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2009年3月 6日 (金)

「国策捜査だ!」の矛先は政府与党?それとも検察?(素朴な疑問)

公正取引委員会がJASRAC(社団法人日本音楽著作権協会)に対して排除措置命令を発出した事例につきましては、個人的にかなり興味を持っておりまして(とりわけ公益法人に対する競争原理の適用について)、ブログで書きたいところでありますが、DMORIさんのコメントを拝読して、ちょっと政治がらみの話題について。このブログでは、大阪府知事の話題を含め、あまり政治に絡んだものは採り上げない方針にしておりますが、公設秘書逮捕が「国策捜査だ」といった意見表明をされている方が多いので、私見を少しだけ書かせていただきます。

まず、この「国策捜査」というのは、どういった定義で使われているのでしょうか?時の政府の方針に従って検察が動く場合を指すのか(つまり政府が検察権力を支配していること)、それとも、検察が「政治はかくあるべし」と考えるところに従って検察権力を行使することを指すのでしょうか。ちなみにWikipediaでの定義によりますと、

国策捜査

主として東京地方検察庁特別捜査部が、政治家、経済人、著名人などのかかわる刑事事件において、彼ら自身が定義する「正義」の実現を目的として行われる捜査を指すとされる。2002年の鈴木宗男事件の際に逮捕された外務省元主任分析官・佐藤優の著書『国家の罠』において主張された。

最近では特捜部の捜査手法が社会秩序の安定を目的に、一罰百戒を狙った逮捕に重きを置くものになっているという指摘も一部でなされている。

ということだそうで、後者の意味で用いられるもののようであります。しかしながら、産経新聞ニュースなどによりますと、関係者の間では「政府による検察への指揮権発動」を問題視されているようですので、そうだとしますと前者の意味で用いられているようでもあります。このあたりを整理しませんと、「国策逮捕だ」といった非難の矛先がどこへ向いているのか(また、聞いている方も、どこに向いているのか理解できず)、なんだか情緒的な「言い争い」にしか聞こえてこないと思うのでありますが、いかがなものでしょう。いずれにしましても、一つの「逮捕」「捜索」という事実について、それが「国策捜査」か否かを一義的に決定することはなかなか困難なように思います。左から光をあてればそのように映るでしょうし、右から光をあてれば、そのようには見えない・・・といったところではないでしょうか。

「国策捜査」とまでは言いませんが、「社会正義だけでなく、他事考慮のうえで捜査を開始したのではないか」と思われる事件の弁護人を何度か務めさせていただいたことがありますが、「他事考慮」が疑われる場面というのは、被疑者側にも「恣意的な権力行使だ」と叫びたくなるような、それなりの理由があると思います。

ひとつは、「その業界では誰でもやっているような違法行為がゴロゴロしているのだけれど、ふだんは(身柄事件などに手がいっぱいなので)放置している。でも、住民団体から圧力がかけられたり、他の看過できない捜査に関連して捜査せざるをえない場合などには、そのうちの一部については捜査を開始する」といった場合であります。捕まったほうは、「なんで他の連中も同じことをやってるし、あんたたちもそれを知っているのに、俺だけがあげられるの?これってなんかの見せしめ?それとも別件があるの?」といった抗弁がかならず出てきます。被疑者側からみれば、どうしても検察の恣意的な判断のように思えるのであります。したがって、選挙前の時期であればなおさら、被疑者側から「国策逮捕だ」といった抗弁が出てくるのもなんとなくわかる気がします。

もうひとつは、会計不正(粉飾決算)事件などでも同様の場面に出くわしますが、「ひとつひとつの企業活動を捉えれば、なんら違法性は問題にならないけど、全体をひとつの企業活動として捉えれば、違法行為と評価できるために、立件する」といった場合であります。元名古屋高検検事長でいらっしゃった方が委員長を務められた日興コーディアル社外調査委員会の判断方式が、この典型的なパターンです。(ライブドア事件における検察および裁判所の判断も、これに近いのではないでしょうか)これは法律家に特有の判断方法であり、おそらく一般の方々にはなかなか理解がしがたいところがあるのではないかと思います。(だからこそ、司法が説明責任を果たす必要があるのでは、と思っております)リーガルリスクは事前に認識をしているのでありますが、「違法にはならないためにはどうしたらいいか」と熱心に専門家と相談して、法に触れない手法を常用するわけでありますが、ある日突然、捜査開始となりますと「前の署長のときにはなんにもお咎めなしだったのに、なんでやねん。なんか別件があるんとちゃうか?」といった被疑者側の抗弁が必ず出てきます。これも、選挙前の時期であれば「国策逮捕だ」といった抗弁が出てくる理由になるのかもしれません。ただ、「脱法行為」というのは、計画性の高い犯行として、検察として最も許し難い部類の犯行でありますから、この手のパターンには厳格な対応がなされることが多いように思います。

ところで、検察や警察がもっとも嫌がるのは、医師が自身の主義主張をもって(一般に禁止されているところの)医療行為を行うとか、大麻を吸った長男の首根っこを押えて、両親が警察署に出頭して「こいつを2ヶ月くらい、ブタ箱に入れて反省させてやってくれ」などと言われるケースなど、いわゆる一般市民が警察、検察権力を正当に利用して自身の希望をかなえようとするときではないかと思います。つまり、本来ご自分たちがすべきことを、国民が協力してくれることは「いいこと」として警察・検察権力から感謝されるべきではないかと思うのでありますが、まったく逆なのであります。「国策捜査だ」といった批判を浴びることについては、むしろ検察の権威(プライド)を高めることにつながりそうなので、とくに検察としても大きな問題ではないと思いますが、逆に本来検察の職責に近いようなことを、「正義という名によって」衆人環視のもとで別組織が行うような場合こそ、もっとも検察が嫌うパターンではないかと思いますので、そういったアイデアをどなたかが出されると、少し違った展開になるのではないでしょうか(もちろん、ここではそのような具体策は申し上げませんが)

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コメント

■“政府高官”の名前はなぜ公表されないのか

DMORIです。とりあえず1点だけ。
「今回の捜査は自民党には及ばないだろう」と語って、民主党からは「国策捜査だと馬脚を現した発言だ」と言われ、自民党からも「政府が言ってはならない発言だ」と批判された政府高官。

失言を取りざたされて辞任に追い込まれる大臣も多い中で、どうしてこの「政府高官」だけは名前が報道されたり、議員の口から名前を上げてのコメントがなされないのでしょうか。

国民としては「誰だ」と思うのですが、何か政界とマスコミで取り決めているルールがあるのでしょうか。不透明なものを感じます。

投稿: DMORI | 2009年3月 7日 (土) 09時38分

今回のニュース、びっくりしました。
定期的な政権交代が望ましいと考えていますので、野党のキーパーソンのスキャンダルは残念です。
ところで、「国策捜査」のお話ですが、御主張とはやや異なった感じをもちました。検察への批判は、法的な考え方がわかりにくい為というより、(法律には触れるかもしれないが)たいして悪いこととも思えない容疑で、権力闘争に極めて大きな影響を与えるであろう捜査をした為ではないかと思います。
おっしゃる通り、汚職などの悪質な事件がでてくれば、批判はひっこむと思いますが。
かんぽの宿でもそうですが、意味のある情報がでてくるまでしばらく推移をみないと、白黒はまったくわからないような気がします。

投稿: ロックンロール会計士 | 2009年3月 7日 (土) 14時52分

DMORIさん、ロックンロール会計士さん、こんにちは。

しかし本当に「権力闘争」に大きな影響が出てきたようですね。「国策捜査」の話につきましては、やはり政府高官問題などをみても、「時の政府と検察権力」とのつながりが問題として指摘されているようですね。でも、私は本文で述べたような疑問はいまも抱いております。検察が良かれと思って行う捜査と、癒着のうえでの捜査ではまるで意味が異なりますが、これを「国策捜査」という言葉で一緒にしてしまうのは、ちょっとおかしい。これからの世の中、いずれの意味でも問題が出てくるケースが予想されますので、用語の分類は不可欠だと思います。

投稿: toshi | 2009年3月10日 (火) 12時57分

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