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2008年12月 1日 (月)

JICPA「法令違反等事実発見への対応に関するQ&A」公表

JICPA法規委員会より、金融商品取引法193条の3(監査証明業務に従事する監査人が法令違反等を発見した際の報告義務)の新設に基づき、会計監査人が法令違反等事実を認識した際の対応方法等がQ&A方式で公表されております。 (法令違反等事実発見への対応に関するQ&A) 金商法193条の改正に伴い、同法および今年4月1日より施行されている監査基準委員会報告第35号「財務諸表の監査における不正への対応」(3月25日改正版)への実務指針として公表されたものだと思いますが、内容につきましては、会計監査人の一般的な注意義務の判断基準となる具体的な対応についてかなり踏み込んだものであります。新設されました会計監査人の意見表明機会の付与(守秘義務が解除されるべき正当理由)と同様、こういった制度がどこまで活用されるかは未知数でありますが、監査法人だけでなく、会計監査人から会社を代表して「措置要求」を受けた監査役の方々も、本Q&Aの内容を検討しておかれたほうがよろしいのではないでしょうか。

ここのところの会計監査人の「粉飾見逃し責任」を問う裁判例をみましても、監査法人側の勝訴、敗訴にかかわらず(財務諸表監査においては)「会計監査の目的は会社の作成した財務計算に関する書類が適正に作成されていることについて意見を表明することにあるが、副次的であるにせよ、不正を発見することに尽力しなければならない」とされるところでありまして、この傾向は監査手法にリスク・アプローチが浸透するにつれ、ますます強まっているものであります。そのような状況におきまして、とりわけ「被監査会社に対して適切な措置を求めるべき法令違反事実の内容」や、会計監査人側からの適切な措置の具体案提言の是非、被監査会社が適切な措置をとらない場合において、どのようなケースで金融庁に報告すべきなのか等、本Q&Aでは詳細な解説がなされており、現場の会計士さん方の不安をある程度低減する意義があるように思われます。

ただ、「法令違反等事実」の解釈として「重要性の判断」が盛り込まれているようですが、ここは少し金商法193条の3、第1項の解釈としては少々疑問を感じるところであります。(私は「おそれ」という文言が第1項で使われている意味は、「不正」の判断について、会計監査人として、法的視点ではなく、会計的視点から専門的な判断をしてよい・・・ということを盛り込んだものにすぎず、「法令に違反する事実」全体において重要性判断が要件とされるとみるのはおかしいのではないかと思います)また、法令違反等事実について措置要求を受けた監査役(もしくは監査役から対応を求められた取締役)が、社内の判断として「法令違反等事実は存在しない」として、あえてなんらの対応もとらなかった場合(つまり解釈が分かれた場合)、もしその後「おそれが重大になった」と判断すれば、会計監査人は金融庁に報告を行う必要があると思いますが、こういった事態を被監査会社側はどう受け止めればいいのか、といった点も今後の課題ではないかと思います。さらにQ4では、原則として法令違反等事実を発見することの義務はないことが明言されておりますが、「おそれ」を含む以上は、「発見へ向けての専門家としての高度な注意義務」の根拠にはなるのであり、「発見義務」を認めることとほとんど差が生じないのでは?といった疑問も生じるところだと思われます。(とりあえず、一読しただけでの雑感にすぎませんので、さらに詳しく勉強させていただきます。)

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コメント

こんなQ&Aがでているとは知りませんでした。
大変勉強になりました。
ところで、「重要性の判断」ですが、御説の通り「おそれ」という文言からはでてこないと思いますが、「(財務計算に関する書類の)適正性の確保に影響を及ぼす(おそれがある事実)」から導けるのではないでしょうか。
会計上は決算書に’重要性のない誤り’があっても「適正」といいますので、Q4のA2にある通り、1項は「重要性の判断」を黙示的に含んでいるように思います。金融証券取引法の解釈はよく知らないんですが、2項1号の規定からもこう考えてよいような気がします。

投稿: ロックンロール会計士 | 2008年12月 2日 (火) 22時08分

すみません、投稿後に気が付いたんですが・・・
Q4のA2で、「いわゆる「重要性の判断」の明示はありませんが」といっているのは、法令違反等事実に「重要性」が適用されるか否か1項に明示はありませんがという意味ではなくて、(「重要性」は当然含まれるとしたうえで)「重要性の判断基準」の明示はありませんが、「・・・おそれ」からその基準が斟酌されると考えられる、ということじゃないでしょうか。
このQ&Aは会計士向けの報告ですので、財務諸表に重要性のない虚偽記載があっても対外的なアクションはおこさないという会計士の常識を前提に書かれているような気がします。
(なお、先に書きましたように、法文上も「適正」に「重要性の判断」を含めてよいように思います)

投稿: ロックンロール会計士 | 2008年12月 2日 (火) 22時31分

ロックンロール会計士さん、いつも有益なコメント、ありがとうございます。なるほど、Q4についてはご指摘のとおりかもしれませんね。ただ、たしかにこのQ&Aは会計士向けのものですが、立派な法律の解釈問題ですし、また会計士の指摘は監査役も理解できなければいけませんよね。そこに「重要性の判断」が出てくるのはちょっと違和感を覚えます。「重要性はないですよ」といった監査役の回答が出てくることもあるわけでして、そうなりますと、つぎにQ8の「重大なおそれ」の解釈が問題になってくるものと思われます。(この「重大なおそれ」というものも、会計士さん向けの判断基準なのでしょうか?重要性判断とは別に、重大なおそれの判断というものがあるのでしょうか?)
いずれにしましても、春日電機の件で、いきなり話題になっちゃいましたよね。今後おそらく、会計士さんの世界でも、法律家の世界でも、この193条の3については議論される機会が多くなるものと思います。

投稿: toshi | 2008年12月 5日 (金) 00時54分

toshi様
お返事をいただき、ありがとうございます。
舌足らずな文章で誤解を招いたようですので、お詫びいたします。
①まず、私が「会計士向け」といったのは、Q&Aの表現方法がであって、内容自体は、法律問題についてのそれなりにきちんとした解釈を前提にしたものだろうと考えております。
②それから、「『重要性の判断』が出てくるのはちょっと違和感を覚え」るとおっしゃるのはその通りだと思います。ただ、会計上、財務書類が「適正」というのは「重要な虚偽記載がない」ということであって、「適正性」という表現自体に「重要性の判断」が含まれますし、前回も申しました通り、金商法も同じ解釈のようです。
もっとも、条文によって(24条の4の2第1項、193条の2第1項柱書を受けた監査証明府令、193条の3第1項etc)、重要性の程度、範囲が分かれるかもしれません。
③法律実務に疎いのですが、御説の通り、今後議論される機会が多くなるのかもしれません。ただ、正解が示される前に、自分なりに問題を突き詰めて考えることは非常におもしろく、また、大切なことだろうと思います。

投稿: ロックンロール会計士 | 2008年12月 6日 (土) 00時16分

②でご指摘されているところが、最近なんとなくわかってきたつもりです。「重要な虚偽記載がない」といった心証(およびその心証を得るための証憑)の積み重ねが、最終的には「適正である」という結論に至る・・・ということなんでしょうね。こういった心証の取り方は、かなり法律家とは異なるところだと思いますし、最近この差がとても重要なことだと思っています。
私もロックンロール会計士さんのご質問には、できるだけ真摯にお答えしようと思っておりまして、ちょっと回答までに時間がかかるのですが、こういったご質問はたいへん刺激を受けます。私自身も、確定した事実関係のうえで、問題を詰めて考えていきたいと思います。また、いろいろとご質問、ご意見をお願いします。

投稿: toshi | 2008年12月 6日 (土) 02時22分

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