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2009年5月11日 (月)

FSA・機関投資家に議決権行使状況の公表要請へ

「日本郵船社のFSCP(財務決算プロセス)に重要な欠陥は認められるか?」のエントリーは、まだまだ盛り上がっておりますが、k-soxさんが、(私的には)かなり核心をついたコメントを出されたように思いますが、皆様はどのように感じられたでしょうか?結局のところ、この内部統制報告制度の評価・監査手続きというものも、こういった財務上の問題が発生した企業におきましては、そこに「人間と人間の生々しい腹を割った話し合い」の世界が存在するのでありまして、「経営者評価の基準をもって」無機質に有効性が判断できるようなものではない、ということが改めて認識できるのではないでしょうか。そういった「経営者と監査人との腹を割った話し合い」の余地を少しずつ広げてきたのが金融庁の追加Q&Aの姿であり、hisaemonさんがコメントで述べておられるように、そういった話し合いが今後の各企業における財務報告の信頼性向上につながることが肝要だと思います。(もちろん、それが費用対効果という点からみて十分なものかどうかは、また別問題として残るわけでありますが)いずれにしましても、k-soxさんと同様、私も日本郵船さんの内部統制報告書がどのように提出されるのか、楽しみにしている一人であります。また、株主総会でもし、この内部統制の評価結果や、監査人監査、監査役監査の結果説明が求められた場合、役員の方々はどのように回答されるのか、(日本監査役協会の有識者懇談会報告書でも記載されているように、インサイダー取引規制とも関わる問題がありますので)これも関心のあるところです。

さて、5月9日の日経朝刊に、金融庁が機関投資家(信託銀行や投資信託会社等)に対して、投資先上場企業の経営監視を強化するように求める方針を固めた、との記事が掲載されております。機関投資家がどのように議決権を行使したのか、その結果を公表するといった情報開示ルールを創設する、というものだそうですが、実際に検討されているのは、①議決権行使ルールの作成、②同ルールの公表、③議決権の行使結果と賛否の公表、といった制度導入の是非のようであります。この「市場による規律の向上」に関する論点につきましては、金融庁スタディグループ第19回議事録をお読みになりますと、賛否を考えるうえでの各メンバーの方々のご意見が参考になります。

このスタディグループ(新聞報道では金融庁作業部会とあります)の議論のなかで、今回の金融庁方針について、もっとも影響を与えているのが東大のI教授のご意見ではないかと思われます。(ちょうど議事録の3分の2あたりに掲載されております)ガバナンス制度の改善に関して、いま社外取締役制度の導入その他(監査役制度の改正など)が議論されているが、会社運営機構上の制度をいくらいじくっても、結局企業ガバナンスというのは根本のところでは改善しないところがあり、やはり株主がきちんと経営者を評価し、そして監督するということが実現しないかぎり、ガバナンスは根本的にはよくなっていかないのではないか、したがって株主とりわけ機関投資家がきちんと会社の経営をみて、議決権投資等を通じて影響力を行使していくことが究極的なガバナンスの改善につながっていくのではないか、というご意見であります。また、実際には機関投資家が議決権行使を外部委託しているところが大半であるならば、「年金の受益者に対する受託者としての義務として」きちんと外部運用先機関の議決権行使を含めた「株主としての権利行使をしているかについて」きちんと見張っていく必要があるのではないか、との見解を述べておられます。

このご意見に対しては、上記議事において各メンバーより賛否両論が出されておりますが、日経解説記事でも書かれているとおり、最終的にはどこまでの市場による規律の向上策が盛り込まれるか、ということであります。はたして議決権行使結果と賛否の公表要請というところまで、業界団体に自主ルールの作成を求めることになるのかどうか、議決権行使ルールの公表までに留まり、議決権行使結果の公表は各機関投資家の自主判断に委ねる・・・というところに落ち着くのかどうか、といったあたりが今後の焦点になりそうです。また、たとえ議決権行使結果の公表ということを要請するとしても、「努力目標」として掲げ、画一的にルールを適用することよりも、むしろ個別上場企業と機関投資家との対話を重視することで柔軟に運用する、という方向性も考えられるのかもしれません。スタディグループの報告書が6月頃にとりまとめられる予定とのことで、どのような内容が盛り込まれることになるのか興味深いところであります。

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コメント

こんにちは
あまりガチガチしてもかえって投資家の負担を増加させるだけなのですが、日本のケイレツ社会に風穴をあける意味では前向きな面がありそうです。

かつて、M自動車のリコール隠し問題が全盛期のころ、財閥系列運用会社が役員の改選に白紙委任状を出していた、とか元日経新聞の記者が暴露していましたが、こんなことがないようになればいいと思います。

年金基金で運用する企業(大半が日経225採用銘柄と推察)だと、おおむねしっかりしていると思いますが、睨みを利かす意味ではよいかもしれません。

投資家が要求するのは、しっかりした事業方針と株主還元の妥当性程度だと思いますので(M&Aのプレミアムはうるさいかもしれない)。

外資を呼び込む(困った時の外資頼み。困っていないときは邪魔者扱い)意味でも有意義かもしれません。

投稿: katsu | 2009年5月11日 (月) 11時28分

katsuさん、コメントありがとうございます。

今回の一連のガバナンス論議のなかで、「制度をいじること」だけでなく「市場評価というソフトロー」を活用することもガバナンス改正のひとつであることが、ずいぶんと認識されるようになったことは意義があるものと思っています。
katsuさんもご存じのとおり、買収防衛策のあり方についても、「裁判で勝てるかどうか」という見方と「市場でどう評価されるか」という見方では絶対に対応に差が生じるはずです。
金融庁による業界団体への要請というのは、ソフトローではなく、実質はハードローに近いもののようですが、こういった手法というのも、もっとバリエーションがあるのではないか・・・と考えています。

投稿: toshi | 2009年5月13日 (水) 20時08分

ガバナンスの評価、ということを考えた場合に、YESもNoも両方なければ評価しているとはいえないはずですよね。いつも会社提案に賛同ばかりしていたり、白紙委任ばかりでは、いい意味での緊張感がなくなり、株主総会はほぼ確実に乗り切れる、と慢心してしまうかもしれません。そういう状況は、会社自身にとっても、必ずしも望ましくないはずです。

国内機関投資家がきちんとその受託者責任を果たしていることを、その受益者に対して説明できるようにしていかなければならない、陰でこそこそ結託するような実務(がもしあるとすれば)などがなくなるように透明性が高めるような施策がとられるのであれば、歓迎したいですね。

ガバナンスの議論の以前に、保険や年金の加入者である普通のわれわれ個人の利益が「いい加減に」扱われないためにも重要と思います。今のように運用利回りが悪いと、生命保険の加入者である個人は相当悪影響を受けているのですが、なかなか目に見えないだけに、それに日本人はおとなしいですから、問題として浮上してきません。どんなにがんばっても利回りがあがらないのであれば、もちろんそれは甘受する必要がありますが、もし万一、保険会社がきちんと受託責任を果たさずにいることが利回りが低い原因の一つであったとすれば、それはやっぱり怒りたくなります。

議決権の行使もそうでしょうが、あまり企業業績が良くなければ、本来ならば売却してもおかしくない株式も、まあお付き合いで保有し続ける、というようなことが、万一あったならば、それは受託者責任違反ですから、その責任を厳しく問われていいはずです。

とはいっても、裁判所もみんな「やさしい」国ですから、普通に暮らしている人間がおこったといっても、相手にしてくれないような国です。甘えて、もたれあっているのかもしれません。そんなことをしているうちに、本当に魅力のない国になってしまったように思います。

このままだと東洋の小さな国となり、みんながそこそこに安住していけばいいや、というようなことができればまだいいかもしれません。しかし、油断していれば、やがて近隣のアジアの国々の買収の対象になって、その下で働くような国になっていくような気がします。

あまり高尚な議論ではなく、もっと切実な生活に直結しているところで、かなり個人は被害を被っていることは忘れてはいけないと思います。実は企業の側も、多くの人が、その影響から逃れられないのが真相なんだと思います。笑っているのは、アクティブに運用して、ごっそりもっていっている人たちばかり、しかも、割合と楽に。だって、真剣さの違いは、プロ野球と中学生くらいの差があるのかもしれないですから。タメ息がでてきてしまいましたので、このくらいにしておきいます。
金融監督当局には、制度整備を早くお願いしたいものです。

投稿: 辰のお年ご | 2009年5月14日 (木) 02時38分

何事も、都合よく解釈されて解釈基準が全体統一感なく、あいまいなのは問題だとずっと思っています。
「政府の方針」と言っても財務省・金融庁と経産省では全く解釈が違っていますよね。買収防衛だと法務省が入ったりしますね。政治リーダーシップがないから、バラバラな解釈で投資家が嫌気をさす。

よく言われる戦略不足というやつでしょうか。

司法側は、ほとんどポピュリストとしか感じられない。その場の雰囲気で判決出している(ほりえもん・村上とかブルドックとか)。
ライブドア関連の元地検特捜部出身著名弁護士先生も、判決を先にどうするかから逆算してロジックを組んでいると推測されてましたね。

本件も、実社名を出すとやばいですが、本件の議決権をまっとうに行使すれば、現在の改正産業再生法の適用を受けて、公的資金が注入される事業会社へのガバナンスチェックを「本気」で行うと、取締役は全員解任されてもおかしくない。

一方では税金が(一応)OKといい、一方では生保・年金がノー(元は同じ国民の資金)という、という可能性も否定できません。

ただし、議決権行使助言会社が必要以上にクローズアップされないかなあ(彼らも利益相反的な側面があって、格付け機関のような位置づけになる)。

投稿: katsu | 2009年5月14日 (木) 09時38分

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