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2009年3月16日 (月)

株主総会想定悶答(その3-内部統制報告書関連)

会社法上の内部統制に関する話題として、先日新潮社代表者に貴乃花親方名誉毀損事件における損害賠償責任が認容された事例をご紹介しましたが、3月13日の別訴(講談社に対する名誉毀損損害賠償事件)では、(法人に対する損害賠償責任は認容されたものの)講談社代表者に対する損害賠償責任が否定されたようであります。新聞報道によりますと「デスク、編集次長、編集長がチェックする編集部の体制が出版社に求められる水準以下とはいえない」として代表者個人としての過失は認めなかった、とありますので、本事例においても取締役による出版社におけるリスク管理体制構築義務(内部統制構築義務)が争点になっていたようであります。そもそも出版社といいましても、他人の名誉侵害のリスク評価には違いがあるでしょうし、第三者への取締役の損害賠償責任が認容されるためには、単なる過失ではなく「重過失」が要件とされておりますので、一概に両判決を比較することは困難でありますが、取締役の内部統制構築義務違反について、いかなる場合に損害賠償責任が発生する(と裁判のうえで認められる)のか、検討するには好材料だと思われますし、この講談社判決についてもまた(入手次第)判決文を仔細に検討してみたいと思っております。

Souteimondou さて、今年もこの時期になりますと、あの電話帳のような分厚い別冊商事法務「株主総会想定問答集」が出版されますので、(値は張りますが)早速平成21年度版を購入し内容をチェックしておりました。(写真は平成20年度版です。いろいろな想定問答集が出版されますが、この本は経営分析や計算関係書類、株式実務などの質疑応答事例を通じて、会社法が実務上どのように生かされているのかを勉強するに最適だと思われますので、毎年目を通すようにしております)そのなかに、いよいよ本番を迎えます金商法上の内部統制報告実務と株主総会対策に関連しそうな質疑応答事例も新たに組み入れられております。質問数は少ないですが、「監査役・監査役会に関する新規質疑応答例」(619頁以下)に含まれております。

主に監査役が株主にどのように回答するか・・・といった視点からでありますが、①監査役は財務報告に関する内部統制について、どのように関与したのか、②監査役は経営者が作成した財務報告に関する内部統制報告書につき、同意見か、③監査役の目からみて、当社の財務報告に関する内部統制システムはどのように評価するか、といったあたりの予想質問であります。上記「想定問答集」を作成された弁護士さんや証券代行部の方々とは少し意見が異なりますが、①については、「財務報告内部統制」も会社法上において構築すべき内部統制の一部であることから、取締役会における決議内容の相当性を判断するものでありますが、実際の財務報告内部統制の整備、運用面における不備の有無については、経営者による評価手続きのチェックや、会計監査人との連携協議を通じて判断する・・・という形で関与しております・・・と簡潔に回答すればいいと思います。(なお、ここで示す「不備」といいますのは、内部統制実施基準における「不備」とは概念が異なります)②については、経営者評価は一般に公正妥当と認められる経営者評価基準に従って評価されるべきものであり、監査役による適法性判断の基準とは異なるわけですから、そもそも「同意見」というのはありえず、「監査役の立場から、経営者評価および外部の監査人の監査手続きを審査しております」でいいのではないかと思われます。(「重大な欠陥」があると認められれば、監査報告書に記載すべきことになります)また、③につきましても、監査役のモニタリング自体が全社的統制の有効性評価の一部を構成することになるので、監査役自身が「有効である」と述べることには違和感を覚えます。むしろ適法性判断の基準から、および会計監査人の会計処理および結果の相当性を判断する立場から、「経営者による内部統制の構築および外部の監査人による監査手続きにおいてとくに違法と認められるものはございませんでした」と回答されるのが適切だと思います。経営者や内部統制監査人による「不備と重要な欠陥」の判断と、監査役による「不備と重大な欠陥」の判断とは、その職責の違いから明確に区別する必要があると思われますので、そのあたりは総会における答弁でも意識しておいたほうがよろしいのではないでしょうか。(まぁ、実際には粉飾決算や資産流用事件などが発生した上場会社以外では、こういった質疑応答が行われる可能性は薄いと思いますが・・・)

さらに問題は、事前に会計監査人(正確には内部統制監査人ですが)から内部統制監査報告書には適正意見を出せない(重要な欠陥があり、期末までには是正されたと判断できない)ことを通告されており、経営者評価としても「有効ではない」と報告される見込みがあることを監査役が知っているケースで、総会の場で株主から「内部統制は有効と評価するか」といった質問が出される場合であります。内部統制報告書は有価証券報告書と同時に提出されることになっておりますので、まだ正式な報告書は株主総会時点では出されておりませんし、また株主総会での審議事項とは関係ないのではありますが、それでも説明責任を尽くす必要性については否定できないようにも思われます。ただ、3月末時点での有効性の評価については、総会終了直後のぎりぎりまで判断に悩む場合もあるでしょうから、株主総会時点では「仮定のお話については申し上げることはできない」と回答することもできるでしょうし、「有効性判断」に関する評価結果については、監査役監査報告の結論を出すにあたっての議論の中心論点であって、議事録閲覧手続きとの均衡上、一般株主からの開示要求に安易に回答することは控えるべきものだとも思われます。また、内部統制報告書の提出はインサイダー取引規制における「公表」に該当しますので、ひょっとするとバスケット条項に該当するような「重要事実」を株主総会で開示してしまうリスクもあるかもしれず、そもそも現時点における証券取引所の適時開示ルールによれば、監査人が不適正意見を出した場合にはその旨の適時開示を必要とすることになっていることとの関係からみても、監査役から内部統制の有効性に関する明確な回答を出すことは躊躇するところではないでしょうか。(なお、以上はあくまでも私個人の見解であります。この点につきましては、おそらくしかるべき団体より、モデル指針が出るのではないかと予想されますので、今後の情報にご注意ください)

3月 16, 2009 株主総会関連 |

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コメント

>会計監査人(正確には内部統制監査人ですが)から内部統制監査報告書には適正意見を出せない(重要な欠陥があり、期末までには是正されたと判断できない)

蛇足のコメントでしょうが、「重要な欠陥があること = 内部統制監査報告書の不適正意見」という記述であるかのように読めてしまいます。

制度上は経営者が重要な欠陥ありと考えているのに、監査人が重要な欠陥はないと考えている場合も不適正意見となりうることにご留意ください。もっとも、この場合は経営者が最終的に「内部統制は有効」として内部統制報告書を作成すると思いますが。

投稿: FN | 2009年3月17日 (火) 09時15分

>FNさん

適切なフォローありがとうございます。おっしゃるとおり、会社側(経営者)が重要な欠陥が残っているとして内部統制は有効ではないとする報告書を出した場合には、内部統制監査報告書には「適正意見」が付されることになりますね。
適時開示の対象になるのは、内部統制監査報告書に「不適正意見」が付される場合もしくは意見を表明しない場合に限られる・・・ということなので、本文ではそのあたりとの関係で、若干舌足らずの記述になっております。ご了承ください。

投稿: toshi | 2009年3月17日 (火) 11時49分

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