最高裁(第一小法廷)2連発判決の重み
今日(1月22日)、最高裁第一小法廷から重要判決がたて続けに出ていますね。(どちらも即日、最高裁HPに判決全文が掲載されておりますので、ご関心のある方はそちらをご参照ください)とくに「(過払金の返還債務の消滅時効に関する)個別進行基準」が否定されたことで、明日の消費者金融会社の株価がどうなるのか注目であります。
もうひとつの「相続預金の取引履歴の開示」に関する最高裁判決は、ちょっと報道されているものを読んでもわかりにくいように思います。整理しておかなければいけないのは、この最高裁判決は、あくまでも「取引履歴開示」に関するものであって、相続預金口座の残高照会に関するものではありませんので、ご注意ください。金銭債権は相続開始によって、各相続人に分割承継されますので、金融機関は各相続人からの問い合わせに対しては残高の有無、金額を回答する必要があるはずです。(現にそのような取扱がなされているはずであります。ただし払い戻しについては遺産分割協議や他の相続人全員の承認書がなければ応じられないと思いますが)
そのうえで、あらためて最高裁判決の論点ですが、そもそも預金契約は一般には消費寄託契約(準消費寄託契約)と解されていますので、預金者からの請求があれば預かっているお金を返還すればいいだけのはずです。もちろん民法665条により「消費寄託契約」には「委任に関する規定」が準用されているのでありますが、委任契約における受任者の報告義務(同法645条)は明確にその準用規定からは除外されているので、そもそも金融機関としては取引履歴を報告する必要はないのではないか?といった問題が発生するわけですね。今日の最高裁判決は、まずこの預金契約の法的性質について、自動引き落としや定期預金自動更新などの複合的なサービスが含まれていることに着目して、預金契約は、単純な消費寄託ではなく、そもそも委任契約(もしくは準委任契約)の性質を含むものである、という点を明らかにしたところが論点になるものと思われます。最高裁が「金融機関の事務処理の適切さについて(預金者が)判断するために(取引履歴の開示は)必要不可欠」とする理由を示しているところにも注目ですね。
さて、金融機関に預金者に対する取引履歴の報告義務があるとしても、これを相続人のひとりが単独で開示請求できるか、というのが次の論点ですね。高裁はどうも、先の「個別承継した預金債権」の存在からストレートに開示請求を認めたようですが(あくまでも報道ベースからの推測です)、財産権(金銭債権)の存在と、契約上の地位とは別個に考えるべきですし、最近よく議論されている信託法の理論からみても、別個に扱うべきではないかと思います。そこを最高裁判断はうまく切り抜けて預金契約上の地位は個々の相続人に存在するのではなくて、共同相続人全員に準共有(民法264条)として存在することを明らかにしております。そのうえで共有物の保存行為として(同252条但書)単独請求を認容しているようです。上告人(金融機関)の主張している「被相続人のプライバシー侵害」については、あっさりと排斥されてしまったようであります。
金融機関の守秘義務の解除に関する判例は、このところ非常に多いように感じております。この最高裁判決の先例としての妥当範囲はどこまでなのか、(また、含みを残している「権利濫用」とは、どのような場合が該当するのか)そのあたりは、また金融法務に精通された先生方の判例評釈を楽しみにしております。
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