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2009年3月17日 (火)

株主総会想定悶答(その4-株主提案としての勧告的決議)

会社法の立案担当者の方の座談会記事をとりあげて、以前「株主総会における(定款変更決議を経ない)勧告的決議については、単なる気休めまたはアンケート調査にすぎないのではないか?」といった問題があることについてエントリーを書かせていただきました。また、おおすぎ先生の2年ほど前の「勧告的決議---法的思考のススメ??」なる秀逸なエントリーにおいては、(定款変更決議を経ない)勧告的決議についてはとくに禁止されていると考えるべきものではなく、むしろ取締役の善管注意義務との関係ではこういった会社提案をすべき場合もあるのではないか・・・といったご意見を拝読させていただきました。また、昨年6月の企業価値研究会報告書におきましても、買収防衛策の導入又は発動の場面につき、勧告的決議によって株主から過半数の賛成を得たことは、当該買収防衛策が株主の合理的意思に依拠していることを示す事情としては考慮されうる・・・とされ、いわゆる勧告的決議の正当性が主張されているところであります。

私は、買収防衛策の組み立て方との関係で、この勧告的決議の正当性を論じることができるほどに法律に精通しているわけではありませんが、上場企業の社外監査役のひとりとして、この勧告的決議については、いまだによくわからないところがありますし、株主総会シーズンを前にして、もう一度、どなたか会社法に精通された方のご意見をうかがいたいと思っております。つまり、定款変更決議を伴わないような勧告的決議に関する株主側からの提案権が行使された場合に、これを会社側としてはどのように扱うべきなのか、ということであります。先日、山口三尊さんからのコメントで初めて知りましたが、昨年の西武ホールディングスの株主総会において、三尊さんは、子会社である西武鉄道の運営にかかる電車の車両に、女性専用車両だけでなく、男性専用車両も設置するよう求めたところ、この議案についてはかなり多くの賛成票が集まったそうであります。この株主提案は一部定款変更を伴う議案として提出されたものですから、ちょっと性質の違うものではありますが、もしこういった議案が定款変更を経ないものとして勧告的決議を求めるような議案が株主から出された場合、会社としてはどういった対応をすればよいのでしょうか。もちろん、会社法309条5項は株主の議題提案権の行使できる範囲を画するわけでありますが、この規定があるからといって、「勧告的決議」についてすべて排斥されてしまうのでしょうか?昨年も、日本ハウズイング社は、株主たる原興産社からの(買収防衛策を発動しないことに関する)勧告的決議(4号議案)についてはこれを尊重するものとして、そのまま株主提案として受け入れておりますし、また会社側が買収防衛策の導入に際して勧告的決議を行うとするならば、株主側からの各種勧告的決議に対しては、これを排斥する合理的な理由があるのかないのか、考えておく必要があるのではないかと思われます。

先の西武ホールディングスの「株主提出議案に対する当社取締役会の意見」によりますと、痴漢行為の防止のための施策については会社経営陣の職務執行行為であって、定款へ記載することになると、会社職務執行の機動性を奪うことになり、不適当である、男性専用車両の設置については広く希望にかなうものかどうかは、要望数も少ない現在では実施すべきとの判断には至っていない(よって、株主提案に当社としては反対する)・・・というのが理由のようであります。しかしながら、勧告的決議であるならば、とくに執行の機動性を奪うことにはなりませんし、また実際に頭数でいえば、過半数に近い人たちの賛同を得ている結果が出ているわけですから、要望数が少ない、といった理由も該当しないはずであります。会社側としては、そういった株主の要望を「ひとつの意見として伺っておく」ということであれば、とくに取締役らの職務執行を拘束する程度も低く、取締役の善管注意義務を尽くさなかったこと(評価障害事実もしくは評価根拠事実)のひとつの事情程度には考慮される、とすれば、それなりの正当性は認められるようにも思われます。(刑事当番弁護士として、逮捕段階から痴漢無罪主張事件に関わった経験からしまして、人生におけるリスク管理の一環として、私なら絶対に「男性専用車両」に乗りますね)

買収防衛策特有の事情(株主の合理的意思に依拠すること、取締役らに利益相反行為のおそれが必然的にそなわっていること、TOB手続きの不完全性等)がからんでいるために、例外的に「勧告的決議」に正当性が認められる場合がある、ということであれば、株主側の提案についても広く取締役の職務執行行為に関連する事項についての勧告的決議は認められない、といえそうでありますが、そのように言い切っていいものなのかどうか、また取締役の善管注意義務の履行との関係で、会社提案の場合には勧告的決議は認められるのであって、株主側の提案は認めないと言い切れるものなのかどうか、このあたりの合理的な説明がどうしても必要なところでありますし、逆に、株主による強力なガバナンスを主張する立場からすれば、賛否投票数の開示問題と含めて、こういった勧告的決議が認められるべき、といった見解も出てきそうな気もしますが、このあたりを整理するヒントがございまいしたらご教示いただけませんでしょうか。ちなみに私の意見はといいますと、そもそも定款変更を伴わない株主総会決議というものを「勧告的決議」と定義することに疑問を感じます。「決議」というのは組織法的な意味合いにおいて、ある一定の議決権の賛否によって組織の意思決定という「法的効果」が生じる場合を指すのであって、そのような法的効果を伴わない決議については、会社法上の「決議」には含めるべきではないと思います。いわゆる「勧告的決議」によって意味があるのは、賛否の数による法的効果ではなく、「過半数の賛成票が集まった」とか「3分の2以上の賛同があった」とか「30%の賛成票が集まった」といった「状態」であって、得票数そのものではないはずであります。(つまり「大多数の株主の意思に沿っている」とか「株主の合理的な意思に依拠している」ということを示すためには、そういった「状態」を証明すれば足りるわけであります。また場合によっては30%の株主による賛成票が集まれば、取締役の善管注意義務違反を否定する「状態」があったことを証することが可能かもしれません。)そう考えるならば、やはり勧告的決議というものは株主総会検査役の選任も認められないような「株主アンケート」に近いものであり、そういったアンケートをするかしないか、ということは広く経営判断によって決定されるものであって、株主の地位に基づいて固有の権利として提案できるようなものではない、と考えられるのではないでしょうか。

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コメント

山口先生、ご無沙汰しております。
「勧告的決議」と呼ばれているものにもおそらく2種類あって、(1)総会の権限(295条2項)に含まれていて、会社が提案すれば決議でき、法的拘束力を生じるが、株主の提案にかかる場合にはたとえ可決されても法的拘束力がないというもの(例:合併)と、(2)そもそも総会の権限に含まれないもの(例:社会運動型)です。(2)については、株主から提案があっても会社は不適法として拒絶できるというのが現行法の立場であることには異論は少ないだろうと思います。(1)は、「会社は取り上げる義務はあるが、たとえ可決されても拘束力がない」のか、「会社は取り上げる義務はないが、取り上げても良い」のか、最近出た『逐条解説会社法第4巻』を見てもはっきりしません(笑)が、私は今のところは後者だろう(つまり(1)と(2)に違いはない)と考えております。いや、法の文言上も政策論としても決め手はないのですが・・・

投稿: おおすぎ | 2009年3月17日 (火) 10時14分

おおすぎ先生、ご解説ありがとうございます。先生のエントリーを読ませていただき、この二つの類型を知ったような次第です。
私も社会運動型の勧告決議について、株主側から提案があったとしても不適法ではないか・・・といった結論についてはわかるのでありますが、ではなぜ、会社側からの勧告型決議については正当性があり認められる・・・と言われているのでしょうか?著名な法律実務家の方の論文などでは、いわゆる定款変更を伴わない(会社提案にかかる)勧告型決議についても、買収防衛策との関係では正当性があるとされていると思うのでありますが。株主提案では認められず、会社提案であれば適法手続の一環として用いられる、ということを合理的に説明できる理屈はどこにあるのだろうか・・・と。

投稿: toshi | 2009年3月17日 (火) 16時08分

新版注釈会社法5巻71頁以下(1986年)を読み返してみますと、いろいろな考え方があるようですね(しかも、それぞれの考えの内容は必ずしも明瞭ではありません)。事業譲渡や合併などを株主が提案する場合には、「事の性質上会社側の発議によってのみ総会に付議されることが適切」とか「合併契約・・の取締役会決議がない以上無意味である」とか、「このような提案が可決された場合にも、会社にとっては、その内容をそのまま実行することが困難な意思不可能な場合もありうる」とか説明されていますが、いずれも説得力は不十分ですね。

私は、アクセルとブレーキでいうと、株主は経営者の方針にブレーキをかけることはできるが、経営者の良心に反して株主が特定の事業遂行を命じること(アクセル)はできない、もしもそれがイヤであれば株主は経営者を解任する(再任しない)事で対応しなさい、というのが実質的な理由だと思います(仮に両当事会社で合併契約を承認しても、事実上、両者の取締役は合併にかかる事務を遂行しないことがありえ、この場合に、株主の提案権を広く認める立場を採ると、解決できない混乱が生じてしまいます)。この点は、多くの学説の間で、一応共有されているのではないかと推測します。

とはいえ、そうだとして、出されてきた株主提案を(勧告的決議として)会社が取り上げることについては、できないのか、取締役の裁量なのか、義務なのか、注釈書を読んでも良く分かりませんね・・(私は取締役の裁量だと考えていますが)。

ところで、一般論ですが、他の監査役が(たとえば会社の差し金で)ある監査役が監査報告に付記することを妨害したという事案では、どうなるのでしょうね(笑い事ではない・・)

投稿: おおすぎ | 2009年3月18日 (水) 09時53分

おおすぎ先生、詳細な解説ありがとうございます。おおすぎ先生の実質的理由というところはよく理解できました。このあたりの議論につきましては、取締役の善管注意義務、忠実義務の考え方とか、選解任権による株主権コントロールなどとも関連するでしょうし、社外取締役の存在が、株主共同利益の実現とどのように結びつくのか、といった論点とも関わるように思えました。今後の議論の発展についてはかなり興味が湧くところです。
ところで最後の疑問点でありますが、某会社ではリリースが訂正されて「付記意見」が添付されたようですね。監査役は独任制ですから、妨害行為が認定されたとすれば大いに問題となるでしょうね。

投稿: toshi | 2009年3月23日 (月) 02時14分

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