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2009年2月26日 (木)

公認会計士に収賄罪が成立するのか?(プロデュース粉飾決算事件)

(2月28日 重要な訂正あります)

(2月27日 追記・訂正あります)

迷える会計士さんから教えていただいて知りましたが、プロデュース社(民事再生中)の会計監査を担当されていた会計士さんが粉飾決算事件に関連して、(おそらく)有価証券報告書(届出書?)虚偽記載罪で告発される(かもしれない)とのことであります。ただ、それだけでなく、粉飾決算を黙認する代償に、不正に高額の監査報酬を受け取っていたとして、会社法967条1項による取締役等の贈収賄罪によって告発される可能性があるそうです。(時事通信ニュースはこちら)プロデュース社の会計士さんにつきましては、昨年10月の「プロデュース社の粉飾決算と公認会計士の関与」なるエントリーでご紹介いたしましたが、まさか収賄罪に関する容疑までかけられるとは、予想もしておりませんでした。

ところで、この会社法上の「取締役等の贈収賄罪」でありますが、旧商法の493条(発起人・取締役等のとく職罪)が改定された規定でありまして、旧法時代には含まれていなかった「会計監査人」が、取締役等と並んでこの収賄罪の主体として新たに含まれることになりました。(会社法967条1項3号)最高裁判例(昭和34年12月9日)や通説は、この会社法上の贈収賄罪について、刑法上のわいろ罪と同様の性質、保護法益と解しているようですので、「会計監査人」が新たに追加されたといいましても、その職務の廉潔性(および株式会社制度の信頼確保)を保護するととらえれば、それほど不思議なものではないと思われます。ただ、会社法上の贈収賄罪という規定は、会計監査人はもちろんのこと、取締役らにおきましても、過去にはほとんど適用された例はないですよねたぶん立証がむずかしいからだと思います。取締役らの行為を「不正」と捉えることもむずかしいですし、金銭の流れについて、不正との「対価性」を特定することも困難だからではないかと推測いたします。また故意の認定もむずかしそうであります。

しかし、このプロデュース社の会計士さんもそうですが、会社法上の「会計監査人」というと、監査法人という「法人」を指す場合もあります。(会社法337条1項)会社法972条によりますと、同法967条の「会計監査人」が法人である場合には、「その行為をした取締役、執行役、その他業務を執行する役員又は支配人に対してそれぞれ適用する」とありますので、そもそも、監査法人さんの普通の社員たる公認会計士さんには、この贈収賄罪は適用されない、ということになります。(これって、さきほどの保護法益の考え方とは矛盾しますよね?監査証明業務の廉潔性を保護するのであれば、監査法人の一般社員さんも同様に主体となりうると思います)また、そもそも今回のように業務執行社員とか指定社員たる立場にあった監査法人(会計監査人)の会計士さんというのは、どの条項によって「収賄罪」が適用されるのでしょうか?「その行為をした業務を執行する役員」ということなのでしょうか?しかし会社法上の「役員」とは取締役、会計参与、監査役のことを指すわけですから(会社法854条1項)、監査法人さんの業務執行社員はこれに含まれないですよね。支配人というのも違うようですし、それではいったいどうやって公認会計士さんに対して会社法上の収賄罪が適用されるのでしょうか?なんか、私自身の考え方に基本的な誤りがあるのかもしれませんが、どうも不思議であります。(※1)

※1 実際に監査報告書に署名捺印するのは「代表社員」の方でしょうから、代表社員であれば「役員」に含まれます、とのメールを何名かの方にいただきました。ちょっと私の文章がまずかったかもしれませんが、ここでは署名捺印をされない会計士の方々も念頭に置いて記述していたものでして、たしかに署名捺印される会計士の方、ということでしたら、別の議論になるかと思います。(しかし、有限責任監査法人さんの場合には、たしか「代表社員」さんがかなり限定されてきたのではないでしょうか?)

なんだかこの会社法967条はナゾの多い規定のように思われますので、捜査機関が勇気をもって本件に適用する可能性は薄いのではないか・・・というのが私の個人的な考えであります。ただ、企業の社会的責任が叫ばれ、コンプライアンスが重視される世の中となって、「取締役の職務の廉潔性」「公認会計士の証明業務の重要性」が社会的な要請である、ということになりますと、思いきって問題提起されてもいいのかもしれません。

(2月28日追記:従来より、会計監査人にも収賄罪の規定はありましたので、お詫びして訂正いたします。商法特例法28条をご参照ください)

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コメント

事件の進展、初めて知りました。大変、勉強になります。
ところで、条文の解釈ですが、例えば、会社法967条1項が懲役刑を科していることから逆に、3号の「会計監査人」は337条2項でいう「会計監査人の職務を行うべき者」を指すと考えることはできないでしょうか。
法律の専門家ではないので、保護法益云々の御議論はよくわかりませんが、根拠になさった854条1項は967条には適用されないような気がいたします。
もちろん、監査法人の一般社員に刑罰を広げるべきではないというご趣旨には賛成ですが。

投稿: ロックンロール会計士 | 2009年2月26日 (木) 22時06分

こちらの毎日新聞の報道でも、捜査機関が会計士の収賄罪適用に関心を寄せている、とありますね。一般の会計士にも適用があるように報道されていますが、本当に代表社員以外にも適用されるのでしょうか?

http://mainichi.jp/select/biz/news/20090226ddm041020127000c.html

投稿: hiro | 2009年2月26日 (木) 22時56分

あまり、深追いするような話ではないと思いますが、もしよろしければ、後学の為に。
①個々の会計監査の現場には、A代表社員、B(代表権のない)社員、c補助者(=職員、パート職員)の3種類の会計士がいるのですが、どの範囲で収賄罪になりうるとお考えでしょうか。
通常、AとBが監査証明書に署名捺印します。
②仮に、Aに限定されるとしても根拠条文は何でしょうか。
監査証明書への「当該証明に係る業務を執行した」社員(たぶん、Bも含めるんじゃないかと思います)の署名、捺印は公認会計士法他が根拠でしょうが、これらは会社法967条1項3号を適用する根拠にはならないように思います。
③会社法を読み直して気がついたのですが、会計参与の特別背任罪(960条1項3号)にも同じことがいえそうです。
監査法人や税理士法人が会計参与になった場合にも、「その職務を行った社員」(333条2項)が特別背任罪になることはないというのは、やはりおかしいような気がいたします。

投稿: ロックンロール会計士 | 2009年2月28日 (土) 01時06分

ロックンロール会計士さんの疑問は正しいです!

ちょっと私が誤解しておりましたので、(最初にご質問のありました迷える会計士さんのためにも)再度、このエントリーを訂正して新エントリーにて解説させていただきます。(しかし、そうなりますと、某法律学者の先生が某法律雑誌に記載しておられる解説は誤りかな・・・)

投稿: toshi | 2009年2月28日 (土) 18時22分

補足、訂正を拝見して、大変よく理解できたような気がいたしました。もっとも、法律実務の専門家ではない私などは、悪いやつが処罰されないのはおかしいといった程度の問題意識しかもちあわせていないのですが。
ところで、補足に書いておられる967条1項3号の「の職務を行うべき者」が「会計監査人」にもかかるという説は、346条4項を合わせて読むと、ちょっととりにくいんじゃなかろうかと思っておりました。
端的に、972条の「役員」の文言解釈として(337条2項も参考に)、監査法人の社員を含めることはできないものでしょうか。
解説書等を見ていないので、思いつきで恐縮ですが。

投稿: ロックンロール会計士 | 2009年2月28日 (土) 19時38分

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