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2008年12月30日 (火)

皆様、どうかよいお年をお迎えください。

本当は春日電機騒動と内部統制報告制度との関係について、あと1本エントリーを書きたかったのですが、まだまだ年内にやらねばならない仕事が残っておりますので、とりあえず、ここで締めのご挨拶とさせていただきます。

今年一年、当ブログをごひいきにしていただき、誠にありがとうございました。最近とくにコメント欄のご質問やご意見のレベルが高く、簡単にお返しできないものが多くなりまして、たいへん失礼をしております。来年もこういった「狭い領域の」マニアックな話題ばかりかもしれませんが、時間の許す限り継続していきたいと思っておりますので、またよろしくお願いいたします。

大納会ではオグ・シオのおふたりが打鐘しておられましたね。そういえばお二人が所属する三洋電機は、年始は不正会計事件(多額の過年度決算修正)で始まり、年末はパナソニックとの経営統合問題で終わる・・・ということで、まさに打鐘役にふさわしい方々のように思いました。

さて、来年はどんな年になるのでしょうか?他のブログでも噂されているように、私も来年は「エキゾチック・ジャパン」の一年になるような気がします。きょうの日経新聞でも、メリーチョコレートがロッテに買収される件や、サカタのタネ、サイゼリアなど、このエキゾチックが業績に大きな影響を与えている報道がなされています。開示したいけど開示したらヤバイ・・・みたいなものをどんどんためこんでしまうとしたら・・・・、このあたりが来年のコンプライアンスのキモになるのかもしれません。

当ブログは来年もプレインバニラをモットーにしていきたいと思います。(なんか美味しいベルギーワッフルが食べたくなってきました・・・(^^; こうやって「ワッフル」とか書くと、これで検索してきた人がブログにやってきて、すぐに帰っていかれるんですよ、最近 笑)

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監査役と会計監査人との連携に関する研究報告改正(公開草案)

12月26日にJICPAと日本監査役協会の各HPにおきまして「監査役若しくは監査役会又は監査委員会と監査人との連携に関する共同研究報告」の改正について、と題する公開草案が公表されております。(とりあえず、リンクは監査役協会さんのほうへ貼らせていただきました。意見募集は1月26日まで)なお、ここにいうところの「監査人」とは会社法上の会計監査人と財務諸表監査における外部監査人のいずれも含むものとして使われております。平成20年4月1日施行にかかる金融商品取引法(内部統制報告制度、四半期報告制度、経営者確認書)と同法改正193条の3、平成19年公認会計士法改正、そして会社法の実務上の運用状況などから、これまでの報告内容とは、相当程度大幅な改正になっておりますので、ご留意ください。

全体をざっと読ませていただいた印象だけでありますが、上場企業の監査役さんにとって、かなり厳しい内容になっているものと認識いたしました。しかし、そもそも公認会計士法の改正が不正会計事件をきっかけとして、課徴金制度や品質管理、被監査企業開示、異動時開示、業務執行社員のローテーションなど、その独立性や地位の強化が図られ、監督官庁の締め付けも厳しくなり、おまけに粉飾決算見逃しに関する法的責任まで問われる時代となったわけで、監査人サイドとしては監査役との連携強化を図る(監査役にモニタリングの責任の一端を担ってもらう)必要性が高いのも自然なところかと思います。(内部統制報告制度や四半期報告制度の導入自体は、おそらく双方にとっての「連携協調の必要性」を高める要因になっていると思います)今後、日本監査役協会としては、監査役さんのための「連携に関する実務指針」の改訂作業に入るものと思いますが、監査役の「任務懈怠」(善管注意義務違反)と直接関わる論点だけに、監査人との意見交換に関する用意周到な準備が必要になろうかと推測いたします。(おそらく受け身の姿勢ではマズイのではないかと・・・・・)

また、この研究報告改正草案では、あまり触れられておりませんが、先日の春日電機社の事例のように、金商法193条の3に基づく財務諸表監査人からの措置要求通知がなされた場合、これに監査役がどのように対応するのか、そのあたりも実務指針において、明確にしていただきたいところであります。おそらく会計監査人としては、自らの法的責任が発生しないようにするため、「法令に違反する事実その他の財務計算に関する書類の適正性を確保に影響を及ぼすおそれがある事実」の中身については、「どっちかわからないけども、とりあえず監査役に通知しておこう」といった運用になることは間違いないところだと思います。また、監査役が放置していた場合にも、金融庁に報告すべき要件は「重大な影響を及ぼすおそれのある事実」ということですから、監査人には、あとで再度判断する余地が残されているわけでして(先日ご紹介したJICPAの「不正報告に関するQ&A」をご参照ください)、こうなりますと、監査人から「とりあえず通知」された不正事実について、これを監査役としてどのように処理すべきなのか、非常に悩ましい問題が発生することになるわけであります。財務書類の適正性に影響を与えるような不正ではない、と判断して監査人と対立するのか、影響を与えるような不正に該当するおそれあり、として会社に対策を明確に要請するのか、その後会社と意見が食い違うケースにおいて、これを放置するのか、それとも先日の春日電機社の監査役さんのように、違法行為差止請求権を行使するのか、いろいろと監査役さんはご自身で悩まなければならない事態が発生するわけであります。つまりこれまで以上に、不正会計事件が発覚した場合において、取締役らとの連帯責任を追及されるリスクが監査役さんには大きくなる、と考えられるところであります。

こういった共同研究報告改正案を読んでおりますと、監査役さんが、(最近のコーポレート・ガバナンス改正への潮流のなかにおいて)その職責に期待される時代が本当に到来するのであれば、その裏腹として厳しい法的責任が問われる時代が待っている、ということでもあるのだなぁ・・・としみじみと感じます。

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2008年12月28日 (日)

金商法157条(包括的禁止条項)の活用可能性と課徴金制度

たれこみさんから教えていただいたので、さっそく日本証券経済研究所HPより、研究員の方の論稿「『不正行為』を禁ずる一般規定である金商法157条を考える」を拝読させていただきました。法律上のむずかしい専門用語は極力控えておられるようで、とてもわかりやすい内容です。市場における不公正取引への刑事訴追にあたり、SECのもとで米国では包括条項(一般条項)が頻繁に活用されるのに対して、なぜ日本では活用されないのか・・・という点につきまして、米国においては刑事上および民事上「詐欺法の発展」があり、「何が詐欺行為なのか」ということについての市場および裁判紛争におけるコンセンサスが出来上がってきたところ、そういったコンセンサスは日本には存在しないという論者のご指摘には「なるほど・・・」と感心いたしました。

私などは、一介の弁護士として、もっと短絡的に「せこい」理由からではないのか・・・と考えております。つまり包括禁止条項のほかに具体的な禁止規定がなければしかたないのですが、具体的な禁止規定があるにもかかわらず、規定されていないような不公正取引については、そもそも自由におこないうるものであって、合法ではないのか?かりに違法性が高いとして包括禁止条項の適用を考えるとしても、もし適用された場合には、罪刑法定主義や主観的要件(故意や利得目的の否認)によって争う余地が高いのではないか・・・と思われます。すくなくとも、法曹であれば大いに争う余地ありと考えるはずであります。そうなりますと、裁判所で無罪を争うために、解決に2年も3年も要する事案が急増するはずであります。そもそも、市場監視に携わる行政官の方々は、解決まで長年を要する裁判的紛争解決を好まないのであり、また金融庁の見解と異なる裁判所の見解が頻繁に出現する・・・という事態も回避したいのではないでしょうか。私はホンネのところ、そのあたりの政策的な理由によって不公正取引防止のために包括禁止条項は適用されてこなかったのではないかと考えております。

それでは、これからも金商法157条は具体的な事件において適用されないのか?といいますと、そこは研究員の方とまったく同意見でありまして、おそらく金商法157条が具体的な事件で活用される可能性は高くなるのではないか、と考えております。ひとつは、金融庁も先に掲げたような「コンセンサス」作りには余念がなく、課徴金制度の活用によって「何が不公正な取引なのか」という点は、市場においてハイスピードで合意形成されつつあるからであります。ご承知のように平成16年改正で課徴金制度が導入されて以来、審判処分で争われた課徴金制度はいまだゼロであり、「不当利得的運用」が功を奏して、不公正取引とは何か?といった実質的なフレームワークを「紛争を回避しながら」形成しつつあるところだと認識しております。(たしか先日も個人に対する相場操縦行為に対する課徴金処分が発出されておりました)こういった金融庁の尽力により、とりあえずは157条の適用のための前提となる不公正取引に関する一定のコンセンサスは出来上がってくるのではないか、と思われます。こういった行政処分によって社会的合意形成が先行してしまえば、金融庁が「あれ?」と驚くような裁判官の判断が出る可能性も、かなり低減してくるのではないでしょうか。

そしてもうひとつは、やはりなんといいましてもベターレギュレーションであります。金商法157条の包括条項によって刑事罰を科されても責任を問いうるだけの「市場参加者の自己責任原則」が通用する基盤の形成だと思います。事前規制から事後規制(SESCの活躍場面の拡大)に伴い、規制全般が原則主義に変わりつつあることや、その原則主義を支えるだけの人材の形成(金融専門士など)や教育、民事上の紛争解決機関としてのADRの活用、そして自主ルール形成組織(取引所は証券会社など)との官民協力体制の構築など、いわば市場に参加する者であれば、黙っていてもルールの中身がわかりあえるような資本市場リテラシーの向上が図られていくことで、たとえ包括禁止条項によって刑事訴追したとしても、それを争う余地が狭められ、こういった視点からもまた、市場関係者が首をかしげたくなるような裁判所の判断もなくなってくるように思われます。

ただ、包括禁止条項は「劇薬」であり、私は安易な適用は控えるべきだと思います。日経ビジネス弁護士ランキングにも登場されていた著名な弁護士の方は、村上ファンド事件においてなぜ157条1項の包括条項を使わなかったのか?と力説されておられましたが、やはりインサイダー規制で「ぎりぎり」適用可能であるならば、そっちで訴追をして、包括禁止条項はもっと外国資本等による「市場に対する急迫不正の侵害」があるケースなどに活用場面を考えていたのではないかと推測いたします。包括禁止条項の適用場面が増えればそれだけ市場関係者への委縮効果も高まります。そういった委縮効果が本来の市場の活性化を喪失させてしまうおそれは、とりわけ日本の現状からすると、きわめて大きいのではないでしょうか。金商法157条という包括禁止条項の適用につきましては、こういった微妙なバランスに配慮する必要性が高いものと考えております。

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2008年12月26日 (金)

会社役員に対する解任決議と損害賠償請求権の有無

年の瀬のたいへんお忙しい時期にもかかわらず、法務省参与でいらっしゃる内田貴氏が大阪弁護士会で講演をされるということで、さっそく拝聴してまいりました。もちろんテーマは「民法(債権法)改正に関する最新事情」であり、内田氏が東大教授の職を辞してまで、その法律改正に打ち込む真摯な姿に共感いたしました。ウィーン条約を批准した今、会計基準や会社法だけでなく、日本の民法でさえ、もはやグローバル化は避けられない趨勢なんですね。すでに欧州の著名な法律学者の方々は、日本は当然にEU民法をコピーする一国にすぎない・・・と認識されているそうであります。これに流されることなく、日本ブランドの民法を世界発信するためにも、債権法の改正は急務であり、(おそらく)来年夏ごろから法制審議会での具体的な審議が開始されるようであります。法制審議会の「たたき台」作りも含め、「あるべき債権法改正」のため積極的に運営されております民法(債権法)改正検討委員会のHPでは、全体会議の内容や配布資料などが公開されておりますので、ご関心のある方はそちらをご覧ください。(債権者代位権、詐害行為取消権の改正等に関する最新事情なども、すこしお聞きしたところですが、中身についてはまた別の機会に)

本日の話題は、TOBの成功によってグローウェルホールディングスさんが親会社となり、来年2月には上場廃止が予定されている寺島薬局さん(JASDAQ)の件でありますが、1月26日に予定されている臨時株主総会の付議案件として、前社長と前副社長、そして常勤監査役の3名について解任決議を上程することが取締役会で決定された、というリリースが(12月17日から25日にかけて)開示されております。12月18日ころの地元茨城新聞ニュースの報道内容によりますと、この取締役さん2名と常勤監査役さん(新日本有限責任監査法人出身)らは、この取締役会決議は著しく不当なものであり法的手続なども検討する・・・と述べておられるそうであります。親会社であるグローウェルホールディングスさんがすでに94%(案件として臨時株主総会に付議されている少数株主排除手続によってもうすぐ100%保有となる予定)を保有している会社なので、このまま解任決議が総会で承認されることになるのは確実ではありますが(ただし監査役の解任決議は特別決議要件)、このまま取締役さんや常勤監査役さんが辞任しない、ということになりますと、以前「2008年の株主総会総括」エントリーにて申し上げたような「解任に正当理由が認められるのか?」といった問題が浮上してきそうであります。誤解のないように申し上げますが、解任されることは有効としても、その解任に正当理由がなければ、解任役員には損害賠償請求権が認められることになります。

ところで本日のグローウェルHDさんのリリース(監査役解任議案のお知らせ)を読みますと、

当社の常勤監査役であるものの、取締役らの職務執行に関する透明性、合理性についての業務監査が十分でなかったことから、監査役としての適格性を欠いているという認識のもと、監査役○○の解任をお願いするものであります、

とのこと。おそらく、解任決議の対象となっている取締役さんらも、監査役さんも、TOBによって親会社となったところとの信頼関係が維持できない・・・ということが解任の実質的な理由だとは思いますが、はたして開示された内容だけで「正当事由」があったと言えるのでしょうか。ちなみに、取締役の解任に関する事例ではありますが、正当理由を肯定するためには、業務執行の障害となるべき客観的状況を要し、大株主の好みや、より適任な者がいるというような単なる主観的な信頼関係喪失を理由とする場合には、正当理由の存在は認められない・・・というのが判例の立場であります。(東京地裁判決平成8年8月1日 金融商事判例1435号37頁以下)ということは、職務の独立性に配慮して、特別決議がないと解任できない、とされている監査役については、より一層、業務遂行が会社の支障となるような客観的状況が認められなければ「正当理由」には該当しないのではないでしょうか。以前のエントリーでもご紹介したとおり、このあたりは取締役の経営判断の失敗が「正当理由」にあたるかどうかで、諸説対立が見られるところでもありますし、また監査役の解任に関する正当理由の内容についてはこれまでほとんど議論されてこなかったところだと思いますので、今後の展開につきましては非常に興味の湧くところであります。

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2008年12月25日 (木)

「金融商品取引法読本」ついに出ましたね♪

本日も興味深い適時開示情報が満載ですね。とくに京樽社の不適切会計処理に関する調査報告につきましては、またまた親会社の監査役さんの頑張りが不正摘発に寄与したようですし、最近こういった不正の端緒を監査役の方が握っている事案が増えてきたように思います。(よく読むと活躍された監査役さんは常勤ではない方のようですね)本件では、不正検査という面でも興味深く、私自身も勉強させていただきます。また、(話は変わりますが)日経新聞ニュースによりますと、江崎グリコ社の筆頭株主だった米国スティールパートナーズが自社株買いに応じて、全株を売却したそうであります。(日経新聞記事はこちら)実は、ある方から数日前の江崎グリコ社の適時開示情報をもとに「江崎グリコがトストネット3で144億円の買い付けやってますね。ずいぶんとでかい金額だなぁと思って、計算してみると、SPとその関連会社合わせた持株価格とほぼ一緒。SP、抜けましたね」とのメールを頂戴しておりましたので、この情報は事前に認識しておりました。なお、このメールを頂戴した方の次なる関心は「某著名(ある意味で)監査法人の筆頭会計士さん方が懲戒処分になってしまったようですが、あそこの被監査企業はだいじょうぶなんでしょうかね」ということで、こっちも私は興味津津であります。(いつも情報ありがとうございます。なお、この話題はgrandeさんのブログに詳しい解説があるような・・・・・)

Dokuhon001 さて、「証券取引法読本」はいまでも愛読書のひとつでありますが、ついに待望の「金融商品取引法読本」(河本一郎・大武泰南著 有斐閣 4,200円税別 12月25日初版)が出版されましたね。ご覧のとおり、表紙カバーはいつも同じような雰囲気ですが、平成20年度金商法改正までフォローされており、ずいぶんと分厚くなっております。(お値段は3,800円→4,200円)先の江崎グリコ社のTosTNeT-3の解説なども別表で示されている等、証券取引実務と法理論と証券取引法の歴史的背景などが、私のような素人的な立場の人間にもわかるように工夫されておりますので、難解でとっつきにくい金融商品取引法の解説書としては「スグレモノ」の一冊であります。(改訂版を心待ちにしておりました。)

ちなみに本書でも内部統制報告制度に関する著者見解が記されており、たとえば会社法と金商法の内部統制システムについては同質説と異質説とがあるが、著者(おそらく河本先生)は、同質説が妥当ではないか、との見解を示しておられます。(ただ、その理由付けが端的でいいですね・・・)また、「重要な欠陥」と法令違反との関係についても、重要な欠陥のある財務報告にかかる内部統制が作られることが、すなわち法令違反になるわけではない、と解説されておられます。(また、こちらの理由付けもすっきりされていていいです)ちなみにこのあたりは、内部統制報告制度と「経営判断原則」、また内部統制報告制度と「株主に対する信任義務」との関係等から、近時さまざまな法律意見が出ているところであります。

この点に関する私見でありますが、内部統制評価実務の現状をみておりますと、たとえ評価時点(期末日)に重要な欠陥が是正されていたとしても、それまでに「重要な欠陥と評価されるおそれのある不備」があれば、そういった事実経過こそが不正会計の責任を問われる役員の善管注意義務違反の有無に影響するものと思いますので(取締役も監査役も監査人も、すべてリスク・アプローチの視点から注意義務の内容が判断されると考えますので)、あまり重要な欠陥が法令違反かどうかは、粉飾決算事例における最終的な法的責任の有無には影響してこないものと思われます。粉飾決算によって投資家や会社債権者が損害を被った場合、内部統制報告書の虚偽記載そのものよりも、有価証券報告書の虚偽記載に関する責任に議論が集中するでしょうし、その責任を検討する場面において内部統制の評価経緯が「リスク認識の有無」を判断するためのメルクマールになるのではないかと考えております。つまり「重要な欠陥がある」かどうか、ということよりも、内部統制の有効性判断に至る経過事実こそが役員の法的責任と密接に関連するのではないでしょうか。

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2008年12月24日 (水)

アルファブロガー・アワード2008の投票開始

(日経新聞による企業法務弁護士ランキング堂々1位おめでとうございます>葉玉先生 たしか昨年は3位だったと記憶しておりますが・・・)

弁護士ランキングはさておき、そういえば私も葉玉先生や大杉先生などと一緒に昨年の暮れ、アルファブロガーの仲間入りをさせていただきましたが、今年もいよいよアルファブロガー2008の投票が始まったようであります。今年は少し趣向が変わり、「アルファブロガー・アワード2008 ブログ記事大賞」ということで、ブログそのものではなく、ブログ記事にスポットをあてた投票形式になっているようでして、来年2月8日まで投票が受付けられるそうです。皆様方のなかで「この記事は感動した」「勉強になった」「思いっきり笑った」などなど、印象に残ったブログ記事がございましたら、どうか積極的にご投票いただきますようお願いいたします。もちろん皆様方ご自身のブログ記事を推薦されてもかまわないと思いますよ。1月には中間発表もあるそうですし、中間発表の段階でずいぶんと候補が絞られていくかもしれませんね。

さて、私も「場末のアルファブロガー」として、どなたかのブログ記事を3つ推薦させていただきますが、そのうち2つは、いつも拝見させていただいておりますブログのなかから選ばせていただこうかと思っております。「いやいや、勉強になりました」といった印象の記事ですね。ただし葉玉先生や磯崎先生、大杉先生のブログからはパスさせていただきます(笑)

そして、私が推薦させていただくブログ記事のダントツ一位はなんといっても写真家・中山万里さんの「アイラブサンキュー☆」の記事であります。仕事で行き詰まったときや、悩んでいるときに、中山さんのブログにいつも元気をもらっております。今年1月に逝去されたときのスタッフの方の記事を、万感をこめて推薦させていただこうかと思っております。ぜひぜひ、天国の中山さんにアルファブロガーのおひとりになっていただきたい!・・・というのが私のせめてもの願いであります。

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未曽有の世界同時不況のまん中で「コンプライアンス」を叫ぶ

(タイトルほど内容があるものではございませんが・・・)世界同時不況の真っただ中でありますが、とりあえずは「メリークリスマス」です。毎年12月23日は、家族で遊びに行くのが慣例でありましたが、残念ながら長女も「河合塾冬期講習」を受講する年齢となってしまいまして、今年は妻とふたりで「ひっそり」と過ごしておりました。(サンタさんのためにと、自分で勝手に少しだけ窓を開けて待っていた頃の娘の姿がなつかしい。。。もちろん、私が閉めましたけど。。。)

本日も紳士服のコナカ社によるデリバティブ取引の評価損94億円発生、といった報道がありましたが、どうも来年のキーワードは「デリバティブ評価損」と「SPCなどを活用した簿外債務」になりそうな気がしております。もちろん円高の進行もあるでしょうけど、それよりもCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)やCDO(債務担保証券)などの仕組みが引き金になって、とんでもない金額の評価損の発生がリリースされるケースが出てくるのではないでしょうか。アメリカのエンロン事件の場合には、すでに一年前から破たんすることを知っていた経営者が株を売り抜けていた・・・ということが大きな問題となりましたが、実際にデリバティブ取引による巨額の損失がリリースされたのは破たんのわずか3週間ほど前だった、とのこと。とくにエンロン事件のレポートを読んだから・・・というわけではありませんが、結局のところ「歴史は繰り返す」といいますか、7年ほど経過して、また日本でも同じような「プチ・エンロン事件」が発生するような気がしております。(内部告発などが頻繁に行われるような土壌もできつつありますし・・・)

実際に赤信号になってから公表してしまっては、もはや立ち直ることもできないのでしょうけど、黄信号の状況で公表していれば、金融機関や証券会社等と協議のうえ、対応することが可能だと思いますので、いかに企業自身が早期に評価損を公表できるか・・・という点にかかってくるように思います。いかなる評価損を公表すべきかとういことは開示ルールによるものでしょうし、また直前になってみないと損失がいくらなのか不明だ、ということも考えられますが、すくなくともエンロンのように「公表しない」といった判断を伴う場合には、その後の会社の状況次第では命取りになってしまうのではないでしょうかね。株価や為替相場の変動リスクを管理するためにデリバティブ取引は今後ますます活用されるものと思いますが、そのリスク管理については会社法上の内部統制が、またリスクが顕在化した場合の開示には金商法上の内部統制報告制度が、それぞれ有効に機能することを期待したいと思います。

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2008年12月22日 (月)

M&Aトラブルと金融専門士(仮称)の在り方について

一昨日のエントリーでも書きましたが、22日は私が関与している法人売買(株式譲渡)の決済日でありますが、こういった毎日新聞ニュースを読みますと、ちょっと気持ちが後ろ向きになってしまいそうであります。(M&A算定で神戸の元会社社長ら、三井住友銀行提訴へ)売主さん方からみれば、メガバンクの投資アドバイザリー業務の担当者の方々の意見を参考に、買主さん方と交渉をしたわけでしょうが、仲介(助言業務を含む)というのが契約締結を前提として(つまり完全な成功報酬として)報酬を受領できる・・・ということになりますと、仲介者には「ともかく契約をまとめたい」といった気持が強くなりますので、こういった問題が今後も紛争に発展する可能性というのは否定できないように思います。とりわけ弁護士の数も急増しておりますので、こういった株主の方々の代理人を務める法律専門家も増える傾向にありますし、M&Aアドバイザーを相手とする裁判というのも当然に増えるものと思います。ただ、そうなりますと、当然のことながらM&A交渉費用が増えることになるので、たとえば金融紛争処理のためのADR(裁判外紛争処理機関)を活用して迅速に事後的な処理をしたり、また「事後処理」よりも「事前予防」に力点を置いて、金融専門士のような方々を行政、金融、一般事業会社、法務会計部門などに配置することが考えられることになります。

ところで、金融研究研修センターのHPに金融専門人材に関する研究会の議事録や配布資料がアップされていますが、新しい資格としての「金融専門士」の在り方についての議論がいよいよ本格化しているようであります。議論されている内容を拝見いたしますと、まるでスーパーマンのような金融のスペシャリスト(法務、財務会計、ファイナンス、語学の知識経験を兼ね備えたような専門職)が待望されているようですし、かなり高度なスキルが要求されているようにも思えますが、私はそんなに高度なスキルがなければ試験に合格できないようなものではなくて、できれば試験には比較的簡単に合格でき、むしろOJT(オンザジョブトレーニング)によってスキルを磨くほうに重点を置くべきではないか、と考えます。たしかに日本の金融制度を背負って立つような方々が「金融専門士」から輩出されるのであればいいでしょうけど、最近の状況をみていて、政治家の意向や海外からのプレッシャーを抜きにして金融専門士のような方の意見がそのまま実行されるようにも思えませんし、また先に述べたようにプリンシプルベースによる金融行政の実効性を広く経済社会にまで及ぼすためには、「ある程度の知識、経験を共有しうる人たち」が各方面で活躍されていることのほうが重要だと思われるからであります。

上場企業が金融商品取引法上の「プロ・アマ区分」において、原則として「プロ」に属するものとされているのは、「上場企業は金商法上の内部統制報告制度の適用を受けているのであるから、きちんとしたリスク管理もできるだろう」との当局側の見解によるものだそうでありますが、先日のサイゼリアのデリバティブ取引評価損発生事件などをみましても、本当に上場企業というだけで「プロ」として判定されうるのかどうか、どうも怪しいような気もいたします。「プロ」にふさわしい内部統制を構築するためにも、こういった金融専門士のような方々が、多数一般の上場会社にも在籍している、といった状況のほうが市場の健全性を維持するためには適切ではないでしょうか。

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2008年12月19日 (金)

ブログを書く時間がないなぁ・・・・・・

(単なる言い訳にすぎませんが)

12月22日(月)は、今年最後の「大安」ということで、不動産売買決済と、法人売買とが重なり、身動きがとれない状況です。税理士さんにも、司法書士さんにもたいへんご迷惑をおかけしている状態。(ごめんなさいです。。。)

しかし日本人はなぜこうも「大安」にこだわるのでしょうかね。いや、こういったご時世だからこそ、なおいっそうこだわる・・・ということなんでしょうか。

おそらく今度の月曜日は「年末」と「大安」と「休日にはさまれた平日」ということで、日本中が「一年で一番忙しい日」になるような予感がします。どうか車を運転される方は、十分にお気をつけください。書きたいブログネタはたくさんあるのですが、ちょっとおひまをいただきます。

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2008年12月18日 (木)

社外取締役には何が期待されているのか?(経済産業省・企業統治研究会議事録要旨より)

12月17日、経済産業省HPに「企業統治研究会」の第一回会合議事録要旨がアップされておりましたので、議論の骨子が閲覧できます。主な議題は「社外役員(取締役、監査役)の独立性の問題、我が国企業への社外取締役の導入促進の問題など、我が国企業のコーポレート・ガバナンスの向上に向けたルールの在り方」だそうであります。会社法や金融商品取引法、取引所自主ルールなど、今後のガバナンスに関わるルールの変更が予想されるなかでの議論として、この研究会の審議(来年6月ころに報告書としてとりまとめが行われる予定)の方向については非常に関心のあるところです。

議事概要を通読したところでは(有識者の方々がおあつまりになっているわけですから)、それぞれ納得のいく意見が多く出されているとは思うのでありますが、どなたかが発言されていらっしゃるように「社外取締役や社外監査役に何が期待されているのかを整理する必要がある」と私も思います。このブログでも何度か申し上げてきましたが、「社外取締役」に期待されるものについては

(Aの整理)①経営者へのご意見番として、大所高所より豊富な経験に基づく経営面での意見を期待する、②専門技術的見地より、経営判断についての説明責任を株主に対して果たすことに期待する、③総体としての株主の意見もしくは少数株主の利益を代弁することに期待する、といったところの整理と、

(Bの整理)①経営判断のデュープロセス(適正手続)を保障するために、経営判断過程に積極的に参加することに期待する、②経営判断過程には参加せず、独立的中立的な立場から、モニタリングし、その意見表明をすることに期待する、といった整理

といったふたつの整理方法が可能ではないかと思われます。このAとBの整理における意見のとりまとめを行わなければ、社外役員と企業パフォーマンスの関係とか、取締役会の機能の再考(執行機関的である現状を肯定すべきか、あくまでも監督機関的なものであることを強調すべきか)を検討しても、議論がかみ合わないのではないでしょうか。また、たとえば法律や政省令によってルールを形成すべきか、取引所ルールによって形成すべきか、あるいはガイドラインでベストプラクティスを示して、そこから逸脱するものを企業が採用する場合には説明責任を果たさせる、といった「投資家の目」を意識した(緩やかな)ルール形成を検討すべきか、といった点も上記整理の組み合わせに依存するのではないでしょうか。いずれにせよ、10月に出されました日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく日本国政府への米国政府要望書のなかでも、この社外役員制度の改革は強く要望されているところですし(要望書Ⅱ-Aご参照)、間違いなく社外取締役制度のルール化は進むものとは思うのでありますが、日本には監査役制度や、執行機関的な取締役会制度も現に存在するわけですから、社外取締役ネットワークに所属するひとりとしては、「日本の社外取締役制度はどこへ向かおうとしているのか?」いつも疑問に思うところであります。

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2008年12月17日 (水)

ダスキン代表訴訟の弁護団報酬請求(4億円)、原告株主提訴へ

内部統制システムの構築義務違反事件として、すでに代表的な判例として紹介されることが多い「ダスキン株主代表訴訟事件」でありますが、5年に及ぶ大きな裁判であったにもかかわらず、実はまだ10名以上の原告株主側代理人の方々の報酬が支払われておりません。(この件については、すでに10月のエントリー 株主代表訴訟(責任追及の訴え)における素朴な疑問 のなかでも「D社」としてちょっとだけ触れております)朝日新聞ニュースによりますと、ついに報酬請求訴訟にまで発展するようであります。

たしか、大阪簡易裁判所(大阪弁護士会の民事紛争処理センター?)において、株主側代理人とダスキン社側との間で報酬に関する民事調停が係属していたものと聞いておりましたが、やはりこの朝日新聞ニュースによると決裂してしまったようですね。(4億と5500万円では大きな開きがありますし)弁護士報酬の基準となる「ダスキン社にもたらされた経済的利益」が、果たして50億を超える判決認容額を基準とするのか、それとも実際に会社側代理人によって回収された金額7億円(これでもけっこうすごい額ですが・・・)を基準とするのか、このあたりについて、これまで明らかにされてこなかったところでありますので、司法判断によって明らかにされる可能性が出てきたことになります。ちなみに、裁判となりますと、きちんと法的請求権を組み立てる必要がありますが、会社法852条第1項(原告株主の費用等の請求)に基づく請求ということになりそうですから、原告となるのは(一部勝訴)株主であり、その株主が会社を被告として「合理的な範囲での我々の代理人だった弁護士の報酬を支払え」といった裁判になるのでしょうね。(朝日新聞ニュースも、そういった書きぶりになっております)

10月のエントリーでは、蛇の目ミシン代表訴訟における会社側の(被告取締役らに対する)賠償金回収作業を、会社側は原告株主側代理人に委託した・・・ということについて触れましたが、たしかに原告株主側代理人からしますと、「会社側代理人が真剣に元経営陣に対して回収をするはずがない」といった主張が出てくるのは自然なところではないかと思います。(とくに、会社側が代表訴訟において、被告経営陣側に補助参加しているようなケース)いっぽう、代表訴訟における役員の賠償金額が高額化している現実におきまして、たとえ50億を超える金額の賠償責任が判決で確定したとしても、これははじめから回収困難な金額であって、これを「経済的利益」として算定基準に用いるのはあまりにも不合理・・・とするダスキン社側の言い分にも一理あるように思われます。(なお、ダスキン訴訟におきましては、正確には2名の役員に対して53億円程度、その他の11名の役員に対して5億9000万円程度の賠償義務が認められております)

ただ、弁護士報酬についての最高裁判例などを参照しますと、単に「経済的利益」だけによって算定されるものでもなさそうであります。通常は「報酬契約書」を作成しますので、当事者間における報酬に関する合意によって報酬金額は決まるのでありますが、代表訴訟における原告株主代理人の報酬については、そういった合意がありませんので、(おそらく会社法852条を基礎とした報酬額が検討されると思いますので)とりあえず以下のような最高裁判例が参考になるのではないでしょうか。

「弁護士報酬につき特段の定めがなくても、事件の難易度、訴額、労力の程度、事件の進行状況、所属弁護士会の報酬規程、その他諸般の事情を斟酌して、相当な報酬額を算定すべきである」(最高裁判例昭和37年2月1日)

ちなみに従来は所属弁護士会の報酬規程に「経済的利益」を前提とした算定基準がありましたが、現在は報酬規程がなくなりました。もちろん経済的利益が大きな根拠になることは現在でもまちがいないところだとは思いますが、事件の難易度や労力の程度、5年にわたる社会的に大きく取り上げられた事件・・・ということを勘案いたしますと、かなり高額の報酬額が「合理的な範囲」の報酬額とされる可能性もあるのではないかと推測いたします。そもそも、役員責任が厳格化している(最近出版された鳥飼先生の「内部統制時代の役員責任」風にいえば、役員の妻子の身ぐるみまで剥ぐのが当然である、とする風潮が強くなった)実態があるわけですし、また「経済的利益」と判決確定額とのかい離を裁判所自身が安易に認めてしまうことは、訴訟において被告側の熱心な応訴活動が期待できない事態を招くこととなり(つまり、被告経営者からみて、回収困難な金額であればいくらで敗訴しても同じ・・・という気持ちになってしまう)、株主代表訴訟における当事者主義的な民事訴訟観に反する結果となるのでは、とも考えられます。(ただし代理人の人数の多少についてはあまり勘案されないかもしれませんね。これは私の思いつきの見解にすぎませんが)いずれにしましても、こういった報酬額の決定は、今後株主代表訴訟を担当しようと考えている弁護士にとって、受任に向けたインセンティブの大きな要因になるものと思いますので、今後の裁判の成り行きにはぜひとも注目したいところであります。

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2008年12月15日 (月)

内部統制報告書の記載事項について(施行後第1号報告書)

内部統制実務にお詳しい方はすでにご承知かと思いますが、11月末に、金商法24条4の4に基づく正式な内部統制報告書が提出されておりまして、EDINET上で閲覧することができます。(JASDAQ 中小企業信用機構株式会社)正式な内部統制報告書の日本での第1号ということであります。なぜこの時期に?といいますと、決算時期変更により、それまで3月末だったのが8月決算会社に変更されたからであります。ちなみに内部統制監査報告書は財務諸表監査の報告書と一体的に作成されておりますので、有価証券報告書を閲覧ください。

おそらく来年3月決算の上場企業さんも、この第1号の内部統制報告書を参考にされるのかもしれませんが、多くの内部統制統括部署の方々や、内部監査人の方々そして監査法人さんが読まれた感じはいかがなものでしょうか?ずいぶんとあっさりとしたものとお感じになられた方が多いのではないでしょうか?たしかに「内部統制は有効である」と判断した場合の経営者による報告内容は、内部統制府令(および府令ガイドライン)に基づけばこの程度で構わないようにも思えます。基本的には内部統制報告制度は、各企業の財務報告に係る内部統制を開示することがディスクロージャー制度としての本旨ではなく、財務計算書類の正確性を担保するための内部統制システムの構築に向けて、企業がしっかりやっていることを報告するものでありますので、あまり詳細な報告内容となる必要もないのかもしれません。(「重要な欠陥あり」とする報告内容ですと、開示内容が大いに関心の的になりますので、ある程度詳細な内容になるのかもしれませんが)

とはいいましても、私の印象としましては、やっぱりこの第1号の報告書はあっさりしすぎているように思います。経営者が有効と判断した場合の内部統制報告書としては、財務報告に係る内部統制の評価の範囲の記載と、評価手続きの概要に関する記載がポイントになりますが、いずれも府令ガイドラインで記載要領について示されておりますので、ほぼガイドラインに沿った記述になろうかと思われます。この第一号の報告書も、評価範囲を決定した手順や方法についてはほぼガイドラインに沿った形で記載されておりますが、評価手続きの概要についてはどうなんでしょうか。この程度の記述でよいのでしょうか?(これで問題ない・・・ということでしたら、おそらくどこの上場企業さんも、事業拠点選定のための指標と事業目的に関わる勘定科目以外は、ほぼ同じ報告書が出てくることになりそうですね・・・笑)財務報告に係る内部統制の評価結果に重要な影響を及ぼす統制上の要点について、選定されたものを具体的に示すことまでは要求されていないでしょうが、統制上の要点選定にあたっての、自社の評価ポイント(リスク)あたりは説明が必要なのではないかと思います。

このあたりを検討するにあたっては、金融庁Q&A第62問(経営者の評価手続きの検証内容)や府令ガイドライン4-3あたりが参考になろうかと思いますが、そもそも内部統制監査は経営者報告書に対して意見表明をする制度でありますし、監査実務指針におきましても、監査人が不適正意見を表明すべき場合として「内部統制の評価範囲、評価手続及び評価結果に関して、内部統制報告書の記載内容が事実と異なり、著しく不適切な記述がある場合」とされ、経営者としての整備評価、運用評価の基本方針程度は記載しておくべきものではないかと思われます。また、せっかく金融庁Q&A第67問において、評価日以降に粉飾などが発覚しても、評価範囲外の原因によるものであれば訂正内部統制報告書を提出する必要はない、とされているのですから、評価手続きの概要などにつきましては、もう少し具体的な記述があったほうが企業にとっても有利なのではないかと思いますが、いかがなものでしょうか。また、あまりあっさりしたものですと、結局のところ経営者が評価手続きに関与することなく作成が十分可能となりますので、こういった制度を導入した意味がかなり希薄化されてしまうのではないかと思います。(また、皆様のご意見もお聞かせください)

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2008年12月13日 (土)

インサイダー、さわらぬ神に祟りなし(自己株式取得決議取消)

先日のサイゼリア社のデリバティブ評価損153億円のお話は、どうなんでしょうね。最近の外食産業の業績からみて、ちょっと欲が出てしまって、「一般的な為替リスクのヘッジ」を超えたところでの事故(BNPパリバの仕組み債を購入したうえでの金融事故)のようにも思えるのでありますが、経営財務のご専門の方々の意見はどんなものなのでしょうか?

さて先日の春日電機社の深夜開示以来、「午前1時」の開示・・・といいますと、なにやら胸がざわめく今日このごろでありますが、JASDAQの富士テクニカさんが「自己株式取得事項の決議取消のお知らせ」だそうであります。

12日午前中の取締役会にて、自己株式取得事項に関する決議を行い、その旨の開示を行ったところ、取締役会に欠席されていた社外取締役さんが、決議内容を知った後、(今後、業績修正などの重要事実が発生する可能性もあり)インサイダー取引に関する社内リスクが大きいため、自己株式取得はやめたほうがいい、との意見を口頭で伝えてこられたそうで、その後取締役間での電話での議論によって、決議事項の執行中止(決議の取消)を決めたとのこと。ちなみに、電話会議による取締役会の運営につきましては、当該議題について構成員全員が自由に意見交換しうるものである場合には、これは許容される会議方法である・・・とされておりますが(「会社法入門」11版 前田庸 447頁)、監査役は取締役会への出席義務がありますので、こういった電話連絡に監査役も参加している、もしくは自由な意見交換を確認していることが必要になるものと思われます。(とりわけ、かなりイレギュラーな会議方法ですので、監査役さんによる取締役会での意思形成過程のチェックは不可欠ではないかと思われます)

社外取締役がもたらすガバナンス効果のひとつであることは間違いないものの、ずいぶんと用心深い社外取締役の方だなぁ・・・・法律専門職の方では?・・・と思って調べましたところ、なるほど・・・。昨年「うっかりインサイダー」なるフレーズが流行する発端となったこの会社の専務さんが社外取締役なんですね。信託方式による自己株買い付けについては先日、金融庁Q&Aが出ておりますし、また海外子会社の解散等の事実につきましても、政令によって軽微基準に該当するようになったものと思いますが、やはり4000万円を超える課徴金処分でインサイダー疑惑はもうこりごり↓・・・というところではないかと思われます。

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2008年12月11日 (木)

金融庁版リーニエンシーは市場の健全化に機能するか?

本日、仕事の打ち合わせのために某証券会社の大阪支店に伺いましたが、窓口は騒然としておりました。タンス株預入期限が迫っているとのことで、特定口座開設について予約制になっているにもかかわらず、ご高齢者の方々や知人付き添い、といった方々がひっきりなしに訪れ、社員の方はみな対応に忙殺されておりました。「騒然」としているのは、高齢者の方々へ窓口担当者の方がみなさん大声で話しておられるからであります。各ブースともテラーの方々が大声でお話になるわけでして、金商法上の説明義務を尽くす・・・というのも、単に丁寧に説明する、というだけでなく、相手が理解しているのを確認しながら説明する、ということなんでしょうね。特定口座開設まで含めますと、タンス株券の受領手続終了まで最短でも約30分を要しますので、これはもうほとんど証券会社の「社会貢献活動」のひとつではないかと思います。約2週間前から、この異常な状況が始まった、とのこと。タンス株のまま特別口座で保管されるものも、おそらくこの状況ですと、ずいぶんと多いのではないでしょうか。

さて、株券電子化のお話とは関係ありませんが、いよいよ12月12日より、改正金融商品取引法が施行されますが、金融機関以外の一般の上場企業の皆様にもご留意いただきたいのが「課徴金減算制度の開始」であります。金融商品取引法の改正によりまして、課徴金の金額(水準)が引き上げられたり、適用範囲が広くなる分、もし当局が調査を開始する以前に、自社における違法事実についてSESC(証券取引等監視委員会)に報告した場合には、課徴金が半額になる・・・という制度であります。本日、SESCより違法事実報告手続についての開示がなされておりますので、ご参照ください。不当利得的発想による制度とはいえ、課徴金納付命令が発令される、というのも企業の社会的評価を低下させるものでありますので、企業自身の自主的な報告によって、これをできるだけ防止する意味もありますし、またこういった制度ができることで平時におけるリスク管理体制(内部統制システム)の構築を促進するのではないか・・・といった期待がこめられております。(法人の場合、報告書には代表者の印鑑が必要ですから、内部告発的な報告制度ではないようです)また、インサイダー取引についても、規制範囲が不明確なために「うっかりインサイダー」問題なども議論されているところなので、政令による軽微基準の設定とともに、こういった柔軟な対応が期待されているのではないでしょうか。

ご承知のとおり、独禁法上のリニエンシー(自主申告制度)は、当初の予想に反して(?)、談合、カルテル摘発に大きな成果を上げており、つい最近の17年ぶりのカルテル事件の刑事訴追についてもこの制度が活用されております。(自主申告したJFE鋼板は告発されませんでしたよね)しかしながら、共犯関係の摘発(証拠収集の容易化)が想定されている独禁法の場面と、自身の違反事実だけを申告する金商法の場面とでは、自主申告に対するインセンティブに大きな違いがあると思いますし、そもそも「早く自主申告しないと、ほかのところが申告してしまうのではないか」といった競争状態も予定されておりません。さらに、違反行為を繰り返していた法人について課徴金の減算が適用されるのは「最後の違反行為だけ」という、非常に効果限定的なものであります。ということで、果たしてこういった金商法上のリニエンシーが今後機能するのだろうか、といった素朴な疑問が湧いてきます。

これは単なる私見でありますが、この課徴金減算制度がインサイダー取引や粉飾決算の抑止的効果を発揮するためには、現実問題として二つの前提条件が必要ではないかと思います。ひとつは課徴金処分の「制裁的意味合い」が濃くなることでありまして、これは課徴金の法的性格が「制裁的」なものである、ということだけはなく、違反事実に対する社会的非難の度合いが強いものとなったり、また課徴金処分を受けることで株主より損害賠償請求訴訟を提起される、といった事案が増えるなど、社会的制裁の意味合いが強く、これを回避することが企業のリスク管理として強く要請されるようになることであります。そしてもうひとつは、この違反事実の報告を行うことによって、独禁法リニエンシー同様、刑事処分への影響度がどの程度か?という点であります。自社株売買インサイダーや粉飾決算(有価証券報告書虚偽記載)など、課徴金処分と刑事罰が交錯する場面におきましては、現状として悪質なものは刑事告発、それに至らないものは課徴金(厳密にはいろいろと区別方法には問題はあるでしょうが)といった判断基準によって振り分けられているものと思料いたします。(ここは学問的には異論のあるところだとは思いますが、実務上ではこのように言えると考えます)もちろん、条文のどこにも違反事実を事前に報告した場合には刑事処分を減免する、などといったことが書かれておりませんし、そんなことは当局の方々も一切公言されないと思いますが、現に同様の状況において独禁法リニエンシーでは自主申告した法人(もしくは個人)に対する不起訴(もしくは告発せず)といった事案が出てきております。これと同様、課徴金減算制度のための報告を行ったことにより、法人もしくは個人の刑事訴追に事実上影響を及ぼす(ような気がする?)といった運用がとられるとすれば、それなりに金商法リニエンシーが機能する場面も出てくるのではないか、と思います。

PS:ところでここだけの話ですが、金融商品取引法の著名な学者さん(日本の第一人者)のブログって、あったんですね。。。RSS登録されている方が極端に少ないので、まだあまり知られていないブログじゃないでしょうか。でも、けっこう頻繁に更新されていらっしゃって、とても勉強になります。「商事法務の座談会での発言、まちがってましたァ(^^;」みたいな内容もあったりして。ホントは引用させていただきたいのですが、まだ面識もございませんし、気分を害されたらアレなんで、皆様方、お時間のあるときにでもお探しいただければ・・・・・・と。(しかし、こんな偉い方がブログ書いてて、私なんかが楽しそうに書いてていいのでしょうか?すいません、中途半端な内容で・・・笑)

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2008年12月10日 (水)

東大合格生のノートはなぜ美しいのか?(文芸春秋)

16370620 春日電機社に対する名誉棄損に基づく損害賠償請求訴訟が提起された、といったリリースがとても気になるところでありますが、本日はビジネス法務以外のエントリーで失礼いたします。うちの近所のプチ書店にさえ、店頭で平積みになっているのがベストセラー「東大合格生のノートは必ず美しい」(著 太田あや 税別1000円)。「ほんまかいな?」とずいぶんと前から気になっていましたので、いったいどんな本なんだろう・・・と興味本位で購入しました。司法修習生の頃、おなじクラスには「とりあえず東大に合格した経験がある人」はたくさんいらっしゃいましたけど、その方々のノートを拝見するかぎり「なんやこれ?何書いてんのか、あんたしかわからんやんか」みたいなのが多かった記憶があります。

しかしながら、この本に出てくるノートは、うーーーん、たしかに「美しい。」ちなみに、内容をあまりご存じない方は、文芸春秋社のWEB「東大合格生のノートはかならず美しい」特設サイトをご覧ください。(まず、この本がベストセラーになる必要条件としては、著者が東大卒でないことですよね。)

一読しての印象でありますが、そもそも聞いたことをきちんと頭の中で理解して、思考を整理したり、暗記すべき要点をまとめたりするための「手段として」ノートを利用(活用)する・・・ということでしょうから、ノートをとる前に勝負が決まっていたりするのではないか?「ノートをきれいに書こう」と思ってがんばる人にはできない所業であって、「気がついたらきれいなノートになっちゃってた」といった人が実際には東大合格生になっている・・・というのが真実なんじゃないでしょうかね。つまり「法則」を読んだからといって、きれいなノートが出来上がる(→東大に合格する)かというと、おそらく無理ではないかと。また、たとえ「美しいノート」が作成できたとしても、「美しさ」を表現することが目的になってしまえば、おそらく勉強の効率は下がるような気がします。

上記のような感想を抱く方は多いと思うのでありますが、私がこの本を読んで一番気になりましたのが、プリントアウトやルーズリーフではなく「ノート」であること。あとからいろんな情報を追加して立派なツールに仕上げようとしますと、どうしてもパソコンやルーズリーフを使いたくなるのでありますが、ノートだと「自分はこれで勝負」という思い切りといいますか、「もう後戻りはできない」といった不退転の覚悟が感じられます。受験にはこういった思いきりの良さ(背水の陣を敷くというほうがいいかもしれませんが)が必要だと思いますし、本当に東大合格生から学ぶべきものは「捨てる勇気」「思いきりの良さ」ではないかと考えますが、いかがでしょうか。(最近は「わが娘はこうして東大に合格した」みたいな本も出版されているみたいですし、やはり東大ブランドはあいかわらずインパクトがあるようですね。)

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2008年12月 8日 (月)

三洋電機不正会計(違法配当)事件、株主代表訴訟へ

(9日未明 追記あり)

この土日の読売新聞朝刊の一面記事は、三洋電機社の株主の方々にとってはかなり注目すべき話題が続いていました。日曜日はパナソニックによる子会社化の話題(あれ?つい最近まで、先買権契約はGSと大和SMBCの二者間契約だと報じられていましたけど、三井住友も加えた三者間契約だったと報じられていますね。)でしたが、土曜日はちょっとビックリの株主代表訴訟(賠償提訴請求)に関する記事でありまして、三洋電機社の株主の方が、約278億円の損害賠償訴訟を(旧経営陣に対して)提訴するよう、会社に求めるそうであります。(読売新聞ニュースはこちら。週明けにも提訴請求書を送付する、とのこと)このままいくと、過年度修正に係る不正経理問題について株主代表訴訟が提起されることになりそうです。

株主代理人はダスキン事件の原告株主側におつきになっていた方ですね。ちょうど一年ほど前、当ブログでも何度かエントリー(三洋電機の粉飾決算と会計士の判断ほか)させていただきましたとおり、本不正経理事件につきましては、商法(会社法、金融商品取引法)の大御所の先生が社外調査委員会委員を務めておられ、その委員会報告がかなり経営陣(監査役も含めて)に厳しい報告内容を示しておられますので、今後の旧経営陣に対する賠償提訴の動向がまた関心を集めるところだと思われます。なお、監査役への法的責任追及も視野に入れておられるようですが(あくまでも新聞記事からの推測)、そうなりますと、会社への「役員責任追及の要求」は監査役と代表取締役双方にクロスで書面を通知することになるのでしょうね。この場合、代表取締役側と、監査役側とでは、それぞれ独立して別途、法律事務所のサポートを受けて提訴判断を行う、という段取りになるのでしょうか。また、もし(会社としては)提訴しないとの結論になった場合、株主からの要求があれば「不提訴理由通知書」を送付する必要がありますが、これも代表取締役側、監査役側それぞれ別個に通知書を作成する必要がありそうです。そして、代表取締役側、監査役側それぞれが、一年前の「社外調査委員会報告書」の内容をどのように評価して、どのような結論を下すのでしょうか?旧商法時代の事案ですから、違法配当に関する会社への責任につき、取締役と監査役の責任要件が異なっていたこともありますので、かなり複雑ですね。

ちなみに、監査役の損害賠償責任も認められたダスキン株主代表訴訟では、当初、株主側の提訴請求の手続きに法令違反が認められ、裁判では争点となりましたが、裁判所は「手続上の瑕疵が治癒された」として、結論には影響がないものとされておりました。ちなみに、ダスキン事件の場合もそうですが、こういった事件の場合、原告株主側が提訴対象となる役員を選定することになりますので(ダスキン事件の場合には、不祥事公表を熱心に社長に勧めておられた社外取締役さんが被告からはずれていましたよね)、会社法で初めて採用された「不提訴理由通知書」の記載状況から被告となる取締役、監査役と被告から「はずれる」取締役、監査役が選定される可能性もあるんじゃないでしょうか。そこでは法律では割り切れないようないろんな「人間模様」が浮かび上がってくるような気もいたします。

(お知らせ)コメントを頂戴しておりますが、以前から申し上げているとおり、特定企業(特定人)の違法事実を指摘して批判されるものにつきましては、申し訳ありませんが(管理人の法的責任にも関連するものであり)掲載できませんので、あしからずご了承ください。

(9日;追記)朝日新聞ニュースに提訴請求書が送付された、との報道がなされております。監査役や某ニュースキャスターだった社外取締役の方も提訴請求に含まれているようです。現経営陣は旧経営陣に対する提訴はしない方針をすでに固めているとか。ところで違法配当を問題とするのであれば、会計監査人に対する損害賠償請求はどうなるのでしょうか。

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2008年12月 6日 (土)

ナナボシ監査法人損害賠償事件が大阪高裁で和解

今年4月、ナナボシ社の法定監査を担当していた大手監査法人に対して、「粉飾見逃し」に関する損害賠償請求が認容されておりましたが(大手監査法人に粉飾決算事例で初の賠償命令)、大阪高裁においてすでに和解が成立したようであります。(読売朝刊、日経夕刊等に掲載されています。またネットニュースはこちら。)大阪地裁(原審)での認容額は約1700万円だったと記憶しておりますが、和解金額は4000万円とのこと。

原告(控訴人)の株式会社ナナボシ再生債務者管財人の先生は「原審で認められた金額よりも高額の和解なので応じることとした」と述べておられますが、これは再生裁判所との協議のうえでの判断でしょうから、妥当なところかと思います。いっぽうの被告だった(被控訴人たる)大手監査法人さんは「法的過失はないと考えているが、一審判決を真摯に受け止め、早期解決のために和解勧告に応じることとした」と広報室より発表されております。この和解内容から冷静に推測すれば、①4期にわたる粉飾決算について、大阪地裁は倒産直前の事業年度における粉飾見逃しについてだけ監査法人の過失を認めたが、大阪高裁はもっとさかのぼって以前の事業年度の監査手続においても粉飾の見逃しについて監査法人の過失があるとの心証を得た、もしくは②高裁としては、大阪地裁と同様に最終事業年度の監査手続にのみ過失を認めるが、因果関係のある損害の範囲はもっと広いと心証を得た、③過失や損害の範囲とは別に、過失相殺の割合については監査法人側の過失寄与度が大きいものとの心証を得た、のいずれかではないかと思われます。

私の素直な気持ちからすれば、当該監査法人さんが現在でも「法的過失はないと考えている」のであれば、もっと最後まで闘っていただきたかったと思います。(もちろん、控訴審にまで係属するに至った個別事情がありますので、あくまでも私見にすぎませんが)監査計画、監査手続にリスク・アプローチが採用されることを前提として、どのような場面において、どのような計画を立てて、どのような手続をとれば会計監査人としての「正当な注意を払った」と言えるのか、またそのことが法的な善管注意義務違反の有無とどのような関係に立つのか、せっかく真正面から争点になっていたのですから、堂々と最後まで法定監査に臨む監査法人としての専門家意見を主張していただきたかったところであります。控訴人(原告管財人)側は、倒産手続における裁判ですので「早期解決」の必要性は高いでしょうが、控訴人(監査法人)側はとくに早期解決の必要性は認められることもなく、むしろ今後同種事案に参考となるようなリーガルリスクの未然防止(こちらのほうが、今後の紛争の「早期解決」のためには有益だと思うのですが)のためにも闘う実益が大いにあったと思われます。

さて、大阪地裁では、ナナボシ粉飾決算事件以上に新聞、ニュースで報道された某倒産会社の粉飾決算事件につきまして、これまた再生債務者管財人が別の大手監査法人を被告として粉飾見逃しに関する損害賠償請求事件を提起し、現在係属中であります。ナナボシ粉飾事件に関する今回の和解的解決は、そちらの事件にも影響を及ぼす可能性があり、今後も注目しておきたいところであります。

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2008年12月 4日 (木)

伝家の宝刀「金商法193条の3」は春日電機を救えるか?

(4日夕刻 追記あります)

ここのところ、アーバンコーポレイション、アパマン、シャルレと立て続けに「魂を揺さぶられるような」事例に触れましたが、これもホンマにスゴイ・・・(^^;;とりわけ買収防衛策の是非に関する議論には大きな影響を与えるものと推測いたします。

もうすでにご承知の方も多いとは思いますが、本日未明(3日午前1時半)と、本日午後9時半、興奮せずにはおられないような開示情報が出ております。春日電機(東証2部)の常勤監査役の方が、代表取締役を相手として提起されました、違法行為差止仮処分命令の決定(ただし決定が出たのは11月26日)、株主総会開催禁止の仮処分命令の決定に関するお知らせであります。(この時点で仮処分命令申立書の内容が読めるということも、非常に感動モノであります。)つい一昨日、JICPA「法令違反等事実発見への対応に関するQ&A」なるエントリーをアップし、本年4月より施行されている金商法193条の3(監査人の法令違反等事実への対応)について検討いたしましたが、まさかこんなに早く、193条の3が裁判に登場してくるとは予想もしておりませんでした。

創業60年を越える老舗電機メーカーで30年以上勤務されていらっしゃった方(常勤監査役)が、今年6月に大株主による敵対的買収によって更迭されてしまった先代創業者社長、会長の「仇討」のごとく、買収後「好き放題」に財産を散逸させている新社長めがけて仮処分命令の申し立てを行い(社外監査役2名はすでに辞任されたので、たったおひとりで)、代理人弁護士の方々もこれを支援し(基準日の濫用による違法・・・なる主張ですね)、未だ最終解決には至らないものの、一矢を報いるような仮処分決定を発令させた・・・・・、また監査役による申立後、従業員の方々も新社長に対して反旗をひるがえした・・・・・という、なんとも日本人にはたまらないようなストーリーであります。おそらく、日本中の監査役の職務に就いていらっしゃる方々も、目頭が熱くなるようなお話ではないかと思われます。

おそらく、この常勤監査役さんへの賛辞は尽きないものだとは思うのでありますが、このストーリーのなかで私が最も注目すべき、と考えますのが、「企業コンプライアンスを守る四半期開示制度と金商法193条の3」、つまり監査法人さんの活躍であります。失礼を承知で書かせていただきますが、春日電機の財務諸表監査を担当されている監査法人さんは、いわゆる中規模の監査法人さんだと思いますし、それほど目立って大きなクライアントさんをお持ちのところではないと思います(すいません、間違っていましたら訂正いたします)。資産が散逸する春日電機の監査手続きにおいて、架空取引に関する疑念を次第に強く抱くようになり、ついに会計監査人の伝家の宝刀「金融商品取引法193条の3」に基づく「措置要求」を監査役さん宛てに通知をすることになるわけであります。

監査法人から監査役への通知(申立書より抜粋)

「金融商品取引法193条の3に基づき、特定発行者(ここでは春日電機のこと)における法令に違反する事実その他の財務計算に関する書類の適正性の確保に影響を及ぼすおそれのある事実を発見及び確認いたしましたので、当該事実の内容及び当該事実に係る法令違反の是正その他の適切な措置をとるべき旨を通知いたします。

つまり、この措置要求の通知は監査役宛てになされるわけでして、ここでもし監査役が動かなければ(もちろん会社も動かないでしょうから)、あとは監査法人は金融庁へ法令違反の事実を報告することになるわけであります。(金商法193条の3、第2項)措置要求の通知を受けた監査役さんとしましては、このまま放置して金融庁による何らかの対応を待つことも「楽」なのかもしれません。(とくに監査役の法的責任が問われるものでもないかもしれませんし)しかし、それは長年勤務してきた企業の「死」を意味するものになるでしょうし、座して死を待つよりも、上場企業としての誇りにかけて、最後の賭けに出たのが、今回の仮処分決定の申立ではないでしょうか。つまり、監査役さんの気持ちを最後に奮い立たせたのが、この新設された「金商法193条の3」だったのであり、臆することなく切り札を使った監査法人さんは「あっぱれ」と(少なくとも私は)思うところであります。また、監査役さんにこういった「考える時間」を与えてくれたのも、やはり今年4月に施行された四半期報告書制度であります。四半期報告書に対する適正意見を出さない・・・・という監査法人さんによる「ソフトロー」が功を奏したため、4億5000万円のうちの2億弱程度の金員が春日電機の手元に戻り、また法令違反行為の疑念を強く抱くに至るまでの心証を得るに至ったのであります。 「四半期レビュー」といいますと、私の周りの会計士さん方がブーブーと文句をおっしゃっているイメージしかなかったのでありますが、こうやって生々しい事例を目の当たりにしますと、やはり改めてその存在価値を感じるところであります。

買収防衛策との関係や、株主総会の基準日に関する法的論点なども、また検討したいところではありますが、とりあえず興奮さめやらぬまま、ジャストの印象だけで書かせていただきました。内容が偏向している等、また誤りやご異論がございましたら、どしどしとご指摘いただけますと幸いです。

(4日夕刻:追記)

本件についてはあまり新聞等でも報じられていないみたいですね。ところで、株主総会開催禁止の仮処分申立書において、架空取引に関与したとされる会社の上場親会社より、本件に関する見解が公表されております。(株式会社ソフィアホールディングス→春日電機株式会社開示内容に関する当社の見解)エントリーの公平を期するためにも、ご参照いただければ・・・と思います。

(金融商品取引法193条の3)

(法令違反等事実発見への対応)
第百九十三条の三

 公認会計士又は監査法人が、前条第一項の監査証明を行うに当たつて、特定発行者における法令に違反する事実その他の財務計算に関する書類の適正性の確保に影響を及ぼすおそれがある事実(次項第一号において「法令違反等事実」という。)を発見したときは、当該事実の内容及び当該事実に係る法令違反の是正その他の適切な措置をとるべき旨を、遅滞なく、内閣府令で定めるところにより、当該特定発行者に書面で通知しなければならない。
2  前項の規定による通知を行つた公認会計士又は監査法人は、当該通知を行つた日から政令で定める期間が経過した日後なお次に掲げる事項のすべてがあると認める場合において、第一号に規定する重大な影響を防止するために必要があると認めるときは、内閣府令で定めるところにより、当該事項に関する意見を内閣総理大臣に申し出なければならない。この場合において、当該公認会計士又は監査法人は、あらかじめ、内閣総理大臣に申出をする旨を当該特定発行者に書面で通知しなければならない。
一  法令違反等事実が、特定発行者の財務計算に関する書類の適正性の確保に重大な影響を及ぼすおそれがあること。

二  前項の規定による通知を受けた特定発行者が、同項に規定する適切な措置をとらないこと。

3  前項の規定による申出を行つた公認会計士又は監査法人は、当該特定発行者に対して当該申出を行つた旨及びその内容を書面で通知しなければならない。

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2008年12月 2日 (火)

情報開示と日本のコーポレート・ガバナンスの行方

経済産業省の「企業統治研究会」が12月2日、第1回会合を開催したとのことで、金融庁や法務省も参画されているようであります。(日経ニュース)このニュースは11月28日の朝日新聞朝刊でも報じられていたところであります。主に上場企業における社外取締役の設置義務化および社外役員(社外監査役、社外取締役)の要件厳格化に関する検討がなされるように報じられています。いっぽう、12月1日には「有識者の会」も開催されたようで、そこでは金商法と会社法の「隙間」、つまり監査人(監査法人等)の選任権、報酬決定権に関する議論が活発に交わされた、とのこと。どちらの会合においても、経済団体の方々の意見がどのように反映されるのか、今後注目されるところだと思います。

今後のコーポレート・ガバナンスの行方につきましては、最新号の「旬刊商事法務」(1849号 「金融商品取引法と会社法の交錯~上場会社法制~)や、(これはちょっと入手しづらいでしょうが)日本取締役協会「ボートルーム・レビュー」の11月号に収録された「企業価値研究会報告書の意味するもの」(神田教授の7月28日付け特別講演)などを読みますと、おぼろげながら見えてくるようであります。日本の資本市場の浮沈問題とガバナンス論とが、これまでにないほど接近していることが感じられます。

経済・金融・経営評論家でいらっしゃる金児昭氏が経営書のなかでよく述べておられるように、 「法律専門家に経営判断を任せることはできない。法律専門家はあくまでも困ったときの指南役であって、リスクを負うような経営判断の経験のない人たちに任せることはできない」というご指摘は重要だと思っております。いまガバナンスが論じられているのは、コンプライアンス経営(不祥事防止)の大切さ・・・ということも含まれている部分もあるかとは思いますが、原則は「情報開示」、いわば国際ルールとの整合性であり、競争力の向上を念頭に置いてのことだと理解をしております。たとえば(日本独特の)子会社上場の場合における「親会社との利益相反問題」をどのように説明するかとか、(これまた日本独特の)監査役による会計監査を含めた独立性の確保をどう説明するかとか、(開示された情報が信頼されるに足りるだけの)プリンシプル・ベースによる規制や手続規制による規制手法が理解できるような能力を持つ人材の育成(ある一定レベルの理解能力がなければ、プリンシプルベースによる規制も、またデュープロセスによる規制も市場の健全性向上のためには役に立たないのではないか?)・・・・・といったところが主眼ではないでしょうか。これらのことは「法律」で一律に割り切れるような問題ではないように感じますし、(考え方はいろいろとあるにせよ)これらの問題点を共有していかなければ、経済団体の方々との意見の一致をみることはなかなか難しいのではないか・・・と考えております。(本日はココログのメンテナンスのため、急いで走り書きをしました。舌足らずのエントリーで恐縮です)

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「なぜ弁護士はウラを即座に見抜けるのか?」

Nazebengosi_2 本日、東京の日弁連業務改革委員会に出席した折、重鎮の某先生が「佐伯さんが『ウソを見抜く方法』とかいう本、出しはったらしいで」とお話されていたので、早速日弁連会館地下の書籍売場で購入し、ホテルで一気に読んでしまいました。

なぜ、弁護士はウラを即座に見抜けるのか?(弁護士 佐伯照道著 株式会社経済界アステ新書 840円)

著者は関西の同業者の方ならご承知のとおり、弁護士56名を擁する北浜法律事務所のトップの方であり、元大阪弁護士会会長(日弁連副会長)を歴任された方であります。私がRCC(整理回収機構)相手に、ある住専関連の事件(詐害行為取消請求事件)で勝訴したところ、当住専の破産管財人に就任された佐伯管財人に(否認権をもって)高裁でひっくり返されてしまった苦い経験や、この本にも出てくる和歌山の「ホテルK」の売却方交渉などで仕事上でも二度ほど関係させていただきました。しかし、佐伯先生については、3年ほど前、私が主催者として開いた「旧弁護士会館の地下食堂、お別れパーティー」にひょっこりと参加していただいたことが一番記憶にあるところです。地下食堂の立ち退きの一件は、諸事情により、ちょっと弁護士会側とは気まずいものがありました。そのため正式にはお別れ会が開催されなかったのでありますが、昭和44年以来、弁護士会館の食事を長年引き受けてくださったこともありまして、私ともう一人の有志で私的な「お別れ会」を開催したのでありますが(それでも50名ほどの先生がかけつけてくれました)、そこに元弁護士会の会長である佐伯先生がパーティー開始時刻から(個人として)参加され、地下食堂の職員の方々へ感謝の意を表されたのであります。(これは本当にうれしかった。)

200ページ足らずの新書であり、ほぼ全編、佐伯弁護士が破産管財人、更生管財人として携わった実際の事件処理を中心に据え、そのなかで弁護士がどのように交渉し、どのように法と向き合っていくのか、その手法、考え方は非常に参考になるところであり、一気に最後まで読みたくなる本であります。とりわけ、倒産業務に関心のある方、反社会的勢力との交渉や、労働組合との交渉に興味のある方には必読かと思われます。私は部外者としまして、この方が所属される法律事務所のイメージから、もっとスマートな事件処理をされているのではないか、と思っておりましたが、実は結構「泥臭い」「日本流」の交渉過程を本旨とするものであり、だからこそ、人間洞察のなかで、こういった「深い交渉技術」を体得されたことに感心いたしました。管財人としての、さまざまな交渉過程において何を考え、何を優先されようとしたのか、如実に示されており(だからこそ、業務処理のまずかった弁護士に対して、容赦なく苦言を呈されております)、一般のノウハウ本とは異なるおもしろさがあります。「危な橋弁護士」を自称される著者の、現実に法律をあてはめる手法は、企業法務全般を考えるにあたっても貴重なヒントになることと思います。

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2008年12月 1日 (月)

JICPA「法令違反等事実発見への対応に関するQ&A」公表

JICPA法規委員会より、金融商品取引法193条の3(監査証明業務に従事する監査人が法令違反等を発見した際の報告義務)の新設に基づき、会計監査人が法令違反等事実を認識した際の対応方法等がQ&A方式で公表されております。 (法令違反等事実発見への対応に関するQ&A) 金商法193条の改正に伴い、同法および今年4月1日より施行されている監査基準委員会報告第35号「財務諸表の監査における不正への対応」(3月25日改正版)への実務指針として公表されたものだと思いますが、内容につきましては、会計監査人の一般的な注意義務の判断基準となる具体的な対応についてかなり踏み込んだものであります。新設されました会計監査人の意見表明機会の付与(守秘義務が解除されるべき正当理由)と同様、こういった制度がどこまで活用されるかは未知数でありますが、監査法人だけでなく、会計監査人から会社を代表して「措置要求」を受けた監査役の方々も、本Q&Aの内容を検討しておかれたほうがよろしいのではないでしょうか。

ここのところの会計監査人の「粉飾見逃し責任」を問う裁判例をみましても、監査法人側の勝訴、敗訴にかかわらず(財務諸表監査においては)「会計監査の目的は会社の作成した財務計算に関する書類が適正に作成されていることについて意見を表明することにあるが、副次的であるにせよ、不正を発見することに尽力しなければならない」とされるところでありまして、この傾向は監査手法にリスク・アプローチが浸透するにつれ、ますます強まっているものであります。そのような状況におきまして、とりわけ「被監査会社に対して適切な措置を求めるべき法令違反事実の内容」や、会計監査人側からの適切な措置の具体案提言の是非、被監査会社が適切な措置をとらない場合において、どのようなケースで金融庁に報告すべきなのか等、本Q&Aでは詳細な解説がなされており、現場の会計士さん方の不安をある程度低減する意義があるように思われます。

ただ、「法令違反等事実」の解釈として「重要性の判断」が盛り込まれているようですが、ここは少し金商法193条の3、第1項の解釈としては少々疑問を感じるところであります。(私は「おそれ」という文言が第1項で使われている意味は、「不正」の判断について、会計監査人として、法的視点ではなく、会計的視点から専門的な判断をしてよい・・・ということを盛り込んだものにすぎず、「法令に違反する事実」全体において重要性判断が要件とされるとみるのはおかしいのではないかと思います)また、法令違反等事実について措置要求を受けた監査役(もしくは監査役から対応を求められた取締役)が、社内の判断として「法令違反等事実は存在しない」として、あえてなんらの対応もとらなかった場合(つまり解釈が分かれた場合)、もしその後「おそれが重大になった」と判断すれば、会計監査人は金融庁に報告を行う必要があると思いますが、こういった事態を被監査会社側はどう受け止めればいいのか、といった点も今後の課題ではないかと思います。さらにQ4では、原則として法令違反等事実を発見することの義務はないことが明言されておりますが、「おそれ」を含む以上は、「発見へ向けての専門家としての高度な注意義務」の根拠にはなるのであり、「発見義務」を認めることとほとんど差が生じないのでは?といった疑問も生じるところだと思われます。(とりあえず、一読しただけでの雑感にすぎませんので、さらに詳しく勉強させていただきます。)

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