組織ぐるみの粉飾決算(そのとき社外取締役、監査役は?)
GWに突入いたしましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。(おそらく30日は普段のアクセス数よりもかなり減っているのではないかと予想しております。)また、月曜日の代表取締役の解任動議に関するエントリーには、非常に有益なご意見を頂戴しまして、どうもありがとうございました。m(__)m さて、社外取締役や監査役などが「蚊帳の外」に置かれるのは、なにも社長解任動議の場合だけではなく、たとえば社長をはじめ、社内取締役が長年隠ぺいしてきた粉飾決算が明るみに出た場合でも同様ではないかと思いまして、以下のような疑問点を検討しているところであります。
昨今の社外取締役や監査役制度に関するガバナンス論議のなかで、(もし今後社外取締役制度導入が拡大されたり、監査役の権限強化がはかられるとするならば)会社法上、もう少し検討しておかなければならない問題があると思っております。昨年4月、ナナボシの民事再生管財人から提訴された会計監査人(だった)トーマツさんは、すでにご承知のとおり、第一審(大阪地裁)において会計監査上の見逃し責任(損害賠償責任)があると認定されたものでありますが、その際、会社自身の過失を8割として「過失相殺」の抗弁が認められております。(たとえば会計監査人の過失と因果関係のある損害額が1億円と認定された場合、過失相殺8割であれば最終的には2000万円の賠償命令が出されることになります)ところで、上場会社と会計監査人とは、いわば準委任契約上の委託者と受託者の関係にあるわけですが、社外取締役や監査役も、同様に会社との関係では委任契約たる法的地位にあります。だとするならば、会計監査人と同様、たとえば粉飾決算発生後に民事再生管財人から役員の責任を問われたり、事件後に新たに代表者に就任した者から損害賠償請求の訴えを提起された場合に、「私たちは蚊帳の外であって、騙されたほうである。したがって、たとえ他の取締役らとともに善管注意義務違反の責任があるとしても、組織ぐるみの粉飾は旧社長以下社内取締役らの関与のもとで行われたものであるから、8割の過失相殺を主張する」といった抗弁は成り立つのでしょうか?
まあ、こういった事態が想定されるからこそ、社外役員については責任限定制度が会社法上でもうけられているわけでありますが、3年ほど前に、当ブログでもとりあげさせていただきました某教授のご見解を前提とするならば、たとえ社外役員が責任限定契約によって、責任範囲が定められていても、役員の責任というのは、連帯債務たる性質を有するものであるから、たとえば高額の賠償債務を履行した取締役(監査法人でもいいですが)が、今度は(取締役間における公平な負担を目的として)求償債権を行使する場合、その支払済の取締役(もしくは監査法人)に対しては、責任限定契約による債務限定の抗弁は主張できない、ということになってしまいます。(私はいまでも、この見解には反対の意見でありますが)しかし、組織ぐるみの粉飾決算というケースでは、役員の立場からみて、①粉飾を主導していた役員、②粉飾決算が行われていることを知りつつ、これを放置していた役員、③粉飾決算が行われていることすら知らなかった役員の三つに分類されると思います。とりわけ今後社外取締役制度を拡張して導入するようになるのであれば、まさに③の粉飾決算が行われていることすら知らなかった社外取締役・・・という方々も、おそらく増えてくるんじゃないでしょうか。
たしかに会計監査人と社外取締役・監査役とでは、会社の機関性という点からみて差があるように思えますが、実際、蛇の目ミシン差戻控訴審においては、蛇の目の元役員の側から過失相殺に関する主張が提出されておりましたし(裁判所はこれを認容しておりませんが)、下級審ではありますが、過去(旧商法時代)にも、役員の過失相殺を認容した判例が4件ほど報告されております。(WEB上で閲覧できるものとして「早稲田商学第388号」で紹介されております。)それぞれの判例では、過失相殺を認容すべき事情が異なっておりますが、平成17年会社法のもとでも、昨今の社外取締役や監査役に期待されているところからすれば、少なくとも粉飾を主導していた役員や、見て見ぬふりをしていた役員と、それ以外の役員とでは、たとえ連帯債務の関係にあるとはいえ、善管注意義務と因果関係のある損害について、同様の損害額が認められるというのもちょっと違和感を感じます。ただ、いっぽうにおきまして、内部統制構築義務に着目しますと、粉飾決算を知らなかった役員とはいえ、モニタリング機能が期待されている立場にあったのだから、きちんと粉飾決算を未然防止もしくは早期発見できるような体制整備(もしくは整備への関心)を怠りながら、知らなかったということだけで損害額が限定されるのはおかしいのではないか・・・という議論もあるようですから、このあたりは安易に過失相殺の主張を認めるべきではない、といった方向性を基礎付ける理屈なのかもしれません。いずれにしましても、岩手銀行さんの役員会でのゴタゴタを拝見するにあたり、不祥事から若干距離を置いていた役員の方々がいらっしゃるようなケースにあっては、会計監査人の過失相殺の抗弁に近い扱いがあっても、あながち不合理とはいえないように思います。
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