ダスキン代表訴訟の弁護団報酬請求(4億円)、原告株主提訴へ
内部統制システムの構築義務違反事件として、すでに代表的な判例として紹介されることが多い「ダスキン株主代表訴訟事件」でありますが、5年に及ぶ大きな裁判であったにもかかわらず、実はまだ10名以上の原告株主側代理人の方々の報酬が支払われておりません。(この件については、すでに10月のエントリー 株主代表訴訟(責任追及の訴え)における素朴な疑問 のなかでも「D社」としてちょっとだけ触れております)朝日新聞ニュースによりますと、ついに報酬請求訴訟にまで発展するようであります。
たしか、大阪簡易裁判所(大阪弁護士会の民事紛争処理センター?)において、株主側代理人とダスキン社側との間で報酬に関する民事調停が係属していたものと聞いておりましたが、やはりこの朝日新聞ニュースによると決裂してしまったようですね。(4億と5500万円では大きな開きがありますし)弁護士報酬の基準となる「ダスキン社にもたらされた経済的利益」が、果たして50億を超える判決認容額を基準とするのか、それとも実際に会社側代理人によって回収された金額7億円(これでもけっこうすごい額ですが・・・)を基準とするのか、このあたりについて、これまで明らかにされてこなかったところでありますので、司法判断によって明らかにされる可能性が出てきたことになります。ちなみに、裁判となりますと、きちんと法的請求権を組み立てる必要がありますが、会社法852条第1項(原告株主の費用等の請求)に基づく請求ということになりそうですから、原告となるのは(一部勝訴)株主であり、その株主が会社を被告として「合理的な範囲での我々の代理人だった弁護士の報酬を支払え」といった裁判になるのでしょうね。(朝日新聞ニュースも、そういった書きぶりになっております)
10月のエントリーでは、蛇の目ミシン代表訴訟における会社側の(被告取締役らに対する)賠償金回収作業を、会社側は原告株主側代理人に委託した・・・ということについて触れましたが、たしかに原告株主側代理人からしますと、「会社側代理人が真剣に元経営陣に対して回収をするはずがない」といった主張が出てくるのは自然なところではないかと思います。(とくに、会社側が代表訴訟において、被告経営陣側に補助参加しているようなケース)いっぽう、代表訴訟における役員の賠償金額が高額化している現実におきまして、たとえ50億を超える金額の賠償責任が判決で確定したとしても、これははじめから回収困難な金額であって、これを「経済的利益」として算定基準に用いるのはあまりにも不合理・・・とするダスキン社側の言い分にも一理あるように思われます。(なお、ダスキン訴訟におきましては、正確には2名の役員に対して53億円程度、その他の11名の役員に対して5億9000万円程度の賠償義務が認められております)
ただ、弁護士報酬についての最高裁判例などを参照しますと、単に「経済的利益」だけによって算定されるものでもなさそうであります。通常は「報酬契約書」を作成しますので、当事者間における報酬に関する合意によって報酬金額は決まるのでありますが、代表訴訟における原告株主代理人の報酬については、そういった合意がありませんので、(おそらく会社法852条を基礎とした報酬額が検討されると思いますので)とりあえず以下のような最高裁判例が参考になるのではないでしょうか。
「弁護士報酬につき特段の定めがなくても、事件の難易度、訴額、労力の程度、事件の進行状況、所属弁護士会の報酬規程、その他諸般の事情を斟酌して、相当な報酬額を算定すべきである」(最高裁判例昭和37年2月1日)
ちなみに従来は所属弁護士会の報酬規程に「経済的利益」を前提とした算定基準がありましたが、現在は報酬規程がなくなりました。もちろん経済的利益が大きな根拠になることは現在でもまちがいないところだとは思いますが、事件の難易度や労力の程度、5年にわたる社会的に大きく取り上げられた事件・・・ということを勘案いたしますと、かなり高額の報酬額が「合理的な範囲」の報酬額とされる可能性もあるのではないかと推測いたします。そもそも、役員責任が厳格化している(最近出版された鳥飼先生の「内部統制時代の役員責任」風にいえば、役員の妻子の身ぐるみまで剥ぐのが当然である、とする風潮が強くなった)実態があるわけですし、また「経済的利益」と判決確定額とのかい離を裁判所自身が安易に認めてしまうことは、訴訟において被告側の熱心な応訴活動が期待できない事態を招くこととなり(つまり、被告経営者からみて、回収困難な金額であればいくらで敗訴しても同じ・・・という気持ちになってしまう)、株主代表訴訟における当事者主義的な民事訴訟観に反する結果となるのでは、とも考えられます。(ただし代理人の人数の多少についてはあまり勘案されないかもしれませんね。これは私の思いつきの見解にすぎませんが)いずれにしましても、こういった報酬額の決定は、今後株主代表訴訟を担当しようと考えている弁護士にとって、受任に向けたインセンティブの大きな要因になるものと思いますので、今後の裁判の成り行きにはぜひとも注目したいところであります。
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