企業不祥事・社内調査委員会と社外調査委員会(参考資料)
「日本郵船社のFSCPに重要な欠陥は認められるか?」のエントリー(コメント欄)に、ついにhisaemon氏が登場されましたね(^^;; おそらく私の知るところでは最も「その筋」(どの筋やねん)に近い方ですから、またご参考にされてはいかがと(笑)私もほぼhisaemon氏のご意見に同意するところであります。(もちろん、あくまでも予想にすぎませんよ。)
さて、4月下旬(GW前半)は、某会社の不正会計(従業員による資金流用)調査業務をしておりました。いわゆる社内調査委員会の支援業務というものであります。私と会計士の先生が社内調査委員会(専門家の社外役員を含む)による調査業務を補佐する、というものですが、かなりひさしぶりの業務でした。とくに華やかな業務ではなく、徒労に終わることも少なくない地味なお仕事です。(もちろん、ここでは内容に触れることはできませんが)
不祥事発生(もしくはその疑いがある場合)に組織される社外調査委員会と社内調査委員会の役割や業務の進め方など、以前はかなり曖昧なものだったように記憶しておりますが、ここ数年、企業のクライシスマネジメントの一貫として、早期の事実確定やマスコミ対策、再発防止策公表のために、ずいぶんと一般化し、また周知されてきたように思います。また社外調査委員会と社内調査委員会との役割分担のようなものも明確になってきました。
不祥事が発生(もしくは発覚)して、マスコミで大きくとりあげられるような事態にはならないにこしたことはありませんが、「備えあれば憂いなし」ということで、社内の役員さんや、スタッフの方々にも、リスクマネジメントの一貫として学習できそうな、比較的容易に入手可能な資料をいくつかご紹介いたします。私も、今回の調査支援業務に先だって、すべて拝読させていただき、たいへん役に立ちました。(といってもまだ業務は継続しておりますが)
まず社内調査委員会の体制作りや調査業務の進め方については、以前ご紹介いたしましたこちらの座談会記事は有用であります。また、実際に調査業務をやってみて、「なるほど、同じ悩みを抱えながら調査を進めておられるのか」と安ど感も抱きつつ、かなり実際の証拠収集(収集のタイミングなども含め)までマニアックに突っ込んだ解説がなされているNBL889号、890号の「社内調査はなぜ難しいか(上)(下)」(梅林弁護士)も秀逸です。(今回もっとも参考にさせていただきました)また、先日ご紹介した「過年度決算訂正の法務」(中央経済社)の第6章は、これまでの社内・社外調査委員会の調査概要なども図表としてまとめられており、こちらも参考になります。
つぎに、社外調査委員会でありますが、旬刊経理情報2009年2月10日号(1206号)の「企業不祥事発生時の『調査委員会』の設立・運営」(山崎弁護士)が参考判例も紹介されながら丁寧に委員会の役割や具体的活動を解説されています。また最近のNBL(903号、おそらく905号?)における國廣弁護士の「『第三者委員会』についての実務的検討(上)(下)」は、(まだ上しか拝見しておりませんが)NHK第三者委員会委員のご経験などから、現実的な視点でその「委員会運営のむずかしさ」を説いておられ、これもたいへん貴重な論稿であります。私も過去に一度だけ社外調査委員を経験しましたが、失敗例として教訓ばかりが残りましたので、この論稿を拝見して、その心構えから違っていたことを痛感いたしました。
こういったお仕事は、会計士さんといつもペアですが、とりわけ会計不正関連の調査には会計士さんとの連携は必須だと思います。Aという事実とBという事実が認められたので、Cが推論できる・・・という事実認定は比較的容易なのですが、Aという事実が認められたので、(通常はBという事実が発生するのだが)本来発生すべきBという事実が発生していないので、Cが推論できる・・・という事実認定は会計士さんの監査経験や会計専門家としての知識がないと困難であります。(このあたりが法律家と会計士のコラボが必要な場面です。)迅速で公正な社内調査というのも、結局のところ経営トップの方による積極的な支援がなければ実現しませんので、そもそも会社ぐるみの不正、というケースではどこまで奏功するかは未知数でありますが、日本ではまだまだ未開発の分野ではないかと感じております。
| 固定リンク
コメント
社外調査委員会や第三者委員会でずっと疑問がありました。それは組織の自浄機能の低下につながるのではないだろうかという点です。自分たちで調べ、問題点を捜し、乗り切り方を考えるしかその組織の生命は維持できないのではないかと思うのです。殴り合っても血を流してもです。そしてこれが企業の信用力、総合力ではないでしょうか。
民社党が政治資金問題などで第三者委員会を設けたのですが(郷原さんも委員です)、国のリーダーたらんとする政治集団まで、外部に頼るなら、国の舵取りも外部に聞かないと自分では決断できない集団だということです。いくら流行とはいえ濫用ではないだろうか、と思ってしまいます。
強制権限があっても事実の確定は容易ではありません。失礼ですが、外部委員といっても皆が捜査経験がある方とは限りません。特捜や国税は膨大な押収資料からブツ読みを進めますが、これも事務官らが力を発揮することが多かった事実からも、経験と嗅覚が必要な職人芸の作業です。
兼任の外部の人が限られた時間の中で、どれほど事実に迫ることができるのだろうか、という疑問がぬぐえませんでした。帳簿をさっと見て、キーマンにちょっと質問すれば不正が分かるなんてことはあり得ません。それで実際は会社側から提供される資料を基本資料とし、落とし所も決められているのだろうと想像させてしまいます。
早くも外部委員会の賞味期限は切れてきているように思います。安易に社外に頼る仕組みを選択するより、まず社内で真摯に向き合い、どうしても膿を排出できない場合に政治的に外部を活用する、方が日本の企業のためのような気がしてなりません。
これだけではないですが、近時導入若しくは導入されそうなさまざまな企業統治の仕組みが真に日本の企業の力を高めるものであるのかどうか、TOSHI先生のような、国のリーダー層を担っておられる方々が叡智と良心に基づいて考えていただきたいと思います。
投稿: TETU | 2009年5月10日 (日) 23時54分
tetuさん
辛口のご意見、どうもありがとうございます。tetuさんのような視点で第三者委員会などをご覧になっていらっしゃることをきちんと肝に銘じておきます。神戸製鋼さんのように、何度も調査委員会が提言をしておりながら、さらにデータ改ざんなどの不祥事が発生してしまう現実をみますと、たしかにtetuさんのご指摘のとおりかもしれません。
ただ、プロセスチェックによる内部調査を何度か経験しておりますが、社内ではどうしても、本当の不祥事要因を詰めきることができる前に、誰かの責任に押し付けてすませてしまう例などもあり、やはり外部委員の活用できる場所というのもあるのではないか・・・と考えております。
今後も、社内調査委員会、社外委員会の話題がときどき出てくると思いますが、tetuさんなりのスルドイご意見をお願いいたします。
投稿: toshi | 2009年5月13日 (水) 10時52分