東証「上場制度整備懇談会」報告書2009
4月15日の日経や読売で報道されておりました東京証券取引所の上場制度整備懇談会報告書「安心して投資できる市場環境等の整備に向けて」が23日公表されておりましたので、中身を読ませていただきました。安心して投資ができる環境作り・・・ということでは第三者割当に関する提言と株式併合に関する提言、そして株主と上場企業との対話促進のための環境作り・・・ということでは議決権行使結果の開示に関する提言、というあたりが骨子のようですが、(私的な印象では)非常に格調の高いものであり、とりわけ「第三者割当に関する提言」につきましては、上場企業の資金調達の必要性や、(会社法とは異なる)ルール遵守のための実効性確保の工夫などに格別の配慮をされた跡がみられます。(「支配権の移動」と「支配株主の異動」とは異なる意味で用いられていますので注意が必要ですね)もちろん、懇談会の意見は「東証の意見」ということではありませんが、東証のルール改定によって、かなり実現可能性が高いものに絞って議論されたのではないか、と思われます。ちなみに一昨年の上場制度整備プログラム2007におきましては、第三者割当に対する株主意思の反映について、有識者による議論を得て検討する、とされていたようで、(私も忘れておりましたが)2008年1月の読売新聞ニュースなどでは、第三者割当に対する株主総会決議の義務化について具体的に検討に入った、と報じられていたようです。(こちらのエントリー)今回の懇談会報告書では、株主総会における承認も「選択肢のひとつ」とされております。
細かいところで興味を持ちましたのが、「有利発行に該当するかどうか明確でない事例への対応」に関するところで、価格算定根拠に関する十分な情報開示とともに、「計算方法次第ではディスカウント率が10%超となる場合については、適法性を担保するため、たとえば適法性について監査役(委員会設置会社の場合には監査委員会)がいかなる意見を述べたか等の開示を(取引所が)会社に求めるなどの対応をとることが考えられる」とあります。この点につきましては、先ごろ公表されました日本監査役協会「有識者懇談会報告書」におきましても、大規模第三者割当増資の適法性については、監査役による対外的な意見開示が必要・・・との意見が多数を占めていたようですので(同報告書70ページ参考)、今後の現実的な検討課題となってくるのではないでしょうか。(なお、新株予約権付社債や新株予約権の発行条件の適法性については別途考慮すべき問題だと思われます)
しかし(すべての第三者割当増資の際、ということにはならないでしょうが)この新株発行時における適法性審査を監査役が担う・・・というのは、監査役さん方にとってはけっこうシビアな役割ですね。(有識者懇談会報告書のほうでは、さらに「根付率」などから、有利発行性については日証協指針についての厳格な審査が求められているようですし)今朝(4月24日)の日経新聞では、前日(23日)の金融庁スタディグループにおける議論が紹介され「社外役員義務化で火花」の散る議論がなされたようでありますが、こと監査役制度に関しては経済界も証券界も同じ意見のようで、さらなる監査役制度の機能強化を図るべきとするところで落ち着きそうであります。ということは、監査役の権限や地位の強化、という点では、こういった第三者割当の適法性審査といったあたりで、監査役の対外的な意見開示が求められる方向も十分考えられるかもしれません。この監査役さんの対外的意見開示というものは、投資家や株主向けの情報開示を補完する目的でなされるものでしょうから、公表されている情報だけではわかりにくいところも監査役が判定をすることになるわけでして、何をもって適法性判断の判定材料とすべきなのか、かなり難しい判断を迫られる場面も想定されるところであります。また、「有利発行」の点は適法性に関する論点ですが、第三者割当増資の必要性と相当性判断に関する対応方法として、株主総会における承認手続のほかに、社外取締役や特別委員会における求意見手続ということも示されておりますが、このあたりも監査役による判断で足りるのではないか、といった見解もあるかもしれません。(適法性よりも経営判断?)
今週月曜日(4月20日)には、日経と朝日にほぼ同様の記事(闘う監査役)が特集として掲載されておりまして、監査役制度が次第に機能し始めてきたのではないか?と思われるような事例がいくつか紹介されておりましたが、こういった闘う監査役さんが今後も増えてくるのであれば、「株主と会社経営者との対話促進(経営者の説明義務)」の面からみましても、監査役の果たすべき役割が大きく変わってくるのかもしれませんね。
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