法人登記簿の代表者住所を原則非公開に??
詳しくは司法書士さんのブログで解説されるものと思いますが、17日の日経夕刊の記事によりますと、法人登記簿の閲覧については「代表者住所」が制限されるよう、政府が検討しているとのことで、法制審議会などで詰める・・・ということだそうであります。(日経ニュースでも掲載されています。日経ニュースでは、早ければ2009年の会社法改正も視野にいれている・・・とありますね。)
私はこの記事を一読して、記事が誤っているのではないかと思いますが、いかがでしょうかね。ご承知のとおり、法人登記簿に掲載されている住所には「本店住所」と「代表者住所」(たとえば株式会社なら代表取締役、代表者を指定していない特例有限会社であれば取締役等の住所ですね)があり、誰でも閲覧できますし、謄写もできます。もちろん、そこそこ大きな会社であれば本店住所と代表者住所は別々でありますが、日本のほとんどの株式会社は代表者の住所を本店住所として登記しているはずです。「雇われ社長さん」の場合には、実質的なオーナーの住所が「本店住所」だったりします。したがいまして、「代表者住所」の閲覧制限をしても、「本店住所」が記載されていればほとんど意味がありませんよね。となると、閲覧制限が検討されているのは、ひょっとすると「代表者住所」とともに「本店住所」も含む、ということなのかもしれません。
たしかに先日の元厚生次官の方々のいたましい事件がありましたし、個人情報保護の観点から制限することにも理由があるとは思いますが、その(住所閲覧制限による)恩恵を受ける社長さんは、全体のごくごく一部の方々でありまして、ほとんどの「町の社長さん」方はその恩恵を受けられないことになりますので、著しく平等原則に反する取扱いになってしまうのではないでしょうか。(この平等原則違反の取扱を正当化できるだけの合理的根拠って、なにかありますでしょうか?)となりますと、個人情報を平等に制限するならば「代表者住所」とともに「法人住所」も制限する必要があるのかもしれません。ただ、日本の裁判制度は「本人訴訟」が原則ですから、「裁判を起こしたい」と言って、法務局へ行けば、少なくとも「法人住所」は(たとえ閲覧制限されていても)誰にでも開示されることになります。また、たとえば「法人住所を探したけど、そんな会社がなかったので、代表者の住所に訴状を送りたい」と法務局で言えば、これまた国民には裁判を受ける権利がありますので、誰に対しても代表者住所の開示を拒否することはできないでしょう。そうしますと、「訴訟手続など、正当な利用目的のある場合に限り開示を認める・・・」などと条件を付してみても、ほとんど意味がないことになります。結局どのように個人の住所閲覧制限を法制化しても、その制度趣旨は実現できないと思われます。
むしろ、反社会的勢力に属する方かどうか、フロント企業に属する会社なのかどうか、といった調査することや、立証するための資料に乏しくなるために、逆に凄惨な事件が増えるような気がするのでありますが、いかがなものでしょうか。
PS ところで「司法書士さん」といえば、「認定司法書士さん」の業務に多大な影響を及ぼすといわれる平成20年11月10日神戸地裁(第6民事部)判決が話題になっていますね。被告の司法書士さんは現在控訴中とのことで、まだ裁判は確定しておりませんが、今後の刑事犯罪の主観的要件の立件にも関わる重要な判決内容ですので、冷静に今後の動向を見守りたいと思います。
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コメント
本年も宜しくお願いします。
法人代表者の住所ですが、会社法改正のときに議論があり、結局従前通りとなったと記憶しています。会社法改正に関するパブリックコメントの検討のときにもセキュリティの問題は議論しましたが、セキュリティは設備の充実等で実現できるし、謄本の住所の閲覧制限をしてみたところで、本気で命を狙ったり恐喝するような輩は、法人登記の住所閲覧を制限しても他の方法で住所を特定してしまうでしょうから、無意味だろうと。
むしろ、代表者個人の責任を追及する(代表訴訟だけでなく、法人の不法行為事案、法人代表者個人の責任、証券訴訟の場合の代表取締役への訴状の送達や、仮差押の保全の必要性に関する事項の疎明の場合など、裁判上の権利行使に重大な支障を来し、代替性がない限り、制度変更による弊害が大きいのではないかと思いますが、いかがでしょうか。
投稿: Kazu | 2009年1月20日 (火) 16時12分
補足ですが、法制審議会会社法(現代化関係)部会第8回会議(平成15年7月2日開催)の議事録に、議論の記録が残されていました。その中には、ほぼ山口先生のご説明と一緒の部分もありました。先生のセンスに敬意を表します。
投稿: Kazu | 2009年1月20日 (火) 16時39分
Kazuさん、こんぱんわ。コメントありがとうございました。
また、詳細な議事録にまでお目通しいただいたうえでのご意見、おどろきました。私は記事から脊髄反射的にエントリーしたものですが、どうも「会社法」といいながら、一部の大きな会社の事情だけが議論に反映されていないだろうか・・・といった懐疑的な気持ちになりました。(決して事件を軽視しているわけではございません)こういった議論が最近のコーポレートガバナンス論議にも反映されているような気もいたします。
裁判上の権利行使への支障に関するご指摘、まさにそのとおりではないかと思料いたします。とくにご指摘のとおり保全処分などではかなり債権者側に疎明資料へのアクセスが困難になってしまいますよね。こういった規制は法律実務への影響を十分に吟味したうえで検討してほしいところだと思っております。
投稿: toshi | 2009年1月22日 (木) 02時05分