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2009年5月29日 (金)

レックスHD事件に対する最高裁決定(東京高裁判断を認容)

本日(5月29日)最高裁(第三小法廷 近藤崇晴裁判長)より、レックスHD株式取得価格決定事件の特別抗告、許可抗告に対する決定が出ました。(ときどき当ブログにも登場される あの方が事務局をされていらっしゃるHP に決定全文がすでにアップされております。A4で7ページ程度ですので、比較的短時間で読める分量です。)最高裁は、抗告人(レックスHD側)の主張を排斥して、旧レックスの株主側勝訴の決定(本件抗告を棄却)を出しております。これにより、東京高裁の決定が確定することになりました。(なお、東京高裁決定は、金融・商事判例1301号にて全文がお読みになれます)

若干法律専門家の方々からは(用語が不正確ということで)異議が出る解説かもしれませんが、本事案の概要は以下のとおりであります。

レックスHDのMBO(株式非公開化を伴うマネージメント・バイアウト)を行う際、投資ファンドが(一般の株主の方から)TOB(株式公開買付)によって、その保有株式を買い上げます。その際、一部の株主の方が、「TOB価格が安すぎる」としてこれに応じませんでした。また、会社側からの「業績下方修正」に関するリリースのタイミングも、株主の不信感を増幅させる原因となりました。そして最終的には会社法172条1項(全部取得条項付き種類株式の取得価格決定申立)によって、最後までTOBに応じなかった株主の方々が公正な取得価格を裁判所に決めてもらおうと頑張っていた裁判であります。なお、90%以上の旧レックスの株主の方々は「あとで面倒なことにならないうちに、安いのかもしれないけど売っちゃおう」ということで、TOBに応じておられます。(というか、この解説自体、若干問題あるかもしれませんが・・・細かいところは目をつぶってください。。)ちなみにTOB価格は23万円だったところ、第一審である東京地裁はほぼTOB価格に近い金額を妥当としておりましたが、東京高裁は337,000円が取得価格として妥当と判断しておりました。(つまりこの33万7000円で確定した、ということになります。)

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本日の最高裁決定は、5名の裁判官全員一致で、高裁の判断は裁量の範囲内のものであり、とくに判例違反はない、として概ね訴訟法マターで抗告理由を排斥しております。そして特筆すべきは、弁護士出身である田原判事が「1 取得価格の意義」「2 取得価格の決定」「3 原決定と裁判所の裁量」に整理をされたうえで、かなり詳細な補足意見を展開されておられる点であります。(おそらくこの内容は旧レックス株主側にとってみれば「痛快」の一言ではないでしょうか?)そういえば5月16日の日経新聞「大機小機」におきまして、「法化社会と最高裁判事の構成」なるオピニオンが掲載され、編集委員の方が「最近の最高裁は企業法制を論じる能力のある判事がいない」と嘆いておられました。しかしながら大阪の企業法務に精通した法律事務所のご出身で、まちがいなく倒産法制の第一人者でいらっしゃる田原判事の補足意見につきましては、「教授痴漢事件」や「ふともも盗撮条例違反事件」における反対意見以上に説得力のあるものと認識いたしました。とりわけ旧レックスホールディングスが「株主へのお知らせ」と題する文章のなかでの表現が「『強圧的な効果』に該当しかねない」と判示されている点につきましては、「ドキ!」っとされていらっしゃる方もいらっしゃるかもしれません。

この最高裁決定におきましては、「スクイーズ・アウト(少数株主の締めだし)を伴うMBO」について、それが従業員主導型のものであれ、ファンド主導型のものであれ、「構造的な利益相反状況」にあることを出発点として認めたところに大きな意義があると思われます。レックスによるMBO実行後、金融商品取引法の改正などにより、株主保護のための開示規制なども進んでおりますが、最近のシャルレのMBO事例にもみられますように、やはり今後におきましても、MBO手続の公正性・透明性については経営者側が最大限の配慮を必要とするものでありまして、それはMBOの体系がいかなる特色(従業員主導型か、ファンド主導型か、など)を有していたとしても同様である、ということであります。つまり、取得価格の決定にあたり(これは略式株式交換等が用いられた場合に少数株主に保障されている株式買取請求権が行使される場合にも基本的には同じだと思いますが)、裁判所は経営者が透明性・公正性にどれだけ配慮してきたか、という点を考慮しながら株式価格を決定することも「裁量の範囲内」であるとして、経営者と資金提供者との公正価格決定手続だけに重きを置かない場合がある、ということで、今後のMBO実務に大きな影響を与えるのではないでしょうか。また逆にいえば、経営者側(会社側)が、MBO事案におきまして、この構造的な利益相反状況における透明性・公正性についてのしっかりとした整備・運用を立証することに成功した場合には、今度は企業価値算定における詳細な理論によって株主側が反証したとしても、「裁判所における裁量の壁」を突き崩すのはかなり困難になってくる・・・ということも言えるかもしれません。

しかし田原判事の補足意見を拝読して、すこしビックリしたのは、最高裁判事もやはり経産省・企業価値研究会の「MBO報告書」の内容を引用し、その報告指針については判断材料として考慮している点であります。これは引用の趣旨が異なるとしても、第一審、控訴審、最高裁(補足意見ですが)と、いずれの裁判所も、その決定理由において「MBO報告書」には一定の配慮を示すものでありまして、ソフトロー(ここでは経産省のガイドライン)が企業法務に及ぼす事実上の影響力の大きさをあらためて痛感せざるをえません。(今度の6月の企業統治研究会の報告書はどうなんでしょうかね(^^;;? )

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企業不正対策ハンドブック~防止と発見~(本とセミナーのご紹介)

Huseihandbook このたび「企業不正対策ハンドブック-防止と不正-」(ジョセフ・T・ウェルズ著 八田進ニ・藤沼亜起監訳 ACFEJAPAN訳 第一法規 6000円税別)が出版されましたのでお知らせいたします。(もうすでに東京では記念講演もあり、ご好評にて追加講演も行われました)

企業不正検査等に従事されている方にはぜひお勧めいたします。また内部監査人や監査役の方々にもお読みいただきたい内容となっております。なんといっても20年以上のCFE経験を有するジョセフ・T・ウェルズ氏の企業不正発見と、原因分析による防止策が豊富な具体的事例を通じて惜しみなく盛り込まれており、たいへん参考になるところであります。また、和訳につきましても、企業不正に関する適切な日本語を、逐一検討しながら訳されておりますので、非常に読みやすい内容になっております。(もちろん翻訳された方々も、会計学者、会計士、企業実務家の方を中心としたCFEとしてご活躍の方々ばかりであります)

ところで、この記念講演ですが、大阪でも来週6月2日(火曜日)に開催される予定でありまして、私もACFEの甘粕氏とともに、講演をさせていただく予定になっております。もちろん、ブログでは書けない本業に関わることにつきましても職業上の守秘義務に反しない範囲でいろいろと解説させていただきたいと思っております。(詳しくはこちらをご覧ください)たぶん、まだご参加できると思いますので、この本と私の講演にご興味のある方は、どうかご出席いただけましたら幸いです。(参加いただいた方には、上記ハンドブックもついているようですから、かなりお得かと思いますよ)

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公正取引委員会、セブンイレブン値引き制限に排除措置命令か?

日経ニュースによりますと、公正取引委員会はコンビニ最大手のセブンイレブン・ジャパンに対して、加盟店への値引き販売制限が優越的地位の濫用にあたるとして、排除措置命令を出す方針を固めた、とのことであります。(いわゆる資料提出による弁明の機会が設けられるようですね)昨年10月に公正取引委員会がセブンイレブン本部に調査に入ったことは報じられておりましたが、いよいよコンビニも各加盟店ごとの値引き競争の時代に突入するのでしょうか?

そもそもオープン・アカウント方式なるコンビニ会計処理契約に関する法的性質(原則として準委任契約ではあるけれども、コンビニ会計の特殊性から、たとえ事務処理が無償であったとしても受託者の事務処理報告義務が認められる)が争われた平成20年7月4日最高裁判決によって、本部の加盟店に対する会計処理報告義務が認められたことが大きな転機になったのではないでしょうか。つまり消費期限が切れた商品については、売り切ることができなかった加盟店に負担がかかり(商品が売れたものとして、本部へ支払うべき手数料は増える計算方式)、かといって廃棄による加盟店側の負担を減らそうと、消費期限の近い商品を安売りしようとすると「値引きはだめだ」と本部から命令されるわけですから、これはかなりセブンイレブン側にまずいことだ、ということが報告内容から判明した(広く世間に知れ渡った)、ということなんでしょうね。

私もあまり詳しい分野ではありませんが、ひょっとするとコンビニの在り方に関わる大きな話題になるかもしれませんね。

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2009年5月28日 (木)

企業統治研究会「報告書案」出ましたね(速報版)

アデランスHDの株主総会ではスティールパートナーズ側が過半数の役員人事を掌握したようで、またガバナンス論議が盛んになるものと思いますが、注目の経済産業省・企業統治研究会の報告書案がリリースされています。本日は同志社におりますので、また帰ってから勉強させていただきます。とりいそぎ速報版ということで。(昨日の金融庁SGの資料も出ていますね。)

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JR宝塚線事故における経営幹部への刑事責任追及を考える

当ブログは企業法務関連の問題を中心に扱っておりますが、経営幹部への業務上過失致死傷罪を問うJR西日本(宝塚線)事故につきましては、過去に何度か企業の内部統制の視点から採り上げております。また、日経新聞や神戸新聞の取材にもお答えしてまいりました。業過事件の公訴時効の関係もあり、そろそろ地検の捜査も大詰めを迎えているということでありますが、JR西日本本社などに対して異例の再捜索が行われた、とニュースで報じられております。とくに朝日新聞ニュースは、かなり大胆に神戸地検と最高検との(当時は鉄道本部長であった)経営トップへの業務上過失致死傷罪適用に関する評価の違いを報じており、経営幹部への刑事罰適用の難しさを改めて認識するきっかけとなりました。

私の周囲にも、この事故で家族を失った方がいらっしゃいますし、ご遺族の方々の心情は察するに余りあり、世論もどちらかといえば「刑事処罰」肯定へと傾いているのではないでしょうか?神戸地検としては、なんとか立件に向けて最後の力を振り絞っているかのようであり(200名以上のJR西日本関係者から事情聴取をされたとのこと)、「鉄道本部長として、事故は予見できた」とする組み立てをもって経営幹部の注意義務違反(過失)を立件する方針なのかもしれません。しかし、1995年当時に、その9年後に事故が発生する予見可能性というものが本当に裁判に耐えうるものなのでしょうか?9年も経過すれば、当時とは経営環境も違いますし、ダイヤも変わってきます。それでも、9年後の経営状況を見据えて、その当時の鉄道本部長は自動安全装置(停止装置)を設置しなければ刑事罰に問われてしまうのでしょうか?むしろ本当に問題だったのは、この事故発生までのJR西日本の安全配慮に関する体制整備についてではなかったのでしょうか?組織としての責任を厳しく問うことこそ必要なのではないでしょうか。

ただ、そうなりますと、二つの壁があるように思います。ひとつは、ご遺族の方々が「本当のことを知りたい」と願うことに寄与すると思われる「事故調査委員会報告」でありますが、これが関係者の刑事訴訟における鑑定書として活用されるかぎり、関係者の方々には黙秘権がありますので、おそらく事故調査には限界がある、ということであります。そこで思い切って関係者の刑事免責を付与したうえで、真実を語ってもらう・・・ということも実際に検討してもいいのかもしれません。(そのかわり、民事責任追及のための資料としては活用できるものとして、ということですが。)事実調査と原因分析のためには、どうしてもこの壁は乗り越えなければいけないのかもしれません。(なお、こういった考え方に対しては、たとえ刑事免責を付与したとしても、日本の社会では事実が公表されてしまえば「村八分」に合うことが確実なので、やはり関係者は真実を言わないので実効性に乏しい、との反論があることを付記しておきます)

また、もうひとつの壁は「法人の刑事責任」であります。こういった重大な事件発生において、法人自身をなんらかの刑事処罰の対象とすることは、事故発生直前の安全配慮体制などを問題視する点において有効ではないかと思われます。ただ、現実には法人のどのような行為を捉えて罪刑法定主義の原則と親和性があるのか、たとえ罰金を高額なものとしても、それで被害者の処罰感情がいやされるかとか、再犯防止のための実効性があるのかなど、疑問点はあろうかと思われます。(ただ、法人であっても、刑事処罰の対象となれば、とりわけ安全面での政策において安易に経営判断原則が適用されることはなく、経営者らに内部統制構築義務違反の民事賠償責任が認められる可能性は高まることで一定程度の抑止力ははたらくものと思いますが)いずれにせよ、これも大きな壁が横たわっているように思います。

最近、製品事故の件につき、企業トップの業務上過失致死傷罪適用事例が増えているようでありますが、これも「以前からたびたび事故が発生しており、そのことを経営トップが認識していたにもかかわらず、これを放置して利益最優先の経営方針のもと、安全対策を何ら講じることはなかった」といった事実が認められることが前提になっているようであります。このモノサシをJR西日本の事故にあてはめることは可能でしょうか。いくつかの壁を乗り越えることが現状では困難であるために、神戸地検のような立件方針についても心情としては理解できるとしましても、冷静に考えますと私はどうしても、鉄道本部長によるカーブ変更時期における事故回避のための作為義務・・・という構成には若干の違和感を覚えるものであります。先日、会社法と刑事法との接点を考えることは意外に難しい、といったエントリーを立てましたが、ここでもやはり同様の問題が横たわっているものと感じております。(法律の世界で「後だしじゃんけん」は絶対に許されないことがわかっているだけに、みんなが悩んでいるように思えます。本当に、この話題は考えると難しいです)

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2009年5月27日 (水)

監査役へのストックオプション(新株予約権)の付与議案

職務執行の対価としての新株予約権付与(ストックオプション)につきましては、私などは取締役と従業員のための株価連動型(業績連動型)報酬だとばかり思っておりましたが、「監査役」と「ストックオプション」でグーグル検索をしてみたところ、今年はずいぶんと6月総会の議案として上程されていますね。本日(5月26日)のTDNETでも数社が(あらかじめ承認を得ている監査役報酬額の枠内、ということでありますが)監査役へのストックオプション付与を議案として会社提案するようであります。どうも私的には違和感を抱いているところでありますが、監査役への付与理由としては、ガバナンスの向上が株価へのプラス材料になるので、今後の監査役の適正な職務執行を期するためにストックオプションを付与することとした・・・とされるのが一般的のようであります。

なるほど、ガバナンス向上が株価にも影響を与える・・・ということは最近よく言われるところでありますから、監査役が職務をしっかりしているのであれば、きっと市場からも評価される、したがって監査役の職務対価としてもストックオプションは意味があるのではないか、といった考え方も理屈のうえでは成り立ちそうであります。ただ、取締役や執行役員、従業員の「がんばり」は業績向上という形で目に見えるわけですから、株価連動という発想にもなじむのでありますが、はたして監査役による職務執行の「がんばり」というものはどうやって目に見えるものになるのでしょうか?

ちょっと分析的に考えてみますと、おそらく監査役の職務は、①平時における会計監査と業務監査、期中監査と期末監査、何も問題がなければいわゆる「定例監査」に終始する、上場会社の場合には会計監査は主として会計監査人に任せている、②監査役によるリスク・アプローチや会計監査人との連携や内部監査人との協議により、リスクが認められた場合には、非定例監査として、情報収集等なんらかの対応(非定例監査)を行う、③②で述べたところの職務執行の結果として、社内において取締役の職務執行に違法なものを発見した場合には、これを是正する対応をとる、④監査役会構成員としての職務分担と協議、といったあたりに分類できるものと思われます。ところで、投資家からみて、「ガバナンス向上のために、この監査役さんは頑張っている」と評価できるような外観というものはどこから判断できるのでしょうか。たとえば平時における定例監査とその結果としての監査報告書につきましては、おそらく上場会社はどこでも「ひな型」によって開示されるわけですから、「がんばっている監査役」と「そうでない監査役」との差というものは外観からは判断できないものと思います。(まさか役員会への出席率がそのまま株価に連動するということはないでしょう)、また私的には、最も監査役の能力に差が出ると思われる「リスク評価とリスクへの対応」につきましても、能力の高い監査役が活躍すればするほど、おそらく株主や一般投資家からは「普通の健全な企業」「監査役など不要なほど、問題のない企業」にしか見えないはずであります。ということは、そもそも監査役さんの「がんばり」は市場からの評価対象にはならないようであります。さらに、社内で問題を発見した監査役が、独自に異議を述べるような監査意見を出したり、取締役を相手として差止め仮処分を申し立てるなど、取締役と対峙するような場面になれば(最近ずいぶんとこういった事案も増えましたが)、確かに監査役の行動が外から見える場面ではありますが、株価は下がることはあっても、現実に株価が上がることはないですよね。また監査役さんは独任制ですから、個々の監査役の頑張りというものが、はたして監査役会の活動と区別して判断できるものかどうかも怪しいところであります。(まぁ、社外監査役にはストックオプションは付与しない、ということであればこの問題は生じませんが)

このように考えますと、監査役の職務執行の「がんばり」に期待してストックオプションを付与するというのは「ガバナンスの向上に対する投資家からの評価」という観点からは説明がつきにくいように思います。むしろガバナンスの向上の観点から監査役さんにストックオプションを付与するのであれば、それは監査役の職務執行という「運用面」に着目するのではなくて、監査役制度の充実という「制度面」に着目してこそ評価されるべきものだと思われます。つまり、監査役として、「今年は監査役の人数を増やしました」とか「専従の監査役スタッフを増員させました」とか「監査役専門の顧問弁護士を就任させ、監査に要する費用を増加させました」といったような、およそ経営陣からすれば利益を削ってでもガバナンス向上のために覚悟を要するようなことを実現させてこそ、その「がんばり」が評価される、とみるのが理屈のうえでは正しいのではないでしょうか。ただし、これが「ガバナンス向上」という視点ではなく「監査役も取締役と一緒になって業績向上にむけて頑張ります」という趣旨でのストックオプション付与、ということでしたら、また話は別であります。その場合には、業績が悪化すれば、監査役の独立性を無視してでも、取締役と一緒に監査役も報酬の一部カット、ということになろうかと思われます。(はたしてそれが監査役の職務対価の意味としては妥当かどうかは別として)

法律上でどうのこうの・・・ということではなく、株主・一般投資家からみた場合、監査役へのストックオプションを付与する意味は、上記のように理解するのが素直だと思いますし、議案の審議にあたっては、こういった理解が正しいのかどうか、株主の方々から質問が飛んできてもおかしくないように思いますが、いかがなものでしょうか。

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2009年5月26日 (火)

閉ざされたガバナンス論議・・・その結末は?

(26日夕方 追記あります)

昨年の10月ころから、企業統治研究会(経産省)および我が国金融・資本市場の国際化に関するスタディグループ(金融庁)における審議経過をとても楽しみにしておりましたが、ここのところ、議事録・議事要旨に関する更新が途絶えております。(とくに経産省企業統治研究会については、3月25日開催分の議事要旨が2カ月経過しても公開されておりません)たしかいずれの会合も、6月頃にとりまとめを行う予定だったはずですが、せめて審議の状況だけでも公開をしていただきたいと強く願っております。

5月26日は企業統治研究会、そして翌27日は金融庁スタディグループの会合が開催される予定でありますが、もう大方の流れは決しているのでしょうかね?結局のところ、今回は大きな変革もなく、問題点の指摘にとどめるようなとりまとめ案が作成されて終わり?ということになるのでしょうか。(当ブログへお越しの常連の皆様も、たしかこのあたりはご意見が分かれていたように記憶しておりますが)本日(5月25日)の日経夕刊一面記事でも輸出企業を中心に大幅に外国人持ち株比率が低下している、と報じられ、外国人持ち株比率の低下に伴って、(経営監視が弱まり)企業統治の改善が期待できなくなることへの懸念がニッセイ基礎研究所の研究員の方より表明されておりましたが、このあたりの影響もあるのかもしれませんね。

そういえば企業法務の剛腕弁護士の方がオバマ政権下で次期駐日大使となる予定だそうですが(5月20日の日経新聞記事によると、日本政府としては「想定外の人事」だったようであります)企業金融やガバナンスに詳しい方だそうで、「ガバナンス問題への新たな黒船」がやってくることになるのかどうか・・・・・

(26日夕方 追記)日経ニュースで(経産省は)社外取締役導入義務化への推進策が見送られることになった、と報じられております。やっぱり・・・というところでしょうか。ただ「これに代わる独自の経営監視制度」とはいったいどのようなイメージなんでしょうか?

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2009年5月24日 (日)

内部統制と取締役の注意義務の関係(その2)

200907no16 ファイナンシャル・コンプライアンス6月号に続き、ビジネスロージャーナル7月号にも寄稿させていただきました。こちらは「不祥事の公表・調査義務~内部通報を発端として~」と題するものでして、普段の業務経験に基づき、企業実務家の方々を対象として、主に取締役のリーガル・リスクへの対応について検討したものです。(ご興味のある方はどうかご一読いただき、ご意見を頂戴できれば幸いです。)

ところで、この7月号ですが、目次を一覧いただければおわかりのとおり、当ブログにお越しの皆様方からすると、たいへん関心のあるテーマが「てんこもり」ですよね。(あの「物言う監査役さん」も登場されているようで・・・)株主オンブズマンでおなじみ阪口(大)先生の「株主代表訴訟の対象になりやすい役員」といったインタビュー記事もおもしろいのでありますが、私的に一番の注目は新潮社法務対策室に所属しておられる弁護士の方へのインタビュー記事であります。今年2月4日に東京地裁から出されました、ご存じ「貴乃花親方名誉棄損事件新潮社裁判」の新潮社側にいらっしゃった方ですね。すでに当ブログでも2回にわたり「内部統制構築義務違反によって経営トップの損害賠償責任が認められた事件」としてとりあげさせていただいたものであります。(こちら と こちら)その名誉棄損事件判決に対する対策室弁護士としての理解と、出版社としての今後の対応等につきまして、ご自身の見解を述べておられます。やはり3日前に私がブログで述べましたとおり、この弁護士の方も、取締役の責任が肯定された理由としては、取締役に求められる注意義務の水準が上がったからというよりも、本件の個別事情の下で、経営者の立場で改善すべきことがあったにもかかわらず、その事前の予防措置をとらなかったことを裁判所が指摘したものだ・・・と理解されており、私も同感であります。内部統制構築に関する議論の進展によって、広い範囲で注意義務の有無が検討されるようになった、その範囲については、個々の企業の環境を考慮して決定すべきものである、と理解しております。

ただ、法務対策室弁護士の方は、この貴乃花親方に対する特集記事は5回にわたって(おそらく執拗と受け取られるほどに)連続して掲載されていたわけですが、かりに1回かぎりの記事であったとしたら代表者まで責任を問われることはなかったのではないか?と意見を述べておられますが、ここはちょっと私は違う意見を持っております。新潮社の代表者の方は、旧商法266条ノ3に基づく責任追及を受けたわけでありますが、この266条ノ3の適用要件につきましては「代表者の会社に対する任務懈怠」が認められ、これが第三者の損害との間に相当因果関係が認められる場合に、代表者の責任を認めるものであります。つまり、第三者の損害発生(権利侵害に対して故意・重過失が認められることが要件とされているのではなく、会社に対する代表者としての善管注意義務違反(任務懈怠)があれば旧商法266条ノ3の要件に該当するわけですから、やはり(代表者の)重過失は出版社としてのリーガル・リスク管理が徹底していなかったことに向けられているのではないでしょうか。つまり、不法行為責任の追及であれば、たしかに「1回か5回か」といった議論に集中するかもしれませんが、旧商法266条ノ3を根拠とする場合には(従来からの最高裁の考え方を基礎とすると)内部統制の構築義務違反に主な争点があるのではないか、と考えております。

Cocolog_oekaki_2009_05_23_23_07 日本システム技術損害賠償事件判決において、代表取締役に(会計不正を防止すべき)内部統制構築義務違反による第三者責任が認められましたが、あの判決と基本的には同じ構造ではないでしょうか。そもそも第三者に対する取締役の法的責任(旧商法266条ノ3、会社法429条1項)について、判例の立場(取締役が会社に対する任務懈怠が認められる限り、第三者は自己の権利侵害についての故意・重過失が認められなくても損害賠償請求を問うことができる)を採る限り、株主代表訴訟だけでなく、株主以外の第三者からも「内部統制構築義務違反」を指摘される可能性が高い・・・ということに、取締役の注意義務を論じるにあたって留意しておく必要があろうかと思われます。

なお、先の法務対策弁護士の方が、出版社独自の検討議題として、「編集権の独立」を主張しておられ、そもそも出版社の社長が、個別の雑誌の編集について、事前・事後に厳しいチェックをいれることは編集権の独立に反するものであるから、そもそも社長は雑誌記事による名誉棄損行為とは無関係だとされております。(先の判決では、たとえ編集権の独立が認められるとしても、内部統制の構築義務とは相互に矛盾するものではないので、抗弁たりえないとして排斥されています)私も「編集権の独立」については主張に値するものであると考えますが、①こと記事による名誉毀損は社員による刑事事件、企業全体の民事責任に関わる「法令遵守」問題であって、純粋な経営判断原則が適用されるものではないと思いますし、また②記事のなかでも問題とされているように、そもそも「取材源の秘匿」を最優先事項とするために、名誉毀損裁判は(被告である)出版社にとって、本来的に不利な裁判として大きなリーガル・リスクを抱えているわけでありますので、(そうであるならば)当然のこととしてリスクの低減措置を施すことが企業価値を維持するためには不可欠なものだと理解することも十分合理性があるように思われます。(これはあくまでも私見であります。講談社判決では、たしか代表者の注意義務違反は認められておりませんので、そもそも社長さんに名誉毀損リスクを低減するための内部統制構築義務など存在しない、といった理屈なのかもしれません。)

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2009年5月22日 (金)

内部統制と投資家の視線(報告書は株価材料になるか)

大学の先輩・後輩という間柄で、大手証券会社の社員と会計士さんとが連絡をとりあってインサイダー取引を行っていたこと(疑惑)が発覚したようでして、22日あたりにSESC(証券取引等監視委員会)から課徴金処分の勧告が出るようですね。(刑事告発とは異なりますので、自ら利益を得ていない証券会社社員の方にはなんらの処分勧告もないようですが、証券会社側としたら大問題でしょうね。)しかし200万円程度の利益獲得事例について、しかも2007年の事例ということですから、最近のSESCのインサイダー摘発に対する執念というものを痛感しております。また、ライブドア個人株主損害賠償請求訴訟の判決が下され、今回の訴訟では会計監査を担当していた監査法人さんも損害賠償を命じられた、とのことでして、これもたいへん注目すべき判決であります。また、法と会計の狭間の問題(公正なる会計慣行とは?)の議論が再燃するのではないでしょうか。(詳しくは判決内容を読ませていただいたうえで、またエントリー化したいと思っております)

さて、昨日に引き続いての「内部統制」ネタでありますが、内部統制と企業情報の開示に関する問題につきましては、当ブログにおいても相当以前から検討しておりましたところ、日経新聞「内部統制と規律・罰則(下)~投資家の視線~」を読ませていただきまして、「企業不祥事が株価に与える影響グラフ」には、ちょっと驚きました。日経平均株価の動きとほぼ連動しているものの、会計不祥事を発生させた企業(結果として課徴金処分、刑事告発の対象とされた企業)は、ほぼ20ポイントほど低い数値で推移しているようであります。たとえば印象としましては、こんな感じです。

Cocolog_oekaki_2009_05_22_01_58 不祥事を発生させた企業について、そのすべてが内部統制の構築が不十分であることに起因するわけでもないと思いますので(経営者の姿勢自身も「内部統制の重要なポイント」として考えれば、たしかに内部統制の問題ともいえそうですが)、正確なところはわかりかねますが、それでも開示すべき財務情報の信頼性が毀損されると、大きく株価に影響し、しかも信頼性の毀損はすぐには取り戻せないということが判明いたします。こういった現実からしますと、ひょっとすると(まもなく一斉に提出される)内部統制報告書の記載(経営者評価と監査人の監査意見)が株価に与える影響というものも、ちょっと無視できないものになるのかもしれません。

ただ、記事の最後で外資系運用会社の方が指摘しておられますように、すでに会計不祥事を発生させた企業に「内部統制に重要な欠陥あり」とレッテルを貼ってみても、それはすでに株価に織り込み済みであって、それほどの影響はでないのでは・・・とも思いますし、むしろこれまでは会計不正が発覚していないような上場企業において、重要な欠陥ありとする経営者評価や、内部統制の有効性につき、監査意見を表明しないといった事態において、どのような株価変動が生じるのか、ということが重要な課題になってくるのではないでしょうか。

なお、上記記事のなかで、東証の方針として内部統制に欠陥があっても、また監査人の適正意見がもらえなくても上場廃止審査の対象とはしないとされ、また重要な欠陥がある場合でも適時開示の対象とはしない、と紹介されております。たしかに、この記事で書かれていることは正しいものでありますが、内部統制報告書において、監査人から適正意見がもらえない場合には、適時開示の対象となることにご留意ください。東証としても、経営者評価のバラツキについては、投資家の判断を損ねることを理由として開示対象とはしておりませんが、さすがに監査法人さんの意見形成については、それほどのバラツキはないだろう、との理由により適時開示対象になるものと推測されます。

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2009年5月21日 (木)

内部統制と取締役の注意義務の関係

5月20日の日経朝刊に「内部統制と規律と罰則(上)」の特集記事が掲載されており、内部統制が会社法と金商法で盛り込まれるようになった時代の取締役責任について検討されております。一橋大学大学院教授の方が「ふたつの内部統制ルールが相互に作用し、取締役が注意義務を果たしたと主張するためのハードルが上がる」とコメントを出されています。この「取締役の注意義務のハードルが上がる」ということの意味ですが、私は以下のように考えています。(なお、ここにいうところの「注意義務」は、取締役の善管注意義務だけでなく、第三者責任を追及される場合の過失{注意義務違反}の概念も含む「任務懈怠」責任の根拠となるものを指すものと解しております)

Cocolog_oekaki_2009_05_21_01_53 「ハードルが上がる」という言葉からしますと、内部統制システムの構築の重要性が高まり、取締役には内部統制構築に関する高度な注意義務が課されるようになったのではないか、との印象をもたれるかもしれませんが、そうではないと思います。高度な注意義務というのは、たとえば法律や会計に詳しい専門家が社外取締役や社外監査役に就任した場合に、一般の企業人であれば気付かないようなことでも、専門家であるがゆえに、気づくべきであった、それにもかかわらず、不注意にも認識しえなかった、ということで、一般の取締役であれば過失(任務懈怠)なし、というケースでも、その専門家役員だけは任務懈怠あり、と判断されることが考えられます。そのようなケースにおいて、当該専門家役員には、高度な注意義務が課されていた、と説明されます。現行会社法施行直前に立案担当者の方が大阪弁護士会で研修講演をされましたが、講演後の立ち話の折、「先生、よく社外役員に就任されていますね。こわくないですか?」と質問され、(もちろん責任限定契約は締結しておりますが)ゾッとしたことを記憶しております。

さて、内部統制の構築(整備と運用)に関する知識と経験が(取締役らにおいて)一般的となり、とりわけ上場企業の取締役会のように(大会社の場合)、内部統制システムの基本方針に関する決議が要求されるようになりますと、社内におけるリスク評価やリスク低減策の検討、そしてそれらの見直しなど、これまでの取締役の(法的な評価としての)注意義務の範囲には含まれていなかったような注意義務の履行が必要になってきたわけでありますので、上図に示したように、注意義務の有無を判断するにあたって、検討項目が広がったとみるのが妥当ではないでしょうか。おそらく上記事におきまして、「ハードルが上がった」とみるのは、これまで取締役の法的責任が議論されなかった領域にまで注意義務の有無が論じられるようになるのでは・・・ということを指しているものと思われます。ただいっぽうにおきまして、これまで「取締役の監視義務」として議論されてきた点に関しては、内部統制を適正に構築していれば、取締役の法的責任を追及されるリスクが大きく低減されるのでは?といった見解もありますので、はたして本当に会社または第三者に対する注意義務(善管注意義務または過失の前提となる取締役の不注意)のハードルが高くなったといえるかどうかは、今後の判例の流れを待って検証する必要があると思われます。

なお、内部統制の構築義務と経営判断原則との関係も、この「取締役の注意義務」に影響を及ぼすはずでありますが、これは金融商品取引法と会社法における内部統制関連法制の関係をどうとらえるか?といったことにも触れざるをえないところだと思いますので、これはまた別途エントリーにて検討してみたいと思います。

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2009年5月18日 (月)

監査役と社外取締役のコンバージェンス(税経通信6月号)

いよいよ大阪でもインフルエンザ対策が本格化してきました。娘の通う高校や大手予備校も、今日からとりあえず1週間お休みとのこと。とくに校内で感染が確認された、というわけでもなさそうですから、関西の学校はどこも同じような対応なのでしょうかね。すいません、こんなときに私は朝から東京に来ております。みなさん、ハミゴにしないでください。。。(以下本論です)

中央大学の大杉教授が「取締役兼務監査役」構想をお書きになった「監査役制度改造論」を商事法務に寄稿されて久しいのでありますが、このたびある方から「税経通信6月号の巻頭言に面白い記事が掲載されていますよ」とお教えいただきましたので、さっそく「監査役と社外取締役のコンバージェンス?」(上村達男教授)を読ませていただきました。(情報ありがとうございました。>M男さん)

この論稿の全体的な趣旨については読者の方々に委ねるとしまして、

最近「物言う株主」ならぬ「物言う監査役」が増えている、制度として監査役には強大な権限が付与されているので、おかしな監査役に居座られると始末に負えないことがある(自分もマスコミに称賛されていた某監査役を見る機会があったが、現経営者への嫌がらせとしか思えないような権限行使があった、解任の訴えの対象になるのではないか、とも思った)、しかし監査役の人達はは勉強熱心である、にもかかわらず海外からは監査役に対する評価はそれほど高くない(社外取締役とは違う)、そこでこの勉強熱心な人達に「社外取締役」になってもらって、ボードの活性化をはかるべきではないか?そもそもアメリカなどでは、訴訟の嵐のなかで「社外取締役」をうまく活用する術が培われたのであって、平和な日本においてはそもそも審議会などで「社外取締役導入」の必要性を強調しても、なかなか企業実務家の耳には届かないのが現実だ、この際説明として「日本では監査役と呼ばれているが、あれは実は社外取締役なのですよ」と言えるような改革が必要である(文章要約責任は管理人にあります)

というあたりが、「物言う著名な教授」のご発言として、たいへん歯切れがよく、楽しめました。先日の西松建設の海外裏金問題および政治献金問題に関する社内調査報告書でも、(立ち入り調査を受けて)監査役会が当時の社長に対して調査委員会の設置を強く要望して、やっとのことで委員会が立ちあげられた(しかしながら、実際には調査委員会は機能しなかったわけでありますが)ということが報告されておりましたが、私自身も「物言う監査役」さんが最近増えてきたことは事実だと認識しております。では、なぜ「物言う監査役」が増えてきたのでしょうか?

このあたり、ご異論もあるかもしれませんが、日本の三権分立と日本の会社法における株式会社のガバナンス(とりわけ上場会社)を比較するとわかりやすいかもしれません。立法(取締役会)、行政(代表取締役)、司法(監査役または監査役会)と捉えますと、監査役は違法性監査(法令定款違反の有無を判断し、違法性が認められれば是正を促し、自ら差し止める)によって、会社における「法の支配」の実現を担っているものと理解できます。「法の支配」とは、多数者の意見に反してでも、少数者保護の必要性があれば、その少数者の権利を強制権限をもって救済することを意味します。しかしながら、日本の司法制度もそうであるように、司法権が行使されるのは「何らかの紛争が発生した場合」でありまして、その紛争解決に必要なかぎりにおいてのみ司法権が行使される(司法謙抑主義)のが原則であります。これと同じく、監査役制度というものも、会社がうまく機能しているときにはとくに「物言う」必要はなく、予防監査(事前監査)に徹することも可能ではないかと思われます。しかし、いざ何か問題が発生した場合には、その問題解決のためには監査役の権限が適正に行使される必要があり(また、行使されることが株主より負託されており)、これはボードの多数者や株主の多数者の意思に反してでも「法の支配」を貫くために権限行使する必要が生じるわけであります。したがって、「始末に負えない監査役」というのは、多数者や経営者の側からみればそうかもしれませんが、それが監査役の行動としてはまともであり、当該会社の取締役の職務執行が「法令定款違反」に該当するものであることを冷徹に指摘されているのかもしれません。そもそも経営者と株主との情報の非対称性を効率的に埋めることができるのが監査役の適正な職務でありますので、株主の多数意思がどうであれ、公益目的(会社の利益をはかるために)で取締役と対峙できるのは監査役をおいて他にはいないわけであります。

このように考えてきますと、ほとんどの(上場企業の)監査役の方々は、予防監査または定例監査業務に専心しておられる場合には、経営陣との関係も良好で、誰がみても常識人と思える監査役さん方ばかりのように思えるのかもしれません。しかしながら、司法権行使における「事件性・争訟性」と呼ばれるような問題が企業内に発生した場合、それまでとは打って変わって監査役の独立性が発揮される場面が到来します。そして、この監査役の独立性が発揮される場面というのが、これまでよりも多く想定されている・・・ということが「物言う監査役」が増えている要因ではないでしょうか。内部統制報告制度における不備報告、内部通報窓口やコンプライアンス委員会からの情報提供、監査役に対する粉飾決算責任訴訟の増加、金商法193条の3による会計監査人からの不正是正申出、その他経営陣による監査妨害事例などなど、そのまま放置していては株主や会計監査人から「監査役も含む会社ぐるみでの不正」とレッテルを貼られてしまう立場に追い込まれる可能性は、これまでとは比べ物にならないほどに高まっていることは間違いないと思います。このような事態となれば、摘発監査(事後監査)を適正に行うことが株主から負託された監査役の使命であります。これは経営者との対立を生じさせるものでもあり、監査役さんにとっては苦痛かもしれませんが、法によって期待された監査役像がそこに垣間見えるのではないでしょうか。

経営者と監査役の対立は、リアルの株主さん方からみれば、みっともないものかもしれません。そのことで一時的にでも株価も下がり、リアルの株主さん達には迷惑かもしれません。しかし、監査役が職務を負託されている株主というのは、目の前のリアルな株主だけでははく、その会社の将来の株主も含むものだと理解しています。自身の利益ではなく、会社の利益を第一優先として、企業倫理を社内に浸透させ、コンプライアンス経営を重視した企業を築き上げるための行動は、継続企業にとっては代えがたいものではないでしょうか。(委員会設置会社における監査委員会を念頭に置くと少しぼやけてしまうかもしれませんが、監査役と社外取締役とでは、この株主との位置づけが若干違うようにも思います。このあたりは思いつきでありますので異論もあろうかと)たしかに私利私欲や、個人的な人間関係の私怨などから、監査役権限が行使されることは甚だ企業にとっては有害でありますが、監査役として適正に権限を行使したうえで「始末に負えない監査役」と言われることにつきましても、社内的に問題が発生した企業の監査役さんにとりましては、ごくごく普通の現象である、と認識しております。本当に監査役の方々が勉強熱心であるとすれば、この「社内的な問題」にどうやったら気づくのか(監査役としてのリスク・アプローチ)が最大のポイントではないでしょうか。

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2009年5月15日 (金)

今日(5月14日)、最も興味深い適時開示リリースはコレ・・・

星の数ほどある適時開示情報の中で(私的に、またおそらく当ブログへお越しの皆様も)一番関心のあるリリースは、やはりなんといってもこちらでしょう。ビックカメラ社と並び、もっとも注目しておりましたフタバ産業社のリリースであります。

フタバ産業特別調査委員会報告

3月期決算発表延期のお知らせ

責任追及委員会発足について

これはじっくり読む価値あり。しかしながら、明日は私が監査役を務める会社の決算役員会が早朝から開催されるため、もう寝ます。(笑)とりあえず備忘録のみ。

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2009年5月14日 (木)

発行市場の健全化に向けて活用されるインサイダー規制

(5月14日追記あります)

5月8日の日経新聞(夕刊)に、「パリバ、虚偽報告の疑い アーバンコーポ増資引き受け、監視委員会が立ち入り」との見出しで、パリバのディーラーが、アーバン社とパリバ社との資金調達契約で合意された範囲外において、アーバン株を取引していたことが判明した、と報じられておりました。(一番問題視されているのは、そういった事実が社内で判明しておきながら、虚偽の報告をしたのではないか?といったあたりのようです。虚偽報告が認定されれば刑事罰適用や金商法52条による業務停止命令もありますし、もし認定されなくても業務改善命令の対象にはなるのでしょうね。)そもそもアーバン社の開示上の問題が発覚した際にも、BNPパリバ証券によるインサイダー疑惑が持ち上がっておりましたが、パリバの社外調査委員会の報告でも、このあたりは曖昧なままだった記憶があります。

最近の金融法務事情1866号(5月5日、15日合併号)では、証券取引等監視委員会の活動と題する証券取引等監視委員会の事務局次長さんの論稿が掲載されておりまして、内容的には昨年11月大阪で開催されました(東京証券取引所主催の)コンプライアンスフォーラムでお話された内容とほぼ同じような感じでありますが、やはり多くのページが「発行市場におけるインサイダー規制の活用」に関する旬のテーマに割かれています。先のBNPパリバに対する立ち入りについても、そのあたりの流れが影響しているのではないでしょうか。この事務局次長さんは、さすがエリート裁判官らしく、「会社法からみれば合法かもしれないが、金融商品取引法や民法原則からみれば違法性に疑問があるのではないか」といった法的な視点からも考察がなされており、なかなかおもしろい内容であります。(この合併号には、例のバージン諸島本籍企業の件で多くの会計士さんのブログで話題となっておりましたS総務課長さんの座談会記事などもあり、こちらも面白いですね)私など、インサイダー規制といえば、流通市場における取引監視・・・というイメージしか持っておりませんが、「市場監視」という視点からは、インサイダー規制をこれまで以上に広い範囲で活用することが今後の課題となっているようであります。

たとえば、大規模第三者割当増資の規制ということになりますと、法による規制なのか、証券取引所自主ルールによるのか、開示規制なのか、株主の関与まで要求する手続き規制なのか、といったガバナンス規制が議論されるわけですが、いっぽうで第三者割当が行われる企業が、未公表の重要事実を第三者割当先に伝達することが約束されていたり、第三者割当先の関係者が当該企業の取締役に就任して、未公表の重要事実にアクセスすることで第三者割当先が不当に情報を入手するなど、企業収益とは別のところで違法に収益を上げようとする企業行動をインサイダー規制によって取り締まる・・・というイメージだと思われます。(たぶん、このあたりが「発行市場へのインサイダー規制」の典型的な例ではないでしょうか)このあたりはご異論もあるかとは存じますが、業績不振に陥った上場企業にとって、第三者割当増資の道が閉ざされてしまうのも問題でしょうし、かといって現在のままでは、新興市場等を通じて、上場企業は好ましからぬ第三者の支配下となるため、一般株主が食い物にされる事態は防ぎたい・・というところで、事前規制と事後規制の適度な調和のもとで適正な市場規制が図られることになるのでしょうね。ということで、今後は発行市場に対するSESCの活動について注目してみたいと思っております。

(追記)本エントリーをご覧いただいた有識者の方より、以下のとおりコメントを頂戴いたしました。発行市場への「インサイダー規制の適用」というのは、インサイダー取引規制が発行市場に及ぶということではなく、上手に活用すれば発行市場の健全化につながる、という意味で用いたものでありますが、誤解を招く内容かもしれませんので、あえてコメントを掲載させていただきます。

これまでの法解釈では、発行市場(新たに発行される株式の取得勧誘・取得の申込)については、インサイダー取引規制の適用対象外となっています。法律上、新発の有価証券には「売買」や「売付け」「買付け」などの用語は使用せず、「取得」が使用されるため、文言上、新発にはインサイダーの適用はない、と考えられるからです。類型的にそのような取引パターンは対象外です。

かなり形式論ですが自己株処分は、条文の適用上はインサイダーに該当しうる(すでに発行された有価証券の売買であって、市場外での売買)のですが、情報の非対称性がない場面では、適用除外になってくると考えられます。すなわち、売主である会社は情報を知っていて、買主側である第三者も同じ情報を知っている場合に、この自己株処分の限りでは、インサイダー取引の規制を適用させるだけの悪性がない(適用除外である双方が同じ情報をしっているという要件に該当)わけです。ただ、2番目の要件である、相手方が売買後にインサイダー取引を行うと知っている場合はダメです。

SESC事務局次長がここで発行市場の問題をあげているのは、そこでの取引にインサイダーを適用するというのではなく、その取得者が流通市場などでいろいろ悪事を働くおそれが高いため、それ自体がブラックでないとしてもその後ブラックな行為が行われる蓋然性が高いことに着目してチェックしていく、すなわち通常は企業のリリースと流通市場での取引に不審なものがないか、という観点でチェックしていくわけですが、それとは別の角度から、当初から違法行為の可能性を疑って切り込んでチェックしていく、ということだと思います。

MSCBがかつてレッサーCBと呼ばれていた90年代後半、97・8年ころから、監視委員会は引受先による不穏当な市場での取引を問題視していましたが、その後、当初違法説にたっていたといわれる○○証券もこの商品に手を出し、かつその後そのチームが▽▽▽証券に移って、あたかもまともな商品であるかのように扱われる時期が一時的にありましたが、そもそも特定の者が新株発行・新株予約権付きの社債を取得する場合、その後に市場でグレーまたはブラックな取引をすることにつながる(または当初から意図している)ことが多いのは、なにも今に始まったことではないと思います。

たいへん勉強になりました。(どうもありがとうございます。なおコメントの内容につきましては、一部修正をしております)

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2009年5月13日 (水)

意外と難しい会社法と刑事法との接点

新聞ではあまり報じられていないようでありますが、横浜市に本社のある電気機械製造販売会社の元社長さんが、会社法963条(会社財産を危うくする罪)違反の被疑事実によって逮捕されたそうであります。会社法では、取締役や監査役が株式会社の目的範囲外で投機取引のために会社財産を処分した場合には、会社財産を危うくする罪として構成されておりますが(会社法963条5項3号)、この元社長さんの行為については、株の信用取引はリスクが大きく、投機取引にあたる、として横浜地検が立件に踏み切ったそうであります。(朝日新聞ニュースはこちら)なるほど、過去の判例でも、化粧品・雑貨の卸売りを業とする会社の代表者が、大量に穀物等の商品取引を行うため会社財産を処分する行為につきまして、それは「社会通念に照らし、定款所定の目的にそう業務またはその遂行に必要な付帯的業務の通常の範囲内にあるとは認められないので」会社財産を危うくする罪として成立する旨の最高裁決定がありますので(最高裁決定昭和46年12月10日 判例時報650条99頁)、そのあたりからも今回の事件が立件可能であるとの地検の判断に至ったのだと思われます。

そういえば、先日も(当ブログでも議論いたしましたが)新潟市に本社のあるプロデュース社の会計監査を担当していた会計士の方(すでに逮捕されましたよね)につき、会社法967条(取締役等の贈収賄罪)で立件する方針が検討されている、といった報道もありました。(たしか会社からもらっている監査報酬がかなり高額であって、報酬額のうち、一部は監査業務との対価性がなく、粉飾決算を放置する見返りではないか、といったことが検討されていたように記憶しております。実際のところは、有価証券報告書虚偽記載罪のほう助というところで立件されているのでしょうか)商事法と刑事法との接点ということになりますと、インサイダー取引や、粉飾決算関連、偽計や相場操縦に関する罪など、金融商品取引法との関連において議論されるケースが多いと思われますが、上場企業、非上場企業を問わず適用される「会社法違反」につきましては、これまであまり特別背任罪(会社法960条)以外は議論されてこなかったところではないでしょうか。「会社法」と名のつく教科書、基本書、体系書も、なぜか会社法のなかに規定されているにもかかわらず、会社法上の刑事法関連条文の解説はされておりません。(会社法コンメンタールなどでは解説がなされるのでしょうが)おそらく、このあたりは「経済刑法」なる分野として、主として刑法学者の方々が解説されるところなのかもしれません。ただ、ライブドア事件や村上ファンド事件などの検察、裁判所に対するいろいろなご批判意見などをみますと、やはり会社法や金商法実務に精通された先生方が、刑事法の先生方と協同する必要があるのではないかと思いますし、またとりわけ会社法のなかには、あまりこれまで使われてこなかったような条文も散見されますので、そういった条文の構成要件について、会社法上の刑事罰の保護法益を含めて、検討される必要があるように考えます。

たとえば違法配当をした取締役の刑事責任なども規定されておりますし、民事責任根拠とは別に、刑事罰の根拠規定となる「利益供与」の解釈問題もあります。(たとえばモリテックス事件で東京地裁が採用した、「利益供与」の解釈は、刑事罰適用においても、同様の解釈がとられるのか、その場合罪刑法定主義との関係はどうなるのか、議決権行使に関する利益供与と、株主等の権利行使に関する贈収賄罪(会社法968条)との条文相互の関係はどうなるのか?といった問題も検討される必要がありそうです。なによりも、こういった会社法上の刑事罰が適用されて、裁判所の判断が下るということになりますと、おそらく会社実務において、「刑事告訴」という、新たな会社法務上の武器が使いやすくなる、ということも言えるかもしれません。

つい先日のNBL記念特集号のなかで、債権法大改正に向けて、商法学者の方々が非常に熱心に参加されておられる、といった座談会記事を拝見いたしましたが、こういった刑事法と会社法との接点につきましても、新しい視点から明確な解釈指針のようなものを考究される組織のようなものができたらいいですね。

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2009年5月11日 (月)

FSA・機関投資家に議決権行使状況の公表要請へ

「日本郵船社のFSCP(財務決算プロセス)に重要な欠陥は認められるか?」のエントリーは、まだまだ盛り上がっておりますが、k-soxさんが、(私的には)かなり核心をついたコメントを出されたように思いますが、皆様はどのように感じられたでしょうか?結局のところ、この内部統制報告制度の評価・監査手続きというものも、こういった財務上の問題が発生した企業におきましては、そこに「人間と人間の生々しい腹を割った話し合い」の世界が存在するのでありまして、「経営者評価の基準をもって」無機質に有効性が判断できるようなものではない、ということが改めて認識できるのではないでしょうか。そういった「経営者と監査人との腹を割った話し合い」の余地を少しずつ広げてきたのが金融庁の追加Q&Aの姿であり、hisaemonさんがコメントで述べておられるように、そういった話し合いが今後の各企業における財務報告の信頼性向上につながることが肝要だと思います。(もちろん、それが費用対効果という点からみて十分なものかどうかは、また別問題として残るわけでありますが)いずれにしましても、k-soxさんと同様、私も日本郵船さんの内部統制報告書がどのように提出されるのか、楽しみにしている一人であります。また、株主総会でもし、この内部統制の評価結果や、監査人監査、監査役監査の結果説明が求められた場合、役員の方々はどのように回答されるのか、(日本監査役協会の有識者懇談会報告書でも記載されているように、インサイダー取引規制とも関わる問題がありますので)これも関心のあるところです。

さて、5月9日の日経朝刊に、金融庁が機関投資家(信託銀行や投資信託会社等)に対して、投資先上場企業の経営監視を強化するように求める方針を固めた、との記事が掲載されております。機関投資家がどのように議決権を行使したのか、その結果を公表するといった情報開示ルールを創設する、というものだそうですが、実際に検討されているのは、①議決権行使ルールの作成、②同ルールの公表、③議決権の行使結果と賛否の公表、といった制度導入の是非のようであります。この「市場による規律の向上」に関する論点につきましては、金融庁スタディグループ第19回議事録をお読みになりますと、賛否を考えるうえでの各メンバーの方々のご意見が参考になります。

このスタディグループ(新聞報道では金融庁作業部会とあります)の議論のなかで、今回の金融庁方針について、もっとも影響を与えているのが東大のI教授のご意見ではないかと思われます。(ちょうど議事録の3分の2あたりに掲載されております)ガバナンス制度の改善に関して、いま社外取締役制度の導入その他(監査役制度の改正など)が議論されているが、会社運営機構上の制度をいくらいじくっても、結局企業ガバナンスというのは根本のところでは改善しないところがあり、やはり株主がきちんと経営者を評価し、そして監督するということが実現しないかぎり、ガバナンスは根本的にはよくなっていかないのではないか、したがって株主とりわけ機関投資家がきちんと会社の経営をみて、議決権投資等を通じて影響力を行使していくことが究極的なガバナンスの改善につながっていくのではないか、というご意見であります。また、実際には機関投資家が議決権行使を外部委託しているところが大半であるならば、「年金の受益者に対する受託者としての義務として」きちんと外部運用先機関の議決権行使を含めた「株主としての権利行使をしているかについて」きちんと見張っていく必要があるのではないか、との見解を述べておられます。

このご意見に対しては、上記議事において各メンバーより賛否両論が出されておりますが、日経解説記事でも書かれているとおり、最終的にはどこまでの市場による規律の向上策が盛り込まれるか、ということであります。はたして議決権行使結果と賛否の公表要請というところまで、業界団体に自主ルールの作成を求めることになるのかどうか、議決権行使ルールの公表までに留まり、議決権行使結果の公表は各機関投資家の自主判断に委ねる・・・というところに落ち着くのかどうか、といったあたりが今後の焦点になりそうです。また、たとえ議決権行使結果の公表ということを要請するとしても、「努力目標」として掲げ、画一的にルールを適用することよりも、むしろ個別上場企業と機関投資家との対話を重視することで柔軟に運用する、という方向性も考えられるのかもしれません。スタディグループの報告書が6月頃にとりまとめられる予定とのことで、どのような内容が盛り込まれることになるのか興味深いところであります。

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2009年5月 8日 (金)

企業不祥事・社内調査委員会と社外調査委員会(参考資料)

「日本郵船社のFSCPに重要な欠陥は認められるか?」のエントリー(コメント欄)に、ついにhisaemon氏が登場されましたね(^^;; おそらく私の知るところでは最も「その筋」(どの筋やねん)に近い方ですから、またご参考にされてはいかがと(笑)私もほぼhisaemon氏のご意見に同意するところであります。(もちろん、あくまでも予想にすぎませんよ。)

さて、4月下旬(GW前半)は、某会社の不正会計(従業員による資金流用)調査業務をしておりました。いわゆる社内調査委員会の支援業務というものであります。私と会計士の先生が社内調査委員会(専門家の社外役員を含む)による調査業務を補佐する、というものですが、かなりひさしぶりの業務でした。とくに華やかな業務ではなく、徒労に終わることも少なくない地味なお仕事です。(もちろん、ここでは内容に触れることはできませんが)

不祥事発生(もしくはその疑いがある場合)に組織される社外調査委員会と社内調査委員会の役割や業務の進め方など、以前はかなり曖昧なものだったように記憶しておりますが、ここ数年、企業のクライシスマネジメントの一貫として、早期の事実確定やマスコミ対策、再発防止策公表のために、ずいぶんと一般化し、また周知されてきたように思います。また社外調査委員会と社内調査委員会との役割分担のようなものも明確になってきました。

不祥事が発生(もしくは発覚)して、マスコミで大きくとりあげられるような事態にはならないにこしたことはありませんが、「備えあれば憂いなし」ということで、社内の役員さんや、スタッフの方々にも、リスクマネジメントの一貫として学習できそうな、比較的容易に入手可能な資料をいくつかご紹介いたします。私も、今回の調査支援業務に先だって、すべて拝読させていただき、たいへん役に立ちました。(といってもまだ業務は継続しておりますが)

まず社内調査委員会の体制作りや調査業務の進め方については、以前ご紹介いたしましたこちらの座談会記事は有用であります。また、実際に調査業務をやってみて、「なるほど、同じ悩みを抱えながら調査を進めておられるのか」と安ど感も抱きつつ、かなり実際の証拠収集(収集のタイミングなども含め)までマニアックに突っ込んだ解説がなされているNBL889号、890号の「社内調査はなぜ難しいか(上)(下)」(梅林弁護士)も秀逸です。(今回もっとも参考にさせていただきました)また、先日ご紹介した「過年度決算訂正の法務」(中央経済社)の第6章は、これまでの社内・社外調査委員会の調査概要なども図表としてまとめられており、こちらも参考になります。

つぎに、社外調査委員会でありますが、旬刊経理情報2009年2月10日号(1206号)の「企業不祥事発生時の『調査委員会』の設立・運営」(山崎弁護士)が参考判例も紹介されながら丁寧に委員会の役割や具体的活動を解説されています。また最近のNBL(903号、おそらく905号?)における國廣弁護士の「『第三者委員会』についての実務的検討(上)(下)」は、(まだ上しか拝見しておりませんが)NHK第三者委員会委員のご経験などから、現実的な視点でその「委員会運営のむずかしさ」を説いておられ、これもたいへん貴重な論稿であります。私も過去に一度だけ社外調査委員を経験しましたが、失敗例として教訓ばかりが残りましたので、この論稿を拝見して、その心構えから違っていたことを痛感いたしました。

こういったお仕事は、会計士さんといつもペアですが、とりわけ会計不正関連の調査には会計士さんとの連携は必須だと思います。Aという事実とBという事実が認められたので、Cが推論できる・・・という事実認定は比較的容易なのですが、Aという事実が認められたので、(通常はBという事実が発生するのだが)本来発生すべきBという事実が発生していないので、Cが推論できる・・・という事実認定は会計士さんの監査経験や会計専門家としての知識がないと困難であります。(このあたりが法律家と会計士のコラボが必要な場面です。)迅速で公正な社内調査というのも、結局のところ経営トップの方による積極的な支援がなければ実現しませんので、そもそも会社ぐるみの不正、というケースではどこまで奏功するかは未知数でありますが、日本ではまだまだ未開発の分野ではないかと感じております。

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2009年5月 7日 (木)

ご無沙汰しております(近況報告)

すっかり更新をサボってしまいました。もうブログを書き始めて丸4年になりますが、6日間もブログを放置していたのは初めてのことであります。GW期間中は、ひたすら3つほどの原稿執筆に邁進しておりましたので、結局仕事を離れて(楽しみにしておりました)古代史散策に向かったのは5月2日だけでした。

ただ、前のエントリーには、多数のコメント、メールを頂戴いたしましたので、欠かさず拝読させていただきました。考えてみると、内部統制の専門家はいらっしゃっても、内部統制報告制度の専門家というのはいまだいらっしゃらないわけでして、いろいろなご意見があっても不思議ではないのでしょうね。今後、7月ころまで、こういった話題のエントリーが増えると思いますが、またいろいろと検討してまいりますので、どうかよろしくお願いいたします。

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2009年5月 1日 (金)

日本郵船社のFSCPに重要な欠陥は認められるか?

もうすでにJ-SOXマニアの方々の間では議論になっているようでありますが、つい先日、ある大手監査法人の方よりお聞きした旬の話題であります。(すいません○○先生、ブログネタにしてしまいました!・・・・・m(__)m )日本の代表格の企業である日本郵船さんが、法人税額を計算する際にミスが生じて09年3月期の連結業績予想を大幅に訂正した、というお話。400億を超える金額の訂正は異例とのこと。(よく探してみると、毎日ニュースで報じていたのですね。まったく気づきませんでした。)

日本郵船社(3月決算)が財務報告に係る内部統制の有効性を評価する日は平成21年3月末日時点でありますが、訂正前の業績予想は3月26日、そして訂正発表は4月23日です。つまり、3月31日の時点では誤った業績予想のままであります。上の毎日ニュースにおける日本郵船社のコメントは「単純なミスです。いやいや、お恥ずかしいかぎり・・・」とのことでありますが、本当にお恥ずかしい・・・で済むのでしょうか(^^;; 日本郵船社では、決算の作業と税額の予測作業を別の部署がやっていたことが単純な計算ミスをチェックできなかった原因だったようでありますが、これって、FSCP(決算・財務プロセス)に重大な不備があったといえるのではないのでしょうかね??また、評価日時点では訂正されていなかったのですから、重大な不備がそのまま期末時点で残っているものとして、「重要な欠陥」に該当する、ということになるのでは??

さて、日本郵船社の内部統制報告書は、この業績予想訂正を踏まえてどのようなものになるのでしょうか?また監査法人さんはどのような意見を出すのでしょうか?なお、このあたりは先日金融庁からリリースされた「再追加Q&A」などが(ひょっとすると)考えるヒントになるのかもしれません・・・・

(注)話題が話題だけに、私見を書くのを控えさせていただきました。また、あまりに核心を突いたようなコメントにつきましては、管理人の勝手な判断で一部修正を加えさせていただくことがございますので(笑)、あらかじめご了承くださいませ。m(__)m 

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