MBO(株式非公開化)と監査役の意見陳述権
江東区の事件につきまして、昨日地裁判決(無期懲役)が出ましたが、もし裁判員制度が始まったら、どういった判決になっていたでしょうか?真剣に考えこんでしまいそうです。(以下本題です)
会社と監査役との対決の匂いがすると、どうしても本能的に反応してしまう癖がありますが、昨年12月26日のエントリーでも書かせていただきましたグローウェルHの子会社である寺島薬局さん(JASDAQ 2月下旬に上場廃止予定)が、3月2日をもって株式非公開化手続きをほぼ完了し、3月3日の臨時株主総会(A種種類株主総会)に変わる書面決議(会社法319条、320条、325条)をもって新たにお二人の監査役さんを選任されるそうであります。(会社のリリースはこちら)
関係者の方々にご迷惑をおかけしてはいけませんので、何度も関係リリースを読みなおしたのでありますが、どうも理解できない点がございます。まずは、会社側より辞任勧告決議が出ておりましたK常勤監査役さんは、いったいどうなったのか?という点です。Kさんは、地元新聞社の記事では「法的手続きも辞さない」とおっしゃっておられたことからしても、辞任勧告決議には応じることができなかったようで、その後の会社側リリースでは、本年1月下旬の臨時株主総会において、当該常勤監査役さんの解任決議に関する議題が上程されたようですが、その結果については会社側からは報告されておりません。(もちろん、親会社であるグローウェルさんのリリースも探したんですけど、やっぱり掲載されていないようです)そのかわりに、新たに選任された取締役さんのご紹介リリースのなかで、「現在の監査役は以下の4名です」といった紹介がなされておりますが、そこにはすでにK常勤監査役さんのお名前は消えております。会社側は、K監査役に対する辞任勧告決議を行い、その結果についてはご報告いたします、と述べておられるにもかかわらず、なぜお名前が消えているのか・・・どうにも理解できないところであります。(誰が読んでも?と思われるのではないかと)
そして、その後上記4名の監査役さんのうち、弁護士資格を保有しておられる2名の社外監査役の方々が、1月末に「業務の在り方に関して、会社側と監査役会との間に重大な考え方の相違が存在するため」との理由で辞任をされ(2月3日付けリリース)、その結果法定の監査役員数を満たさなくなったために、今回2名の監査役が選任される・・・という流れになるわけであります。(ちなみに、譲渡制限株式会社化するにもかかわらず、定款一部変更によって監査役の定数を4名から5名以内に広げているところもよく理解できないところであります)ここで、親会社と子会社とのご事情などを安易に推察することは控えますが、やはり信頼関係がうまく構築されていない状況にはあるようでして、親会社の経営の在り方を十分に新生「寺島薬局」さんに浸透させるべく、監査役の刷新を図ろうとされていることは間違いないようであります。
ところで、この1月30日に辞任をされた監査役の方々は、いわゆる「権利義務監査役」(後任の監査役さんが決まるまでは、たとえ辞任をしても、まだ監査役としての権利を有し、義務を負う:会社法346条1項)たる立場にありますので、会社法上では監査役の選任についての同意権と意見陳述権(会社法343条1項、同345条1項)を有しているでしょうし(監査役会の構成員として)、またご自身方が、どうして監査役を辞任されたのか、という点についての意見陳述権を有しておられる(会社法345条4項)と思われます。ところが、この新しい監査役さん方は、寺島薬局さんが完全譲渡制限株式会社に生まれ変わった当日に、書面決議をもって選任される・・・ということになりますので、株主総会は開催されないわけでして、そうしますと、監査役固有の意見を陳述する権利を行使できなくなってしまうわけですよね。(A種種類株主総会は、選解任種類株主総会ではなく、実質的には普通株主と同じを思われますので、たとえ大株主しか存在しないとしても、監査役には意見陳述権は存在しますよね)このあたりは、実質的には大株主の単独株式保有に近い・・・ということから、とくに監査役の意見陳述権は確保されなくてもいいのでしょうか?ただ、最近は神戸に本社を持つ某会社のMBO事例でも問題となりましたが、株式非公開化手続きの公正性などにも(元株主、もしくは1株以下の端株保有株主などの少数株主的立場にある方が)関心が高まっておりますので、こういった場面における監査役さんのご意見というのも、けっして無視しうるものではないように思いますが、そのあたりはどうなんでしょうか。会社と委任関係にある監査役という職務は、現に株主である方々のためだけでなく、これまで株主だった方々への事後報告まできちんとやりぬくことも含めての「委任関係」「善管注意義務」ではないかと思うのでありますが、いかがなものでしょうか。
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コメント
例の無期懲役判決は量刑相場には合っていそうですが、穿った見方をすると、弁護側が首尾よく無期懲役判決を勝ち取ったように思います。
審理方式としては、傍聴席に証拠写真を映出したと聞き及んでますが、ちょっとやりすぎな気がいたします。それも、証拠の一部だとのことなので(事件柄当然でしょうが)、見せて何の意味があるのか甚だ疑問です。殺人事案でこれを実運用に乗せれば遺族退廷・審理中断のオンパレードになるのも当然の理です。
遺体の写真を傍聴席に見せる必要はないと考えます。
対裁判員の場合は評議・審理で証拠写真に触れることに起因する固有の論点がありますが、法廷における運用問題としては、検察官都合のパフォーマンスや傍聴席のリアクションによる量刑判断への影響があります。弁護士さんからすると何らかの対抗手段(理論)を考えておく必要があるんじゃないでしょうか。
運用開始前になって議論が下火になっている感がありますが、開始前後には先鋭化するでしょうね。
個人的には、猟奇的な殺人事件など裁判員の冷静な判断が期待できない特殊事案は運用で排除する実務になると予測しています。また、そうなるべきと思っております。
書面決議は議事を省略するものですよね。議事を省略すると、議場における株主の権利(議案提案権等)が行使できなくなる。これは株主全員の同意要件によって当然にクリアされるとして。当該書面決議にかかる総会が監査役の意見陳述権が発生している総会であったときに、監査役の権利が行使できなくなることも株主全員の意思でクリアされてしまうのか、あるいは(条文は見当たらないが?)監査役の個別同意を得ておくべきかという問題かと思います。私が担当者ならば念のため後者を選択し、書面決議用の書面に監査役の意見(欄)を設けて回付することを専門家に相談します。監査役選任議案への同意権はどのようにクリアしたのでしょうねえ?かなり疑問なリリース群です。
以上、素人の勝手な印象です。
投稿: JFK | 2009年2月20日 (金) 00時08分
株主総会書面決議の場合、取締役会と異なり異議申述権が明文化されていませんが、100%株主が同意すれば監査役を解任し、次の候補者を選任することが簡単にできてしまうので、全く意味はないと思います。また、株主総会の開催や意見陳述権についても、結局聞きたい株主がいれば書面決議に同意しないでしょうし、また、今回では辞任する監査役に同調する株主がいないと思われ、そうであれば、株主に意見陳述をすることは無意味となるのではないでしょうか。
まあ、事実上のリスク(風評等)を考えれば、JFKさんのような根回しは必要と思いますが。
もっとも、子会社の決定事実・発生事実としての重要事実に該当するかどうか、という点からしますと、今回の開示が適切かどうかの議論がもっとあってしかるべきのような感じがします。実質的な事業会社内の監査役と取締役の意見対立、弁護士資格ある監査役の辞任など、重要性は大のような気がします。証券取引所はどういう意見なんだろう。
投稿: Kazu | 2009年2月20日 (金) 14時07分
JFKさん、Kazuさん、ご意見ありがとうございます。
株主総会で解任される場合、その解任が議題となっている株主総会で(他の監査役も含めて)監査役は意見を述べることができますが(会社法345条1項、なお株主による解任の場合にも、監査役は会社に対して不当な解任について損害賠償請求権を行使できる場合がありますね)、とりわけ今回は2月3日に辞任をした監査役さんは、次の株主総会で意見を述べることができるわけですよね(同2項)これが書面決議が採用された場合には、(事前に監査役さんが意見陳述することはない旨明確にしていれば別ですが)どういった理屈で省略していいのだろうか…という点が疑問です。江頭先生の株式会社法では、取締役による事実上の解任がなされることを抑止するため、とあり、監査役の職務の独立性に関わる規定ではないかと解されます。そうであるならば、第三者責任も負う可能性のある監査役として、株主全員の同意があっても、意見陳述の権利は奪われてしまっていいのかどうか、そのあたりが少し問題になるのではないかと思います。
また、この会社の場合、2月28日までは一般株主がわずかながら存在するわけでして、その少数株主は自らの意思に反して株主たる地位を喪失することになります。2月3日に辞任した監査役の方々は、この2月28日まで株主たる地位にあった人に対しては、なんらの説明義務も負わないのでしょうか?たしかに3月3日の時点では株主ではありませんが、一部定款変更の承認決議についての内容に不満を持つ元株主は決議無効確認の訴えを提起する原告適格を有するわけですから、せめて監査役が(たとえその少数株主が存在しない場であっても)とりあえず意見を陳述して、議事録にとどめておきたい、といった気持ちになることもあるのではないかと思いますが、いかがでしょうかね。それとも、こういった少数株主は基本的に株式買取請求権が確保されていれば、とくに問題はない、ということなのでしょうか。
監査役選任議案への同意というのも、これもよくわからないところですが、肝心のK常勤監査役さんが「どこにいったの?」ということで、このあたりも明確にならないと説明がつかないように思います。
投稿: toshi | 2009年2月20日 (金) 16時13分