会社法施行規則等改正(公開草案)とソフトロー
恥ずかしながら、私は(1週間ほど前)葉玉先生のブログを拝読して、はじめて会社法施行規則と会社計算規則の一部が改正されることを知りました。(旬刊商事法務の2月5日号でも政省令案の概要と新旧対象条文が掲載されております。WEBで閲覧するよりも、こっちのほうが読みやすいですね)
それで、この公開草案について何かブログで書こうかなぁ・・・と思っていたのですが、最近配刊されました「会社法コンメンタール第8巻機関(2)」の綴じ込み小冊子「対談 会社法の立法と裁判」がたいへんおもしろい内容でして、ついついこっちのほうを読みふけってしまいました。いや、この対談内容は企業法務の実務家、とりわけ私のような地方の弁護士にとっては興味深い内容です。コンメンタールの編集代表でいらっしゃる江頭教授と、門口判事(東京家裁所長、元内閣法制局参事官、元東京地裁第8民事部総括判事)との対談は、「内閣法制局の法律案審査」と「会社法と裁判」のテーマについて議論されているわけですが、どちらのテーマもおもしろい!とくに後半の「会社法と裁判」については、門口判事さんが、東京地裁第8民事部(商事専門部)の裁判長としてのご経験から、商事事件や関係当事者をどのような目で見ているのか(新奇性のある会社法事案等について事前準備はするのか?商事事件について素人と思われる弁護士がついている場合の事件にどのように対処するか?裁判官が参考としたくなる意見書と、読みたくない意見書はどこが違うのか?)、淡々と語っておられ「なるほど・・・」と唸りたくなるようなご意見は必読です。(「こんなのあたりまえ」と思われる方でしたら、おそらく立派な企業法務弁護士だと思います)そういえば、月刊監査役の2009年2月号では、常勤監査役が欠けた場合において、監査役全体の員数を欠いていない場合であっても、一時監査役選任申請が認められた事例が紹介されておりましたが、会社法346条2項との関係で(条文解釈上問題はありつつも)、東京地裁第8民事部の裁判官を説得できた最後の資料が「新版注釈会社法(6)」と商事法務論文であった、と記されております。こういった文献提出の効用などについても対談集のなかで触れておられます。また「倒産法実務」に精通することが、いかに企業法務に役に立つか・・・という点についても納得です。
そして前半部分においては「会社法の裁判規範性の希薄化」ということへの懸念が、おふたりのお話の中心論点になっています。(このあたりはお読みになる方によって、ご議論の流れについては賛否両論あるかと思いますが)この「会社法の裁判規範性の希薄化」ということを、今回の会社法施行規則の改正(政省令の公開草案)を検討するときの「モノサシ」として投影してみると、けっこう楽しく新旧対象条文が読めそうな気がしてきました。(まあ、私だけかもしれませんが・・・(^^;; なんか楽しみを見つけないと、こういった対照表とか、読み進めていけないので・・・)
会社法施行規則の改正に限った話でありますが、全体的にはほぼ「公開会社」に関連する改正といえるのではないでしょうか。MBO(株式非公開化)手続きの円滑化とか、自己株式取得、株主総会関連(株主との対話の充実)、事業報告内容の明確化といったあたりかと思います。中小の株式会社特有の問題点が少ないということを前提に考えますと、会社法の法としての実効性は政省令による自己完結性とソフトローへの傾斜という点にあり、こういったあたりから先ほどの対談集でも話題になっておりました「裁判規範性の希薄化」を感じるのは私だけでしょうかね。たとえば種類株式の内容や株式非公開化手続きにおける名簿記載請求、譲渡承認請求などは実務上不明な点を明確にするもので、そこには紛争解決の自己完結の思想が読み取れますし、社外役員の選任議案における理由説明や兼職状況の開示、兼職会社と当該会社の関係開示、責任限定契約を締結している役員への退職慰労金付与議案における説明事項の追加などは、一般株主による議決権行使を通じて「会社法の目指すガバナンスを会社自身が構築することへの実効性」を確保しようとしているものといえそうです。さらに、株主の提訴請求に対する監査役の不提訴理由通知制度については、会社の中に「裁判所」を作るようなものになっているわけでして、(しかしこれは経営判断に関わる問題なので裁判所も歓迎すべきものではないかと思いますが)やはり会社法は裁判所のほうを向いていないのかなぁ・・・といった印象を受けました。私はコメントを入れるほどの実力はありませんので、単なる印象程度しか申し上げられませんが、こいった政省令の改正などを通じて「これから会社法はどっちの方へ向かっていくのだろうか。裁判のなかで会社法はどういった法律として受け止められていくのだろうか」といった問題意識だけは持ち続けていたいなぁと思っています。
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コメント
いつも拝読しています。葉玉先生のブログも見ていますが、会社法について今後も参考になるコメントをよろしくお願いいたします。会社法の目指すガバナンスはまず「公開会社」からなのでしょうね。
投稿: 星の王子様 | 2009年2月 9日 (月) 09時01分
はじめまして。いつも拝見しております。
私もこの小冊子は興味深く拝読いたしました。
一地方の(あまり商事裁判を得手としていない)裁判官が出した商事判決についても、行政府では「判例」として相当意識される、といったこと。
これは的を得ていますね。このことを裁判官自身がもっと意識していただければ・・・と。そんなことを考えながら読ませていただきました。
投稿: shiota | 2009年2月 9日 (月) 11時04分
星の王子様、SHIOTAさん、コメントありがとうございました(返信が遅くなりまして申し訳ございません)
葉玉先生のような立派な会社法に関する解説はできませんが、実務に密着した話題について、今後もアップしていきたいと思っておりますので、どうかよろしくお願いいたします(星の王子様さんのブログも拝見させていただきました。すいぶんとジャンルが広いのですね。)
判例が重視されることは、それに関与する代理人もきちんと把握しておかなければならないと自戒しております。
投稿: toshi | 2009年2月15日 (日) 12時47分