株主総会・賛否の議決権の個数開示は進むだろうか?
Amanojackさんや機野さんより、月曜日のエントリーに関連して、「民間部門だけでなく、公的機関においてもガバナンス改革はやるべきではないの?」といったコメントを頂戴しておりましたが、そのようなご意見を後押しするような判決が出ているようであります。姉歯元一級建築士の設計に係る建築強度偽装物件の所有者が、コンサルタント会社と愛知県を相手方として損害賠償請求訴訟を提起しておりましたが、愛知県にも建築審査において注意義務違反があったとして、同県に対して5700万円の賠償命令が下された・・・というものであります。一連の耐震偽装事件におきまして、行政の責任が認められた初めての判決だそうであります。(朝日新聞ニュースが、かなり詳しく報じております。そういえば耐震偽装事件発覚のころ、私がイーホームズを擁護する発言をして、皆様から総スカンをくらったことがありましたっけ…笑)神戸の震災の教訓を生かさなければならないのは官も民も同じでしょうし、機野さんがおっしゃるように、公共団体の内部統制についても裁判所は厳しい目を向けることになるのかもしれません。(ちなみに、大規模一般社団法人につきまして、新しい法律では内部統制システムの構築に関する規定がありますよ。あまり知られていないのですが・・・)
個人的な趣味による執拗なネタでありますが、月曜日にもエントリーいたしました「金融庁・我が国金融・資本市場の国際化に関するスタディ・グループ」の2月10日付け会合の議事要旨が公開されております。たしか2月11日ころのフジサンケイ・ビジネスアイだけがこの会合の内容について報じておられましたが、やはり既報のとおり、株主総会における議決権行使結果の開示の是非が相当議論されていたんですね。(議事要旨の後半部分に、賛否両論による議事内容がまとめられております。)日本ハウズイング社やアデランスHD社のように、総会検査役が選任されたうえで、その議決権行使結果が注目されるような会社以外では、たとえば資生堂社などが総会前日までの議決権賛否の個数開示を行ったようでありますが、我が国ではまだごく少数にとどまるものであります。しかしながら、中央大学の大杉教授が商事法務2008年12月25日号「なぜ、どこまで、株主総会は変わったか?」なる論稿のなかで「気にかかっている」点として指摘されているように、「賛否の議決権の個数開示」については多数の国内外の投資家より意見が述べられているようでありまして、大杉教授も、(事務手続きの煩雑さなどの技術的な問題はあるにせよ)賛否の具体的状況を開示する試みがなされてもいいのではないか、と私見を述べておられます。社外取締役制度導入問題の帰趨とも関連するかもしれませんが、やはりこの論点については、「とりまとめ」のなかで、なんらかの指針が出るのではないか・・・といった印象を受けますね。もしソフトローによる規制であったとしても、株主総会における事務手続きは、たとえ前日までの集計のみとしても、ちょっと総会担当者の方々の頭を悩ませることになるのかもしれません。
それともうひとつ、総会担当者の方々にとって影響が出そうな記事ですが、会社法上の少数株主権の行使期限が2週間→4週間に延長されるようですね。(日経ニュース)3月下旬に施行されるように、パブコメを経て政令が改正されるようですから、このあたりは注意が必要ですね。株券電子化(社債、株式等の振替に関する法律)の施行によって、少数株主権行使にあたっては、会社法130条1項の例外規定の適用を受ける(つまり、少数株主は、株主名簿の記載によって会社に対抗するのではなく、株券電子化の施行による「個別株主通知手続き」によって権利を行使する)ことになりますが、この個別株主通知を発行企業が受けてから、4週間以内に株主提案権を行使すればいい、ということになります。共同提案行為が不当に侵害されるのでは?といった批判に対して法務省が応答したことになり、株主の権利行使の機会が実質的に確保されたものといえそうですが、いっぽうで個別通知の申出を行った株主に変動が生じる可能性は増えたことになるのでしょうね。ちょっと、新聞報道ではわかりにくいのですが、「なんで個別株主通知の申出をした株主が、2週間とか4週間とか、その行使期限がわかるの?」といった素朴な疑問が湧くかもしれません。これは、振替機関(ほふり)が、口座管理機関から特定情報を集計後に、発行企業へ通知をしますと、その旨をほふりより(株主が申出を行った)口座管理機関に伝えてきますので、その口座管理機関から、当該株主へ「個別株主通知済通知」の内容が伝えられる・・・という仕組みがあるからですね。またそもそも「なんで2週間だと株主による共同提案行為の侵害にあたるの?」といったあたりも素朴な疑問が湧くところかと思いますが、これも受付票を共同提案代表者がとりまとめを行って口座管理機関に送付すればいい、というだけのものでもなく、たいへん事務量が増えてしまいますので、そのあたりの説明がなされないとちょっとわかりにくいのではないでしょうか。
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コメント
テーマ違いですが。
民事再生中のプロデュースを担当していた会計士が、粉飾を見逃す見返りに金銭を受け取っていた容疑で告発されるようです。金商法違反以外に会社法の収賄罪の適用が検討されているらしいのですが、過去に例はあるのでしょうか?
それにしても、監査業界の信用を著しく失墜させる事案で、同業として情けないかぎりです。
投稿: 迷える会計士 | 2009年2月25日 (水) 22時24分
過去の総会で議事終了後に報告したことありましたが、かなり大変でした。
株主提案があったためですが、当日の集計と確認作業でかなり苦労したことを覚えています。
投稿: Former Licensor | 2009年2月26日 (木) 11時33分
迷える会計士さん、情報ありがとうございました。本当はシャルレ社のガバナンス委員会報告の内容についてエントリーする予定だったのですが、急きょ、こちらをエントリーいたしました。
Former Licensor さん、はじめまして。ご意見ありがとうございます。当日集計をするとなると、おっしゃるとおりでしょうね。総会が紛糾する場面では(他人ごとのようで恐縮ですが)やむをえない面もあるでしょうね。今後は前日までの集計だけでも、議決権行使の傾向が判明すれば、その時点で取締役の説明責任が生じることも予想されますので、そういった意味でも議決権個数の開示が求められる(つまり、決議の行方はわかっているけれども、どれほどの批判は集まったかを知りたい)ということが重点とされるのかもしれません。
投稿: toshi | 2009年2月26日 (木) 11時45分
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http://blog.livedoor.jp/advantagehigai/archives/65129769.html
賛成です。西武ホールディングスで、男性専用車両を株主提案したところ、書面投票株主の47.5%が賛成しています。
上位株主は、日本人が痴漢冤罪で捕まろうが関係のない外国のファンドですから、株式数では完敗でした。しかし、頭数では過半数に迫っており極めて多くの株主の方が、男性専用車両を望んでいることがハッキリしました。
しかし、これは議決権行使書を閲覧して初めて分かったことであり、わざわざ閲覧をしなければ、公表されなかったんですよね。
事務処理の手間があるなら事前投票分だけでも公表すべきと思います。
投稿: 山口三尊 | 2009年3月 4日 (水) 09時46分
>三尊さん
これ面白いですね。初めて知りました。ところで、この議案が(かりに)可決された場合、総会決議の効力はどんなものになるのでしょうかね?(買収防衛策承認のような勧告的決議?)某会社法立案担当者の方は「アンケート調査の結果にすぎない」と述べておられましたが、事実上は、こういった議案が採決され、そこそこの票を集めたとすれば、それこそ説明責任を果たす必要性は出てくるのかもしれませんね。
投稿: toshi | 2009年3月 5日 (木) 01時46分