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2008年12月11日 (木)

金融庁版リーニエンシーは市場の健全化に機能するか?

本日、仕事の打ち合わせのために某証券会社の大阪支店に伺いましたが、窓口は騒然としておりました。タンス株預入期限が迫っているとのことで、特定口座開設について予約制になっているにもかかわらず、ご高齢者の方々や知人付き添い、といった方々がひっきりなしに訪れ、社員の方はみな対応に忙殺されておりました。「騒然」としているのは、高齢者の方々へ窓口担当者の方がみなさん大声で話しておられるからであります。各ブースともテラーの方々が大声でお話になるわけでして、金商法上の説明義務を尽くす・・・というのも、単に丁寧に説明する、というだけでなく、相手が理解しているのを確認しながら説明する、ということなんでしょうね。特定口座開設まで含めますと、タンス株券の受領手続終了まで最短でも約30分を要しますので、これはもうほとんど証券会社の「社会貢献活動」のひとつではないかと思います。約2週間前から、この異常な状況が始まった、とのこと。タンス株のまま特別口座で保管されるものも、おそらくこの状況ですと、ずいぶんと多いのではないでしょうか。

さて、株券電子化のお話とは関係ありませんが、いよいよ12月12日より、改正金融商品取引法が施行されますが、金融機関以外の一般の上場企業の皆様にもご留意いただきたいのが「課徴金減算制度の開始」であります。金融商品取引法の改正によりまして、課徴金の金額(水準)が引き上げられたり、適用範囲が広くなる分、もし当局が調査を開始する以前に、自社における違法事実についてSESC(証券取引等監視委員会)に報告した場合には、課徴金が半額になる・・・という制度であります。本日、SESCより違法事実報告手続についての開示がなされておりますので、ご参照ください。不当利得的発想による制度とはいえ、課徴金納付命令が発令される、というのも企業の社会的評価を低下させるものでありますので、企業自身の自主的な報告によって、これをできるだけ防止する意味もありますし、またこういった制度ができることで平時におけるリスク管理体制(内部統制システム)の構築を促進するのではないか・・・といった期待がこめられております。(法人の場合、報告書には代表者の印鑑が必要ですから、内部告発的な報告制度ではないようです)また、インサイダー取引についても、規制範囲が不明確なために「うっかりインサイダー」問題なども議論されているところなので、政令による軽微基準の設定とともに、こういった柔軟な対応が期待されているのではないでしょうか。

ご承知のとおり、独禁法上のリニエンシー(自主申告制度)は、当初の予想に反して(?)、談合、カルテル摘発に大きな成果を上げており、つい最近の17年ぶりのカルテル事件の刑事訴追についてもこの制度が活用されております。(自主申告したJFE鋼板は告発されませんでしたよね)しかしながら、共犯関係の摘発(証拠収集の容易化)が想定されている独禁法の場面と、自身の違反事実だけを申告する金商法の場面とでは、自主申告に対するインセンティブに大きな違いがあると思いますし、そもそも「早く自主申告しないと、ほかのところが申告してしまうのではないか」といった競争状態も予定されておりません。さらに、違反行為を繰り返していた法人について課徴金の減算が適用されるのは「最後の違反行為だけ」という、非常に効果限定的なものであります。ということで、果たしてこういった金商法上のリニエンシーが今後機能するのだろうか、といった素朴な疑問が湧いてきます。

これは単なる私見でありますが、この課徴金減算制度がインサイダー取引や粉飾決算の抑止的効果を発揮するためには、現実問題として二つの前提条件が必要ではないかと思います。ひとつは課徴金処分の「制裁的意味合い」が濃くなることでありまして、これは課徴金の法的性格が「制裁的」なものである、ということだけはなく、違反事実に対する社会的非難の度合いが強いものとなったり、また課徴金処分を受けることで株主より損害賠償請求訴訟を提起される、といった事案が増えるなど、社会的制裁の意味合いが強く、これを回避することが企業のリスク管理として強く要請されるようになることであります。そしてもうひとつは、この違反事実の報告を行うことによって、独禁法リニエンシー同様、刑事処分への影響度がどの程度か?という点であります。自社株売買インサイダーや粉飾決算(有価証券報告書虚偽記載)など、課徴金処分と刑事罰が交錯する場面におきましては、現状として悪質なものは刑事告発、それに至らないものは課徴金(厳密にはいろいろと区別方法には問題はあるでしょうが)といった判断基準によって振り分けられているものと思料いたします。(ここは学問的には異論のあるところだとは思いますが、実務上ではこのように言えると考えます)もちろん、条文のどこにも違反事実を事前に報告した場合には刑事処分を減免する、などといったことが書かれておりませんし、そんなことは当局の方々も一切公言されないと思いますが、現に同様の状況において独禁法リニエンシーでは自主申告した法人(もしくは個人)に対する不起訴(もしくは告発せず)といった事案が出てきております。これと同様、課徴金減算制度のための報告を行ったことにより、法人もしくは個人の刑事訴追に事実上影響を及ぼす(ような気がする?)といった運用がとられるとすれば、それなりに金商法リニエンシーが機能する場面も出てくるのではないか、と思います。

PS:ところでここだけの話ですが、金融商品取引法の著名な学者さん(日本の第一人者)のブログって、あったんですね。。。RSS登録されている方が極端に少ないので、まだあまり知られていないブログじゃないでしょうか。でも、けっこう頻繁に更新されていらっしゃって、とても勉強になります。「商事法務の座談会での発言、まちがってましたァ(^^;」みたいな内容もあったりして。ホントは引用させていただきたいのですが、まだ面識もございませんし、気分を害されたらアレなんで、皆様方、お時間のあるときにでもお探しいただければ・・・・・・と。(しかし、こんな偉い方がブログ書いてて、私なんかが楽しそうに書いてていいのでしょうか?すいません、中途半端な内容で・・・笑)

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■ナスダック元会長による米史上最大詐欺。SOX法に何を学んでいたか

DMORIです。
ナスダック元会長のマドフ容疑者による、米国史上最大の詐欺事件は、被害総額が約500億ドル(約4兆5500億円)以上との報道です。
日本でも、野村ホールディングスがグループ全体で275億円の損失予想を発表しました。
マドフ容疑者は、自身の運営する投資会社が損失を抱えていたにもかかわらず、自転車操業で毎年10%以上の配当を出し続け、投資家を信用させて資金を集めてきたということです。

エンロン、ワールドコム事件を踏まえてSOX法ができたのに、またまたこのような史上最大の詐欺事件が発生するとは、いったいSOX法から何を学んできたのか、という思いがします。
ファンドとしての監査報告書を巧みにこしらえて、信用を維持してきたと言われていますが、だからこそ内部統制の仕組みが機能しているのかも監査することが必要だ、というのがSOX法の基本です。

マドフ容疑者の投資会社は、米国SOX法の適用レベルではなかったでしょうから、内部統制報告書は必要なく、巨額な資金の移動を幹部にもさわらせず、自身1人で切り盛りしてきたといいます。内部統制という仕組みが全くない投資会社であったわけです。

ここで注目すべきは、現在のところ被害者に米国の大手金融グループの名前が見当たらないことです。
10年近く前から、マドフ容疑者の安定した高配当には疑念の噂があったということですから、米国の大手金融グループがそのあたりを警戒して投資していなかったとすれば、賢明な選択だったといえましょう。

内部統制の仕組みが機能していない企業は、どんなに利益を出していても、信用するのは危険だという、SOX法の基本がしっかり証明されたトピックです。
見抜けなかった野村をはじめ、投資した企業は、内部統制について再勉強が必要です。

投稿: DMORI | 2008年12月19日 (金) 10時28分

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