« MBO(株式非公開化)と監査役の意見陳述権 | トップページ | 監査役の利益相反問題について考える »

2009年2月23日 (月)

2009年のコーポレートガバナンス論議の行方(素人的予想)

今年はいろいろな団体(組織)でコーポレートガバナンス改正に関する議論が交わされていることは皆様もすでにご承知のことと思います。そのなかでも、議論の進展が一番はっきりと公開されているのが金融庁「我が国金融・資本市場の国際化に関するスタディグループ」の討議内容ではないかと思いますが、とりあえず1月19日の会合まで、その議事録が公開されております。これまでの流れから今後のガバナンス改正の行方(ゆくえ)について無責任な感想を述べてみたいと思います。(こういったモノサシを提示してみるのも、今後の改正論議を理解するにあたっては役に立つのかもしれませんので。)

金融庁の資本市場SG(スタディ・グループ)でも、やはり経済産業省「企業統治研究会」と同様、社外取締役の導入義務化、独立性強化(要件厳格化)の傾斜が一番はっきりとしてきたように思います。なぜはっきりとしてきたか、と言いますと、社外取締役制度導入に向けての前提の議論が明確になってきたからであります。つまり、社外取締役制度の導入義務化に関しては、これまで①我が国特有の「監査役制度」によって代替できるではないか、という議論と②社外取締役制度を導入することによる企業のパフォーマンス向上は、これまでなんら実証されていないではないか、という議論であります。しかし、最近の議論を聞いておりますと、(1)実証手続は決め手にならない、そもそも悪い経営者が現われたときの暴走を抑制できるシステムとしてこそガバナンス改正は意味がある、(2)監査役制度は日本独特の制度であるからこそ、海外の投資家にはよくわからない、むしろ監視する者に取締役の選任、解任権が付与されていないことについて、海外では評価されないのであって、ガバナンス向上のための安定した制度とはいえない、といったところが社外取締役制度の導入義務化を推進する方々の有力なご意見のようです。(最近は、こういった社外取締役制度導入義務化を推進する方々の意見がかなり強くなってきたのではないかと思われます。)

こういった「社外取締役制度導入論への傾斜」が進むなかで、では(かりに社外取締役制度の独立性強化、導入義務化を進めるとした場合に)上場会社にどうやって導入していくのか(その実効性を確保していくのか)という次の論点がありまして、そこでは主に①会社法改正による、②金融商品取引法改正による、③証券取引所における自主ルール(企業行動規範)改訂による、④以上の改正方法の組み合わせによる、といったあたりの方策が考えられるところであります。そして、さきほどの金融庁SGの議事録などを読んでおりますと、メンバーの方々の発言記録などからしますと、上場企業のガバナンスにかかわる問題ゆえに、証券取引所における自主ルールによる実効性確保が妥当ではないか、との意見がかなり出ているようでありますが、当の取引所の方は、自主ルールで実効性を確保するよりも会社法の改正によって確保していくべきではないか、といった消極的なご意見を述べておられるようであります。(証券取引所が自主ルールによる実効性確保にかなり慎重な意見を述べておられるのは、やはり経済団体との関係からなんでしょうね)

しかし約4000社のうちの半分程度の上場企業では、社外取締役がまったく存在しないわけでありまして、(企業統治研究会の配布資料にあるように)いくら米国在日商工会議所による圧力が強いからといっても、社外取締役の導入義務化を企業行動規範によって実行する・・・というのは、かなり衝撃的な流れでありますので、どうも早急な実現はむずかしいところだと思われます。(たしかに真剣に検討されてはいるようですが・・・)そこで、とりあえずは会社法による改正や自主ルールによる改正のような、きわめて強制的なルールの導入ではなく、金融商品取引法による改正という手法が一番穏健な対応ではないかと思います。いわゆる「開示ルール」(社外取締役の人数および独立性に関する開示事項の追加と、ガイドラインに沿わない場合の説明義務)による社外取締役制度の導入の実効性確保であります。(自主規制ルールによる「ガバナンス報告書」の記載要領によることも考えられるかもしれませんが)

ただし、開示ルールによる実効性確保・・・というのも、それだけでは有効性に疑問が生じるかもしれません。そこで議決権行使を通じたガバナンスの発揮、という論点が組み合わされる可能性というのが出てくるのではないでしょうか。先日の金融庁SCでも議論された、と報じられておりますが、たとえば(2008年度の資生堂さんのように)株主総会における各議案の議決結果について、単に可決か否決かだけでなく、賛成・反対の票数まで公表することを、取引所ルール等で求めていくといったことを組み合わせることで、先の開示ルールによる実効性を担保する、ということであれば、徐々にではあるでしょうが、社外取締役制度の効果を検証しつつ、導入する方向へと向かうのではないかと思われます。「なんでもかんでも株主意思を問う」といった極端な株主権ガバナンスの偏重志向を「社外取締役制度」によって回避しつつも、一面において社外取締役の一斉導入義務化といった急進的なガバナンス改正にもブレーキをかける必要もありそうですし、その調和ラインをどこに求めるべきか、ということが今後のコーポレートガバナンス論議の大きなポイントになるように思われます。

|

« MBO(株式非公開化)と監査役の意見陳述権 | トップページ | 監査役の利益相反問題について考える »

コメント

山口先生
この議論はこれからが正念場のようですね。
コーポレートガバナンスの議論は、これまでも何度も議論されていたにも関わらず、なかなか進展が見られなかった難問でもあり、今回の動向が、企業自身にとって実益があるもので、投資者としても(以前よりは)安心して株式投資できるようになり、日本の上場会社が不当に低く評価されるような実情が改善されることを切に願う者の一人です。
最後は、取締役の方々一人一人が真摯に職務を遂行されることであり、そのような方が多いと信じています。しかし、現実に起きているいろいろな問題事例を見るにつけ、制度的な手当はやはり欠かせない、と思い、今回の議論の行方は日本の将来にとって大きな意味があると考えています。
昨年末ころのあるMBOの失敗事例についても、(社外)取締役の方々の行動を見ると、(MBOですから、経営者がどういう行動をしていたか、はもっともっと深刻ですが。。。)日本の会社法の「社外性」の定義の在り方には大きな問題があり、このまま放置しておくことはどうしても避けなければ、危なすぎて投資などできないと思います。それは、(もし一部の経営陣などが私的利益を図る行為に手を染め、それを社外取締役がサポートしていたというような事例であったとすれば)企業で真剣に働いている従業員に対しても、背信行為とさえいえます。それゆえ、内部告発などもあったのではないか、と。
個別の事例は、事実関係を十分に知らない中で、軽々しくは論じるべきではありませんが、公表されているリリースや改善報告書を読む中で、ガバナンスの問題も、現在の法制で何が本当に欠けているか、また現状にどういう問題が潜伏しているか、深刻な問題があると考えております。
関係者の方々に迷惑にならないように、実名は伏せておりますが、法律家として、正面から問題を考えてみたいという実例の一つです。
先生のブログでも具体的な問題をぜひとりあげていただければ、と思います。ではまた。

投稿: 辰のお年ご | 2009年2月24日 (火) 01時36分

本当に浮世離れした話ではっきり申し上げて笑ってしまいます…

過去の政策の総括も出来ないのに、どうしてこの省庁は
(外部の「見識者」の意見という形を借りながら)
前のめりに奔ろうとするのでしょうか。
この辺で一旦立ち止まって、まず自らの内部統制を構築し
来たる政権交代に備えるということでもお考えなさい
(もう、「考えて欲しいです」などという婉曲な表現では
 この怒りは抑えられません(笑))。
まあ霞が関は民主党のほうが御しやすいと考えていそうですけどね。

外部(社外)取締役を拡充する会社はあっていいと思います。
他方、この国には超大会社が社長職を世襲したり大政奉還したりする
カルチャーが根強くあります。政治家は言うに及ばず、高級官僚の
大半が「親御さんも官僚(出身)」という例が多く見られます。
そのことが仮に悪しきことだとしても、一朝一夕には変えられないのは
お分かりの通りであります(間違いなく悪しきことですけど)。
文化を変え、まずは政治家の世襲を制限するべく法律を変え、
その上で民間企業の役員のありかたもまた再考されていくべきでしょう。

民間の側からは頼みもしてない(大半は余計な)ことを
政府・官僚側から次々と押し付けてくるのはもうやめて欲しいですね。
こんなことをしていたら国力は疲弊するばかりですよ。

選択肢は広く国からの義務は小さく責任はそれに応じて重く--
これが民間のありかただと思います。

投稿: 機野 | 2009年2月24日 (火) 01時59分

山口先生

いつもは拝見させていただくだけでしたが、このトピックと他の皆さんのコメントが日ごろの疑問と重なる点があったもので、思わず筆(キー)をとりました。

ガバナンスの議論を聞くときにいつも思うのは、よくよく英米の議論を読むと、パブリックセクターとプライベートセクターを区分した上で、双方を対象として議論していることですね。

訳が「"企業"統治」として定着しつつある現在、官庁も公益法人も関係なくなってしまうような語感となってしまうのは、半ば意図的なものかと勘繰りたくもなりますね。

元来内部統制もリスク管理も、そしてモニタリングも公私の別を認識した上で両者を抱合した形で検討されたものが、ふと気がつくと日本での展開は、御国のご指導の下、なにやら「民間企業のガバナンスは遅れているから欧米並に・・・」的な流れとなってしまうのが非常に残念です。

投稿: Amanojack | 2009年2月24日 (火) 17時55分

みなさま、コメントありがとうございます。
そういえば、本日(2月26日)経産省のHPに第二回の企業統治研究会議事要旨が公開されていますね。かなり白熱した議論がなされたようで、またエントリーのなかで採り上げてみたいと思います。

投稿: toshi | 2009年2月26日 (木) 18時24分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 2009年のコーポレートガバナンス論議の行方(素人的予想):

« MBO(株式非公開化)と監査役の意見陳述権 | トップページ | 監査役の利益相反問題について考える »