« シャルレ株主損害賠償請求訴訟がガバナンス論議に与える影響 | トップページ | 過年度決算訂正の法務(本のご紹介) »

2009年4月 7日 (火)

内部統制報告制度「重要な欠陥」にも敗者復活戦はある。

先週金曜日にリリースされた「内部統制報告制度に関するQ&A(追加分)」を眺めておりまして、報告書の記載内容に関する問106(付記事項)がちょっとひっかかっておりました。問いは「付記事項については、どのように記載することが考えられるか」ということですが、評価日(期末日)時点において、当該企業の内部統制に「重要な欠陥」があり、内部統制は有効と評価することができない場合であっても、内部統制報告書提出日(たとえば3月末が評価日だとすると、6月末ころ)までの間に、この重要な欠陥を是正する措置をとった場合には、これを付記事項として記載することが可能であります。

私がちょっと勘違いしていたのでありますが、このQ&A106問においては、内部統制府令第一号様式記載上の注意(9)(←内部統制府令に添付されています)が引用されておりますが、この注意書きを読みますと、是正措置を記載することができる、とあるだけで、経営者が是正の結果、有効性の判断まで記載することができるのかどうか、ということについては記述されていないのですね。この問106には参考記載例が添付されておりまして、その記載例には、リース会計を適切に反映させるべき財務諸表を作成するについては「重要な欠陥」が残るものの、期末後の全社的対応による是正措置が施され、その結果、報告書提出日までには重要な欠陥は認められず、内部統制は有効と判断する、といった付記事項になっております。したがいまして、この問106を読んだ際、ちょっと違和感を感じたのでありますが、あとで実施基準を読みなおしてみますと、経営者は内部統制報告書提出日までの間に、重要な欠陥を解消するための是正措置をとるだけでなく、その是正措置により、内部統制が有効であることを確認できる・・・ということになっております。(提出日までに経営者が是正措置による有効性を判断した場合の、内部統制監査人の確認手続についても、よく読むと書いてありました)

つまり、内部統制報告書というのは、期末日時点では内部統制が有効とは認められない場合であっても、その後の3カ月の間の会社側努力によって、同じ報告書のなかに「有効になりました!」と復活の宣言を記すことは可能になっております。もちろん、期中から重要な欠陥と評価されるおそれのある不備を是正していたような上場企業担当者の方々からすれば、あまり関係のない話かもしれませんが、現時点におきまして、とりわけ決算財務報告プロセスに問題を抱えていらっしゃる企業の方々からすると、こういったことも知識としては知っておいたほうがいいのかもしれません。(ただ、報告書の記載要領に関するQ&Aからしますと、どんなに悪戦苦闘しても、期末日までに重要な欠陥が是正されていればサラっとした報告書で済むわけですから、期末日までに是正されることにこしたことはありませんが・・・)

しかし、今回のQ&A追加版を読んでみて、よくよく考えてみますと、「重要な欠陥」の判定基準には二律背反の思想が流れていませんでしょうかね(^^;;?  たとえば重要な欠陥の判定においては「監査人から指摘を受けた構造的な問題を自律で解決できないか、もしくは解決しようとしない場合」が重要な欠陥と判定される(つまり、そんなひどい状況だけを重要な欠陥と評価すればいいですよ、といったニュアンス)ということであれば、今度はもし重要な欠陥が認められるケースの是正については、そういった構造的な欠陥がある以上は容易に是正が認められないのが筋だと思うのでありますが、実際には、先の付記事項のように3カ月ほどの間に是正措置が行われ、その運用評価や監査人による確認手続までとられて、しかも有効性の評価までできてしまう・・・ということを認めるのは、ちょっと矛盾しているのではないでしょうかね?もちろん、できるだけ重要な欠陥の判定は(一年目ということもあり)緩めに考えましょう、といった思想のもとでの対応だとは思うのでありますが、要件を緩くすれば、そこからの脱出は厳しくなり、逆に要件を厳格にすれば、そこからの脱出も容易になる・・・というのが「重要な欠陥」判定の正しい概念でありまして、要件もユルユル、脱出もユルユルというのは、二律背反に陥っているのではないかと思うのでありますが、どうなんでしょうか。

|

« シャルレ株主損害賠償請求訴訟がガバナンス論議に与える影響 | トップページ | 過年度決算訂正の法務(本のご紹介) »

コメント

コンピュータ屋です。おはようございます。

「二律背反」そして、安きに流れていくように思われます。
当初は、「重要な欠陥」なんて言葉でガンガン。皆さんびっくり、何とかしなければという気持ちになっていました。
部会からも「しっかりがんばれ」という気持ちですとおっしゃられていました。
そして今は、「要件もユルユル、脱出もユルユル」。

現場での気持ち、「今までかんばってきたのになんだったんだろうな? 二年目以降、どうしよう。」

投稿: コンピュータ屋 | 2009年4月 7日 (火) 07時49分

「ご本尊」アメリカでは今はSOXどころではないんでしょうな。
そもそもアメリカでも費用対効果については疑念の残ったまま
スタートし、未だその疑念が全く晴らされないままですからね。

結局日本人は真面目ですなあ(自分も含みます。自虐です)。
愚かしいことだと分かっていても「お上」には逆らえず従い、
そこそこの結果を出してしまう、でもそれが本当に必要なことで
あったかの分析はほとんど行わない…
よほどのことがない限り、法自体は変更しない。
微調整は行政指導で行う…

虚しいですよ、全く。

悪法もまた法なり、で終わらせるのは余りにも哀しいので、
心ある各社は自社の内部改革と連携させて進めてきたわけですが、
このままでは次年度以降大幅に監査時間は縮小される(当然ですよね)
ことがはっきりしてきたことを受けて、さて監査業界は如何されるか、
凝視しております。

投稿: 機野 | 2009年4月 8日 (水) 00時23分

コンピュータ屋さん、機野さん、コメントありがとうございます。
いずれもホンネの部分を吐露いただきまして、うれしく思います。こういったご意見を拝聴すると、リアルタイムの内部統制報告制度の姿を垣間見るようです。
この制度の二年目以降を生かすかどうかは、監査法人さんだけでなく、我々法律家の対応についても影響を及ぼすものと思いますよ。いわゆる「内部統制にまつわるリーガル・リスク」というものですが、ここのところ、法務財団等による研究が始まっています。機野さんがご指摘のように、企業としては今後も内部改革の一環として内部統制報告制度を進めていくことは(とりあえず)正しい方向ではないでしょうか。

投稿: toshi | 2009年4月 8日 (水) 01時48分

お久しぶりです。中堅企業の担当者であるtonchanです。

 J-SOXの初年度もいよいよ大詰めになりました。
私のような担当者はストレスで結構息苦しい状況となってきました。

 とりあえず内部監査部門からすると内部統制の目的に立ち戻って
考えをまとめているところです。企業の健全な発展のために内部統制
があり、その為の目的として4つ(cosoでは3つですが)が挙げられている。
J-SOXはその中の1つの目的ではあるのですが、その他の目的との
親和性をどのように取っていくのかがポイントになると考えています。
 結局、当社のサイズではこのような整理も担当者任せになるのが
最大のリスクかもしれません。
 それでもこのようなことを考えていくことが折角日の目をみた
内部監査部門の意義を継続的に高めていくことだと思います。
 その意味で考えてもらえる担当者が少しでも増えていくことを期待して
コメントさせていただきました。

投稿: tonchan | 2009年4月 9日 (木) 10時55分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 内部統制報告制度「重要な欠陥」にも敗者復活戦はある。:

« シャルレ株主損害賠償請求訴訟がガバナンス論議に与える影響 | トップページ | 過年度決算訂正の法務(本のご紹介) »