« 2009年1月 | トップページ | 2009年3月 »

2009年2月28日 (土)

公認会計士に対する収賄罪の適用(その2 お詫びと訂正編)

2月26日のエントリー「公認会計士に収賄罪は適用されるのか?(プロデュース粉飾決算事件)」につきましては、法律家でありながら、いろいろと解説内容に誤りがございました。(前のエントリーも関連個所を訂正しております)とりあえず、皆様方へのお詫びを兼ねまして、もうすこしマシなエントリーをアップさせていただきます。

報道内容は、プロデュース社の上場時より会計監査を担当されていた某会計士さんが、プロデュース社の粉飾決算を黙認するかわりに高額の監査報酬(有価証券報告書において明示されている報酬額よりも、実際には高額だったようです)を受領していたことについて、有価証券報告書虚偽記載罪とは別に、会社法上の収賄罪(会社法967条1項3号)の適用も検討されている・・・ということでありました。

旧商法の時代から、会計監査人にも会社法上の(商法上の)贈収賄罪の適用はありまして、商法特例法28条1項に規定がございます。また、会社法972条(法人における罰則の適用)とほぼ同様の規定が、商法特例法28条2項に規定されておりまして、そこでは「会計監査人が監査法人である場合には、会計監査人の職務を行う社員が、その職務に関し」自らわいろを収受したり、監査法人をして収受させることについても同様に罰せられることが明確に規定されております。(たいへん失礼をいたしました)

ところで、この規定を前提に現行の会社法の規定をよく読みますと、なるほど、私が誤解をしておりましたようで、会社法967条1項3号における「会計監査人」の解釈と、同法972条の解釈とは関係がないということのようであります。つまり、967条1項3号で「会計監査人の収賄罪」の構成要件に該当する会計士さんは、「会計監査人又は第346条第4項により選定された一時会計監査人の職務を行うべき者」であります。この「職務を行うべき者」というのは、「会計監査人」にもかかってくる言葉ですから、そうすると、ここにいうところの「会計監査人として職務を行うべき者」というのは、会社法337条2項に出てくる「会計監査人に選定された監査法人は、その社員の中から『会計監査人の職務を行うべき者』を選定し、これを株式会社に通知しなければならない。」と規定されているところと合致することになります。(また、これで商法特例法の規定内容と、会社法の規定内容がピッタリと合うことになりますし、公認会計士法上の「代表社員」かどうか、という議論とも関係なく、会社法上の会計監査報告書に署名捺印される方が、この収賄罪の対象になる、ということでまちがいないと思います。)967条1項と972条とがうまく整合しないのは当然でありまして、これで少しスッキリしました。

さらに、迷える会計士さんより、「過去に会計士が収賄罪で起訴されたことはあるのでしょうか?」とのご質問がありましたので、商法特例法の時代までさかのぼって、調べてみましたところ、刊行物には登載されておりませんが、有名な三田工業事件(刑事判決)におきまして、三田工業株式会社の会計監査人が、違法配当罪とともに、商法特例法第28条1項の罪(収賄罪)にて起訴され、有罪判決(懲役1年6月 追徴金2979万円)を受けております。(大阪地方裁判所平成11年11月8日判決)ちなみに、この収賄罪の部分における裁判所の認定事実の要旨は、

三田工業株式会社の取締役甲は、同社の第48期以降の各期の計算書類等について監査を実施する職務を負っていた同社の会計監査人乙に対して、・・・甲ら取締役が行う粉飾決算等不正な会計処理の事実を黙認したうえ、監査報告書には、右不法な処理がなされている旨を指摘せず、計算書類等が法令、定款にしたがって適法に記載されている旨の意見を付してもらいたい旨の不正の請託をし、・・・その謝礼の趣旨で、乙に対して前後32回にわたり、法定監査報酬の名目でわいろ金合計2979万1680円を振込入金し、もって乙の会計監査人としての職務に関して、不正の請託をして賄賂を供与(会計監査人側からみれば賄賂を収受)した、

というものであります。なるほど・・・、こういった重要判決のなかで、従来から会計監査人にも会社法上の収賄罪が適用されている先例がありますので、今回のプロデュース社の事例におきましても、会社法967条または商法特例法28条1項の適用に関心がよせられていることにつきましては間違いないところではないかな・・・と思い直した次第であります。(ただし、前回のエントリーで述べたような理由から、その立件には困難が伴うであろう、といった私見につきましては、従前と変わりませんが。でも、恥ずかしながら、ずいぶんと内容や意見を変更いたしました。)

| | コメント (1) | トラックバック (0)

2009年2月27日 (金)

内部通報制度の運用はむずかしい・・・(その2)

ちょうど1年前の2008年3月に内部通報制度の運用はむずかしい・・・として、ある自動車販売会社における内部通報事案をご紹介いたしましたが、本日(2月27日)の読売新聞の一面記事に、東証一部のオリンパス社の内部通報事件が掲載されております。(読売新聞ニュースはこちら)昨年の自動車販売会社の事例とは異なり、こちらは社内のヘルプラインの責任者が幹部社員に対して、通報者が特定できる情報を開示してしまった、という事案のようです。(会社側の反論として「本人からの同意があった」という点では、昨年の自動車販売会社の事例と同じであります)

私も昨年よりも若干、外部通報窓口業務の数が増えまして、現在(グループ企業を合わせて)10社以上の内部通報(外部窓口)業務を継続しておりますが、正直申し上げて「内部通報窓口業務はキレイな仕事ではない」と断言できます。(これは、当事務所にご依頼されている会社様が聞いてもナットクしていただけるはず。ちなみに、私はどこの企業の窓口をやっているか、ということはもちろん秘密。そこの社員さんが口外してしまったらわかっちゃいますけど。)関係者の方にはお伝えしておりますが、昨年12月ころから、退職者もしくは退職間際の方の通報事例が非常に増えました。(ちなみに、ヘルプライン規約では、退職後1年未満の方の通報も受け付けるところが多いと思います。もちろんパート社員の方の通報も受け付けます。)以下、私の最近の経験より・・・

ある会社では、○○運転懲罰規約が制定施行された後の○○運転事案でありましたが、完全に匿名通報で受理し、また社内責任者も匿名で調査したにもかかわらず、すぐに誰が通報したのかは判明してしまいました。そうすると、通報者から私に電話がかかってきて「先生、あれほど匿名でお願いします、と言ったじゃないですか!!『窓口の弁護士が名前を出した』って、みんな噂してますよ!!!どうしてくれるんですか!!!!」

「・・・・・・・・」(呆然・・・)

ある会社では、支店長による○○偽装事件に関する匿名通報、こちらも社内責任者も匿名で社内調査のうえ、事実を把握。その後、社内における事情聴取のため、匿名通報者へ連絡すると

「え!? 私そんなこと言いましたっけ? とりあえず、迷惑なんで、もう電話かけてこんとってくれます?」

「・・・・・・・・」(唖全・・・委員会や忘年会をキャンセルして、年末に走り回ったのはいったいなんのためだったのか?)

もちろん、外部通報窓口は、社内責任者にさえ名前を明かさず、そのうえで事前説明も記録化しており(調査内容によっては、社内の雰囲気によって誰が通報したのか判明してしまう可能性があるが、それでもいいか?)、また、調査結果については有利・不利を問わず、きちんと通報者に説明することを前提としてやっているわけでありますが、こんな感じであります。もっとひどいのになりますと、法律事務所の事務局にひととおり(一方的に)伝えた後、「弁護士さんに同じことを伝えておいて」で電話を切る方もおられ、これでは正式な通報とは言えないものの、放置するわけにもいかず、事後手続に追われるなど、混迷を極める事案が増加中であります。(そういえば、ひとつ終わると、「これ次の案件ね」と合計4つほど通報されてきた方もいらっしゃいました。「いったいこの人は何者やねん」と思いましたが・・・)巷間、ヘルプラインをサービス提供するコンサルティング会社などありますが、いったいどうやって窓口業務を遂行しているのか、果たしてきれいに事務処理ができているのか、本当に聞いてみたいところであります。

皆様、内部通報制度の運用については本当にお気を付けください。私、ちょっと前までは偉そうに「内部通報で社内が変わる!」などと申し上げておりましたが、最近は少し気持ちが変わりました。よくよく考えてみると、私のような個人事務所にニッチなコンプライアンス案件を依頼するような(奇特な)上場企業というのは、実は前から総務や法務にユニークで進取の気性をもった担当者がいらっしゃって、会社の経営者も、そういった(ブログにまで目を通している)担当者の意見を最大限尊重している会社なんですね。だから、そもそもあまりコンプライアンス的に大きな問題が発生しないところが多いようです。だからこそ、大胆にも、毎月一回「内部通報はこの法律事務所へ」などと社内広報もしているわけです。(たしかにそこまで広報しますと、次から次へと通報が届くわけでした・・・)つまり内部通報で社内が変わるのではなく、そもそも社風のいい会社の内部通報窓口をやっているにすぎない・・・というのが、真実なのかもしれません。

しかし、このたびの内部統制報告制度における「全社的内部統制」の整備として、付け焼刃的にヘルプラインを設置したような会社の場合には、今回の新聞事例のように、窓口業務の基本的なところで紛争が発生するリスクが非常に高いと思います。とりあえず、通報手続の失敗のなかから学ぶ必要が絶対にありますよ(^^; そのためには通報手続の集積が必要であります。私の実務経験からするならば、通報者と会社と、どっちの言い分が正しいのかはわかりませんが、こういった紛争に発展すること自体が、ヘルプラインの運用に不備があると言わざるを得ません。社員にとって、どこに窓口があるかもわからず、またどんなことが受付られるのかも周知されていない、といった会社はけっこうあると思いますが、この制度の運用におきましては、会社の言い分と通報者の言い分とが、五分五分の場合、実質的な紛争に至った場合には会社側が全面的に不利な状況に置かれることは留意しておいたほうがよろしいと思います。このたびの報道にもありますように、内部通報制度の運用不備が露呈しますと(「制裁人事」等の労働問題に絡む案件になりますので)「人権救済センター」が即時動き出します。(このあたりも、社会の常識と会社の常識とが乖離しているところかもしれません)通報があれば、ぜひ早めに顧問弁護士さんとご相談されることをお勧めいたします。

| | コメント (13) | トラックバック (0)

2009年2月26日 (木)

公認会計士に収賄罪が成立するのか?(プロデュース粉飾決算事件)

(2月28日 重要な訂正あります)

(2月27日 追記・訂正あります)

迷える会計士さんから教えていただいて知りましたが、プロデュース社(民事再生中)の会計監査を担当されていた会計士さんが粉飾決算事件に関連して、(おそらく)有価証券報告書(届出書?)虚偽記載罪で告発される(かもしれない)とのことであります。ただ、それだけでなく、粉飾決算を黙認する代償に、不正に高額の監査報酬を受け取っていたとして、会社法967条1項による取締役等の贈収賄罪によって告発される可能性があるそうです。(時事通信ニュースはこちら)プロデュース社の会計士さんにつきましては、昨年10月の「プロデュース社の粉飾決算と公認会計士の関与」なるエントリーでご紹介いたしましたが、まさか収賄罪に関する容疑までかけられるとは、予想もしておりませんでした。

ところで、この会社法上の「取締役等の贈収賄罪」でありますが、旧商法の493条(発起人・取締役等のとく職罪)が改定された規定でありまして、旧法時代には含まれていなかった「会計監査人」が、取締役等と並んでこの収賄罪の主体として新たに含まれることになりました。(会社法967条1項3号)最高裁判例(昭和34年12月9日)や通説は、この会社法上の贈収賄罪について、刑法上のわいろ罪と同様の性質、保護法益と解しているようですので、「会計監査人」が新たに追加されたといいましても、その職務の廉潔性(および株式会社制度の信頼確保)を保護するととらえれば、それほど不思議なものではないと思われます。ただ、会社法上の贈収賄罪という規定は、会計監査人はもちろんのこと、取締役らにおきましても、過去にはほとんど適用された例はないですよねたぶん立証がむずかしいからだと思います。取締役らの行為を「不正」と捉えることもむずかしいですし、金銭の流れについて、不正との「対価性」を特定することも困難だからではないかと推測いたします。また故意の認定もむずかしそうであります。

しかし、このプロデュース社の会計士さんもそうですが、会社法上の「会計監査人」というと、監査法人という「法人」を指す場合もあります。(会社法337条1項)会社法972条によりますと、同法967条の「会計監査人」が法人である場合には、「その行為をした取締役、執行役、その他業務を執行する役員又は支配人に対してそれぞれ適用する」とありますので、そもそも、監査法人さんの普通の社員たる公認会計士さんには、この贈収賄罪は適用されない、ということになります。(これって、さきほどの保護法益の考え方とは矛盾しますよね?監査証明業務の廉潔性を保護するのであれば、監査法人の一般社員さんも同様に主体となりうると思います)また、そもそも今回のように業務執行社員とか指定社員たる立場にあった監査法人(会計監査人)の会計士さんというのは、どの条項によって「収賄罪」が適用されるのでしょうか?「その行為をした業務を執行する役員」ということなのでしょうか?しかし会社法上の「役員」とは取締役、会計参与、監査役のことを指すわけですから(会社法854条1項)、監査法人さんの業務執行社員はこれに含まれないですよね。支配人というのも違うようですし、それではいったいどうやって公認会計士さんに対して会社法上の収賄罪が適用されるのでしょうか?なんか、私自身の考え方に基本的な誤りがあるのかもしれませんが、どうも不思議であります。(※1)

※1 実際に監査報告書に署名捺印するのは「代表社員」の方でしょうから、代表社員であれば「役員」に含まれます、とのメールを何名かの方にいただきました。ちょっと私の文章がまずかったかもしれませんが、ここでは署名捺印をされない会計士の方々も念頭に置いて記述していたものでして、たしかに署名捺印される会計士の方、ということでしたら、別の議論になるかと思います。(しかし、有限責任監査法人さんの場合には、たしか「代表社員」さんがかなり限定されてきたのではないでしょうか?)

なんだかこの会社法967条はナゾの多い規定のように思われますので、捜査機関が勇気をもって本件に適用する可能性は薄いのではないか・・・というのが私の個人的な考えであります。ただ、企業の社会的責任が叫ばれ、コンプライアンスが重視される世の中となって、「取締役の職務の廉潔性」「公認会計士の証明業務の重要性」が社会的な要請である、ということになりますと、思いきって問題提起されてもいいのかもしれません。

(2月28日追記:従来より、会計監査人にも収賄罪の規定はありましたので、お詫びして訂正いたします。商法特例法28条をご参照ください)

| | コメント (5) | トラックバック (0)

2009年2月25日 (水)

株主総会・賛否の議決権の個数開示は進むだろうか?

Amanojackさんや機野さんより、月曜日のエントリーに関連して、「民間部門だけでなく、公的機関においてもガバナンス改革はやるべきではないの?」といったコメントを頂戴しておりましたが、そのようなご意見を後押しするような判決が出ているようであります。姉歯元一級建築士の設計に係る建築強度偽装物件の所有者が、コンサルタント会社と愛知県を相手方として損害賠償請求訴訟を提起しておりましたが、愛知県にも建築審査において注意義務違反があったとして、同県に対して5700万円の賠償命令が下された・・・というものであります。一連の耐震偽装事件におきまして、行政の責任が認められた初めての判決だそうであります。(朝日新聞ニュースが、かなり詳しく報じております。そういえば耐震偽装事件発覚のころ、私がイーホームズを擁護する発言をして、皆様から総スカンをくらったことがありましたっけ…笑)神戸の震災の教訓を生かさなければならないのは官も民も同じでしょうし、機野さんがおっしゃるように、公共団体の内部統制についても裁判所は厳しい目を向けることになるのかもしれません。(ちなみに、大規模一般社団法人につきまして、新しい法律では内部統制システムの構築に関する規定がありますよ。あまり知られていないのですが・・・)

個人的な趣味による執拗なネタでありますが、月曜日にもエントリーいたしました「金融庁・我が国金融・資本市場の国際化に関するスタディ・グループ」の2月10日付け会合の議事要旨が公開されております。たしか2月11日ころのフジサンケイ・ビジネスアイだけがこの会合の内容について報じておられましたが、やはり既報のとおり、株主総会における議決権行使結果の開示の是非が相当議論されていたんですね。(議事要旨の後半部分に、賛否両論による議事内容がまとめられております。)日本ハウズイング社やアデランスHD社のように、総会検査役が選任されたうえで、その議決権行使結果が注目されるような会社以外では、たとえば資生堂社などが総会前日までの議決権賛否の個数開示を行ったようでありますが、我が国ではまだごく少数にとどまるものであります。しかしながら、中央大学の大杉教授が商事法務2008年12月25日号「なぜ、どこまで、株主総会は変わったか?」なる論稿のなかで「気にかかっている」点として指摘されているように、「賛否の議決権の個数開示」については多数の国内外の投資家より意見が述べられているようでありまして、大杉教授も、(事務手続きの煩雑さなどの技術的な問題はあるにせよ)賛否の具体的状況を開示する試みがなされてもいいのではないか、と私見を述べておられます。社外取締役制度導入問題の帰趨とも関連するかもしれませんが、やはりこの論点については、「とりまとめ」のなかで、なんらかの指針が出るのではないか・・・といった印象を受けますね。もしソフトローによる規制であったとしても、株主総会における事務手続きは、たとえ前日までの集計のみとしても、ちょっと総会担当者の方々の頭を悩ませることになるのかもしれません。

それともうひとつ、総会担当者の方々にとって影響が出そうな記事ですが、会社法上の少数株主権の行使期限が2週間→4週間に延長されるようですね。(日経ニュース)3月下旬に施行されるように、パブコメを経て政令が改正されるようですから、このあたりは注意が必要ですね。株券電子化(社債、株式等の振替に関する法律)の施行によって、少数株主権行使にあたっては、会社法130条1項の例外規定の適用を受ける(つまり、少数株主は、株主名簿の記載によって会社に対抗するのではなく、株券電子化の施行による「個別株主通知手続き」によって権利を行使する)ことになりますが、この個別株主通知を発行企業が受けてから、4週間以内に株主提案権を行使すればいい、ということになります。共同提案行為が不当に侵害されるのでは?といった批判に対して法務省が応答したことになり、株主の権利行使の機会が実質的に確保されたものといえそうですが、いっぽうで個別通知の申出を行った株主に変動が生じる可能性は増えたことになるのでしょうね。ちょっと、新聞報道ではわかりにくいのですが、「なんで個別株主通知の申出をした株主が、2週間とか4週間とか、その行使期限がわかるの?」といった素朴な疑問が湧くかもしれません。これは、振替機関(ほふり)が、口座管理機関から特定情報を集計後に、発行企業へ通知をしますと、その旨をほふりより(株主が申出を行った)口座管理機関に伝えてきますので、その口座管理機関から、当該株主へ「個別株主通知済通知」の内容が伝えられる・・・という仕組みがあるからですね。またそもそも「なんで2週間だと株主による共同提案行為の侵害にあたるの?」といったあたりも素朴な疑問が湧くところかと思いますが、これも受付票を共同提案代表者がとりまとめを行って口座管理機関に送付すればいい、というだけのものでもなく、たいへん事務量が増えてしまいますので、そのあたりの説明がなされないとちょっとわかりにくいのではないでしょうか。

| | コメント (5) | トラックバック (0)

2009年2月24日 (火)

監査役の利益相反問題について考える

昨日は、かなり難しいエントリーだったにもかかわらず、辰のお年ごさん、機野さんに励ましのコメントをいただきまして、ありがとうございました。「具体的な問題について、さらに検討してください」といった辰のお年ごさんのご要望とは少しずれるかもしれませんが、2月23日の適時開示情報のなかで、コーポレート・ガバナンスの問題として、少し気になったものがありましたので、簡単にご紹介いたします。

昨年「続・監査役の乱」のエントリーにて、すこしだけご紹介しました昭和ゴム社の件でありますが、元社外監査役の方が取締役を相手に責任追及訴訟を提起した件につきまして、半年以上経過した後に(本件に関する)情報を開示した、というものであります。(当社による当社取締役に対する訴訟提起に関するお知らせ)このお知らせでは、「なぜ情報開示が遅れたのか」という点についての理由も記載されておりまして、またそもそも昭和ゴムさんの場合には、かなりその支配権をめぐって紛糾している状況もありそうですから、部外者である私が詳細も知らずにツッコミを入れることについては差し控えさせていただきます。

ただ、昨年6月18日に元社外監査役の方が、取締役らに対して責任追及訴訟を提起したのは、一般株主からの提訴請求を受けてのことでありました。先の「お知らせ」によりますと、半年以上の間、この訴訟は進行していなかったことになりますので、はたして当該提訴請求株主へはどのような説明をしていたのだろうか?という点が気になります。今回の件で、そのまま訴訟を取り下げずに継続しよう・・・といった決断に至ったのは、もし取り下げるとするならば、この提訴請求株主に対して不提訴理由通知(正確には提訴はしていますが、会社判断によって取り下げるのであれば、やはり不提訴理由通知は必要なんでしょうね)が要求されるからではないでしょうか。また面倒なことになるよりも、このまま裁判を継続したほうが穏便に済ませることができる・・・といったことから、訴訟を進行させることになったのではないかと(このあたりは、あくまでも推測でありますが)

そして、もっとも気になりましたのが、訴訟を提起した監査役が辞任されたということで、その後を承継して訴状を陳述した、という社外監査役の方であります。有名な米国法律事務所の弁護士さんでありますが、そもそも被告である取締役のなかには、この方を社外監査役に選任する議案を決議した取締役さんが含まれております。ご自身を監査役として推薦した人を相手に責任追及訴訟を提起する・・・ということだけでしたら、むしろ社外監査役としての正当な職務権限の行使であります。しかしながら、この社外監査役の方は、その監査役選任の発端となった株主支配権をめぐる新株発行差止仮処分命令事件におきまして、会社側に補助参加人として参加した新株引受企業の訴訟代理人を務めておられた方であります。また、この仮処分命令申し立ては、元社外監査役の方の責任追及訴訟の原因事実と極めて関連性のある裁判であります。そのような仮処分事件におきまして、第三者割当増資の引受企業の代理人をされておられた方が、その仮処分事件の結果(昭和ゴム社側の勝訴)によって監査役に就任されたわけですから、独立公正な立場で監査役としての職務を全うできるかどうか、という点においては少し疑問符がつくのではないでしょうか。(あくまでも私見にすぎませんが)

もちろん昭和ゴムさんの複雑なご事情については知悉しているわけではございませんので、実質的にはいろいろと理由があるのかもしれません。また、昭和ゴムさんの場合、社外監査役はもうひとりいらっしゃいますが、こちらも顧問弁護士たる立場として、先の新株発行差止め仮処分事件では昭和ゴムさんの代理人を務めておられますので、こちらも責任追及訴訟を継続するにあたっての「適任者」とはいえないかもしれません。ただ、常識的に考えてみても、はたしてこういった方々が、一般の株主に代わって独立公正なる立場で取締役さんらの責任を追及できるか?といえば、外観的には首をかしげたくなるのではないでしょうか。会社法の教科書的な説明ですと、監査役には善管注意義務はあっても、忠実義務は認められないとされております。しかしながら、こういった場面において、監査役にも外観的には利益相反問題が発生することで、「忠実義務」に近い責務が認められることもあるのではないか・・・と感じる次第であります。なお、この昭和ゴム社の問題については、先日の春日電機社の株主総会開催禁止の仮処分決定でも話題となりました「第三者増資と会社による議決権行使株主の選択」に関する論点もあるようで、たいへん興味深い事例であります。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年2月23日 (月)

2009年のコーポレートガバナンス論議の行方(素人的予想)

今年はいろいろな団体(組織)でコーポレートガバナンス改正に関する議論が交わされていることは皆様もすでにご承知のことと思います。そのなかでも、議論の進展が一番はっきりと公開されているのが金融庁「我が国金融・資本市場の国際化に関するスタディグループ」の討議内容ではないかと思いますが、とりあえず1月19日の会合まで、その議事録が公開されております。これまでの流れから今後のガバナンス改正の行方(ゆくえ)について無責任な感想を述べてみたいと思います。(こういったモノサシを提示してみるのも、今後の改正論議を理解するにあたっては役に立つのかもしれませんので。)

金融庁の資本市場SG(スタディ・グループ)でも、やはり経済産業省「企業統治研究会」と同様、社外取締役の導入義務化、独立性強化(要件厳格化)の傾斜が一番はっきりとしてきたように思います。なぜはっきりとしてきたか、と言いますと、社外取締役制度導入に向けての前提の議論が明確になってきたからであります。つまり、社外取締役制度の導入義務化に関しては、これまで①我が国特有の「監査役制度」によって代替できるではないか、という議論と②社外取締役制度を導入することによる企業のパフォーマンス向上は、これまでなんら実証されていないではないか、という議論であります。しかし、最近の議論を聞いておりますと、(1)実証手続は決め手にならない、そもそも悪い経営者が現われたときの暴走を抑制できるシステムとしてこそガバナンス改正は意味がある、(2)監査役制度は日本独特の制度であるからこそ、海外の投資家にはよくわからない、むしろ監視する者に取締役の選任、解任権が付与されていないことについて、海外では評価されないのであって、ガバナンス向上のための安定した制度とはいえない、といったところが社外取締役制度の導入義務化を推進する方々の有力なご意見のようです。(最近は、こういった社外取締役制度導入義務化を推進する方々の意見がかなり強くなってきたのではないかと思われます。)

こういった「社外取締役制度導入論への傾斜」が進むなかで、では(かりに社外取締役制度の独立性強化、導入義務化を進めるとした場合に)上場会社にどうやって導入していくのか(その実効性を確保していくのか)という次の論点がありまして、そこでは主に①会社法改正による、②金融商品取引法改正による、③証券取引所における自主ルール(企業行動規範)改訂による、④以上の改正方法の組み合わせによる、といったあたりの方策が考えられるところであります。そして、さきほどの金融庁SGの議事録などを読んでおりますと、メンバーの方々の発言記録などからしますと、上場企業のガバナンスにかかわる問題ゆえに、証券取引所における自主ルールによる実効性確保が妥当ではないか、との意見がかなり出ているようでありますが、当の取引所の方は、自主ルールで実効性を確保するよりも会社法の改正によって確保していくべきではないか、といった消極的なご意見を述べておられるようであります。(証券取引所が自主ルールによる実効性確保にかなり慎重な意見を述べておられるのは、やはり経済団体との関係からなんでしょうね)

しかし約4000社のうちの半分程度の上場企業では、社外取締役がまったく存在しないわけでありまして、(企業統治研究会の配布資料にあるように)いくら米国在日商工会議所による圧力が強いからといっても、社外取締役の導入義務化を企業行動規範によって実行する・・・というのは、かなり衝撃的な流れでありますので、どうも早急な実現はむずかしいところだと思われます。(たしかに真剣に検討されてはいるようですが・・・)そこで、とりあえずは会社法による改正や自主ルールによる改正のような、きわめて強制的なルールの導入ではなく、金融商品取引法による改正という手法が一番穏健な対応ではないかと思います。いわゆる「開示ルール」(社外取締役の人数および独立性に関する開示事項の追加と、ガイドラインに沿わない場合の説明義務)による社外取締役制度の導入の実効性確保であります。(自主規制ルールによる「ガバナンス報告書」の記載要領によることも考えられるかもしれませんが)

ただし、開示ルールによる実効性確保・・・というのも、それだけでは有効性に疑問が生じるかもしれません。そこで議決権行使を通じたガバナンスの発揮、という論点が組み合わされる可能性というのが出てくるのではないでしょうか。先日の金融庁SCでも議論された、と報じられておりますが、たとえば(2008年度の資生堂さんのように)株主総会における各議案の議決結果について、単に可決か否決かだけでなく、賛成・反対の票数まで公表することを、取引所ルール等で求めていくといったことを組み合わせることで、先の開示ルールによる実効性を担保する、ということであれば、徐々にではあるでしょうが、社外取締役制度の効果を検証しつつ、導入する方向へと向かうのではないかと思われます。「なんでもかんでも株主意思を問う」といった極端な株主権ガバナンスの偏重志向を「社外取締役制度」によって回避しつつも、一面において社外取締役の一斉導入義務化といった急進的なガバナンス改正にもブレーキをかける必要もありそうですし、その調和ラインをどこに求めるべきか、ということが今後のコーポレートガバナンス論議の大きなポイントになるように思われます。

| | コメント (4) | トラックバック (0)

2009年2月19日 (木)

MBO(株式非公開化)と監査役の意見陳述権

江東区の事件につきまして、昨日地裁判決(無期懲役)が出ましたが、もし裁判員制度が始まったら、どういった判決になっていたでしょうか?真剣に考えこんでしまいそうです。(以下本題です)

会社と監査役との対決の匂いがすると、どうしても本能的に反応してしまう癖がありますが、昨年12月26日のエントリーでも書かせていただきましたグローウェルHの子会社である寺島薬局さん(JASDAQ 2月下旬に上場廃止予定)が、3月2日をもって株式非公開化手続きをほぼ完了し、3月3日の臨時株主総会(A種種類株主総会)に変わる書面決議(会社法319条、320条、325条)をもって新たにお二人の監査役さんを選任されるそうであります。(会社のリリースはこちら

関係者の方々にご迷惑をおかけしてはいけませんので、何度も関係リリースを読みなおしたのでありますが、どうも理解できない点がございます。まずは、会社側より辞任勧告決議が出ておりましたK常勤監査役さんは、いったいどうなったのか?という点です。Kさんは、地元新聞社の記事では「法的手続きも辞さない」とおっしゃっておられたことからしても、辞任勧告決議には応じることができなかったようで、その後の会社側リリースでは、本年1月下旬の臨時株主総会において、当該常勤監査役さんの解任決議に関する議題が上程されたようですが、その結果については会社側からは報告されておりません。(もちろん、親会社であるグローウェルさんのリリースも探したんですけど、やっぱり掲載されていないようです)そのかわりに、新たに選任された取締役さんのご紹介リリースのなかで、「現在の監査役は以下の4名です」といった紹介がなされておりますが、そこにはすでにK常勤監査役さんのお名前は消えております。会社側は、K監査役に対する辞任勧告決議を行い、その結果についてはご報告いたします、と述べておられるにもかかわらず、なぜお名前が消えているのか・・・どうにも理解できないところであります。(誰が読んでも?と思われるのではないかと)

そして、その後上記4名の監査役さんのうち、弁護士資格を保有しておられる2名の社外監査役の方々が、1月末に「業務の在り方に関して、会社側と監査役会との間に重大な考え方の相違が存在するため」との理由で辞任をされ2月3日付けリリース)、その結果法定の監査役員数を満たさなくなったために、今回2名の監査役が選任される・・・という流れになるわけであります。(ちなみに、譲渡制限株式会社化するにもかかわらず、定款一部変更によって監査役の定数を4名から5名以内に広げているところもよく理解できないところであります)ここで、親会社と子会社とのご事情などを安易に推察することは控えますが、やはり信頼関係がうまく構築されていない状況にはあるようでして、親会社の経営の在り方を十分に新生「寺島薬局」さんに浸透させるべく、監査役の刷新を図ろうとされていることは間違いないようであります。

ところで、この1月30日に辞任をされた監査役の方々は、いわゆる「権利義務監査役」(後任の監査役さんが決まるまでは、たとえ辞任をしても、まだ監査役としての権利を有し、義務を負う:会社法346条1項)たる立場にありますので、会社法上では監査役の選任についての同意権と意見陳述権(会社法343条1項、同345条1項)を有しているでしょうし(監査役会の構成員として)、またご自身方が、どうして監査役を辞任されたのか、という点についての意見陳述権を有しておられる(会社法345条4項)と思われます。ところが、この新しい監査役さん方は、寺島薬局さんが完全譲渡制限株式会社に生まれ変わった当日に、書面決議をもって選任される・・・ということになりますので、株主総会は開催されないわけでして、そうしますと、監査役固有の意見を陳述する権利を行使できなくなってしまうわけですよね。(A種種類株主総会は、選解任種類株主総会ではなく、実質的には普通株主と同じを思われますので、たとえ大株主しか存在しないとしても、監査役には意見陳述権は存在しますよね)このあたりは、実質的には大株主の単独株式保有に近い・・・ということから、とくに監査役の意見陳述権は確保されなくてもいいのでしょうか?ただ、最近は神戸に本社を持つ某会社のMBO事例でも問題となりましたが、株式非公開化手続きの公正性などにも(元株主、もしくは1株以下の端株保有株主などの少数株主的立場にある方が)関心が高まっておりますので、こういった場面における監査役さんのご意見というのも、けっして無視しうるものではないように思いますが、そのあたりはどうなんでしょうか。会社と委任関係にある監査役という職務は、現に株主である方々のためだけでなく、これまで株主だった方々への事後報告まできちんとやりぬくことも含めての「委任関係」「善管注意義務」ではないかと思うのでありますが、いかがなものでしょうか。

| | コメント (3) | トラックバック (0)

2009年2月17日 (火)

財務報告に係る内部統制報告制度対応状況結果(監査役協会)

(ご紹介した書籍の編著者名に誤りがありましたので、訂正いたしました。ご指摘いただいた元PwCの方、どうも失礼しました。ときどき恥ずかしい誤りがありますので、ご指摘いただけますと助かります。。。)

ここのところ、世間で話題になりつつも、自分の頭では理解できないことを書きつづることが多くなっておりますが、「かんぽの宿」騒動もそのひとつであります。総務相が問題視したことによってかんぽの宿の売却にあたり、「企業価値算定」(バルクセール?)と入札のデュープロセスという、二つの論点が浮かび上がってきたことは皆様もご承知のことと存じます。私が疑問に思いますのは、これほど世間で「企業価値」が話題となっている今こそ、「継続事業のお値段とはこういったもの」というMAご専門の方々の意見が日本中に広まるのではないか、(もしくは国民が耳を傾けるのではないか)と期待するのでありますが、ほとんど聞こえないのであります。なぜ「私はこういった理由から日本郵政の行動を擁護する!」といった声が聞こえてこないのでしょうか?マスコミで報道されているように、一方的にケリがついてしまった話題なのでしょうか?著名な金融機関に3億円ものアドバイザリー報酬契約を締結したうえでの「企業価値算定」なるものは、ひとりの政治家に一喝されただけでめげてしまうような「砂上の楼閣」程度のものなのでしょうか?(もちろん違いますよね?)「反社会的勢力」について語ることは、そんなにタブーなのでしょうか?合理的な根拠を示して日本郵政の立場を(ある程度)理解することはそんなにむずかしいことなのでしょうか?ダイヤモンドオンラインにおいて、慶応大学の先生が「こういった局面でこそ、ネットでの意見が民主主義を支えるべきなのに、そういった声が上がらないということは、やはりネットというものはゴミの山にしかすぎない」とおっしゃっておられましたが、(ちょっと悔しいですけど)まったく同感であります。こういったときにこそ、ご専門家の方々の賛否両論についていろいろとご意見をお聞きしたいと思うのでありますが、私の知る限りでは中央大学の野村先生、木村剛さん、貞子ちゃん、こばんざめさん、そして入札手続きの公正性の面からgo2cさんあたりが堂々と反論を述べておられますが、そういった意見がマスコミで採り上げられているケースはほとんどみられないのではないでしょうか。(私が情報に疎いだけなんでしょうかね・・・・・・・以下、本題です)

さて、個人的にはたいへん興味のあります内部統制関連の話題でありますが、2月12日付けにて、日本監査役協会より「第2回・財務報告に係る内部統制報告制度に関するインターネット・アンケート調査結果(速報)」がリリースされております。また、このアンケート結果をもとに、異例の緊急告知が出されておりまして、内部統制報告制度の下での期末監査のスケジュール(モデル)も併せて公表されました。(なお、内部統制報告制度の下での監査役監査報告書の記載の在り方についても、4月上旬ころに監査役協会よりなんらかのモデルが公表される見込みのようです)ちなみに緊急告知の中身は、①期末監査のスケジュール及び対応方法を早期に固める必要がある、②対応計画に遅れを来たさぬよう、円滑な進捗に努める必要がある、というものでして、このアンケート結果をもとに会員企業への緊急のコメントとして発信されております。

回答時期は平成20年12月中旬から本年1月中旬ころ、回答社数は約1500社(有効回答)で、そのうち東証1部、2部上場企業が70%(その他新興市場上場会社が30%)ということでして、上場企業の内部統制対応の進捗状況を知るうえでは、かなり信頼に足る調査結果ではないかと思われます。なお、3月末決算日の企業は全体の8割です。

興味深いのは(監査役としての立場だからかもしれませんが)「重要な欠陥の存在は極力避けなければならず、そのためには万全を期すが、決して無理な対応はせず、かりに期末に解消されない重要な欠陥が存在したら、適切に開示すればいい」と考えている監査役さんが全体の18%もいらっしゃることです。(ちなみに無理をしてでも重要な欠陥を解消すべき、が20%、いまの状況からすると重要な欠陥はない見込みというのが58%)また、取締役と監査役との間で「重要な欠陥」に関する評価についてほぼすべての企業で「認識に相違はない」とされているなかで、適用初年度においては「重要な欠陥が残る可能性が高い」「内部統制監査で意見不表明となることが相当程度懸念される」との回答が合計で8%程度存在するところにも注目です。しかも、この8%の中身は、いわゆる東証1部、2部上場企業のほうが、新興市場企業よりも圧倒的に数の上では多いといった事情にも留意する必要がありそうです。(まだ真剣に重要な欠陥が残るのかどうかを協議していない企業さんも多いのかもしれません)

たしかに問19-1(期末監査のスケジューリング)において、約半数の企業が「まだ期末監査に関するスケジューリングについては話をしていない」と回答されておりましたので、上記のような緊急コメントになったのかもしれませんが、ただ(3月決算の場合)第3四半期の決算報告会の席上でスケジューリングについての協議がなされたところも多いと思いますので、それほど対応が遅れている・・・というところも多くはないような気もいたします。

最近、「IFRS(国際会計基準で企業経営はこう変わる)」(東洋経済新報社 PwC Japan プロジェクト室 編著)を拝読いたしましたが、IFRS実務の前線にいらっしゃる方々も、アドプションに向けた取り組みの第一に「IFRSの原則主義」をとりあげておられますし、また原則主義のもたらす不正リスクについても言及されています。IFRSが導入されることで、「なぜそのような会計処理方針を採用したのか」といったあたりは各企業は詳細な説明が要求されるそうであります。こういった原則主義の適用や、公正価値会計重視の方針が、ますます企業における内部統制構築への要請を高めるものと思われますし、まさに内部統制報告制度が「原則主義の第一歩」として、企業に浸透していくことに期待をしております。

| | コメント (15) | トラックバック (1)

2009年2月16日 (月)

「漢検」は一体どこが悪いのか?

日曜の夕方の読売テレビ系列(日本テレビ系列?)「バンキシャ」で漢検問題が特集されておりまして、その理事長(および長男である副理事長)の財団法人を活用した金もうけスキームの数々が強く非難されておりました。ご承知のとおり、最近の漢検パッシングは相当なものであり、まさに「つるしあげ」状態といっても過言ではありません。しかし、この「漢検」(財団法人日本漢字能力検定協会)でありますが、(もちろん非難されるべき点はあるとは思うのですが)、いったいどこが非難されるべき点なのか、私にはちょっと理解しづらいものでありまして、どなたか詳しい方に教えていただきたいところです。

まず、平成20年12月1日から施行されました「一般社団法人および一般財団法人に関する法律」によれば、現在の漢検は移行過程にある「特例民法法人」たる地位にありますので、今後平成25年11月30日までに公益認定を受けた一般財団法人もしくは認定を受けない一般財団法人に移行すればいいわけでして、それまでは整備法によればこれまでの公益法人とまったく同じ立場にあります。もちろん移行するまでは、これまでと同様の名称を使用してもかまいません。また、移行手続きが完了するまではこれまで通りに文部科学省の監督下にありますから、先日のように(漢検がこれから公益認定を受けることができるだけの実体を備えているかどうかを調査するための)文科省の立ち入り調査が行われることになります。(ただし、この調査は捜査のために活用することはできません)

非難が多いのが「漢検はもうけ過ぎではないのか?」という点でありますが、非営利の財団法人というのは、設立者に利益を配分しなければいいわけで、財団法人自身がどれだけもうけても、それを設立者(漢検の場合は現理事長さんですよね)に還元しなければいいわけです。漢検では、現理事長が代表者を務める法人が下請けとして業務委託を受けているわけですが、直接漢検から利益を還元されているわけではありませんので、この非営利性に反することはありません。つまりもうけ過ぎても、これを内部留保しておくことは何ら非営利性に反することにはならないはずです。また公益性についても、「寄附行為」(これは株式会社の定款にあたるものです)に記載されている公益目的に従った活動を行っていれば文句ないわけで、ご承知のとおり広く漢字検定を行い、また漢字検定用の刊行物を配布して手数料収入を得ることは、公益目的に合致するものであって、なんら非難されるものでもありません。

つぎに、公益法人といいながら、もうけ過ぎているのに、税制面での優遇措置を受けているではないか?といった点にも非難が集中しています。たしかに財団法人が高い手数料をとって、何らの目的もなく内部留保に回している、ということであれば、そういった批判も当たっているのかもしれませんが、業務委託を受けた理事長の関連会社自身が、かりに大きな収益を上げているのであれば、そこで高額の税金は支払っているわけですから、むしろ税制面では貢献しているのではないでしょうか?また、もうけ過ぎ禁止=優遇措置ではなく、公益目的達成=優遇措置ですよね。ということは、きちんと公益目的事業をはたしていれば優遇措置を受けられるのは当然のように思うのでありますが、どうなんでしょう。したがって、優遇措置の悪用という意味での批判も当たっていないのではないかと思われます。

本日の「バンキシャ」で最も説得的な批判として報道されていたのが「本来、業務委託として適正な印刷費は5000万円だったにもかかわらず、公表された計算書類によると印刷費は4億5000万円である。差額の4億円はどこへ行ったのか?」といった内容でした。コメンテイターの元東京地検特捜部長の方が「刑法上の背任行為にあたる」と明確にご意見を述べておられたのも、この点に関するものではないかと推察いたします。5000万円がはたして適正な印刷費なのかどうかはわかりませんが、問題意識としては正しいと思いますし、理事長関連会社がこういった不明瞭な支出によって利益を上げていた点についてはたしかに非難されるべきではないかと思われます。(この点は理事長側からの説明がないので、なんとも申し上げられませんが)ではなぜ非難をされるのでしょうか?本来公益目的に使用しなければならない財団資産を、自身の関連会社の収益に挿げ替えて利益を得ていることでしょうか。そうであるならば、究明されるべきは財団法人のディスクロージャーの問題であり、不明朗な会計が許されないようなガバナンスを備える必要性にありそうです。しかし、財団法人にはそもそも一般投資家のような存在はないわけで、ディスクロージャー制度を充実させても、それを真剣に精査する(そしてストップをかける)動機は誰も持たないわけですよね。また、今後の(移行が予定されている)一般財団法人では評議員(評議員会)、監事、という「理事を監督する機関」が存在することになるわけでありますが(これは現在の任意制度としての評議員とは異なります)、この評議員等は監督懈怠の場合、財団法人もしくは第三者から監督責任を追及される立場にあります。しかし、もともと構成員も存在せず、しかも儲けることを本旨としない一般財団法人において、いわば社会貢献として評議員、監事たる立場に就任する方々が、なにか問題が発生した場合には損害賠償責任を負わされる・・・というのであれば、(会社法同様、責任限定契約制度は存在するわけではありますが)誰も評議員などなり手がいないわけでして、まともに監督できる人は誰も就任しないのではないかと思われます。また唯一、漢検のような大規模財団法人の場合には会計監査人による会計監査が義務化されることに期待がもたれるところでありますが、これも架空売上のような粉飾には有効であっても、利益圧縮のような不明瞭会計処理にはどこまで有効に機能するかは不明であります。実際のところ、理事長が非難されているにしても、マスコミによる話題が通り過ぎてしまえば、誰もまた理事長の不明瞭な支出をとめることができる者はいない状態になってしまうのではないでしょうか?監督官庁の監視を厳格にせよ・・・という意見も出てくるわけですが、25000もある社団法人や財団法人への監督など、それこそ非現実的でありまして、また「小さな政府」や「官民癒着による天下り防止」といった今回の一般社団、財団改革の趣旨に反することになってしまいます。

このように考えていきますと、そもそも漢検自身には非難されるべき点はなく、非難される可能性があるとすれば理事長個人ではないかと思いますし、また仮に理事長が非難を受けるということであれば、公益法人というものは、(誰も見ていないところであっても)誠実で高潔な人しか理事長に就任してはいけないのだ、ということを示すものだと思いますが、ガバナンスが期待できないところで、個人の社会貢献のための倫理的行動に期待する、ということは、現実論としては無茶な話でありまして、もしそういった制度こそ公益法人改革というものであるならば、おそらく公益目的を長期間にわたって達成できるような公益法人は今後登場しないように思いますが、いかがなものでしょうか。

| | コメント (10) | トラックバック (0)

2009年2月15日 (日)

性能偽装事件(リーガルリスクとレピュテーショナルリスクの狭間にて)

久々の「コンプライアンス経営はむずかしい」シリーズですが、最近もときどき「偽装事件」に関するご相談を企業側から受けることがありまして、企業サイドからみると、対応に苦悩するケースに遭遇します。以下は、あくまでも架空の事件ではありますが、皆様方はどのように対応されるでしょうか。

某上場企業A社は、商品Bの業界シェア1位のメーカーであるが、商品Bの安全基準が厳しいために製造過程における商品B構成部品の品質検査、および完成品たる商品Bの集荷時安全検査が法定化されている。ある日、A社の内部通報窓口(弁護士事務所)に、A社退職従業員より「A社では長年『品質検査』では、外部検査官に対して別のサンプルを持参して検査を受けている」との通用があった。外部窓口弁護士は、社内調査機関に通報を伝達して、社内調査が開始されたところ、実際には10年も前からサンプルを変えて品質検査を受けていたことが判明した。品質検査はサンプリングによるものであり、また検査官はいわゆる「天下り官僚」がトップの品質検査機関に所属している。なお、製品の最終段階における安全検査を受けているため、たとえ品質検査において部品の性能に問題があったとしても、商品の安全性にはとくに問題がないとされており、これまでも問題が発生したことはない。

さて、こういった事例、最近はよく聞くところでありますが、社内調査機関の調査によって、現場サイドが独断でサンプル偽装を敢行したことが判明しております。このあたりは昨年のエントリーでも書きましたが、現場サイドでのサンプル偽装の動機は十分にあるわけでして、こういった品質検査協会による検査で「ミス」が露呈されますと、次の再検査までに時間を要し出荷が間に合わなくなるという事件に発展したり、またひどいときにはサンプル検査の結果「全部品廃棄」という事態にもなりうるわけであります。そうなりますと、責任を負うのは現場サイド・・・ということになりますので、現場はどうしても品質検査を一発で通すのが「あたりまえ」という社内風土が存在することになります。

昨今の性能偽装問題のおそろしさを知っている経営陣としては、この社内調査の結果を聞いて(しかも退職者による内部通報が発端であることも知って)、どういった対応をとるべきでしょうか。①無視する、②過去のサンプル偽装は隠ぺいして、とりあえず今後の検査だけはきちんと受ける、③過去のサンプル偽装を公表し、官庁には改善報告書を提出し、取引先には部品修理や補償対応を行い、今後の対応も改める、といった対応が考えられるところであります。①はありえないでしょうから、皆様方としては②もしくは③の選択に悩むことになろうかと思います。せっかく内部通報制度が機能したわけですから、取締役らに「公表義務違反」なる法令違反が発生しないとするならば、②を選択したいところであります。ただ、ダスキン事件高裁判決のように、「公表義務」を取締役に直接認めることはなくても、(後日隠ぺいが露呈した場合に)リスク管理義務違反として取締役の善管注意義務違反が問われる可能性があるならば、やはり③を選択することになるでしょうね。過去のサンプル偽装の被害が現実化しておらず、また将来的には運用を改善するということであれば、この②と③は高度な経営判断になるのでは・・・と(私的には)考えておりますが、現実には内部通報というパターンで社内調査が開始された経緯からしますと、この②の選択はかなりリスキーですね。

さて、A社として仮に③を選択した場合、今度はリスク・マネジメントが問題となります。予想通り、公表後はマスコミで叩かれ、社長による謝罪会見となるわけでありますが、その席上「長年にわたる不祥事については謝罪するとともに、製品自体には安全性に問題がないことをあらためて申し上げます」と回答すべきかどうか、このあたりは皆様方、どうお考えでしょうか?(たしかに、業界人からすれば、出荷前の安全基準検査を通っているわけですから、部品検査に偽装があったとしても、まず安全性には問題はない、と認識されるものと思います)昨年11月、大阪弁護士会に東京から講師をお招きして「企業のクライシスマネジメント」のセミナーを開催いたしましたが、その講師の方は、謝罪記者会見でもっとも言ってはいけないこととして「商品に問題はない」という言い訳を一番にあげておられました。性能偽装を起こしていながら「安全性に問題なし」とは、法令遵守の意識の欠如もはなはだしい・・・と一般の方には想起される、ということであります。この一言でマスコミもカチンときて、厳しい質問攻勢となったり、また挙句の果てにはマスコミの調査能力を生かして、新たな不祥事のネタを探してくる・・・ということに発展するそうであります。同セミナーにパネリストとして参加されていた記者の方も「会見で法的な問題を言われてもまったく興味ないですね。それよりも一般の市民に対してどのような社会的責任を果たすのか、その説明だけが聞きたい」とおっしゃっておられました。(昨年の地下水汚染に絡む食品会社の事例がこれに該当します)

それでは、企業のレピュテーショナルリスクを回避するために、「安全性云々」については一切述べない・・・ということで済ませたほうがよいのでしょうか。ここは現実にリスクに直面している企業を見ていてわかるところでありますが、実際のところ「安全性には問題がない」と言ったほうがいいのではないか・・・と思われる事情も存在いたします。これはやはり商品Bの補償に関するリスクですね。たとえば監督官庁は、商品Bのトップシェアを誇る企業ですから、品質検査も「なあなあ」(ちょっと語弊があるかもしれませんが)で済ませているところも散見されるところですし、A社からの改善報告書の提出を受けて、「部品交換で補償対応はOK」という「落ち着きどころ」でおさまるケースが多いと思われます。そこで、A社としては取引先に対して商品Bの部品交換に回ろうとするわけですが、取引先はそれでは納得しないわけであります。とりわけエンドユーザーと対面している取引先の場合、商品B自体の交換を要求することが多いと思われます。(商品の瑕疵を追及された場合の第一次的責任は取引先が負うことになりますので)また、たとえ部品交換にしか応じないとA社が拒絶したとしても、取引先は「性能偽装報道によってもたらされた」B商品の商品価値の減価分を損害賠償として請求することも考えられます。うるさく言ってくるところだけ商品交換に応じる・・・というのも最悪の結果を招くことになりそうで、現実的ではありません。こういった事後対応におけるリーガルリスクを考えますと、まずは謝罪会見においてエンドユーザーに向けて「安全性には問題ありません」といった広報をしたい衝動にかられるわけであります。とくに部品交換と商品交換では1:100くらいに補償費用負担に差が生じることが多いわけでして、このあたりは企業の死活問題になってくるケースもあります。

もはや「性能偽装事件」といっても、あまりに数が多く、マスコミで騒がれても時がたてば忘れられてしまうのかもしれません。しかし、不祥事に直面した企業にとりましては、リーガルリスクとレピュテーショナルリスク、どちらを重視するかによって、対応も変わってこざるをえないわけでして、コンプライアンス経営に関するマニュアル本のとおりにはなかなかいかないのが現実のところだと思います。

| | コメント (12) | トラックバック (0)

2009年2月12日 (木)

続・貴乃花親方名誉毀損事件判決にみる「出版社の内部統制構築義務」

ある方のご厚意により、閲覧を渇望しておりました「貴乃花親方名誉毀損事件」地裁判決(コピー)と、事件の発端となりました週刊誌記事(5つほど)を頂戴しました。さっそく平成21年2月4日付け東京地裁民事41部判決の全文を読ませていただきました。(民事38部ではなかったようですね。ホント、どうもありがとうございます m(__)m )係属中の事件につきまして、いくら「場末のブログ」といいましても、法律家の身分で詳細な法律意見を述べることはエチケット違反になるかもしれませんので、自身に関心の高い「内部統制」に関する争点のみ感想として書かせていただきます。

本件は新潮社が貴乃花親方にまつわる記事を平成17年2月17号から同年7月14日号に至るまで計5回、「週刊新潮」に掲載した件につき、貴乃花親方側が名誉毀損に基づく損害賠償請求および謝罪広告を求めて訴えを提起した事件であります。相手方は新潮社(法人)と、編集長、そして新潮社の代表者の3名でして、709条、715条(使用者責任)、719条(共同不法行為)を根拠とする点については普通の名誉毀損損害賠償事件と変わらないところでありますが、特筆すべきは旧商法266条ノ3(取締役の第三者責任)を根拠として法人の代表者個人の損害賠償を求めているところであります。そして、先日のエントリーでご紹介したとおり、東京地裁は「週刊新潮」の編集長と法人の不法行為責任(謝罪広告1回掲載を含む)を認めたうえで、さらに旧商法266条ノ3第1項に基づき、新潮社の代表者ご自身の損害賠償責任を認めております。

判決書の24頁以降で、新潮社代表者の旧商法266条ノ3に基づく法的責任認容に関する判断理由が記載されておりますが、当裁判所は明確に、出版社は名誉毀損等の権利侵害行為を可及的に防止する効果のある仕組み、体制を作っておくべきものであり、株式会社であればその代表取締役が業務統括者として社内にそういった仕組み、体制を構築すべき任務を負うもの、と判示しております。具体的には(新聞報道にありましたように)

①記事の執筆に関与する従業員について、名誉毀損等の違法行為の要件や「あてはめ」に関する正確な法的知識、名誉毀損等の違法行為を惹起しないための意識と仕事上の方法論を身につけるための研修を行う体制を構築する、②出版物を公刊する前の段階で、相応の法的知識、客観的判断力等を有する者に名誉毀損等がないかどうかチェックさせる仕組みを社内に構築する、③出版物を公刊した後の段階で、客観的な意見を提示しうる第三者視点をもった者によって構成される委員会等において、記事内容に名誉毀損等の違法性がなかったかを点検させ、社内責任者を交えて協議し、すでに発行した出版物中の記事の適否を検討する体制を構築する、

といったあたりが内部統制の骨子と思われます。(判決文ではもっと詳細な説明がなされておりますが、いちおう要旨のみということで)なお、社内体制の構築ということについては、新潮社側からも反論がなされておりますが、2年に1回程度の社内研修を行っているということでは到底不十分である、週刊新潮担当取締役が編集長に毎回説明を求めており、また問題があれば代表者へ報告される仕組みは存在することについても、社内体制としてはまったく論外、といった判断内容となっております。

「裁判所はなぜここまで厳格に出版社の内部統制構築義務を論じたのか?」という点でありますが、やはり新潮社の週刊誌出版の歴史からみて、この部門(週刊誌公刊)においてはとりわけ名誉毀損による人権侵害のリスクが高いことに注目したのではないか?と推測しております。裁判所の判断は抽象的な判断理由だけをセンセーショナルに捉えるのではなく、判断の基礎となった事実との関連性をきちんと押さえておく必要がありますが、5つも立て続けに貴乃花親方の周辺記事を掲載した…という点よりも、むしろこれまでの著名な週刊誌公刊の歴史のなかで、名誉毀損的な訴訟も数多く、実際に人権侵害と判断されたケースも非常に多いことから、「とりわけ週刊誌部門においては」リスクが高いと認識すべき・・・といった点を裁判所は重視したために、こういった内部統制の構築は代表取締役の必須の任務だと判示したようであります。ですから、冒頭「出版を業とする企業は」で始まる判断理由でありますが、すべての出版社にこの新潮社と同様の厳格な内部統制構築義務が課されるとみるべきかどうかは、別途考慮を要するところだと認識しております。このあたりは(おそらく)原告側から明確な主張がなかったところだと思いますので、裁判所のリスク管理としての内部統制構築義務の捉え方として、今後の同種紛争には極めて参考になるところだと思われます。

そして、もう一点特徴的なのは、先に掲げました③の事後チェック体制であります。「週刊誌を出すのに、なんでいちいち事後に第三者委員会の検討なんかしないといけないのか?現実離れした見解ではないか?」といった感想を持たれた方も多いのではないでしょうか。しかし当ブログの常連の皆様でしたらおわかりのとおり、内部統制は「整備と運用」もしくは「PDCAプラン」が基本ですので、整備された内部統制がうまく運用されているのか、改善すべき点はどこか・・・といったチェックがなされてはじめて「体制が構築されている」と評価されるわけであります。したがって、名誉毀損等の違法行為を防止するための仕組みが必要・・・といった判断が妥当するのであれば、当然のことながら、この事後チェック体制の構築は基本要素として備わっていなければならないことになります。新潮社という株式会社が、内部統制の基本方針について取締役会で決議をされている以上、当然のこととしてPDCAプランが機能していなければ会社法違反になるはずですので、こういった表現になるのも当然ではないかと考えております。

もちろん名誉毀損事件特有の論点とか、被告側が主張されている「編集権の独立」との関係とか、リスク認識の問題など、意見が分かれる可能性のある争点が他にもありますので、これがそのまま高裁でも維持されるのかどうかは未知数だと思われます。また、取締役会を構成する他の役員が被告になっていたら、はたして旧商法266条ノ3による連帯責任が認められただろうか・・・、といった問題点も残っております。しかしながら、会社法上の内部統制に関する議論が相当に進み、また内部統制の構築が経営トップの責務である、との認識が周知されてきた今日、こういった判断が企業法務を取り扱う裁判のなかでも普通に行われるようになってきたことについては、出版社のみならず、広く企業のリスク管理の一環として検討されるべきではないでしょうか。本件につきましては、おそらくマスコミ全般にとって、非常に悩ましい話題であり、真正面から採り上げられることもないのでは?と思いますので、当ブログでは今後も継続的に採り上げていきたいと思っております。

PS 匿名受験生さんから情報をいただきました「福島銀行違法配当事件」ですが、これも非常に関心のあるところです。私個人としましては、この問題は地方紙で小さく報道されるだけでは済まないような問題だと思うのでありますが・・・・たとえば記者会見で「分配可能額を超えた配当がなされても、会社法上は有効」と銀行側が発表した、とのことですが、それは配当決議が有効ということなのでしょうか?それとも配当決議は無効だけれども配当行為自体は有効ということなのでしょうか?著名な商法学者の皆様は、そもそも会社法上は無効である、と述べておられるようですし、このあたりはまだ決着がついていないものと認識しております。(かなりヤバイような気もしますが。。。またの機会に・・・)

| | コメント (3) | トラックバック (0)

2009年2月 9日 (月)

会社法施行規則等改正(公開草案)とソフトロー

恥ずかしながら、私は(1週間ほど前)葉玉先生のブログを拝読して、はじめて会社法施行規則と会社計算規則の一部が改正されることを知りました。(旬刊商事法務の2月5日号でも政省令案の概要と新旧対象条文が掲載されております。WEBで閲覧するよりも、こっちのほうが読みやすいですね)

それで、この公開草案について何かブログで書こうかなぁ・・・と思っていたのですが、最近配刊されました「会社法コンメンタール第8巻機関(2)」の綴じ込み小冊子「対談 会社法の立法と裁判」がたいへんおもしろい内容でして、ついついこっちのほうを読みふけってしまいました。いや、この対談内容は企業法務の実務家、とりわけ私のような地方の弁護士にとっては興味深い内容です。コンメンタールの編集代表でいらっしゃる江頭教授と、門口判事(東京家裁所長、元内閣法制局参事官、元東京地裁第8民事部総括判事)との対談は、「内閣法制局の法律案審査」と「会社法と裁判」のテーマについて議論されているわけですが、どちらのテーマもおもしろい!とくに後半の「会社法と裁判」については、門口判事さんが、東京地裁第8民事部(商事専門部)の裁判長としてのご経験から、商事事件や関係当事者をどのような目で見ているのか(新奇性のある会社法事案等について事前準備はするのか?商事事件について素人と思われる弁護士がついている場合の事件にどのように対処するか?裁判官が参考としたくなる意見書と、読みたくない意見書はどこが違うのか?)、淡々と語っておられ「なるほど・・・」と唸りたくなるようなご意見は必読です。(「こんなのあたりまえ」と思われる方でしたら、おそらく立派な企業法務弁護士だと思います)そういえば、月刊監査役の2009年2月号では、常勤監査役が欠けた場合において、監査役全体の員数を欠いていない場合であっても、一時監査役選任申請が認められた事例が紹介されておりましたが、会社法346条2項との関係で(条文解釈上問題はありつつも)、東京地裁第8民事部の裁判官を説得できた最後の資料が「新版注釈会社法(6)」と商事法務論文であった、と記されております。こういった文献提出の効用などについても対談集のなかで触れておられます。また「倒産法実務」に精通することが、いかに企業法務に役に立つか・・・という点についても納得です。

そして前半部分においては「会社法の裁判規範性の希薄化」ということへの懸念が、おふたりのお話の中心論点になっています。(このあたりはお読みになる方によって、ご議論の流れについては賛否両論あるかと思いますが)この「会社法の裁判規範性の希薄化」ということを、今回の会社法施行規則の改正(政省令の公開草案)を検討するときの「モノサシ」として投影してみると、けっこう楽しく新旧対象条文が読めそうな気がしてきました。(まあ、私だけかもしれませんが・・・(^^;; なんか楽しみを見つけないと、こういった対照表とか、読み進めていけないので・・・)

会社法施行規則の改正に限った話でありますが、全体的にはほぼ「公開会社」に関連する改正といえるのではないでしょうか。MBO(株式非公開化)手続きの円滑化とか、自己株式取得、株主総会関連(株主との対話の充実)、事業報告内容の明確化といったあたりかと思います。中小の株式会社特有の問題点が少ないということを前提に考えますと、会社法の法としての実効性は政省令による自己完結性とソフトローへの傾斜という点にあり、こういったあたりから先ほどの対談集でも話題になっておりました「裁判規範性の希薄化」を感じるのは私だけでしょうかね。たとえば種類株式の内容や株式非公開化手続きにおける名簿記載請求、譲渡承認請求などは実務上不明な点を明確にするもので、そこには紛争解決の自己完結の思想が読み取れますし、社外役員の選任議案における理由説明や兼職状況の開示、兼職会社と当該会社の関係開示、責任限定契約を締結している役員への退職慰労金付与議案における説明事項の追加などは、一般株主による議決権行使を通じて「会社法の目指すガバナンスを会社自身が構築することへの実効性」を確保しようとしているものといえそうです。さらに、株主の提訴請求に対する監査役の不提訴理由通知制度については、会社の中に「裁判所」を作るようなものになっているわけでして、(しかしこれは経営判断に関わる問題なので裁判所も歓迎すべきものではないかと思いますが)やはり会社法は裁判所のほうを向いていないのかなぁ・・・といった印象を受けました。私はコメントを入れるほどの実力はありませんので、単なる印象程度しか申し上げられませんが、こいった政省令の改正などを通じて「これから会社法はどっちの方へ向かっていくのだろうか。裁判のなかで会社法はどういった法律として受け止められていくのだろうか」といった問題意識だけは持ち続けていたいなぁと思っています。

| | コメント (3) | トラックバック (0)

2009年2月 8日 (日)

村上ファンド事件控訴審判決からインサイダー防止体制を考える(2)

「村上ファンド事件控訴審判決からインサイダー防止体制を考える」のエントリーにつきましては、関沢洋一さんやJFKさんより有益なコメントを頂戴いたしました。また、関沢先生がご紹介された東大の藤田先生の内部者取引規制(フィナンシャルレビュー1999年3月)についても一読させていただきました。(いろいろとご示唆いただき、ありがとうございました。また一夜をかけて関連判例、文献等をお読みいただき、コメントいただいたことについて感謝申し上げます>JFKさん)上記エントリーにおきましては、私自身は素朴な疑問を述べたまでですし、ぜひともコメント欄をご参照いただければ幸いです。

村上ファンドの裁判における最大の鍵は、平成10年の最高裁判例(日本織物加工事件)をどう解釈するかにあると思います。私は、この判例は証券取引法第166条第1項に関する判例であって、同法第167条第3項には適用されないと考えています。(関沢先生のコメントより)

日本織物加工事件最高裁判決(平成11年6月10日 資料版商事法務183号52頁)は、行為者が、いわゆる証券取引法(金融商品取引法)166条1項4号「履行に関して知ったとき」に該当する「会社関係者等」に該当する事案ですね。ところが、166条3項や167条3項で処罰対象とされる行為者は「情報受領者」、つまり「会社関係者等」から第一次的に「重要事実」を受領した者ということになり、禁止行為の対象者が異なることになります。実務家の立場からみて、この関沢先生のご指摘は重要ではないかと思います。村上ファンド事件は被告人側より上告受理申立が行われたそうでありますが、先例的価値の高い上記平成11年の最高裁判決が、本事件にも妥当するのかどうか、という点は、最高裁が(どのような結論になるとしても)あらためて争点に関する判断をするかどうかの大きな分岐点になるように思われます。そこで、関沢先生はインサイダー取引規制の趣旨については主として情報を入手した会社関係者の信認義務違背を糾弾することにあり、そういった信認義務が認められない「情報受領者」の可罰性については「従たる目的として有価証券売買の公平性確保」と捉えることになるようであります。ここから「重要事実(公開買付事実)の決定」の意味も日本織物加工事件最高裁判決の事例とは別異に解してよい、といった理屈になるものと思われます。以下のコメントにつき、私はそのように理解いたしました。

平成10年の日本の最高裁判例において、株式取得の準備行為段階であっても「決定」があったという一見無理な解釈をしているのは、アメリカ的な考え方に基づいて、背信行為を行った者(この事例の場合は顧問弁護士)を罰しようとする意図があったと考えられます。証券取引法第166条第1項による処罰の目的が証券市場の公平さの確保のみならず、背信行為の取締りも含んでいるという立場に立てば、証券市場の公平さの確保に対する懸念が現実化しない場合であっても、背信行為があれば当罰性は存在するため、「決定」についての解釈は柔軟にすることが可能になります。
 これに対して、第167条第3項の場合には、処罰の対象となっている者はこのような信任義務を負っている者ではありません。加えて、日本の証券取引法においては、情報を伝達した者については、信任義務違反があっても、罰則が適用されません。従って、証券取引法第167条第3項においては、第166条第1項とは異なって、背信行為の取締りが法目的であると解釈することはできず、証券市場の公平さの確保のみが法目的と解釈せざるを得ないため、証券市場の公平さが実際に損なわれる段階に至ったかどうかが、インサイダー取引が成立するか否かを区別する基準となると考えられます。。(関沢先生のコメントより)

私がもし村上氏の弁護人たる立場であれば、こういった理屈をもって、とりあえず上告受理申立の理由を記述するかもしれません。ただ、こういった控訴審判決をもって一般企業のインサイダー防止体制を検討する立場であれば、やはり若干の疑問が生じるところであります。まず証券取引法157条(包括条項)1項との関係ですが、インサイダー取引規制条項で刑事処分を課すことに疑問がある場合、果たして不公正取引一般を禁止する157条によってインサイダー取引(らしき行為)を訴追するのでしょうか?197条と197条の2において、罰則の内容はずいぶんと異なりますし、インサイダー取引規制に関する立法経過などをみても、インサイダー取引(らしき行為)については安易に157条は適用しないのではないかと思われます。(このあたりは法条競合か観念的競合か、といった議論もありますが)罪刑法定主義との関係などを考えましても、実務としては「できればインサイダー取引に関する規制はすべて166条、167条によって摘発したい」というのが捜査の考え方かもしれませんし、また裁判所においても同様の考え方に立つのではないか、という推測を抱くところであります。つまり裁判所としてはなるべく166条、167条の条文解釈、適用除外、軽微基準をもって柔軟に対応する方向で検討するのではないか、といったところです。つぎに課徴金処分に関する金融商品取引法175条と166条、167条との関係についてであります。実際のところ、当該インサイダー取引が悪質であるか、それほどでもないか、という基準によって犯則処分とするか行政処分とするかを判断しているのが実務の流れでありますが、現行の課徴金処分の制度趣旨(不当利得返還)と、信認義務違背なる「倫理的規範に反する」という概念との整合性に若干の違和感を覚えるところであります。こういった実務の流れを前提としますと、裁判所においても、日本織物加工事件の最高裁判決の考え方を、そのまま「情報受領者」事案においても踏襲する可能性が高いのではないか、と思いますが、いかがなものでしょうか。

この事件を見るとき、「実現可能性」という言葉にとらわれるべきでないと感じました。被告人は単に情報を聞いちゃった者ではなく積極的に打合せを重ねるなど実現可能性すら左右しえたように読めます。
また、当時のLD社の経営判断を取締役会による機関決定に求めるのも妥当でなく、実質的な経営判断はむしろ堀江氏を中心とした幹部の意思決定、ミーティング、対外的な会議の中でなされることもあったとみるべきです。この点にはH11判決が妥当すると考えます。
それに加えて、単なる情報受領者でなく実現可能性をも左右しえた等、事案の特殊性も踏まえて判断したのではないでしょうか。。(JFKさんのコメントより)

ご指摘のとおりかと思います。本件の特色は、村上氏が単に「情報受領者」ではなく、積極的にライブドア側に働きかけたからこそ、「聞いちゃった」場面となってしまったわけでして(あくまでも事実認定のレベルですが)、そのあたりをどのように評価するか、という点は裁判所の判断内容を子細に検討してみる必要があると思います。

ただ、JFKさんが

私は166条も167条も一貫して「投資判断への重要な影響」が基準だと思います(最判H11・6・10は166条の決定の解釈に背信者処罰の要請を持ち込んではいない)。

とおっしゃっておられる点につきましては、ちょっと素朴な疑問が湧いてくるところであります。そもそも166条2項では「決定事実」として、その列挙事由に該当するからこそ「投資者の投資判断へ著しい影響を及ぼすもの」と評価されるわけですよね。(166条2項4号参照)つまり企業にはいろいろな決定事項があるわけですが、そこに列挙事由とされている「決定」が行われたからこそ「投資判断に著しい影響を及ぼす」ものと、法は規定しているはずであります。ではその「決定」があったかどうか、という評価(解釈)のレベルにおいて「投資判断に著しい影響を及ぼすかどうか」という基準をもってくるのは、ちょっと論理的に苦しいところではないでしょうか。それとも法文上の「投資判断に著しい影響を及ぼすもの」と、「投資判断への重要な影響」とは異なるものなのでしょうかね?私自身は、やはり「決定」なる文言が法文上で使用されている以上は、たとえそれだけが要素ではなくても、「実現可能性」を理屈のうえでは不可欠な要素として検討するべきではないかと思うのでありますが、いかがなものでしょうか。(誤解がございましたら、またご指摘ください)

| | コメント (3) | トラックバック (0)

2009年2月 6日 (金)

「決算早期化」に向けての対応セミナーのお知らせ

私が監査役を務める会社も、第3四半期の決算報告の日となりました。おそらくピークなんでしょうね。ものすごい数の適時開示情報です。

正確かつ迅速な決算情報の開示は、上場企業担当者の永遠の悩みかとは思いますが、ブログだけではなく、リアルの世界でもいろいろとご教示いただいております武田雄治会計士が、このほど名古屋、東京、大阪において「決算早期化を実現する決算の仕組み、開示の仕組み」なるご講演をされるそうであります。(主催は株式会社スリー・シー・コンサルティング)受講は「無料」ということだそうですので、ご関心のある方は是非一度ご聴講されてみてはいかがでしょうか。

| | コメント (6) | トラックバック (0)

貴乃花親方名誉毀損事件判決にみる「出版社の内部統制構築義務」

常連の皆様は、おそらく日綜地所会社更生手続きのほうにご関心があるでしょうし、あまりブログでも採りあげられていないようでありますが、(昨日のエントリーの最後でも少し触れましたが)この貴乃花親方名誉棄損事件の東京地裁判決についてはかなり注目すべき判決ではないかと思いまして、いちおう私自身の備忘録として記しておきたいと思います。

事案は大相撲の貴乃花親方夫妻が、相続問題や八百長疑惑に関する新潮社の雑誌記事によって名誉を傷つけられたとして、発行元の新潮社と同社代表取締役個人に対して損害賠償請求訴訟を提起したものでありますが、東京地裁(たぶん第38民事部かと思いますが)は法人に対してだけでなく、社長個人に対しても375万円の損害賠償を命じた、というものであります。この事案でもっとも注目すべき点は大手出版社の代表者個人に対して、旧商法266条の3(現行会社法429条1項)を根拠として「名誉毀損防止体制の構築を怠ったことについての悪意、重過失」を認めた点であります。

また、重過失認定の根拠に関しては、出版社の代表者は名誉棄損の記事を防ぐため、①社員の研修体制、②出版前の記事のチェック、③第三者委員会など事後の検討体制等を社内に整備する義務があるにもかかわらず、新潮社社内では十分な体制ができておらず、会社内部に名誉棄損を防止する有効な対策がとられていなかったことにつき、社長に重大な過失がある、という理屈であります。(なお、取締役の第三者責任に関する規定によるもので、「任務懈怠」が立証されますと、被害者に向けられた故意・過失であることまで立証する必要はないものと思われます)通常、取締役の第三者責任といえば、倒産事件などで、債権者が法人の責任を問えないケースに奏功するイメージを持っておりましたが、こういった内部統制構築義務違反事例においても活用されるようになってくるのでしょうか。

日経朝刊の記事からの推測でありますが、いわゆるリスク管理の一環としての内部統制構築義務違反を社長さんの「任務懈怠における重過失」と結びつけて、第三者への責任を認容しているもので、以前ご紹介いたしました東証二部の某企業の事件(平成19年11月26日東京地裁判決 判例時報1998号141頁以下)における判例構造と非常によく似ているものと解されます。(会計不正事件を防止するための内部統制システムを構築することを怠った点について、社長の「不注意」と認定し、社長個人の元株主に対する不法行為責任を認容した事例)本件の理屈からすると、他の取締役の方々についても重過失が認められる余地もあるのかなぁと思いましたが、いずれにせよ「コンプライアンスは経営トップの姿勢次第」などと、よく言われるところでありますが、ついに法的責任という面においても、経営トップの姿勢が問題視されるようになってしまったようであります。

おそらく新潮社の社長さんとしては、「寝耳に水」といいますか、法人に対する損害賠償命令までは予想していたとしても、まさか社長個人にまで直接責任が認容されるとは思ってもいなかったのではないでしょうか。ちょっと、事案の詳細までは存じ上げませんが、出版社の社長さんに名誉棄損事件で損害賠償リスクが発生する、となりますと、かなり衝撃的なものでして、出版社だけでなく新聞社、放送局に至るまでマスコミの内部統制体制については見直しを要するものなのかもしれません。ただ、今回の事件においては出版社における内部統制構築義務違反まで判断すべき事案だったのか、名誉毀損的表現行為が5回にもわたっていたことを捉えて、代表者の「不作為の過失」として事案限定的に注意義務違反を議論すれば足りるのではなかったか等、もう少し中身を検討してみたいところであります。(もちろん、高裁で逆の結論となる可能性も十分にあるようにも思えます)

| | コメント (7) | トラックバック (1)

2009年2月 5日 (木)

村上ファンド事件控訴審判決からインサイダー防止体制を考える

すでに新聞報道でご承知のとおり、村上被告(および法人たるMACアセットマネジメント)の証券取引法違反被告事件につき、東京高裁は(村上被告に対しては)原審の有罪実刑判決を破棄して、執行猶予付きの判決を出したそうであります。2月4日の読売新聞朝刊には、高裁判決要旨が掲載されておりましたので、以下はあくまでも判決要旨を読んだかぎりでの感想ということでご了解ください。(判決全文にアクセスできた場合、また少しばかり見解が変わるかもしれません)

村上氏自身に(課徴金ではなく)刑事罰としての証券取引法(現金融商品取引法)167条による犯罪が成立するためには、その構成要件としての①上場株式等の、②公開買付等事実を知った(情報の伝達と受領)、③公開買付者等関係者等が、④その公表前に、⑤株券等の買付等を行ったこと、および上記構成要件事実に関する認識(主観的要件たる故意の存在)が必要であります。また、上記②の「公開買付等事実」とは、公開買付者が法人である場合、その業務執行を決定する機関が、公開買付等を行うことについての決定をしたこととされております(証券取引法167条2項)。そして地裁、高裁を通じて争点とされていたのが、村上氏がライブドアと交渉していた当時、この「公開買付等を行うことについての決定」があったのかどうか、ということであり、地裁判決は平成16年9月15日の時点において、堀江氏や宮内氏がライブドア社員に、ニッポン放送株式取得に向けての具体的な指示を出していたことをもって「決定」があったとしておりました。しかしながら、高裁判決では、この「決定」があったといえるためには、大量の株券買い集め行為が主観的にも客観的にもそれ相応の根拠を持って、そのような実現可能性があると認められることが必要である、とされており、具体的には平成16年11月8日のライブドア首脳と村上氏との会談の時点ではじめて、この「決定」が認められる、とされているようであります。この点、原審が「実現可能性が全くない場合は除かれるが、あれば足り、その高低は問題にならない」としていたのとはかなり裁判所の意見内容に差がみられます。今朝の日経新聞に掲載されておりました著名な法律学者の方々のご意見も分かれておりましたが、この「決定」に関する原審の解釈については、多くの学者や実務家によってかなり批判の的になっておりましたので、この高裁判断についてはおおむね妥当な基準を示したものではないか、と歓迎される向きも多いのではないでしょうか。

ただ、私が疑問に思うところでありますが、このように「決定」の内容を(すくなくとも)原審よりも限定的(客観的)に捉えるということになりますと、犯罪成立要件たる故意との関係はどうなるのでしょうか?この点は、とりわけ証券取引法166条、167条いずれにおいても「情報受領者」のケースでは問題にならないのでしょうか?とりあえず、証券取引法167条の犯罪が成立するための故意としては、公開買付等事実を知って、ということでありますから、「ひょっとして公開買付を行うことについての決定があったかもしれない」といったいわゆる未必の故意が行為者に認定される必要があります。原審のように「決定」に関する概念を「実現可能性があれば足り、その高低は問題にならない」と捉えるのであれば、この「未必の故意」とは親和性が高く、構成要件該当性と主観的要件との整合性にぶれが生じないと思います。しかしながら、構成要件該当性としての「決定」の存否については主観的にも客観的にもそれ相応の根拠を持って、実現可能性があると認められることが必要だとするならば、たとえば公開買付者側の主観的側面に重きをおいて「決定」が認められるケースでは、その判断根拠となる証拠等が、行為者の未必の故意を認定する証拠には使えないケースも出てくるのではないでしょうか。また、客観的な側面に重きをおいて「決定」が認められるケースにおいても、理屈のうえでは、その客観的な側面については、公開買付者と行為者との間で共有されていたのかどうかを認定する必要があるのではないでしょうか。「重要事実の決定」に該当するかどうか、といった「あてはめの錯誤」については故意が阻却されることはありませんが、「重要事実の決定」と評価するための根拠事実(生の事実)について、その解釈にあまり複雑なファクターを持ち込みますと、結局のところ行為者の目からは見えないような事実や主観的要素を盛り込んで判断することになる可能性は否めないと思いますし、そうなりますと、犯罪成立要件としてのインサイダー行為者の「未必の故意」が認定できない事態になるのではないかと考えられますし、そのように考えても、市場取引者間における不公平感の是正というインサイダー取引防止のための制度趣旨を損なうことにもならないと思うのでありますが、いかがなものでしょうか。現に、この高裁判決においては、理屈の問題ではありませんが、情状理由として「被告は当初からインサイダー取引を利用して、利益を得ようとしたものではなかったことや、当初は被告の得た情報がいわゆるインサイダー情報に該当するとの認識自体も強いものではなかったことなどは、十分に考慮すべきものと思われる」とされております。村上氏側の弁護人は原審、控訴審を通じて「村上氏には実現可能性に関する認識はなかった」と主張されていたそうであり、これはおそらく構成要件該当性との関連性で主張されてきたものだと推測いたしますが、この主張は村上氏の主観的要件との関係ではどのように位置づけられるのか、ちょっと私のなかでは整理がついていないところであります。

なお、判決要旨を読みますと、高裁判決は、平成16年11月8日の堀江氏らとの会議において「ニッポン放送株の3分の1獲得を目指す決定をしたと言うべきである」として、検察側主張のとおり「3分の1以上の株式取得に関する決定」を認定しているようであります。これは、原審が「すくなくとも5%以上の株式を取得するための決定」と認定したことと対比されるべき点であります。また、「公開買付を行うことについての決定」という解釈として、「ついての決定」を重視すれば、原審のような「社員に対する調査のための具体的な指示」なども重要な根拠事実に含まれる可能性がありますが、高裁判決では「たとえ調査を開始することになっても、いまだに大量買い集めの可能性の検討の端緒にとどまるというべきで『決定』があったとは認めることはできない」として、初期における調査行為などは実現可能性の判断においては重要な要素たりえない、としている点にも注目すべきではないかと考えております。

「インサイダー防止体制を考える」と言いながら、ここまで何も書いておりませんが(すいません・・・)、長くなりましたので続きとさせていただきます。要はこういったインサイダー刑事事件の否認事件の構造を検討するなかで、理屈の問題と量刑事由を振り分けて、行政処分たる課徴金処分の対象となるインサイダー取引を防止するためにはどうすればいいのか、また刑事処分を免れて、行政処分たる課徴金処分で終わらせるためにはどうすればいいのか、そしてチャイニーズウォールを敷いたり、信託を利用することによって、法人に対するインサイダー処分を免れたり、社員を不幸に陥れないためにはどこに留意すればいいのか等を検討するためには、この村上ファンド高裁判決はかなり有意性があると思われますので、そのあたりを次回以降検討してみたいと考えております。ともかく、検察庁(金融庁)サイドとしましては、これほど国民の関心を集めるインサイダー事案において、「執行猶予付き」の判決で終わらせるとなりますと、言葉は悪いですが、「やっぱり刑事事件で立件することは労多く益少なし」として、今後ますます課徴金行政によってインサイダーを取り締まる方向へ傾斜していくことになるものと予想されます。先日のエントリーでも書かせていただいたように「コンプライアンスの官民分担」がうまく機能するようになれば、たとえば「金融庁による違法行為のお墨付き(課徴金処分)」→「日証協による過怠金処分」「証券取引所による違約金処分」→「投資家による民事賠償責任の追及」「株主代表訴訟」→「社会的評価の急落」といった流れにおいて、法人や代表者が刑事罰を受けること以上の抑止効果を得ることができるのではないか(またそのほうが早いし簡単だし)、といった考え方が成り立つように思われます。また、インサイダー取引規制が初めて導入された昭和63年に一度検討されていた「インサイダー取引規制違反に対する他の投資家からの損害賠償制度」も真剣に検討されるかもしれませんね。課徴金処分とは別に「刑事罰」の抑止的効果が「最後の砦」として残るものかどうか、検察庁による上告次第ではありますが、注目しておきたいところであります。

PS ところで話は変わりますが、貴乃花親方の新潮社に対する名誉棄損損害賠償事件の判決が出ていますが(読売新聞ニュースはこちら)、これって内部統制構築義務違反が問題になっているみたいですね。(代表者の重過失が認定されているようです。事件は2005年頃の事案ですが)判決全文を読んでみたいですね。

| | コメント (4) | トラックバック (0)

2009年2月 3日 (火)

西松建設社の内部統制に「重要な欠陥」は認められるのか?(ビックリ編)

先日、西松建設社の内部統制に「重要な欠陥」は認められるか?といったエントリーを書かせていただきまして、そのなかで

経営トップの関与する企業不祥事すべてを採り上げて、内部統制報告制度における「有効性評価」を問題とすることはできませんが、今回の「裏金工作」は、やはり財務報告の信頼性とかなり密接な関係にたつ不祥事ではないかと思います。さてそれでは、経営トップが辞任することで、こういった全社的内部統制の不備が是正されるのでしょうか?監査人と監査役、また監査人と内部監査室との連携・協調がますます重要視されるなかで、とりわけ「不正」と重要な虚偽表示リスクとの関係に留意しなければならない企業においては、(そもそも監査人は「不正」の法的判断は一切しないわけですから)モニタリング部門にも何らかのしっかりとした対策が必要ではないかと(少なくとも私は)思います。

と意見を述べましたが、その西松建設社がコンプライアンス強化のために外部諮問委員会を設置したそうであります。また、その委員の構成がスゴイ・・・・・・これ以上の「モニタリング部門における何らかのしっかりした対策」はいまのところチョット思い浮かびません。(とりあえず)

外部諮問委員会の設置および委員の選任について

これで(期末日において)全社的内部統制に重要な欠陥あり、と評価できる監査人がいらっしゃったら「監査は胆力」と絶賛されるかも。

| | コメント (12) | トラックバック (0)

2009年2月 2日 (月)

ビックカメラ過年度決算訂正事件と社外取締役の苦悩

(追記; なんか、いろいろとご批判のメールも頂戴しておりますが、以下はあくまでも私見でございますので、投資判断はご自身の責任においてお願いいたします。また、メールでの法律相談には応じかねますので、どうかご了承くださいませ。。。)

「これはちょっとひどいですよねェ・・・」「いやいや、もっとえげつないとこ、ありまっせ・・」と、昨年12月ころから噂されていた上場会社のひとつ、ビックカメラ社(東証1部)の会計不正問題でありますが、この週末の各種マスコミの報道によりますと、ビックカメラ法人自身には約2億4000万円、代表者(会長)個人には約1億2000万円程度の課徴金を賦課するようSESC(証券取引等監視委員会)が勧告(→金融庁)を出すそうであります。(日経ニュースはこちら)なお、以下は私見にすぎませんので、投資家の皆様におかれましては、有価証券取引につきましては、自己の責任においてお願いいたします。

役員個人に対する課徴金については、すでに当ブログでもとりあげました東証マザーズ上場会社の社員の方に対する約2000万円程度の課徴金処分が最高額でしたので、今回はかなり高額であります。しかし、(とくに「減算制度」の適用がない当時の事例ですから)課徴金の金額算定において金融庁に「いくらにすべきか」といった裁量権はありませんので、1億2000万円なる数字は、認定された事実が違法行為であれば、そこから法の定めた計算式によって自動的にはじき出される金額、ということになります。もし金融庁が「課徴金の金額をいくらにすべきか」をもくろむとすれば、どこまでの事実を対象行為として認定すべきか、という方向で検討することになりますが、こちらも(タテマエ上は)処分対象事実が発生していれば、それは行政庁による裁量の余地なくすべて処分する必要があることになっております。ですから、「ウソの有価証券報告書を提出しておいて、自分は保有株式の放出により、60億も儲けていながら、たった1億2000万円の罰金で済むとは」といったご意見もございますが、(1億2000万が安いか高いかは別として)これは法律に基づいて金融庁が課徴金対象事実を認定し、また金額算定したものであることをまずご認識ください。

また、代表者への刑事処分はあるのか?ビックカメラは今後上場廃止になるのか?といったあたり、ライブドア事件や日興コーディアル事件、IHI事件との比較で議論されているようでありますが、こうやって法人だけでなく、個人に対しても課徴金処分となりますと、原則として刑事処分はないですよね。(もし代表者に刑事手続を進めてしまいますと、二重処罰禁止という憲法上の権利侵害に該当する可能性がありますので。)また、発行開示(有価証券届出書)および継続開示(有価証券報告書)いずれにおいても、役員に有価証券虚偽記載に基づいて課徴金処分とする場合には、役員の故意過失は要件とされておりませんので、金融庁は形式犯として違法行為を認定できることになります。したがいまして、法人も代表者もともに「連結に関する会計処理について当局とは見解の相違があるが、これ以上当局と無意味な紛争を続けることを回避するために、過年度決算に応じることとした」なる答弁が事実上許されることになります。(これは課徴金処分を発出するにあたっての障害にはなりません。)また金融庁としても、あまりギチギチに証拠を固めることなく、会計不正についての行政的ペナルティを課すことができることになります。(このあたりが、課徴金制度がうまく機能するキモといえるものと思われます。しかし、これだけ多額の課徴金処分となりますと、没収した金員について、被害者還付のような制度も必要ではないか、といった議論もそろそろ必要ではないでしょうかね。)

さて、株主の方々には、こういった処分によってビックカメラは上場廃止になってしまうのかどうか、といったことに関心が集まるものと思いますが、もし課徴金処分が出る・・・ということであれば、私は上場廃止の可能性はかなり低いのではないかと予想しております。(いろいろとご異論はあるかとは思いますが、あくまでも私の個人的な意見であります)たしかに直前の決算期に虚偽記載によって黒字化したうえで117億円もの増資行っている点については、かなりマズイと思います。しかし、平成14年までさかのぼって決算を修正するとしても、それは本業による利益操作を繰り返していたものではなく、あくまでも不動産証券化のためのSPCの取扱いに関するものであって、計上されたのも「特別利益」であります。(また、特別利益がSPCの特別精算配当金であることは、2008年4月の中間決算書にも明確に記載されております)さらに、この特別利益が増資にいかなる影響を及ぼすか・・・という点でありますが、たしかに「金額的重要性」という観点からみれば課徴金要件たる有価証券届出書の「重要記載事実」には該当するものと思われますが、売上や経常利益の架空によるものではないことに鑑みますと(投資家の判断材料という観点から)極めて悪質・・・とまではいえないのではないでしょうか。こういった観点からすると、IHI社の過年度決算修正事例のほうが問題ではないかと思えるのですが、IHI社はご存じのとおり、特設注意市場銘柄に指定されながらも上場廃止にはなりませんでした。また、日興コーディアルについても上場は維持されました。したがいまして、極めて非難が高まる事例であることは理解できるのでありますが、私的にはどうも上場廃止にはならないように思えるのであります。(実際のところ、ビックカメラ社よりも、監査法人の責任を含めて、もっとヤバイことになっている某会社がありますよね。)

ただ、課徴金処分とは異なり、役員の民事上の法的責任問題、道義的責任問題については市場規制の手法が「事後規制(事後監督)手法」に移行しつつある現在、話はまったく別のような気がいたします。行政として、「これは問題あり」と宣言(課徴金処分)をしておいて、その後の役員の「故意過失」「損害論」などの絡む民事賠償上のムズカシイ問題は一般株主の自己責任に基づく責任追及に委ねる・・・という構図は、今後も課徴金手法が採用された場合には多用されるのではないでしょうか。ある意味「企業コンプライアンスの官民分担」だと思われます。そういえば、一昨日、東京地裁で西武鉄道株主損害賠償事件において、株主の損害範囲に関して、内容の異なる判決が別々の裁判所において出されましたが、(今後、法人に対する虚偽記載損害賠償事件において金商法上の損害規定の適用がある場合でも)こういった構図のなかで、一般投資家が法人や役員の法的責任、また監査法人の責任をどのように追及できるか・・・といった議論も進んでいくのではないでしょうか。(たとえば、最近の事例でも、三洋電機社もIHI社も役員責任を追及する訴訟は提起されているようですし。)とりあえず、刑事処分が前提とならない事例におきまして、課徴金処分だけが先行している事案となりますと、今後の法人や役員の法的責任を追及するための拠り所としては「社内調査委員会」や「社外調査委員会」における調査報告書、の占めるウエイトは大きくなりそうです。なお、ビックカメラ社のリリースによりますと、社外取締役を中心とした社内調査委員会の報告書が2月中旬から下旬を目途に(その概要だけが)公表されるそうであります。

ちなみに、ビックカメラ社の社外取締役は現在4名いらっしゃいますが、そのうち監査法人ご出身のエディオン社からの派遣で就任された方は(報道によりますと、提携解消によって、もうすぐ帰られると思いますので)別として、他の3名の方々はたいへんエグゼクティブは方々ばかりであります。どのような報告書になるのかは、(調査目的をどのあたりに置くのか、という点も含めて)非常に注目されるところではないでしょうか。現役員らの進退問題だけでなく、役員の法的責任が追及される資料として活用されることが予想される以上、その内容については法的アドバイザー含め、慎重な配慮が必要になってくるものと推測されます。また、そもそも役員の法的責任が問われる前提となる報告書であるとすれば、社外取締役らも「利益相反関係となる」もしくは「公正性に疑いがもたれる」立場になってしまうのかもしれません。(それぞれきちんと責任限定契約は会社と締結されているようでありますが、それでもやはり問題は残るでしょうね)そのあたり、この社内調査委員会の活動には、相当の苦悩が潜んでいるのではないでしょうか。

| | コメント (12) | トラックバック (0)

« 2009年1月 | トップページ | 2009年3月 »