公認会計士に対する収賄罪の適用(その2 お詫びと訂正編)
2月26日のエントリー「公認会計士に収賄罪は適用されるのか?(プロデュース粉飾決算事件)」につきましては、法律家でありながら、いろいろと解説内容に誤りがございました。(前のエントリーも関連個所を訂正しております)とりあえず、皆様方へのお詫びを兼ねまして、もうすこしマシなエントリーをアップさせていただきます。
報道内容は、プロデュース社の上場時より会計監査を担当されていた某会計士さんが、プロデュース社の粉飾決算を黙認するかわりに高額の監査報酬(有価証券報告書において明示されている報酬額よりも、実際には高額だったようです)を受領していたことについて、有価証券報告書虚偽記載罪とは別に、会社法上の収賄罪(会社法967条1項3号)の適用も検討されている・・・ということでありました。
旧商法の時代から、会計監査人にも会社法上の(商法上の)贈収賄罪の適用はありまして、商法特例法28条1項に規定がございます。また、会社法972条(法人における罰則の適用)とほぼ同様の規定が、商法特例法28条2項に規定されておりまして、そこでは「会計監査人が監査法人である場合には、会計監査人の職務を行う社員が、その職務に関し」自らわいろを収受したり、監査法人をして収受させることについても同様に罰せられることが明確に規定されております。(たいへん失礼をいたしました)
ところで、この規定を前提に現行の会社法の規定をよく読みますと、なるほど、私が誤解をしておりましたようで、会社法967条1項3号における「会計監査人」の解釈と、同法972条の解釈とは関係がないということのようであります。つまり、967条1項3号で「会計監査人の収賄罪」の構成要件に該当する会計士さんは、「会計監査人又は第346条第4項により選定された一時会計監査人の職務を行うべき者」であります。この「職務を行うべき者」というのは、「会計監査人」にもかかってくる言葉ですから、そうすると、ここにいうところの「会計監査人として職務を行うべき者」というのは、会社法337条2項に出てくる「会計監査人に選定された監査法人は、その社員の中から『会計監査人の職務を行うべき者』を選定し、これを株式会社に通知しなければならない。」と規定されているところと合致することになります。(また、これで商法特例法の規定内容と、会社法の規定内容がピッタリと合うことになりますし、公認会計士法上の「代表社員」かどうか、という議論とも関係なく、会社法上の会計監査報告書に署名捺印される方が、この収賄罪の対象になる、ということでまちがいないと思います。)967条1項と972条とがうまく整合しないのは当然でありまして、これで少しスッキリしました。
さらに、迷える会計士さんより、「過去に会計士が収賄罪で起訴されたことはあるのでしょうか?」とのご質問がありましたので、商法特例法の時代までさかのぼって、調べてみましたところ、刊行物には登載されておりませんが、有名な三田工業事件(刑事判決)におきまして、三田工業株式会社の会計監査人が、違法配当罪とともに、商法特例法第28条1項の罪(収賄罪)にて起訴され、有罪判決(懲役1年6月 追徴金2979万円)を受けております。(大阪地方裁判所平成11年11月8日判決)ちなみに、この収賄罪の部分における裁判所の認定事実の要旨は、
三田工業株式会社の取締役甲は、同社の第48期以降の各期の計算書類等について監査を実施する職務を負っていた同社の会計監査人乙に対して、・・・甲ら取締役が行う粉飾決算等不正な会計処理の事実を黙認したうえ、監査報告書には、右不法な処理がなされている旨を指摘せず、計算書類等が法令、定款にしたがって適法に記載されている旨の意見を付してもらいたい旨の不正の請託をし、・・・その謝礼の趣旨で、乙に対して前後32回にわたり、法定監査報酬の名目でわいろ金合計2979万1680円を振込入金し、もって乙の会計監査人としての職務に関して、不正の請託をして賄賂を供与(会計監査人側からみれば賄賂を収受)した、
というものであります。なるほど・・・、こういった重要判決のなかで、従来から会計監査人にも会社法上の収賄罪が適用されている先例がありますので、今回のプロデュース社の事例におきましても、会社法967条または商法特例法28条1項の適用に関心がよせられていることにつきましては間違いないところではないかな・・・と思い直した次第であります。(ただし、前回のエントリーで述べたような理由から、その立件には困難が伴うであろう、といった私見につきましては、従前と変わりませんが。でも、恥ずかしながら、ずいぶんと内容や意見を変更いたしました。)
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