クロスボーダー取引とインサイダー規制(Jブリッジ事件)
(9日未明 三菱UFJ証券の個人情報流出事件に関する追記あります)
三菱UFJ証券の元従業員が49,000人分の顧客情報を不正に売却したそうで、これはえらいことになってしまいましたね。かなり大きな部類に属する不祥事に発展しそうですね。とくに報道では昨年10月以降に新規に口座開設した顧客ばかり・・・のようですから、これっていわゆる「タンス株」の保管口座を開設された顧客さん(「株券電子化」に伴って、かけこみで口座を開設された方々、つまりこれ以上ない優良顧客さん)ばかり、ということですね。今後の被害拡大防止策をどのようにとられるのでしょうか。
さて、日経新聞夕刊を読みますと、東証二部上場の投資会社ジェイ・ブリッジ社の元会長さんがインサイダー取引容疑で逮捕された、と報じられています。(多くの上場会社が決算公表を控えているからか、最近またインサイダー取引の摘発に関する報道が多くなってきたような・・・)
今度はクロスボーダー取引だそうですね。日本市場で取引されたわけですから、犯罪の属地主義には問題ないと思いますが、シンガポールの銀行口座を活用しての犯行ということで、普通ならSESCもなかなか証拠がつかめないところですよね。ただ、日本とシンガポールとの間においては、平成13年12月にMOU(証券規制当局間における情報取極め)が合意されていますし、すでに平成16年には、こちらのリリースにあるように、シンガポールには「貸し」があるようですから、今回も、こういったシンガポールと日本との特殊な事情によって摘発が可能になったのではないでしょうか。(もし、間違っておりましたらどなたかご指摘いただけますと幸いです)
平成19年には金融庁「我が国金融・資本市場の国際化に関するスタディ・グループ」における中間報告書のなかでも、海外当局との連携の強化について今後の課題とされておりますので、今後も国際的な情報取極めが進んでいくものとは思いますが、依然として、クロスボーダー取引については(証拠収集の困難性、という意味において)インサイダー摘発が原則としては困難な状況にあることは変わりないのではないかと(勝手に)想像しております。(そんなことないですよ!というご意見、情報等ございましたら、どうかよろしくお願いいたします)
(追記)こちらの産経ニュースによると、シンガポール、インドネシア、香港等、現在6つの国・地域と覚書を締結しているようですね。
(9日未明 追記)朝日新聞ニュースの続報がたいへん詳しく報道しているようで、実際に流出したのは全顧客の個人情報だったようです。(ただし名簿業者に売却が確認されたのが49000人分とのこと)8日、三菱UFJ証券は、個人情報が流出した顧客に対して、一件ずつお詫びの電話をしているようです。また、9日にはその顧客に対して、情報漏洩に関する相談窓口の説明を含む、事件の概要について文書にて連絡をされるようですね。実際に名簿業者から、どれほどの業者にわたっていったのか不明な点が多いようですので、顧客には多大な不安が残ります。それにしても、同証券会社にわずか8名しか存在しない顧客情報に対するアクセス権者のうちのひとりが、こういったたいへんな不祥事を起こしてしまうということに、コンプライアンスの脆さを感じざるをえません。甘辛せんいち先生も、コメントで指摘されているように、再発防止策のあいまいさを関係者処分で取り繕うことだけはしてほしくないと思います。
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コメント
久々に参戦させていただきます。
今回より、ブログネームで失礼します。
顧客情報流出の件の方ですが、被害拡大防止については、同社のHPで対応状況が公表されていますね。
http://www.sc.mufg.jp/company/press/pdf/press20090408.pdf
再発防止策がどのようなものとなるか、こちらも注視したいと思います。
不祥事件を起こした金融機関での再発防止策を見ていますと、根本原因を十分に検討しないままに実効性の低い施策を総花的に塗り重ね、さらなる不祥事を招いているケースも少なくありません。
「不正のトライアングル」(新興市場の粉飾決算の要因分析、大変参考になりました)の諸要因にも大胆に踏み込んだ、骨太のものを期待したいところです。
そういえば、本日の監査役全国会議でも、コミュニケーションが大きなテーマの一つでありました。
Toshi先生も来賓としてお名前のみ見つけたのですが、ひょっとして、今回はご欠席でしたか?
投稿: 甘辛せんいち | 2009年4月 8日 (水) 22時54分
池田信夫教授(このかたの意見には首肯するところも嗤ってしまう
ところもあるのですが)の主張によると…
インサイダー取引を取り締まる必要はないという説も、経済学では有力だ。(中略)「企業活動の変化を市場に先んじて察知した投資家が短期間に莫大な利益を得るというのは合法的な経済活動」だからである。これも当ブログで論じたとおり、インサイダー取引は自然法的には違法行為とはいえないし、株式以外の市場(商品先物など)では規制されていない。
http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/c2fb8cf06d2b523d04b5438919034a4e
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厳重に取り締まることは現実的には不可能だし、またそのような取締り
強化は株式市場に与える悪影響が甚大である。
簡単にいうと「角を矯めて牛を殺す」ことになるのではないか、と。
この意見は充分傾聴に値すると思います。
投稿: 機野 | 2009年4月 9日 (木) 00時39分
>甘辛せんいちさん
おひさしぶりです。日弁連会長の名代で監査役全国会議にご出席されたとか?(いつからそんなにえらなったの??)
すいません。私も出席予定だったのですが、監査役協会ではなく、現実の監査役さんの事件が増えてしまい(しかも、それぞれが膨大な資料の山)、さすがに二日続けて事務所を空けることもできず、大阪で仕事をしておりました。江頭先生の懇談会報告書のご解説、お聞きしたかったです。残念
投稿: toshi | 2009年4月 9日 (木) 01時21分
ご無沙汰しております。
名簿業者、なるものがいまだ存在しているということも不思議なことのうように感じました。
業者の方は法の裁きを得ないのでしょうか、という素人的疑問がありますが、いかがでしょうか。個人情報保護法施行以来はその存在はなくなってしかるべきのような。
投稿: katsu | 2009年4月 9日 (木) 02時04分
katsuさん、おひさしぶりです。めったなことは申し上げられませんが、消費者金融への返済に困って売却した・・・ということのようですから、名簿業者さんとの接点がどこにあったのか、という点に注目したいです。
反社会勢力との関連など、私は印象としては抱いております。
投稿: toshi | 2009年4月 9日 (木) 02時35分