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2009年1月 9日 (金)

IFRS(国際財務報告基準)の適用と「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準」

昨日から日経新聞で連載されている「国際会計基準がやってくる(日本とここが違う)」を興味深く読ませていただいております。(9日の朝刊が最後のようです)アメリカが発展させた細則主義からEU基準の原則主義に転換する(連単分離論からすると連結財務諸表について、ということなりますが)ということで、商社や製造業の大手上場企業さんでは、すでにIFRS準備室も活動を開始しているとのこと。また、IASBの要望なのかどうかは存じ上げませんが、各国の大手監査法人さんも、IFRSの適用を想定して多くの会計士さん方が勉強をしなければならないそうですので、担当者の方々は今後ますますお忙しくなるのでしょうね。

以前にも少しエントリーで書かせていただきましたが、このIFRS(通称:国際会計基準)が直接適用された場合の法律問題というのは、もうどこかで既に議論されているのでしょうか?(もし議論されておられるところがあればお教えいただきたいところです)税金・配当可能利益計算は個別財務諸表(日本基準)ということでしょうから、違法配当罪や特別背任罪の該当性は別としましても、有価証券報告書虚偽記載罪(粉飾決算)については連結財務諸表が問題となりますので、当然のことながら金商法上(連結財務諸表等規則1条)の「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準」とIFRSの関係が問題となるわけであります。これまでは日本のASBJ(企業会計基準委員会)が開発してこられた会計基準がこれに該当するものである・・・と(規則1条2項の文言からほぼ異論なく)認識されてきたわけですが、日本からおひとりだけ理事が選出されているIASB(国際会計基準審議会)が策定する基準が(アドプションということになりますと)そのまま金商法上の「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準」になる、ということも異論なく認識されるのでしょうか?もし基準になるとすれば、それはどういった理屈によって基準であると説明されるのでしょうか?これは未だよくわからないナゾです。ましてや、「基準」といいましても、それが「原則主義」ということを前提としますと、書かれてあるものだけが「基準」なのか、それとも書かれていない原則(GAAP?)も「基準」と呼ぶのか、その場合、書かれていない原則は、コンバージェンスが進むであろう個別財務諸表の日本基準適用の際の会社法上の「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」における「慣行」と同一なのかどうか?(ウーーン、ますますもってナゾであります)

連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則
   (規則の適用)
    第一条

 金融商品取引法 (昭和二十三年法律第二十五号。以下「法」という。)第五条 、第七条、第九条第一項、第十条第一項又は第二十四条第一項若しくは第三項(これらの規定のうち第二十四条の二第一項において準用し、及び財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則 (昭和三十八年大蔵省令第五十九号。以下「財務諸表等規則」という。)第一条第一項 の規定により金融庁長官が指定した法人(以下「指定法人」という。)についてこれらの規定を法第二十七条 において準用する場合を含む。)の規定により提出される財務計算に関する書類のうち、連結貸借対照表、連結損益計算書、連結株主資本等変動計算書、連結キャッシュ・フロー計算書及び連結附属明細表(以下「連結財務諸表」という。)の用語、様式及び作成方法は、財務諸表等規則第一条の二 の規定の適用を受けるものを除き、この規則の定めるところによるものとし、この規則において定めのない事項については、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従うものとする。

2 金融庁組織令 (平成十年政令第三百九十二号)第二十四条第一項 に規定する企業会計審議会により公表された企業会計の基準は、前項に規定する一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に該当するものとする。

とくに、公認会計士さんの刑事責任や民事賠償責任というのは、ほとんどが被監査対象会社の倒産が引き金になるわけですから、いまのように経済情勢が極めて悪い場合には、民事再生法適用会社(粉飾決算がからむケースでは、裁判所から管財人が選任されると思いますので)については、再生債務者管財人から刑事告訴や民事賠償責任を追及されるケースはまちがいなく増加すると思われます。(先日のナナボシ事件地裁判決にあるように、先行する金融庁の行政処分と、裁判所の判断とは、その目的を異にしておりますので、金融庁から処分がなかったことについては、あまり司法判断には影響しないものと思われます)現に、先日の長銀粉飾決算事件判決や一昨年のライブドア刑事第一審判決などのように、「公正なる会計慣行」の中身が司法判断によって決定されてしまい(ライブドア事件の際には判断は回避されましたが、それでも投資事業組合は脱法行為目的で作出されたものであるから、その存在は法律上認めない・・・との理屈は、法律家には判断構成が理解できても、会計専門職の方々には不可解な印象が残ったものだと思います)、会計実務に関与されておられる方々は戦々恐々とされておられるようであります。こういった時勢におきまして、法律とIFRSの関係がどうもよくわからない・・・といった状況のまま制度が開始されるとなりますと、会計専門職の方々も大きなリーガルリスクをかかえたまま監査に臨むこととなり、「後だしジャンケン」で負けて監査法人自身も大きな社会的信用を毀損することになりかねないことを懸念いたします。

本日の日経新聞では、原則主義といいましても、粉飾決算のリスクの高い項目については規則が明確になっている、という点が指摘されておりましたが、そうはいっても書かれていないところを企業経理担当者や監査法人さんが解釈しなければならない度合いはこれまでよりも強くなるのですよね?「基準」をルールと捉えるのであれば、罪刑法定主義との関係や強制力の正当性根拠(法の委任?)、複数の基準を認めるのかどうか、監督庁たる金融庁の処分と裁判所の判断とはどういった関係に立つのか?といった問題点をクリアする必要があるでしょうし、「基準」を原則と捉えるのであれば、「一般に公正妥当」であるとは、どういうことなのか?実体なのか手続なのか?誰が「公正妥当」と最終的に判断するのか?日本基準と国際基準の「原則」は同じなのか?といった問題点が浮上するのではないかと考えております。(ちなみに「ルール」というのは法規範に準ずるような規則のこと、「原則」というのは規則を解釈するときの指針・・・程度にお考えいただければ結構です。原則ととらえるのであれば「唯一の基準」なる概念は出てこないように思いますし、ストック重視、フロー重視といった会計論争を含めて「真実性の原則」にいうところの「相対的真実」なる会計的発想とも合致するように考えております。)

なんだかんだ申しましても、最終的には裁判所が(紛争解決に必要な範囲において)個々の企業に適用されるべきルールは決定するわけでありますので、会計専門職の方々も、裁判所ルールとか、エンフォースメントの在り方については理解をしていただく必要があると思います。しかしながら、社会インフラとしてみた場合、会計士さん方が安心して監査に臨める環境、そして、多少アブナイ企業であっても、正々堂々と監査をすれば、たとえ粉飾を見抜けなかったとしても監査責任を問われない環境をできるだけ早く作り出すためには、そろそろ、こういった「法と会計の狭間にある問題」にクリアな整理がほしいところであります。

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コメント

そもそも監査で結果責任が問われることはないことは、機関ではないとか法的形式は違いますが、責任については、役員の責任論と同様と思います。

GAAP自体は、IFRSになろうが、現行であろうが、なんら変わらないのですが、どうも法律論だけが乖離している感が否めません。

会計自体がこれだけ変化のある時代において、会計は、責任論以外に多様な機能があるので、一元的にどれが妥当かを論じるのが、どうも無意味な気がしてなりません。


失礼ですが(すみません)。。。

投稿: 無悔 | 2009年1月 9日 (金) 22時27分

いまでも米国基準で作成した連結財務諸表を有価証券報告書に載せている会社はあるわけですから、それと同じ扱いにすればいいんじゃないですかね。

投稿: 証券投資家 | 2009年1月11日 (日) 21時09分

細則主義と原則主義の違いがあるので、同じ扱いというわけにはいかないのでは?

投稿: unknown | 2009年1月11日 (日) 22時21分

連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則93条とか、会社計算規則148条とかみたいな規定をつくれば足りるのかなと

投稿: 証券投資家 | 2009年1月12日 (月) 14時01分

皆様ご意見ありがとうございます。どれも勉強になります。ご異論は大歓迎ですので、またよろしくお願いいたします。

一元的に論じるのは無意味、というのももっともであります。ただ、現実論として、刑事罰、行政処分(課徴金、最近は公認会計士さんにも適用されます)、民事賠償責任がとわれる場面においては、最終的に「どれが正しいのか」が議論されるわけでして、幅のあるものと一元的に解決することとの整合性はどこかでつけなければならないのではないでしょうか?結果責任が問われることがないのは当然ですが、故意過失が問われる前提事実については一元的判断(粉飾があったか、なかったか)が先行するでしょうし、また故意過失がなかったことは証明責任としてはけっこうたいへんなことだと思われますし。

投稿: toshi | 2009年1月13日 (火) 02時11分

企業会計審議会の企画調整部会の議事録(IFRSについて)がアップされてますね。実務家としては、連結先行は確定なのか、適用時期はいつからなのか、等を早期に決めてもらいたいのが本音です。現行の基準から、IFRSへの変更はかなり大変な作業になる、というのが私の見立てです。

会計処理についての両者の相違は、日経あたりでも取り上げられていますが、財務諸表の様式も大きく変更される可能性が高いのですが、余り話題になりませんね。現在、IASBとFASBが共同で、財務諸表の様式について討議資料が公開されていますが、現在の日本基準の財務諸表とはまったく違った様式です。(マトリックス型財務諸表といわれているようです)

投稿: 迷える会計士 | 2009年1月14日 (水) 22時59分

ご指摘ありがとうございます。一度議事録をきちんと読んでみます。>迷える会計士さん

ところで「概念フレームワーク」の話題が最近多いですが、IFRSの導入となりますと、やっぱりこれも大きな問題になるのでしょうか?また、おヒマなときにでも、実務家の視点でお教えいただければ幸いです。

投稿: toshi | 2009年1月15日 (木) 02時43分

IFRSについては、コンバージェンスとアドプションを(わざと)混同
して脅迫ビジネスをしているところがあるようです。アドプションに
ついては、アメリカが2014年に大規模上場会社に適用することが
ロードマップ(案)で出たばかりであって、日本がそれより先行して
アドプションを強制適用することは企業会計審議会の議論を読んでも
まずありえないと思います。
またIFRS自体が収益認識やリース会計について根本的な見直しを
するようですので、2011年のコンバージェンス対応をきちんと行う
こと以上には現段階ではやりようがないと思います。

投稿: nightwalker | 2009年1月16日 (金) 19時55分

nightwalkerさん、コメントありがとうございます。(おひさしぶりでございます)ロードマップ案は11月に出たやつですよね?IFRSはあまり詳しくはありませんが、専門家の先生方とお話をしていても、ほぼ同意見ではないかと思いました。

ただ、先のコメントにも書きましたが、「原則主義」というのが今後の会計(監査)実務にどういったインパクトがあるのか、イメージがいまだわいてきませんので、そのあたりを門外漢ではありますが、もう少し勉強したいと思っています。今後ともどうかよろしくお願いします。

投稿: toshi | 2009年1月18日 (日) 11時28分

企業会計審議会から、「我が国における国際会計基準の取扱いについて(中間報告)」(案)が出ましたね。いわゆるロードマップにあたるもので、最終決定は今夏になるようです。

これによると、IFRSの任意適用は2010年3月期から、強制適用は2012年を目途に決定されるようです。先日、会計士協会のIFRSに関する研修に出席してきたんですが、金融庁の担当者が事務方としては強制適用については、2015年ないし2016年を考えているとの発言をしていましたので、この辺になりそうですね。

投稿: 迷える会計士 | 2009年1月29日 (木) 10時04分

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