内部通報に接した取締役の「遵法行動」の重要性
ひさしぶりの企業コンプライアンス関連の話題ですが、10日に報道されましたダイキン工業社の不正会計事件のニュースと、ニチアス社の性能偽装事件の提訴ニュースを読みました。いずれも内部通報の取扱が大きなテーマのようであります。ダイキン工業社の場合、匿名通報について、ただちに担当取締役のところへ情報が届き、不正会計処理の(合理的な?)疑いが生じたところで適時開示の手続きをとられたようであり、(大きな不祥事といえども)速やかな公表手続き(外部調査委員会の設立も含め)で対応されたようです。(なお、先の毎日新聞ニュースによると、不正会計処理分について、一括処理方式を採用するのか、個別処理方式をとらざるをえないのかは、未定のようです。)いっぽう、時代は若干異なるとはいえ、ニチアス社の場合も、社員からの性能偽装の連絡が元専務取締役のところで届いたようですが、これを役員会に報告せず黙認していたとのこと、そしてこの黙認が、その後の長年の性能偽装隠ぺいの発端となったようです。(後日、元社長が「これを公表してしまっては、改修費用が莫大なものとなり倒産のおそれすらあるから隠ぺいした」可能性があるようです)
とりわけニチアス社のニュースを読みますと、取締役が性能偽装を指揮命令した、ということで提訴されたわけではなく、いずれの役員の方も、社内において性能偽装が行われていた、ということについて知っていながら、これを隠ぺいしたことの違法性が問われているようであります。ダスキン事件ではありませんが、ひょっとするとニチアスの損害賠償請求事件については、真正面から「取締役の不祥事公表義務」の存否が問われるような裁判になるかもしれませんね。ただ、(元専務の方を除き)長年における性能偽装の事実を知った時点において、もし公表していたならば会社に発生したであろう(改修等工事費用の)損害額と、昨年の時点において、公表され(報道され)たことによって現実に発生したニチアス社固有の損害額との間において、どれほどの差があるのか、また、その差額は取締役らの不祥事隠ぺい行為との間に相当な因果関係は認められるのか等、いろいろな法律上の争点が出てきそうな気がします。
また、こういった内部通報による不祥事情報が担当取締役のところへ届き、ある社員の不祥事が認められた場合、次に問題となるのが内部通報で告発された事実以外の事実への調査の要否であります。告発された社員が他の部署で同様の不祥事を行っていなかったかどうか、逆に告発社員以外の社員も、同様の不祥事を行っていなかったかどうか、といったあたり、不祥事が財務報告に与える重要性の関連性なども考慮しながら、企業としてはどこまで調査をすれば「調査義務を尽くした」といえるのか、悩むときもあると思います。
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