBOにおいては「構造的な利益相反状況」があるといいましても、すかいらーく社のように創業者が非公開化後の運営会社のわずか3%しか株式を保有しない場合と、シャルレ社のように、ほぼ半分の株式を創業家が保有する場合とでは、TOB価格への関心という点からみても、ずいぶんと状況が変わってくるものと思いますので、そのあたりは取締役の行為規範の定立にも影響が出てこないのだろうか、という問題や、独立社外委員会が買付者の提示価格についてフェアな立場から意見を述べるケースと今回のシャルレの社外取締役による判断のケース(最終的な会社意思を社外取締役のみで表明しなければならない立場)は別途考慮する必要があるのではないか、という問題など、職務の忠実性に合理的な判断が疑われる外形的状況についても、個別具体的に検討する必要があるのではないかと思われます。とくに、今回は(結果的に)委員会設置会社の社外取締役のみで、TOBに関する対象会社側の意思表明を行わなければならなかった事案でありますので、これが一般の監査役会設置会社における社外取締役の方にも同様に要求される行為規範だとすれば、「かなり厳しいのではないかな」といった印象を持つ方もいらっしゃるかもしれません。

MBOにおける少数株主保護の問題につきましては、価格算定に専門機関に委託したり、株主と取締役との情報の共有(開示)を促進させたり、独立第三者委員会を設けるなど、手続面において「公正性」を確保しようとしてきましたが、それが本当に構造的な利益相反状況を解消することにとって十分なものかどうかはわからないところであります。そこで、MBOの有用性を肯定しつつも、その適正手続の面から公正性を担保する方法をさらに進めたものとして、(いろいろとご異論も出るとは思いますが)おそらく今回の調査報告書は意義のあるものではないかと考えている次第であります。M&Aに詳しい実務家の方々が、今回の件を発展的にご議論されることを切に願っております。

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コメント

日本の場合、まずは形から、というのも一理ありそうで、どこからアクセルを踏んでいくかという点でしょうかね。
三洋電機の件でも、もし約1年前に半導体子会社を売却していれば、もっと高くパナソニックに売却できるかもしれないと少数株主が当時のことを訴えるとどうなるんでしょうね。

さらに、利益相反状態の行動となると持ち合い株式なんてのも引っかかってきそうで、取引条件のストライクゾーンと株式価値への影響なんてのも取引が大きいと同じような問題をはらんでいるような気がします。

もし仮に、仮に、三井住友銀行がパナソニックに三洋電機買収資金を融資したような場合(一応三井住友はパナのメインバンクですし)、同行は融資者としては、本来はこのクレジットクランチの中、少なめにしたいでしょうが、三洋電機の大株主としては高く売ってもらいたいと言う状態になりませんでしょうか?

そういった場合、三洋電機にいる同行の社外取締役の立場はとか。


最も買収側が計画の茶々を入れるということはないでしょうが。

投稿: katsu | 2008年11月 5日 (水) 02時06分

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