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2008年12月30日 (火)

監査役と会計監査人との連携に関する研究報告改正(公開草案)

12月26日にJICPAと日本監査役協会の各HPにおきまして「監査役若しくは監査役会又は監査委員会と監査人との連携に関する共同研究報告」の改正について、と題する公開草案が公表されております。(とりあえず、リンクは監査役協会さんのほうへ貼らせていただきました。意見募集は1月26日まで)なお、ここにいうところの「監査人」とは会社法上の会計監査人と財務諸表監査における外部監査人のいずれも含むものとして使われております。平成20年4月1日施行にかかる金融商品取引法(内部統制報告制度、四半期報告制度、経営者確認書)と同法改正193条の3、平成19年公認会計士法改正、そして会社法の実務上の運用状況などから、これまでの報告内容とは、相当程度大幅な改正になっておりますので、ご留意ください。

全体をざっと読ませていただいた印象だけでありますが、上場企業の監査役さんにとって、かなり厳しい内容になっているものと認識いたしました。しかし、そもそも公認会計士法の改正が不正会計事件をきっかけとして、課徴金制度や品質管理、被監査企業開示、異動時開示、業務執行社員のローテーションなど、その独立性や地位の強化が図られ、監督官庁の締め付けも厳しくなり、おまけに粉飾決算見逃しに関する法的責任まで問われる時代となったわけで、監査人サイドとしては監査役との連携強化を図る(監査役にモニタリングの責任の一端を担ってもらう)必要性が高いのも自然なところかと思います。(内部統制報告制度や四半期報告制度の導入自体は、おそらく双方にとっての「連携協調の必要性」を高める要因になっていると思います)今後、日本監査役協会としては、監査役さんのための「連携に関する実務指針」の改訂作業に入るものと思いますが、監査役の「任務懈怠」(善管注意義務違反)と直接関わる論点だけに、監査人との意見交換に関する用意周到な準備が必要になろうかと推測いたします。(おそらく受け身の姿勢ではマズイのではないかと・・・・・)

また、この研究報告改正草案では、あまり触れられておりませんが、先日の春日電機社の事例のように、金商法193条の3に基づく財務諸表監査人からの措置要求通知がなされた場合、これに監査役がどのように対応するのか、そのあたりも実務指針において、明確にしていただきたいところであります。おそらく会計監査人としては、自らの法的責任が発生しないようにするため、「法令に違反する事実その他の財務計算に関する書類の適正性を確保に影響を及ぼすおそれがある事実」の中身については、「どっちかわからないけども、とりあえず監査役に通知しておこう」といった運用になることは間違いないところだと思います。また、監査役が放置していた場合にも、金融庁に報告すべき要件は「重大な影響を及ぼすおそれのある事実」ということですから、監査人には、あとで再度判断する余地が残されているわけでして(先日ご紹介したJICPAの「不正報告に関するQ&A」をご参照ください)、こうなりますと、監査人から「とりあえず通知」された不正事実について、これを監査役としてどのように処理すべきなのか、非常に悩ましい問題が発生することになるわけであります。財務書類の適正性に影響を与えるような不正ではない、と判断して監査人と対立するのか、影響を与えるような不正に該当するおそれあり、として会社に対策を明確に要請するのか、その後会社と意見が食い違うケースにおいて、これを放置するのか、それとも先日の春日電機社の監査役さんのように、違法行為差止請求権を行使するのか、いろいろと監査役さんはご自身で悩まなければならない事態が発生するわけであります。つまりこれまで以上に、不正会計事件が発覚した場合において、取締役らとの連帯責任を追及されるリスクが監査役さんには大きくなる、と考えられるところであります。

こういった共同研究報告改正案を読んでおりますと、監査役さんが、(最近のコーポレート・ガバナンス改正への潮流のなかにおいて)その職責に期待される時代が本当に到来するのであれば、その裏腹として厳しい法的責任が問われる時代が待っている、ということでもあるのだなぁ・・・としみじみと感じます。

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