「まじめの崩壊」と企業コンプライアンス
和田氏のブログによりますと、もうずいぶんと前から書きたかったテーマだったとのことで、日本人が確実に「ふまじめ化」していることへの警告を発しておられると同時に、その対応策についての提言が「まじめに」語られております。企業コンプライアンスに関連するテーマや、株主資本主義に関するテーマなども語られておりますが、おそらく私などが問題としている企業コンプライアンスや金商法上の内部統制報告制度について異論を唱えておられる(もしくは懐疑的な意見をお持ちの)方々は大いに賛同される内容ではないかと思います。私などは、よく「社外の常識と社内の常識の差を意識せよ」などと(コンプライアンスに関連する問題について)申し上げることが多いのですが、和田氏風にいえば「そもそも社内にだって常識が通る人もいれば通らない人もいる、また社外にだって通る人もいれば通らない人もいる。また同じ人間でも常識が理解できるときもあれば(精神状態によっては)理解できないときもある。むしろ「常識」が通る人はどんな人なのか、通らない人はどんな傾向があるのか、そこまで辿らなければ問題は解決しないでしょ」といった具合です。和田氏はこれを精神医学的分類によって「メランコ人間」と「シゾフレ人間」に分けて詳説されており、そもそも日本は「メランコ人間」が支配していた社会が、現在は「シゾフレ人間」が支配する社会に移行しつつあると考察されておられます。(いや、この分析は実におもしろい。賛同するか否かは別として、企業コンプライアンスを検討するにあたっては新しい視点であります)
最近よくプリンシプルベースとルールベースのお話を、このブログでもさせていただくことが多いのでありますが、和田氏曰く「そもそも、この国にはプリンシプル(物事の道理に沿って動くこと、筋を通すこと)は存在しないということは戦後から言われていたことであって、それでもうまく社会が動いていたのは、ルールベースと日本人のまじめさにあった。つまりルールの執行者が適正に執行してくれる、という信頼関係と、見せしめ的な執行があればその見せしめが社会に実効性を有していたからだ」とのこと。ふまじめ化が進行するなかで、これまでのルールベースの規制に実効性がなくなってしまうと、プリンシプルになじみのない国民への法執行は崩壊すると予想されております。このまま社会の「ふまじめ化」が進行すると、弁護士が儲かる社会になっていくだけである、といった批評もされておりまして、(はたして弁護士業が儲かるのかどうかはわかりませんが)ルールベースに慣れ親しんできた者が、「これからはプリンシプルベースで考えよう」といった意識でうまく法の執行が機能するかどうかは、たしかに和田氏のご指摘のとおりかもしれません。
本書の提言は広く日本社会全てのに向けられたものではありますが、企業コンプライアンスや内部統制といった問題に限っても、これまでのコンプライアンス指南書とはまったく別の観点から、食品偽装や性能偽装問題を考えたり、また最近のある建設会社の裏金工作事件について、不祥事発生の原因や再発防止策の本質はどこにあるのか等、検討する際には参考になる一冊ではないかと思います。
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コメント
お久しぶりです。中堅企業の内部統制担当者のtonchanです。
個人的には2月の下旬以降は怒涛のロールフォワード監査に入ってしまうのでかなりブルーになっております。
このお話はおもしろいですね。内部統制を考えるときには統制環境が最重要と認識しています。その前提として性善説か、性悪説か、性弱説かなんてことを考えていたことを思い出します。
そうではなくて「まじめ」か、「ふまじめ」かですか?なるほどそれならば理解できることが実際にありますね。話しをする(audit)では性善なんだけど「ふまじめ」だから危ないなんてことは有るでしょうね。今までは性善なんだから忙しいとか教育不足とかと判断しているのが、覆るわけです。
来期に入って時間ができれば、読んでみたいと思います。
toshi先生も体に気をつけて頑張ってください。ブログはいつも楽しみにしております。
投稿: tonchan | 2009年1月30日 (金) 16時23分
tonchanさん、こんぱんは。
「性善説」というのは、言葉は優しいですけど、結構コワイ言葉と認識しています。まじめである、ということと結合しますと、特定人の性格を過信しすぎて、監査の目が甘くなる傾向になりますよね。つまり、「性善説」というのは、監査する側にとっても誘惑的であって、監査をさぼるための方便として利用されるケースがあると思います。
とくに運用評価という面における改善策を提言する際には、私は「性弱説」なる用語を使うようにしています。思考を停止させないためにも必要かなぁと。
今後ともよろしくお願いいたします。
投稿: toshi | 2009年1月31日 (土) 19時55分