M&Aトラブルと金融専門士(仮称)の在り方について
一昨日のエントリーでも書きましたが、22日は私が関与している法人売買(株式譲渡)の決済日でありますが、こういった毎日新聞ニュースを読みますと、ちょっと気持ちが後ろ向きになってしまいそうであります。(M&A算定で神戸の元会社社長ら、三井住友銀行提訴へ)売主さん方からみれば、メガバンクの投資アドバイザリー業務の担当者の方々の意見を参考に、買主さん方と交渉をしたわけでしょうが、仲介(助言業務を含む)というのが契約締結を前提として(つまり完全な成功報酬として)報酬を受領できる・・・ということになりますと、仲介者には「ともかく契約をまとめたい」といった気持が強くなりますので、こういった問題が今後も紛争に発展する可能性というのは否定できないように思います。とりわけ弁護士の数も急増しておりますので、こういった株主の方々の代理人を務める法律専門家も増える傾向にありますし、M&Aアドバイザーを相手とする裁判というのも当然に増えるものと思います。ただ、そうなりますと、当然のことながらM&A交渉費用が増えることになるので、たとえば金融紛争処理のためのADR(裁判外紛争処理機関)を活用して迅速に事後的な処理をしたり、また「事後処理」よりも「事前予防」に力点を置いて、金融専門士のような方々を行政、金融、一般事業会社、法務会計部門などに配置することが考えられることになります。
ところで、金融研究研修センターのHPに金融専門人材に関する研究会の議事録や配布資料がアップされていますが、新しい資格としての「金融専門士」の在り方についての議論がいよいよ本格化しているようであります。議論されている内容を拝見いたしますと、まるでスーパーマンのような金融のスペシャリスト(法務、財務会計、ファイナンス、語学の知識経験を兼ね備えたような専門職)が待望されているようですし、かなり高度なスキルが要求されているようにも思えますが、私はそんなに高度なスキルがなければ試験に合格できないようなものではなくて、できれば試験には比較的簡単に合格でき、むしろOJT(オンザジョブトレーニング)によってスキルを磨くほうに重点を置くべきではないか、と考えます。たしかに日本の金融制度を背負って立つような方々が「金融専門士」から輩出されるのであればいいでしょうけど、最近の状況をみていて、政治家の意向や海外からのプレッシャーを抜きにして金融専門士のような方の意見がそのまま実行されるようにも思えませんし、また先に述べたようにプリンシプルベースによる金融行政の実効性を広く経済社会にまで及ぼすためには、「ある程度の知識、経験を共有しうる人たち」が各方面で活躍されていることのほうが重要だと思われるからであります。
上場企業が金融商品取引法上の「プロ・アマ区分」において、原則として「プロ」に属するものとされているのは、「上場企業は金商法上の内部統制報告制度の適用を受けているのであるから、きちんとしたリスク管理もできるだろう」との当局側の見解によるものだそうでありますが、先日のサイゼリアのデリバティブ取引評価損発生事件などをみましても、本当に上場企業というだけで「プロ」として判定されうるのかどうか、どうも怪しいような気もいたします。「プロ」にふさわしい内部統制を構築するためにも、こういった金融専門士のような方々が、多数一般の上場会社にも在籍している、といった状況のほうが市場の健全性を維持するためには適切ではないでしょうか。
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コメント
こんにちは。金融専門士のスーパーマンさは仰せのとおりかもしれません。そんな高度な知識があれば、当然「それなりの」待遇を要求するでしょうし。
釈迦に説法で恐縮ですが、本件は記事を拝見する限り「アドバイザリー契約」すなわち業務委託だと推測します。「仲介」とは概念が違うと理解しています(仲介だと直接的には利益相反になると解釈できる)。実務的にはこうなんですが、法的には(アドバイザリーという概念が法にあるのかわかりませんが)不自然ではないのでしょうか?
(実質的な)利益相反は日本のビジネスにゴロゴロしていて、結構問題ではないか、と思うところが多々あるので、アドバイザリーと仲介が同じ意味で混乱して使用されているのか、区別しているのか読者はわかりづらく、記事だと、不動産の評価すらできなかった銀行がクローズされているような気がしました(仲介だったら、訴えられても抗弁出来るかもしれない?)。銀行の忠実義務違反である理由が分かりにくいです。
「銀行の言ったとおりにやったら損をした」なんて吐いて捨てるほど事例がありますので読者もピンと来ないかもしれません。
投稿: katsu | 2008年12月22日 (月) 20時58分
ご指摘ありがとうございます。
あまり用語の使用方法が適切ではなかったようです。たいへん失礼をいたしました。法律家として「仲介」なる用語は使わないほうがよかったかもしれません。(誤解のないように修正をいたしました)
仲介というよりも、不動産売買、法人売買に関与することで収益をあげる人たち…という意味で使っておりました。
以前このブログでも問題にしましたが、利益相反は結構ゴロゴロしていますよね。うまくいっているときはそれでいいのですが、問題になったら契約の有効性にすら疑問がわいてくるようなものもあるように思います。
投稿: toshi | 2008年12月22日 (月) 21時31分
TBいただいているgo2cさんのブログにて、この「アドバイザリー業務」と「仲介業務」に関するご解説があります。論点がわかりやすく説明されていらっしゃるので、そちらもご参照ください。
投稿: toshi | 2008年12月24日 (水) 10時52分
重要なことは、仲介の場合、契約の当事者が、利益相反の可能性があっても、構わないという認識でいて、そうでなければ業務委託である、という出発段階でのボタンの掛け違いをなくす努力を当事者同士で文章で交わすことではないでしょうか。
それを大銀行が理解してやっていれば別段仲介でもいいんじゃないでしょうか。現実にブティックなM&Aアドバイザー会社はトラックバックの方のご指摘のように、仲介でないと案件にならない中小なM&Aとかでも引き受けておられます。
その辺の認識が大事だと言いたかったんです。
記者(私は新聞記事のことを申し上げたのですが)や世間のその辺を分かっていてやっているのか、わかっていなくてごちゃまぜにしているのかが重要問題だと。
敵対的買収の被買収企業のアドバイザーだって同じことでしょう。彼らアドバイザー(弁護士を含む)は誰のお金で誰の利益のために何をアドバイスするのか、という点をはき違えている可能性もあります。
これにメスを入れることができないのはトラックバックさんのご指摘があるかと思いますが。
この辺のあいまいさにはこだわっているもので、いろいろ申し訳ありません。
投稿: katsu | 2008年12月24日 (水) 20時54分