会社役員に対する解任決議と損害賠償請求権の有無
年の瀬のたいへんお忙しい時期にもかかわらず、法務省参与でいらっしゃる内田貴氏が大阪弁護士会で講演をされるということで、さっそく拝聴してまいりました。もちろんテーマは「民法(債権法)改正に関する最新事情」であり、内田氏が東大教授の職を辞してまで、その法律改正に打ち込む真摯な姿に共感いたしました。ウィーン条約を批准した今、会計基準や会社法だけでなく、日本の民法でさえ、もはやグローバル化は避けられない趨勢なんですね。すでに欧州の著名な法律学者の方々は、日本は当然にEU民法をコピーする一国にすぎない・・・と認識されているそうであります。これに流されることなく、日本ブランドの民法を世界発信するためにも、債権法の改正は急務であり、(おそらく)来年夏ごろから法制審議会での具体的な審議が開始されるようであります。法制審議会の「たたき台」作りも含め、「あるべき債権法改正」のため積極的に運営されております民法(債権法)改正検討委員会のHPでは、全体会議の内容や配布資料などが公開されておりますので、ご関心のある方はそちらをご覧ください。(債権者代位権、詐害行為取消権の改正等に関する最新事情なども、すこしお聞きしたところですが、中身についてはまた別の機会に)
本日の話題は、TOBの成功によってグローウェルホールディングスさんが親会社となり、来年2月には上場廃止が予定されている寺島薬局さん(JASDAQ)の件でありますが、1月26日に予定されている臨時株主総会の付議案件として、前社長と前副社長、そして常勤監査役の3名について解任決議を上程することが取締役会で決定された、というリリースが(12月17日から25日にかけて)開示されております。12月18日ころの地元茨城新聞ニュースの報道内容によりますと、この取締役さん2名と常勤監査役さん(新日本有限責任監査法人出身)らは、この取締役会決議は著しく不当なものであり法的手続なども検討する・・・と述べておられるそうであります。親会社であるグローウェルホールディングスさんがすでに94%(案件として臨時株主総会に付議されている少数株主排除手続によってもうすぐ100%保有となる予定)を保有している会社なので、このまま解任決議が総会で承認されることになるのは確実ではありますが(ただし監査役の解任決議は特別決議要件)、このまま取締役さんや常勤監査役さんが辞任しない、ということになりますと、以前「2008年の株主総会総括」エントリーにて申し上げたような「解任に正当理由が認められるのか?」といった問題が浮上してきそうであります。誤解のないように申し上げますが、解任されることは有効としても、その解任に正当理由がなければ、解任役員には損害賠償請求権が認められることになります。
ところで本日のグローウェルHDさんのリリース(監査役解任議案のお知らせ)を読みますと、
当社の常勤監査役であるものの、取締役らの職務執行に関する透明性、合理性についての業務監査が十分でなかったことから、監査役としての適格性を欠いているという認識のもと、監査役○○の解任をお願いするものであります、
とのこと。おそらく、解任決議の対象となっている取締役さんらも、監査役さんも、TOBによって親会社となったところとの信頼関係が維持できない・・・ということが解任の実質的な理由だとは思いますが、はたして開示された内容だけで「正当事由」があったと言えるのでしょうか。ちなみに、取締役の解任に関する事例ではありますが、正当理由を肯定するためには、業務執行の障害となるべき客観的状況を要し、大株主の好みや、より適任な者がいるというような単なる主観的な信頼関係喪失を理由とする場合には、正当理由の存在は認められない・・・というのが判例の立場であります。(東京地裁判決平成8年8月1日 金融商事判例1435号37頁以下)ということは、職務の独立性に配慮して、特別決議がないと解任できない、とされている監査役については、より一層、業務遂行が会社の支障となるような客観的状況が認められなければ「正当理由」には該当しないのではないでしょうか。以前のエントリーでもご紹介したとおり、このあたりは取締役の経営判断の失敗が「正当理由」にあたるかどうかで、諸説対立が見られるところでもありますし、また監査役の解任に関する正当理由の内容についてはこれまでほとんど議論されてこなかったところだと思いますので、今後の展開につきましては非常に興味の湧くところであります。
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コメント
先生の興味範囲かと思いますので貼り付けておきます。
「不正行為」を禁ずる一般規定である金商法157条を考える
http://www.jsri.or.jp/web/publish/review/pdf/4812/03.pdf
投稿: たれこみ | 2008年12月27日 (土) 14時08分
あっ、ホントですね!これおもしろそうです。(日本証券経済研究所のHPですね)ここのHPのwhat's newはかなり読みにくいので見落としていたのかもしれません。講演録ではまた大森氏の講演が読めますね。情報ありがとうございました。
しかしブログを長くやっていると、興味範囲までしっかり丸わかりになってしまいましたね(笑)
投稿: toshi | 2008年12月27日 (土) 14時43分