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2008年12月 6日 (土)

ナナボシ監査法人損害賠償事件が大阪高裁で和解

今年4月、ナナボシ社の法定監査を担当していた大手監査法人に対して、「粉飾見逃し」に関する損害賠償請求が認容されておりましたが(大手監査法人に粉飾決算事例で初の賠償命令)、大阪高裁においてすでに和解が成立したようであります。(読売朝刊、日経夕刊等に掲載されています。またネットニュースはこちら。)大阪地裁(原審)での認容額は約1700万円だったと記憶しておりますが、和解金額は4000万円とのこと。

原告(控訴人)の株式会社ナナボシ再生債務者管財人の先生は「原審で認められた金額よりも高額の和解なので応じることとした」と述べておられますが、これは再生裁判所との協議のうえでの判断でしょうから、妥当なところかと思います。いっぽうの被告だった(被控訴人たる)大手監査法人さんは「法的過失はないと考えているが、一審判決を真摯に受け止め、早期解決のために和解勧告に応じることとした」と広報室より発表されております。この和解内容から冷静に推測すれば、①4期にわたる粉飾決算について、大阪地裁は倒産直前の事業年度における粉飾見逃しについてだけ監査法人の過失を認めたが、大阪高裁はもっとさかのぼって以前の事業年度の監査手続においても粉飾の見逃しについて監査法人の過失があるとの心証を得た、もしくは②高裁としては、大阪地裁と同様に最終事業年度の監査手続にのみ過失を認めるが、因果関係のある損害の範囲はもっと広いと心証を得た、③過失や損害の範囲とは別に、過失相殺の割合については監査法人側の過失寄与度が大きいものとの心証を得た、のいずれかではないかと思われます。

私の素直な気持ちからすれば、当該監査法人さんが現在でも「法的過失はないと考えている」のであれば、もっと最後まで闘っていただきたかったと思います。(もちろん、控訴審にまで係属するに至った個別事情がありますので、あくまでも私見にすぎませんが)監査計画、監査手続にリスク・アプローチが採用されることを前提として、どのような場面において、どのような計画を立てて、どのような手続をとれば会計監査人としての「正当な注意を払った」と言えるのか、またそのことが法的な善管注意義務違反の有無とどのような関係に立つのか、せっかく真正面から争点になっていたのですから、堂々と最後まで法定監査に臨む監査法人としての専門家意見を主張していただきたかったところであります。控訴人(原告管財人)側は、倒産手続における裁判ですので「早期解決」の必要性は高いでしょうが、控訴人(監査法人)側はとくに早期解決の必要性は認められることもなく、むしろ今後同種事案に参考となるようなリーガルリスクの未然防止(こちらのほうが、今後の紛争の「早期解決」のためには有益だと思うのですが)のためにも闘う実益が大いにあったと思われます。

さて、大阪地裁では、ナナボシ粉飾決算事件以上に新聞、ニュースで報道された某倒産会社の粉飾決算事件につきまして、これまた再生債務者管財人が別の大手監査法人を被告として粉飾見逃しに関する損害賠償請求事件を提起し、現在係属中であります。ナナボシ粉飾事件に関する今回の和解的解決は、そちらの事件にも影響を及ぼす可能性があり、今後も注目しておきたいところであります。

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コメント

>当該監査法人さんが現在でも「法的過失はないと考えている」のであれば、もっと最後まで闘っていただきたかったと思います。

監査人の正当な注意義務について司法の判断を理解することは、当該監査法人のみならず他の監査法人の監査実務においても有意義だったでしょう。

地裁の判決文は読んでいませんが、先生の解説(ZAITEN 7月号)によると、平成13年において売掛金の入金遅延があったにもかかわらず、追加の監査手続を実施しなかったことは、監査人の過失と認定されたということですよね。

売掛金のアサーションは、①実在性②評価(回収可能性)などありますが、①については確認の手続が実施されます。確認の結果に問題がないと判断すれば、それを前提に回収可能性を検討することになります。
裁判所の判断は、②に問題があるのだから追加的手続を実施して、①についても検証するべきだったという論理ですよね。監査人としては、②の問題については通常追加的手続として、会社に入金遅延の理由を質問し(質問も立派な監査手続です)、回答を得ているはずです。会社のもっともらしい回答で、監査人は納得してしまったということでしょうか。(売掛金の入金遅延は審査でも問題となりますから、審査部も納得する理由付けがされたと思われます)

②に問題があったとしても、売掛金の実在性がないとの結論に達するための、監査人に実施可能な追加的手続があったか否かにより、監査人の過失の有無は判断されるべきであると考えます。相手先に直接出向くことが出来るのであれば、売掛金に実在性を確かめることが可能ですが、それはドラマの見すぎでしょう。(笑)

投稿: 迷える会計士 | 2008年12月10日 (水) 19時50分

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