« 今日(5月14日)、最も興味深い適時開示リリースはコレ・・・ | トップページ | 内部統制と取締役の注意義務の関係 »

2009年5月18日 (月)

監査役と社外取締役のコンバージェンス(税経通信6月号)

いよいよ大阪でもインフルエンザ対策が本格化してきました。娘の通う高校や大手予備校も、今日からとりあえず1週間お休みとのこと。とくに校内で感染が確認された、というわけでもなさそうですから、関西の学校はどこも同じような対応なのでしょうかね。すいません、こんなときに私は朝から東京に来ております。みなさん、ハミゴにしないでください。。。(以下本論です)

中央大学の大杉教授が「取締役兼務監査役」構想をお書きになった「監査役制度改造論」を商事法務に寄稿されて久しいのでありますが、このたびある方から「税経通信6月号の巻頭言に面白い記事が掲載されていますよ」とお教えいただきましたので、さっそく「監査役と社外取締役のコンバージェンス?」(上村達男教授)を読ませていただきました。(情報ありがとうございました。>M男さん)

この論稿の全体的な趣旨については読者の方々に委ねるとしまして、

最近「物言う株主」ならぬ「物言う監査役」が増えている、制度として監査役には強大な権限が付与されているので、おかしな監査役に居座られると始末に負えないことがある(自分もマスコミに称賛されていた某監査役を見る機会があったが、現経営者への嫌がらせとしか思えないような権限行使があった、解任の訴えの対象になるのではないか、とも思った)、しかし監査役の人達はは勉強熱心である、にもかかわらず海外からは監査役に対する評価はそれほど高くない(社外取締役とは違う)、そこでこの勉強熱心な人達に「社外取締役」になってもらって、ボードの活性化をはかるべきではないか?そもそもアメリカなどでは、訴訟の嵐のなかで「社外取締役」をうまく活用する術が培われたのであって、平和な日本においてはそもそも審議会などで「社外取締役導入」の必要性を強調しても、なかなか企業実務家の耳には届かないのが現実だ、この際説明として「日本では監査役と呼ばれているが、あれは実は社外取締役なのですよ」と言えるような改革が必要である(文章要約責任は管理人にあります)

というあたりが、「物言う著名な教授」のご発言として、たいへん歯切れがよく、楽しめました。先日の西松建設の海外裏金問題および政治献金問題に関する社内調査報告書でも、(立ち入り調査を受けて)監査役会が当時の社長に対して調査委員会の設置を強く要望して、やっとのことで委員会が立ちあげられた(しかしながら、実際には調査委員会は機能しなかったわけでありますが)ということが報告されておりましたが、私自身も「物言う監査役」さんが最近増えてきたことは事実だと認識しております。では、なぜ「物言う監査役」が増えてきたのでしょうか?

このあたり、ご異論もあるかもしれませんが、日本の三権分立と日本の会社法における株式会社のガバナンス(とりわけ上場会社)を比較するとわかりやすいかもしれません。立法(取締役会)、行政(代表取締役)、司法(監査役または監査役会)と捉えますと、監査役は違法性監査(法令定款違反の有無を判断し、違法性が認められれば是正を促し、自ら差し止める)によって、会社における「法の支配」の実現を担っているものと理解できます。「法の支配」とは、多数者の意見に反してでも、少数者保護の必要性があれば、その少数者の権利を強制権限をもって救済することを意味します。しかしながら、日本の司法制度もそうであるように、司法権が行使されるのは「何らかの紛争が発生した場合」でありまして、その紛争解決に必要なかぎりにおいてのみ司法権が行使される(司法謙抑主義)のが原則であります。これと同じく、監査役制度というものも、会社がうまく機能しているときにはとくに「物言う」必要はなく、予防監査(事前監査)に徹することも可能ではないかと思われます。しかし、いざ何か問題が発生した場合には、その問題解決のためには監査役の権限が適正に行使される必要があり(また、行使されることが株主より負託されており)、これはボードの多数者や株主の多数者の意思に反してでも「法の支配」を貫くために権限行使する必要が生じるわけであります。したがって、「始末に負えない監査役」というのは、多数者や経営者の側からみればそうかもしれませんが、それが監査役の行動としてはまともであり、当該会社の取締役の職務執行が「法令定款違反」に該当するものであることを冷徹に指摘されているのかもしれません。そもそも経営者と株主との情報の非対称性を効率的に埋めることができるのが監査役の適正な職務でありますので、株主の多数意思がどうであれ、公益目的(会社の利益をはかるために)で取締役と対峙できるのは監査役をおいて他にはいないわけであります。

このように考えてきますと、ほとんどの(上場企業の)監査役の方々は、予防監査または定例監査業務に専心しておられる場合には、経営陣との関係も良好で、誰がみても常識人と思える監査役さん方ばかりのように思えるのかもしれません。しかしながら、司法権行使における「事件性・争訟性」と呼ばれるような問題が企業内に発生した場合、それまでとは打って変わって監査役の独立性が発揮される場面が到来します。そして、この監査役の独立性が発揮される場面というのが、これまでよりも多く想定されている・・・ということが「物言う監査役」が増えている要因ではないでしょうか。内部統制報告制度における不備報告、内部通報窓口やコンプライアンス委員会からの情報提供、監査役に対する粉飾決算責任訴訟の増加、金商法193条の3による会計監査人からの不正是正申出、その他経営陣による監査妨害事例などなど、そのまま放置していては株主や会計監査人から「監査役も含む会社ぐるみでの不正」とレッテルを貼られてしまう立場に追い込まれる可能性は、これまでとは比べ物にならないほどに高まっていることは間違いないと思います。このような事態となれば、摘発監査(事後監査)を適正に行うことが株主から負託された監査役の使命であります。これは経営者との対立を生じさせるものでもあり、監査役さんにとっては苦痛かもしれませんが、法によって期待された監査役像がそこに垣間見えるのではないでしょうか。

経営者と監査役の対立は、リアルの株主さん方からみれば、みっともないものかもしれません。そのことで一時的にでも株価も下がり、リアルの株主さん達には迷惑かもしれません。しかし、監査役が職務を負託されている株主というのは、目の前のリアルな株主だけでははく、その会社の将来の株主も含むものだと理解しています。自身の利益ではなく、会社の利益を第一優先として、企業倫理を社内に浸透させ、コンプライアンス経営を重視した企業を築き上げるための行動は、継続企業にとっては代えがたいものではないでしょうか。(委員会設置会社における監査委員会を念頭に置くと少しぼやけてしまうかもしれませんが、監査役と社外取締役とでは、この株主との位置づけが若干違うようにも思います。このあたりは思いつきでありますので異論もあろうかと)たしかに私利私欲や、個人的な人間関係の私怨などから、監査役権限が行使されることは甚だ企業にとっては有害でありますが、監査役として適正に権限を行使したうえで「始末に負えない監査役」と言われることにつきましても、社内的に問題が発生した企業の監査役さんにとりましては、ごくごく普通の現象である、と認識しております。本当に監査役の方々が勉強熱心であるとすれば、この「社内的な問題」にどうやったら気づくのか(監査役としてのリスク・アプローチ)が最大のポイントではないでしょうか。

|

« 今日(5月14日)、最も興味深い適時開示リリースはコレ・・・ | トップページ | 内部統制と取締役の注意義務の関係 »

コメント

いつも楽しく拝見させていただいています。
日本国憲法上の三権分立にガバナンス構造を擬えるというのは、非常に面白い発想だと思いました。

個人的には報酬制度(行動に対する金銭的インセンティブ)とガバナンスを絡める部分で(も)仕事をしているのですが、特に報酬面での監査役の独立性というのが担保されているケースは稀だと思います。もちろん、報酬のために監査役就任を受けるわけではないと思いますが(物言う監査役の皆様は特にそうだと思います)、このあたりの仕組みもなんとかうまく設計できないかな、と愚考する日々です。

投稿: YN | 2009年5月18日 (月) 16時36分

他人はいろいろ言うかもしれませんが、結局、自分の良心を基準に判断する他ないような気がいたします(夜更かしして見たドキュメンタリー番組で、どこかの刑事の裁判長が同じ趣旨の発言をしていました)。
もっとも良心は融通無碍で、利害関係や我欲に影響されやすいでしょうから、自分自身への慎重さが必要だろうと思いますが(自戒を含めてそう思います)。

投稿: ロックンロール会計士 | 2009年5月18日 (月) 20時16分

監査役の場合は、法定の権限が大きすぎるから、それを行使しすぎるとどうしても会社で「困ったちゃん」扱いされてしまうでしょうね。だからこそ、会社としては大きな声で騒ぐような人を監査役にしないようにする訳で。
ですから、ここらへんでもう一度「監査役とは何か」を考える必要があると思います。「理想の監査役像」を改めて模索してもいいのかもしれません。経営側と喧嘩せず、かといって、経営側に折れるということがない監査役が理想的だ、とか色々と意見は出てくると思いますが・・・。

投稿: m.n | 2009年5月18日 (月) 22時12分

ことは監査役制度に留まりません。何に関しても共通の課題ですが、
いい加減、「制度をいじったら改善する」という錯覚から
脱却してもらいたいものです。
制度の整備の問題ではないのです。
運用の問題であり、個人個人の資質の問題なのですから。

間違っても、「理想」などという青い鳥を求めてはいけませんよ。
大失敗をしますから(笑)。そんな鳥はいないのです。

上記と矛盾したことをいうようですが、特別な才能があるひと、特殊な
技能を持っているひとを求めるのでも期待するのでもなく、あるレベル
以上の人間なら誰でも務まるような制度でなくてはなりません。

現在の制度はきっとそういう制度なんだと、まず信じましょう。
制度をいじるのではなくて、よりよき運用を考えましょう。

投稿: 機野 | 2009年5月19日 (火) 00時56分

日本郵船の問題については機野さんとは反対意見でしたが、今回は機野さんに大いに賛同します。
そもそも制度改革など、運用に関する十分な検証なくしてできないものです。いまの監査役制度がどのように運用されているのか、なにが不足しているのか、それはなにが原因なのか、そういった検証なしに制度をいじくっても、いいものはできないのではないでしょうかね。経済団体のガバナンス意見についても基本的にはそのことを言っているわけですよね。

投稿: とーりすがり | 2009年5月19日 (火) 01時44分

皆様はじめましてへなちょこリーマンと申します。
いつもは、高尚な議論に声を上げるのがおこがましく思い、読んでいるだけでおりました。
監査役の役割としては、普段は出しゃばり過ぎず一度危機が訪れたと察知(これが難しいと思いますが…。ひとつ間違えると社内を混乱に陥れてしまうのが悩ましいところ)したら行動を敏に行うといったところだと考えております。
誤解を恐れずに言うならば、危機発生時に経営陣に憎まれない監査役は逆に問題だと思います。
これは監査役本人の資質、心の問題だと思います。

学者先生様には、海外からの評判を気にするがあまり、いたずらに現在の監査役制度をいじって悪化させることがないようにしてもらいたいものですね。

投稿: へなちょこリーマン | 2009年5月19日 (火) 06時36分

YNさん、へなちょこリーマンさん、はじめまして。コメントありがとうございました。また、機野さん、ロックンロール会計士さん、MNさん、とーりすがりさん、ご意見ありがとうございます。上場企業といっても、その規模も違いますし、「監査役」ポストの占める人事上の位置づけも各社違うようですから、一概に「監査役というものは」と決めつけることができないことは重々承知しているつもりです。しかし、機野さんのご指摘のように、私もそろそろ監査役制度の運用面に光をあてて検証(過去から現在進行形の事例まで含めて)する時期にきているのではないかな・・・と思います。制度を少し変えてみても、制度を活用できるのは監査役ご本人しかいないわけですし。
また、株主からみた監査役のイメージというものも、どういったものなのか、本当に社外取締役のイメージに近いものなのかどうか、という点についても少し考えてみる必要があると思います。

投稿: toshi | 2009年5月19日 (火) 11時05分

TOSHI先生

どうもお久しぶりです。思わず書き込みたくなるトピックですのでおじゃまします。

内部統制研究学会でお会いしたときに、NPO社外取締役ネットワークで私が代表世話人となって社外監査役研究会を立ち上げるという話をさせていただきましたが、すでに2回開催しました。参加されている方は、いずれも公開会社の取締役・監査役の経験豊富な方ばかりで、充実した議論がされています。

ちょっとご紹介すると、最近のガバナンスで議論されている社外取締役に期待されている機能については、OECDの原則等、金融庁のスタディグループの資料に要領よくまとめられていますが、外国法制では監査役というものがないので、監査委員会を中心とした社外取締役の機能をひっぱりだして、どの程度の機能が今の監査役制度の運用や設計のなかで実現されているのか、たらざるとすれば何か、という議論をしております。参加されている皆さんは、現行制度にポジティブな評価をされており、運用面でもかなりのことを監査役ははたしているという評価で一致しております。反対に社外取締役については、制度的に社内の情報にアクセスが十分できないといった点もあり、期待されている機能を果たすには運用面で課題が多いという指摘がかなりありました。いままで世の中でいわれていた監査役の機能不全というのとまったく逆の評価であり、ご指摘のとおりの「物言う監査役」が増えていることの表れのように思います。経団連までもが、4月に発表した意見書では社外取締役義務化という金融庁の方向性に反対して、監査役制度が相当機能しているということをいっております。

ただある参加者がご指摘のとおり、経営陣とコミュニケーションをよくし普通のときに意見がよくとおったとしても、徹底的に対立する場面において監査役制度は機能するのかが問題であるという論点があり、平時の牽制とともに非常時の牽制についてもよく議論を尽くしたいと思っております。

私自信は、現行制度の適切な運用を定着させ、監査役会事務局の人員を確保させるような方向性のほうがガバナンス強化の効果があがるのではないかと感じているところです。それでは、また。

投稿: とも | 2009年5月23日 (土) 12時47分

とも先生、ご意見ならびに情報ありがとうございます。
また一度、お邪魔でなければその会合に出席させてください。日程が合えば東京でも伺いたいと思います。

投稿: toshi | 2009年5月27日 (水) 02時44分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 監査役と社外取締役のコンバージェンス(税経通信6月号):

« 今日(5月14日)、最も興味深い適時開示リリースはコレ・・・ | トップページ | 内部統制と取締役の注意義務の関係 »