上場廃止基準の緩和と上場会社のコンプライアンス
月曜日の日経朝刊一面記事で東証・大証は時価総額が一定額を下回った企業を上場廃止や指定替えにする基準について、これを緩和する方針を固めた・・・とあります。(日経ネットニュースはこちら)東証を例にとると、1部、2部、マザーズと、それぞれの基準とも下限金額を4割程度下げるとのこと(たとえば2008年に指数が60%以上下落したマザーズだと5億→3億ということになるのでしょうね)東証の有価証券上場規程(平成20年8月5日改訂分)601条(4)によると、「ただし、市況全般が急激に悪化した場合において、当取引所がこの基準によることが適当でないと認めたときは、当取引所がそのつど定めるところによる」とありますので、昨年11月以降は、この規程によってルールの適用を一時停止していたようです。
今回は601条(4)の適用によるのではなく、そもそもルール自体を変更する、ということで多くの上場会社が時価総額基準抵触(上場廃止の猶予期間突入)の事態を回避できる、ということになるようであります。株価下落傾向はずいぶんと長引く、ということが言われていますので、(反対意見はあるものの)経営改善策が直ちに株価の上昇には結びつかないと思われますし、このあたりはやむをえないところではないでしょうか。この緩和基準を適用すると、東証だけで抵触会社が30社以上→10社程度となるそうですが、こういった基準緩和が上場企業のコンプライアンスとどのような関係にあるのか、私的にはとても関心のあるところであります。こういったブログを始めてから、いろいろな適時開示をみるようになりましたが、やはり時価総額が廃止基準にひっかかってしまうことと、企業の無理な資金調達スキームとの関連性は否めないところですよね。キャッシュリッチな企業であれば業績下方修正の発表と同時に自社株買いを決定してなんとか株価の下支えを行うことも可能かもしれませんが、そもそも資金に乏しいわけですから、「そっちの方向」でなんとかしたいと思うのも当然かと思われますし。反社会的勢力と上場企業との接点が増えたり、一般投資家に対してグレーな開示情報が流れたり、(さすがに最近は減ってきましたが)露骨に既存株主から第三者への富の移転が生じるようなケースも多かったと思うのでありますが、とりあえず今回の緩和方針によって、こういった不適切な開示、スキームによる資金調達方法は(少なくとも一時的には)減少傾向に向かうのではないかと予想しております。(甘いでしょうか?)
しかし、取引所にとって「頑張って経営改善をして、市場に残ってほしい」企業がダーティーな資金調達に手を染めることを回避することはいいと思うのでありますが、もともと「早く出て行ってほしい」と思っておられる企業にも同じく延命措置をとることになりますが、こちらはどう考えたらいいのでしょうかね?証券取引所としては別途「企業行動規範」によって次善の策を検討されているのでしょうか。取引所とは別の話でありますが、ここで最近気になるのが日本公認会計士協会による「会員に対する懲戒処分」なのであります。オピニオンショッピングを繰り返す上場企業にとって「優しい」会計士さん方や、期中の会計監査人交代時における引き継ぎ不足、不足を認識したうえでの高いリスク管理を怠った会計士さん方が次々と懲戒の対象となっております。(しかし審査対象事実はずいぶんと以前のお話なんですね)こういった懲戒の内容をみますと、上場企業全般への監査に対する厳しい対応というよりも、会社内部でゴタゴタが発生し、内部統制をきちんと構築できない企業、つまり開示情報にも一般投資家保護の要請を期待できないような企業に対する監査上の警告が発せられているように思われます。どっちかというと、こういった監査法人側へのけん制によって、「市場から退出してもらいたい企業」への対応がはかられているようにも思いますが、いかがでしょうか。
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コメント
こんにちは。遅くなりましたが本年もよろしくお願いします。
(4半期決算、J-SOXの実行など)上場維持コストもバカにならない、IPO初値を超えない銘柄が普通になりつつある他、上場の意義をもっと議論する制度になってほしかった、とこの記事を日経新聞を読んだ時に思いました。制度そのものの緩和はいかんなあと。
上場の継続を認める代わりに、整理ポストの親戚のような、「緊急避難ポスト」でも作って、そういった企業と普通の企業を分ける、ということもありではないかと。
こういった企業の株価は乱高下が激しいので、「そっちの方向」の投機家に狙われやすくないかと感じました(この期に及んでそういった企業に投資している「保護すべきかわいそうな一般投資家」はかなり少ないと考えますがいかがでしょう?)。
ご退場された方が、結局混乱が少なくならないかなあ(迷惑するのは持ち合い株主と創業者等インサイダー投資家ぐらいじゃないかと)。
頑張ってほしい企業であれば、また投資家がつくし、経営改善の暁には再上場すればいいじゃないかと(経営者の責任や2度目のIPOコストなどの議論は別ですが)。
長い目で見れば、しっかりした経営をしていればいつか良質な資金調達は結局は可能になる、ということのインセンティブを持たせる制度がいいなあ。
投稿: katsu | 2009年1月13日 (火) 15時08分
Toshi様
新年のご挨拶が遅くなり、申し訳ございません。
本年もよろしくお願いいたします。
(と申しましても、コメントさせていただくこともたまにしかありませんので、あれですが)。
ところで、問題?企業の退出ですが、会計士協会と証券取引所、役所等でなにか役割分担でもあるんでしょうかね。末端会員にはあずかり知らぬことですが。
個人的には、まっとうな仕事をしない専門家(医者や弁護士も)がペナルティーを受けるのは非常に結構なことだと思っております。
投稿: ロックンロール会計士 | 2009年1月13日 (火) 20時42分
遅くなりましたが、今年もよろしくお願いします。Toshi先生はじめ皆様のコメントで勉強させていただきます。
またまた生意気ですみませんが、コンプライアンスばかりでなくさまざまなルールは根底から変わるということはないでしょうか。覇権の多極化は避けられそうもありませんので、一度ご破算になって本当のグローバルな基準ができてくるのではないかということです。全部ということではないですが、かなりの仕組みが互いの利害を踏まえて調整され、再構築されていくのではないだろうかという感じがしてなりません。めまぐるしく敵味方が変わりますから、タフ・ネゴシエーターがいないと大変です。内弁慶だと孤立化してしまいます。昭和初期の再現だけは勘弁してほしいものです。
コンプライアンスに関して言えば、今後の経済状況を考えれば、費用・負担が掛からない仕組みが必要ではないでしょうか。金太郎飴がいい国はそれでいいでしょうし、広く知恵がある国はその実態に合わせた仕組みを考えた方が効率的ではないでしょうか。その代わり仕組みはどうでも、犯罪や脱法行為、反社行為などの結果にはきちんと落とし前をつけさせることです。立派なコンプライアンス組織を掲げた企業の体たらくをみれば、一体何のための大号令だったのだろうかと思います。形や数値化ばかり追いかけて、根本的な人間をコントロールする知恵を盛り込まなかった制度だったように感じます。
コンプライアンスは信用の源ですから、長く商売をするには、ずっと大切な価値基準だったと思います。反社接近・類似業種を除けば、歴史のある企業なら規模に関係なくコンプライアンスはしっかりしているように感じます。資本市場ばかりでなくさまざまな市場で信頼性をチェックしていくことは重要ですが、日本企業が生き延びるために負担・費用のかからない《スマートな》仕組みに作り直す勇気も求められるのではないでしょうか。
投稿: TETU | 2009年1月16日 (金) 01時10分
katsuさん、TETUさん、今年もよろしくお願いいたします(ロックンロール会計士さんは、別のエントリーでごあいさつさせていただきましたよね?)また、コメントありがとうございました。
特設注意市場銘柄はたしか2社指定されていると思いますが、「緊急避難ポスト」とは少し趣旨が異なりますから、そういったものも検討されるべきかもしれませんね。ただ、取引所の審査体制が追いつくかどうか・・(^^;というところが問題かもしれませんね。
NBLの新春対談で、落合先生と久保利弁護士との「どうやってコンプライアンスを浸透させるか」という話題のなかでも、やはりコンプライアンスの費用対効果がみえにくいことがとりあげられていました。インセンティブを含めて、このブログでも真剣に考えていくつもりです。
投稿: toshi | 2009年1月18日 (日) 11時20分