西松建設㈱事件は内部統制の限界なのか?
週刊経営財務の3月2日号(2908号)に、八田進ニ教授の論稿「西松建設㈱事件は内部統制の限界なのか?」が出ておりましたので、(少し遅くなりましたが)本日拝読させていただきました。八田教授の西松建設事件への捉え方は、最終頁(31頁)のご意見に集約されており、私も基本的には内部統制の限界論では済まされないものであり、また私自身としては(以前のエントリーでも書かせていただきましたとおり)重要な欠陥にも該当しうるものだと認識しております。COSOによる1992年の「内部統制の統合的枠組み」が、そもそも西松建設事件の発端である海外腐敗行為防止法における法律運用のために策定されたことに鑑みれば、このたびの裏金作りが内部統制報告制度と関連性があるとみるのが筋ではないかと思われます。(もうすぐ内部統制報告制度における「評価時点」を迎える上場企業が多いわけですが、全社的内部統制について「何をもって不備が是正されたとみるのか」「不正会計事件や四半期決算報告の訂正は不備ではないとなぜ評価したのか」「当該企業不正がなぜ財務報告に関わる問題ではないと評価したのか」等、開示の必要性とは関係なく、合理的な根拠をもって説明すべき問題に頭を悩ませる企業も出てくるのではないでしょうか。)
ところで、八田教授は(上記論稿のなかで)海外腐敗行為防止法(FCPA)について、その法制定の経過から、1997年のOECD外国公務員賄賂防止条約の合意、日本における不正競争防止法の改正、そしてその後の「外国公務員贈賄防止指針」改訂までの経過について説明されていますが、時を同じくして、月刊ビジネス法務(中央経済社)でも、外国法共同事業(国際法律事務所)の弁護士の方々による「来襲!FCPA」の連載が開始されております。ブリヂストン事件によって日本のサラリーマンが米国で実刑判決を受け、PCIのベトナム高官賄賂事件でも有罪判決を受けるなど、「日本企業の海外事業における競争の公正」が問題となるなかで、このたびの西松建設事件の発生ということで、この月刊ビジネス法務の特集連載はまさにドンピシャ!のタイムリーな論稿でありまして、海外事業を展開されていらっしゃる企業の担当者の方々には必読ではないかと思われます。(読んでいるうちに、私もけっこう怖くなってきました)
このビジネス法務4月号の連載記事によりますと、FCPAの基本構造は贈賄禁止条項と会計処理条項の二本柱から成り立っている、ということで、さらに「会計処理条項(裏金作り)」による摘発が多く、すでに米国、ドイツ、ハンガリー、フランス等では多くの海外汚職事件が摘発されているそうであります。いま西松建設事件は「国策捜査」ということが話題になっておりますが、もし「国策捜査」が本当であるとするならば、検察としての「国策」はこういった裏金作りの真相を徹底的に解明して、国際的にも海外汚職摘発の実績を示す必要がある、ということも一因なのかもしれません。(私の勝手な推測でありますが)
しかし、上記FCPA関連の政策を含め、このところの日本の競争政策は活発化していることは間違いないと思います。ZAITEN4月号の特集「牙をむく公正取引委員会」での松山事務総長のインタビュー記事にもありますように、「不況であろうが、健全な競争社会を保つことが我々に課せられた使命」としてICN(国際競争ネットワーク)を中心に国際的連携を強めながら国内の競争阻害要因へ対処する、とのこと。先日のJASRAC(日本音楽著作権協会)に対する排除措置命令などは、独禁法50年以上の歴史のなかであまり取り締まっていなかった「排除型私的独占」分野において新たに競争原理を敷いていこう、といった公取委の強い意思の表れではないかと思われます。(ただ、このJASRACに対する排除措置命令につきましては、審決取消訴訟までもつれたら結構おもしろい裁判になりそうな予感がしますし、追って別エントリーにて検討してみたいと考えております。)国際的な競争の公正を希求することはたいへん結構かとは思いますが、一方のおいては「競争ルールをグローバルに平準化することは、つまり海外諸国に日本の1500兆円の現金を奪う機会を与える、ということ」(By某著名な会計士さん)ということでもあるそうです。(なるほど・・・そこまで意識して考えたことはございませんでした。。。)
| 固定リンク
コメント