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2009年6月30日 (火)

内部統制報告書の検討(その7-やはり投資家にはわかりにくい制度)

個人的な趣味と備忘録の意識で「内部統制報告書検討シリーズ」を続けていますが、気がつくと6月30日のココログ記事ランキング(デイリー)の100位以内に当ブログのエントリーが3つも含まれていました。(皆様、閲覧どうもありがとうございます・・・m(__)m・・・)

さて、本日(6月30日)は、3月決算会社の有価証券報告書提出も山場を過ぎましたので、「重要な欠陥が認められるために内部統制は有効とは認められない」とする報告書の提出会社は8社、意見不表明受領会社1社(合計9社)だったと思われます。リバーエレテックさん(JDQ)、ホッコクさん(JDQ)、ビジネス・ワンHDさん(福岡)、大水さん(大証・・・・・くれぐれも「大木」さんと御間違えないように・・・・)、21LADYさん(名証)、オメガプロジェクトさん(JDQ)、シャルレさん(大証)、デジタルアドベンチャーさん(大証)などなど。なお、オメガプロジェクトさんとシャルレさんの内部統制報告書はなかなか興味深いものがありました。また、プラコーさん(JDQ)については、監査人による意見不表明についての文書受領をリリースされております。なお、ここのところ、重要な欠陥ありとする内部統制報告書の数が多かったため、事業報告での記載や監査役監査報告書での記載がどのようになっているのか、という点については確認しておりません。また、改めて研究してみたいと思います。

なお、すでに監査法人から「意見を表明しない」とする文書を受領されていたゼンテックテクノロジーJAPANさんが、内部統制監査報告書に関する監査意見不表明についての補足」と題するリリースを追加開示しておられます。このリリース後、各方面からいろいろな問い合わせがあり、とくに株主の方々より、「財務諸表に関しても意見が表明されない、ということか?」「意見が表明されないということは上場廃止になるということか?」との質問が相次いだことが記載されております。たしかに内部統制報告制度なるものは、開示制度のひとつとはいえ、一般の投資家の皆様にはわかりにくい制度ですよね。重要な欠陥が残っているので内部統制は有効とはいえない、と開示する場合でも、また監査人から意見をもらえなかった、と開示する場合でも、その際にきちんと株主の方に誤解を生じさせないような表現が必要ですね。

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2009年6月29日 (月)

内部統制報告書の検討(その6-西松建設社のケース)

本日(6月29日)も、朝から18社(午後7時現在:東邦グローバルアソシエイツ、日本アンテナ、光ハイツ・ヴェラス、幻冬舎、戸田工業、加藤製作所、インスパイアー、ジェイオー・グループHD、御園座、ウィルソン・ラーニング・ワールドワイド、ブックオフコーポレーション、エーアンドエー・マテリアル、平賀、ユニバーサルソリューションシステム、トラベラー、オープンインターフェース、バーテックスリンク等)ほどの「重要な欠陥あり」とする内部統制報告書が提出されております。また、フタバ産業、ゴンゾ、アルゼの3社において、内部統制監査における「意見不表明」がリリースされておりますので、合計21社について有効性に問題がある、とされる内部統制報告内容となっております。今年1月18日のエントリー(西松建設の内部統制に「重要な欠陥」は認められるか?)でも触れておりました西松建設社(東証)より内部統制報告書が提出されました。結果は、やはり「重要な欠陥があるため、内部統制は有効とは認められない」というものであります。

全社的統制の不備を重要な欠陥であると認識し、評価日までになんとか是正しようと努めてきたが間に合わなかった、評価日以降も是正に向けて尽力しています・・・という内容のものであります。経営トップの裏金作り・・・という企業コンプライアンス上看過しえない問題が「財務報告に係る内部統制」の有効性に影響を与える、とする判断について、今後の参考になるものと思われます。

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架空増資に「偽計取引罪」が適用される理由とは?

ここのところ内部統制報告書研究と高橋氏の新刊「兜町コンフィデンシャル」の話題ばかりで恐縮ですが、きょうも関連エントリーであります。いつも巡回しておりますブログではあまり触れられていないのが先週6月24日に逮捕された投資コンサルタント社長さんの事件であります。旧ペイントハウス社に架空増資をさせた疑いで、某社長さんが逮捕された、ということでありますが、上記「兜町コンフィデンシャル」でも、この事件は後半の山場で紹介されるいるわけでして、著者でいらっしゃる高橋氏は、資金の還流経路を詳細に説明したうえで「証券取引等委員会は、これを偽計取引とにらんだ。」とまで言い切っておられます。あまりに絶妙のタイミングで某社長さんが(しかも偽計取引容疑で)逮捕されたわけで、あらためて本書における調査の深さに感銘いたします。(ちなみに、本件は例の英領バージン諸島トルトラ私書箱957番とも関連いたします。また先日金融庁から業務停止命令を受けた著名な会計士の方々も、この旧ペイントハウスの件に関与されていましたが、今回の投資コンサルタント社長さんの逮捕容疑は、もう少し前の第三者割当増資に関するものであります)

さて、6月25日の日経新聞の解説では「不適切増資について偽計取引罪を初適用」とされておりました。たしかに、過去に架空増資に適用されていたのは、電磁的公正証書原本不実記載罪であり、架空増資に偽計取引罪を適用したことはこれまでなかったようでありまして、証券取引等監視委員会の幹部の方も「不適切な株式取引や増資に対し、偽計取引での摘発は今後大きな武器になる」と答えておられるようです。新聞報道からは、本件でも公正証書不実記載罪での立件も可能だが、そこから一歩進めて、証券取引等監視委員会が積極的に偽計取引罪の適用に動いたように理解されます。しかし果たして本当にそうなのでしょうか?

過去に架空増資に関係して電磁的公正証書原本等不実記載罪が適用されたのは駿河屋事件がありますが、そこでは架空増資を行う企業の代表者の方々の積極的な関与があったわけで、(増資を行うことで、なんとしてでも上場廃止を食い止めたいといった)架空増資を行うための動機が明らかに存在するわけであります。だからこそ、架空増資を行った社長さんと、その協力者がともに逮捕されるわけですよね。しかし、このたびのペイントハウス事件の場合、架空増資に絡んで逮捕されたのは架空増資を行った会社の役員ではなく、協力者的立場にあった投資コンサルタント社長だけのようであります。(私は日経の記事しか読んでおりませんので、もし間違っておりましたら訂正しますが)そうしますと、そもそも本件では旧ペイントハウスの代表者に果たして電磁的公正証書原本等不実記載罪が成立するものであったのかどうか、すこし疑問が残るのではないでしょうか。つまり、本当はこれまでの慣例どおり公正証書不実記載罪(の共犯)として立件したかったのだけれども、架空増資を行った会社の経営者に公正証書不実記載罪で立件できない以上は、別の形で立件しなければならないのであって、その結果として「偽計取引罪」を適用することになった、ということは考えられないでしょうか。

偽計取引とは、一般には「自分または自社に有利な状況を作出するため、虚偽の情報や事実に基づかない情報で他人を欺き、株式相場の変動をもくろむ手段」と説明されます。要は架空増資にこれをあてはめますと、増資をする側の対象者がどのような認識をもっていても、(つまり真に資金調達目的を有していても)そういった「ハコ企業」を自らの私利私欲のために活用しようとして近づいてくる第三者の目的や意図からして、「虚偽の情報」を公表した、と評価できる場合には犯罪が成立する、ということなんでしょうかね。(これはずいぶんと間接事実を積み上げる必要があるのではないでしょうか)上記「兜町コンフィデンシャル」にも、このあたりの取引実態に関する説明がなされておりますが、この投資会社社長さんが主張しているように「取引実態があった」とされるのか、それとも検察庁は書証等によって「取引実態はなかった」と立件されるのか、今後おそらく裁判になると思われますので注目していきたいと思っております。

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2009年6月26日 (金)

内部統制報告書の検討(その5-補完統制を評価した事例)

(追記;すごいアクセス数・・・。ブログの名前を「ググっては投げ」に変えたほうがいいかもしれません・・・わかる人だけにウケていただければ結構です。本当は、各社の事業報告や、監査役監査報告において、この評価結果をどのように受け止めているか、という点にもっとも興味があるのですが、とりあえず特色のある報告書を拾い出すだけで精一杯になってしまいました。後日の検討材料といたします。)

総会ピーク日ですが、私は昨日でほぼ関連の業務は終了しましたので、本日(6月26日)はひさしぶりに事務所で仕事をしております。まだ午後2時半過ぎですが、すでに本日は「内部統制は有効ではない」とする報告書が10件以上出ておりますね。まだまだ増えそうですね。ちなみに、(内部統制は有効ではない、とする報告書についての)本日提出分は以下のとおりです。←午後6時20分現在21社(意見不表明を合わせると23社)ですね。

カラカミ観光さん(JDQ)、ビーアールHDさん(東証)、バルクHDさん(名証)、横浜丸魚さん(JDQ)、コタさん(大証)、ソリトンシステムズさん(JDQ)、岩崎通信機さん(東証)、サハ・ダイヤモンドさん(JDQ)、アールビバンさん(JDQ)、葵プロモーションさん(東証)、フォスター電機さん(東証)、日本ケミコンさん(東証)、滝沢ハムさん(JDQ)、ヤマシナさん(大証)、ミツウロコさん(東証)、KFE JAPANさん(名証)、アークさん(JDQ)、市光工業さん(東証)、東京美装興業さん(東証)などなど。そしてなんと!  あのダボス会議で持続的成長を遂げる世界の100社に選出されたダイキン工業さん(東証、大証)が「重要な欠陥があり、内部統制は有効とは認められない」と! ・・・・(感動モノ・・・いろいろな意味で今後話題になるでしょうね・・・)←例の過年度決算修正の関係でしょうね。またセントラル硝子さん(東証・大証)もかなり詳細な開示をもって「有効ではないと評価した」と報告されています。

また、ゼンテック・テクノロジー・ジャパンさん(大証ヘラ)、ユニオンHDさん(東証2部)について、監査法人による意見不表明文書受領に関するリリースが出されております。

なお、財務報告に係る内部統制は評価結果としては有効とされているものの、おもしろいのが三谷セキサンさんとニッカトーさん(東証)であります。とくにニッカトーさんの報告書によると、内部統制については一部評価できなかった部分があるが、補完統制が効いているために、全体としてみれば重要な欠陥には該当しない、とのことであります。これはよく昨年あたりのセミナーで、「こうすれば重要な欠陥が残らないのでは?」とご提案されていたパターンのひとつでして、「重要な欠陥」は評価の問題なので監査人と十分協議すれば補完統制が認められる場合もあるのではないか、と考えられていたところであります。自社に補完統制が認められるかどうかを真剣に検討すること自体が、(お金をかけることなく)財務報告体制の効率化や不正発見のために有効であると思われます。本件がどのような経緯で、こういった記述となったのかはわかりませんが、検討すべき報告書のひとつとして挙げておきたいと思います。(ほかにもルネサスイーストンさん、スカパーJSATHDさんの内部統制報告書も特色がありますよ)

その他、三菱UFJフィナンシャルさん(東証ほか)は、特記事項(米国SOX準拠+情報開示委員会による評価)に特色があるようです。

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株主総会における退場命令に関する一考察

どこの会社とは申しませんが、株主総会の議長(定款の定めにより社長)が株主総会におきまして、株主に対して退場命令を出す場面に初めて立会いましたので、今後のためにも若干の考察を記しておくことにします。ちなみに2008年版株主総会白書(商事法務1850号89頁以下)によりますと、「退場命令等の有無」について回答のあった1962社のうち、昨年の総会で(議長が)退場命令を発したのはわずか6件だそうであります。ちなみにマイクを取り上げたとかマイクのスイッチを切った、という事実上株主の発言を制止させたものは9件あったそうですが、会社法315条2項に基づいて退場命令を発したのは6件のみ、ということのようで、意外と少ないんですね。(それだけ総会のイメージも変わってきた・・・ということなんでしょうか?)

このたびの退場命令は、総会屋関係というものではなく、いわゆる「苦情申出」タイプの個人株主さんに対するものでして、昨年もかなりハードでしたが、特に発言を制止することはありませんでした。会社と株主さんとの個人的な紛争を総会に持ち出して来られて、ほかの株主さんもかなり困惑されていました。今年は昨年にも増して、かなりハードに立ち回っておられました。議長も最初は冷静に「そのことはすでに会社としても対応済みですし、この総会の報告事項や審議事項とは関係のない話ですので、おやめください」と対応しておりましたが、3分ほども大きな声を張り上げて当該株主さんがどなり続けるため、他の株主さん方も「どうも総会の報告事項とは関係なさそうだ」といったことが理解できたようでした。

その株主さんが、制止を無視して、次々と会社の対応の悪さを並べ立てるものですから、遂に警告の末、議長は「即刻退場」と明確に発しました。私が驚いたのは、議長が退場を命じたその時、会場を埋め尽くした個人株主の方々から一斉に拍手が起こり、数名の株主の方が「はよ出ていけ!」とヤジを飛ばしたことでした。(後で「なんでもっと議長は早く退場命令を出さなかったのか」と苦情を述べる株主の方もおられました)退場命令の直後、その株主のところへ会場整理係がやってきて、他の個人株主の拍手やヤジの中、当該株主は退場されました。(おそらく)例年社長(議長)の穏やかな説明風景しかみたことのなかった一般株主の方々は、株主を睨みつけ、毅然とした態度で退場を命じた社長の姿にビックリして、逆にリーダーとしての威厳がまるでIRであるかのように印象付けられたことは間違いなかったようです。(それが良いのか悪いのかは別として)

さて、上記「総会白書2008」におきましても、退場命令は6件しかなかった、とのことですが、その6件がいずれも「警告を発したうえで退場命令を出した」とのことです。会社法315条2項は、総会の秩序を乱した者、または議長の命令に反した者について、議長が退場させることができる、としています。この文面からしますと、特に警告を発しなくても、議長の権限で退場命令を出すことも法律上は可能だと思われます。ただ、議長の命令が正当な目的で出されたとか、株主の発言が総会運営に支障の出る言動であったということは、やはり明らかにしておく必要があるでしょうし、また退場命令を発しますと、その株主の議決権行使を制限することにもなりますので、「円滑な議事進行上他に手段がなく、やむをえない場合」に限定して発することが必要であります。そうしますと、差し迫った有形力行使の危険があるなどの場合を除き、退場命令については、「これ以上、同様の発言を繰り返されますと、退場命令を出しますよ」と一度警告を発しておくほうがいいのではないかと思います。また、その方が退場命令を出された場合の会場整理係の準備なども整いやすいのではないでしょうか。

つぎに、今回のケースでは当該株主さんは、事業報告に対する質問の時間に登場したわけでありまして、議長の総会運営上の指揮権が発揮できる場面でありました。しかしながら、こういった苦情申出型の個人株主さんは、必ずしも「株主総会」で発言するとは限らず、株主総会の前後に開催される「株主懇談会」もしくは「部門報告会」でも登場することが考えられます。(ちなみに、先ほどの2008年総会白書によると、株主総会とともに「株主懇談会」や「部門報告会」を開催する上場会社は約3割存在するそうです)このような懇談会や報告会は、法的には株主総会とは違いますので、(円滑な議事進行のために認められる)議長の議事運営における指揮権というものは行使できないはずであります。(株主総会と一体となった会議体なので議事運営上の権利を行使しうる、という見解もあるかもしれませんが、ちょっと乱暴なような気がします。まちがっておりましたらご指摘ください)しかしながら、会議場の雰囲気は総会と変わりありませんので、こういった場面で当該株主さんが登場された場合にはどうしたらよいのでしょうか?これは私の思いつきであり、私見にすぎませんが、株主総会と同様、警告を発したうえで退場を命じ、会場整理係によって排除してもいいのではないでしょうか。刑法130条の不退去罪は、そもそも他人の管理する場所に入ることについて正当な権限を有する者について成立するわけで、その管理者より正当な目的で退去を要求されたにもかかわらず退去しない、ということですから、正当な退場命令が発せられれば株主さんにも成り立つ犯罪ではないでしょうか。(東京高裁昭和45年10月2日判決参照)また、株主懇談会も、会社の重要な業務ですから、退場命令に反して退去しないことは威力業務妨害罪にも該当する可能性があると思われます。ただし、会社法315条2項の要件とは別に退場命令が正当な権限の基に発せられたことが条件ですから、やはり当該株主さんの言動を慎重に見極めたうえで、株主懇談会等の業務の平穏が害されるおそれがあると判断した場合に(業務遂行上の管理者の権限として)限定されるものと思われます。なお、こういった退場命令というものは、あまりゴチャゴチャと理由を言わないほうがいいと思います。理由を説明すると、またその根拠あたりでゴチャゴチャと論争になるので、短く明確に「退場ください」でいいと思います。

こういった退場命令の要件を満たしているかどうか、という点など、総会の現場で支援するのはやはり弁護士がいいと思います。総会リハーサルであれば、法律事務の事件性の要件を満たさないため、証券代行さんに支援いただくのも問題ないと思いますが、総会当日に紛糾した場面では、おそらく「総会決議の取消事由(決議方法の不公正)」とか「議長の違法な議事運営権行使による株主への損害賠償」といった「事件性」を満たす可能性があり、そうなりますと事件性を有する法律事務として、これを弁護士以外の者が業務として担当しますと弁護士法第72条違反(刑事犯罪が成立)の可能性があります。ということで、総会当日に演題事務局のところで待機して、有事に議長の支援を行う外部委託者ということでは、やはり企業法務に精通された弁護士に任せるべきではないでしょうかね。(このあたりは、あまりこれまで議論されてこなかったところだと思いますし、単なる私見でありますので、正確なところは顧問弁護士の方と相談されてみてはいかがでしょうか)

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2009年6月25日 (木)

内部統制報告書の検討(その4-「重要な欠陥」が治癒された事例)

本日(6月25日)は、東証一部のセイコーエプソンさん、JASDAQの日本興業さん、広島ガスさんの内部統制報告書において「重要な欠陥が評価日に認められるため、財務報告に係る内部統制は有効とは認められない」とされております。セイコーエプソンさんのケースでは、海外連結子会社において、今年度も含め、過去数年間にわたって不適切な会計処理がなされていたことが大きな要因のようであります。(事業報告書で「財務報告が有効でない可能性がある」と表記されており、また監査役会監査報告におきましても、「内部統制が有効でない可能性があると取締役が評価しているが、監査役会としては、その後取締役が一生懸命取り組んでいるために、その職務の執行について指摘すべき事項はない」「会計監査人である新日本有限責任監査法人から、内部統制が有効ではない可能性を示している事項があることを踏まえたうえで、会計監査を行った旨の報告を受けている」と記載されております。5月上旬の時点で、会計監査人と監査役間において、財務報告内部統制についての評価につき協議されていたものと思われます。)

また、日本興業さんのケースでは、評価日時点においては「重要な欠陥」が残るものの、付記事項において、提出日現在では内部統制は有効である旨の記載がなされております。重要な欠陥と評価される不備の内容については、売上高計上方法の運用面に問題があったことが示されております。重要な修正を行うことになった、とのこと。ところで、日本興業さんのケースでは、5月18日時点の監査役会監査報告書におきまして「なお、財務報告に係る内部統制については、本監査報告書の作成時点において重要な欠陥は認識していない旨の報告を取締役会及び監査法人トーマツより受けております」と記載されていることから、社内で内部統制の有効性に問題が生じたのは、この5月18日以降、ということになりそうです。わずか1カ月余りの間に、重要な欠陥にあたるかどうかの評価、重要な欠陥と認められる「不備」を是正するための体制の整備、そしてその運用の評価、といった全ての過程が十分に検証されるのか否か、若干疑問が残るところであります。

もう一社気になりましたのが、フォーバルさんの内部統制報告書であります。(会計不正事件が生じていたために、ここの内部統制報告書はひそかに注目しておりました)結果からしますと「有効」と評価されておりますが、内容はとても興味深い。報告書によりますと、複数の社員による不正行為が行われていたことが判明し、全社的統制におけるコンプライアンスに関する認識の欠如および業務プロセスにおける社内牽制体制の不備、特に受注の承認及び確認体制が十分に機能していなかったなどの重要な欠陥が識別された、とのこと。そして、識別された重要な欠陥に対し、新たにコンプライアンスに関する認識を徹底するための再教育の実施及び社内牽制体制の強化、特に受注の承認及び確認体制の強化などの是正措置を行い、これらの期末日における整備状況、運用状況を評価した結果、重要な欠陥は期末日までに治癒されていると判断した、と記載されております。また監査役会報告書では、内部統制報告書における評価見込みについては一切触れておらず、ただし「期中に従業員による不法行為が発覚しましたが、適切な調査を行い、取締役による再発防止策の策定とその徹底を進めていることを確認しております」とだけ記載されております。さて、期中に会計不正事件が発覚した企業において、このフォーバルさんのような記載が求められるとするならば、(会計不正事件を発生させた企業について)そもそも財務報告に係る内部統制に重要な欠陥が認められたけれども治癒されたのか、それとも不正の発生原因たる体制上の「不備」はそもそも重要な欠陥と認められるほどではなかったのか、そのあたりが取締役の職務執行の適法性を判断すべき監査役の立場からみると関心を持つところであります。

PS 昨日、しっかり調査したと思っていましたが、広島ガスさんの内部統制報告書をチェックしておりませんでした(26日の日経朝刊をみて知りましたので、追加しております)

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2009年6月24日 (水)

内部統制報告書の検討(その3-重要な欠陥ありとする適時開示事例)

総会集中日が近づくにつれ、特色のある内部統制報告書も出てくるようになりました。本日(6月24日)は、JASDAQの細谷火工さん、遠州トラックさんの内部統制報告書において、「評価日において重要な欠陥があり、当社の内部統制は有効とは認められない」との評価結果が出ております。とくに遠州トラックさんのケースでは、「統制環境に問題があった」とするもので、今後の同種事例の参考になるものと思われます。

また、東証1部の岩崎通信機さんが、「財務報告に係る内部統制の一部に不備があり、当社としては、重要な欠陥があるものとして報告書に記載することを(取締役会で)決議しました」とするリリース(適時開示情報)をされております。いったん内部統制報告書を提出した翌日に内部統制を有効ではないとした理由を開示した例(BB太田昭和さん)はありましたが、財務報告に係る内部統制が有効ではない、とする評価結果を適時開示としてリリースする上場企業は初めてではないでしょうか。詳細については、また夜にでも検討してみたいと思います。

当ブログのコメント欄で話題になっておりましたダイオーズさんの「内部統制監査報告書」ですが、やはり予想どおり訂正報告書が出ましたね。付記事項の追記も出ております。なお、これは内部統制が有効ではない、とする事例ではございませんが、名証の三谷産業さんの内部統制報告書は個人的には好みですね。おそらくご異論もあろうかとは思いますが、こういった報告書がもっと出てきてもいいのではないでしょうかね。(お時間がございましたら、一度閲覧してみてください。とりいそぎ、備忘録程度で失礼いたします)

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2009年6月23日 (火)

内部統制報告書の検討(その2-監査役会報告書での取扱)

本日(6月23日)は、フリードさんが「重要な欠陥あり」として内部統制は評価日現在では有効とは認められない、との報告書を提出しているようです。(やむをえない事情があったケースのひとつとして参考になるかもしれません)

ところで、BB太田昭和さんの場合は、監査役会報告書で「重要な欠陥」についての開示がなされ、これがモデルケースになるのでしょうか?と申し上げましたが、紀州製紙さん、フリードさんでは、事業報告のなかでも、また監査役会報告書のなかでも触れておられないようです。(つまり開示されていない、ということ)また、ダイオーズさんの場合には、「なお、財務報告に係る内部統制の評価および監査は未了です」と書かれております。したがいまして、監査役会報告書における「重要な欠陥」の取扱いにつきましては、もうすこし提出書類の様子をみてから意見を述べたいと思います。

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英領バージン諸島トルトラP.O.box957

内部統制関連のエントリーには、ある監査法人の会計士さんや、とも先生、そして公取委関連のエントリーにはDMORIさんやchikaraさんなど、ご紹介したいコメントがいろいろあるにもかかわらず、お返事すらできずにたいへん申し訳ございませんm(__)m 管理人の力不足の点につきましては、ぜひぜひ有益なコメントをご参照いただきたく存じます。(とも先生のブログでは、かなり力のこもった内部統制報告書分析がなされておりますよ)また、トラックバックをいただいている公認会計士の武田先生のブログによりますと、本日新たに紀州製紙さんとダイオーズさんの内部統制報告書において、「重要な欠陥あり」とする内容が記されている、とのことであります。(さすが武田先生、よく調べているなぁ)また、大木さんに続いて、石垣食品さんも「意見不表明」とされたことを開示しています。さらに、BB太田昭和さんは、重要な欠陥があるとする内部統制報告書を提出したこと、およびその理由等を適時開示としてリリースされています。

決してブログを書く時間がない、というわけではございませんが、夜に仕事が終わりますと、ついつい例の「兜町コンフィデンシャル」を読みふけっております。私の手元にございます「魑魅魍魎マップ」(※1)を参照しながら、あちこちに線を引きながら読んでおりますので、なかなか先に進まないのであります。たとえば、何カ月か前に、SESC(証券取引等監視委員会)の佐々木氏の講演が会計士さん方のブログで話題になっておりました。そこで登場した「私書箱957に登記されているBVI法人は8割方怪しい」というお話、この本を読みますと、なぜ怪しいのか?という理由が概ね判明いたしますね。(もう読了された方はおわかりかと思いますが)また不公正なファイナンス手法に登場してくる怪しい法人の登記所在地は私書箱957だけでなく、「3○52」という、他のナンバーもあるようです。要は香港の会計事務所経由でいとも簡単にBVI法人が設立でき、さらに銀行口座開設にあたって、審査がたいへん甘い金融機関がある(つまり、その金融機関に顔のきく会計事務所を活用すれば、同じような私書箱になる・・・)ということなんでしょうね。しかし、ご自身で、香港の会計事務所に赴き、本人確認審査の甘い金融機関を通じて(いわくつきの私書箱の)法人を開設した高橋氏の執念は(やっぱり)すごい・・・(^^;;

※1・・・・・上記「兜町コンフィデンシャル」に魑魅魍魎マップが添付されているのではなく、これはあくまでも私が以前入手したものであります。最近はあちこちでこういったマップの存在が語られております。

この本には、例の海外失踪してしまった(六本木ヒルズに事務所を構える)弁護士も登場いたしますし、いたるところで「不振企業の経営者」と「裏で活躍する紳士たち」との仲介者として弁護士が登場するわけでありますが(・・・すごいですなぁ・・・・・)。  5年くらい経って、改訂版「魑魅魍魎マップ」を記者さんからもらったりして「山口利昭法律事務所」とか書かれていたらシャレにならないですよね(^^;; 高橋氏の新刊書に名前が登場しないようにこれからも気を引き締めて精進したいと思います。m(__)m・・・・

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2009年6月22日 (月)

内部統制報告書「重要な欠陥」と監査役監査報告書での開示

6月18日に会計士協会さんの研修で、浜田康先生が「会計不正の議論」と題するご講演をされたそうであります。(土曜日に、ある会計士の方から資料を見せていただきました)このブログでもとりあげました某上場企業における会計不正事件に係る裁判(判決書)と、社外調査委員会報告書における「事実認定」と「不正認定に至る判断過程」を比較して、「粉飾」にはふたつの意味があるのではないか?との疑問を呈しておられます。まさに法律家と会計専門家との間における問題の捉え方の差異に着目しておられ、共感するところも多く、示唆に富む講演内容のようであります。また企業会計7月号(中央経済社)では、「日本の会計法規の体系とIFRS」なる座談会が開催され、ここでも主に会計専門家の方々より、会社法とIFRSとの関係について議論がなされておりますが、今後こういった論点を、法律家と会計専門家の間で意見交換をする機会が増えればいいのになぁ・・・と痛感する次第です。(これはまた、別の機会に是非、私見を述べさせていただきたいところであります)

さて、金曜日のエントリーには、辰のお年ごさん、機野さん、迷える会計士さんなど、常連の皆様方よりコメントいただき、ありがとうございました。金融庁自身が「ベターレギュレーションの一環」として、内部統制報告制度を「プリンシプルベースによる規制のひとつ」と捉えている以上、この制度における各企業の取り組みは、監査法人との協働によって、一般に公正妥当と認められる経営者評価の基準をどのように自社に組み込んだのか、という点を中心にとても関心を抱くところであります。今週は内部統制報告書が大量にリリースされるでしょうから、フォローするのも限界がありますが、気がついた点はまたエントリーの中で触れていきたいと思っております。ところで、日経新聞(土曜日朝刊)でも記事になっておりましたBB太田昭和さんの「内部統制に重要な欠陥」表明第一号について、感想めいたものを二点ほど述べさせていただきます。

ひとつめは、BB太田昭和さんの株主総会招集通知に添付された事業報告「対処すべき課題」において、「決算財務報告プロセスでの繰延税金資産の計算において、重要な欠陥があり、内部統制が有効に機能しておりませんでした。」と表示されていることであります。つまり、一般の株主の方々には、(WEB開示がなされていれば一般の投資家の方々にも)すでに6月2日の時点において「BB太田昭和社の内部統制は有効ではないようだ」ということが認識できたようであります。また、5月20日付けの監査役会作成に係る「監査報告書」においても、「事業報告等の監査結果」のなかで、「事業報告に記載のとおり、財務報告に係る内部統制について重要な欠陥があり、有効に機能していない部分がありましたが、取締役はその改善に取り組んでおり、また当期の計算書類及びその附属明細書ならびに連結計算書類の適正性に影響は生じておらず、取締役の善管注意義務に違反する重大な事実は認められません」と報告されておりまして、有価証券報告書の提出に先立って、株主総会報告事項のひとつとして、「財務報告に係る内部統制評価」および「財務報告内部統制に係る監査役監査の結果」を株主に説明されています。監査役にとって、この財務報告内部統制に関する監査結果の表明をいつ行うか?という点については少し議論になっていたと思いますが、このBB太田昭和さんのケースは、今後のモデルケースになるのかもしれません。

そしてもうひとつは、(金曜日のエントリーでも少し触れましたが)内部統制監査人による意見不表明だけが適時開示の対象となり、企業自身が「有効に機能していない」と報告する場合には適時開示の対象にならないことは、実務上問題がないか?という点であります。内部統制の有効性を評価する日(期末日)に「重要な欠陥」が残っていたことは同じであっても、監査人による指摘に忠実に従って「内部統制は有効とはいえない」と報告した企業は(BB太田昭和さんのように、内部統制監査においては適正意見が出ますので)適時開示をする必要がなく、監査人と意見を異にして「内部統制は有効」と報告した企業については適時開示の必要がある、ということになりますが、投資家からみて、これは果たして適切な開示といえるのでしょうか?むしろ内部統制が有効とはいえないと評価した場合も適時開示の対象とするか、もしくはいずれの場合も適時開示の対象としないとするか、整合性を確保したほうが投資家の視点からは妥当ではないかと思いますが、いかがなものでしょうか。(まあ諸々の事情があって、現時点での開示ルールに収まっていることは認識しているのでありますが・・・)

PS 世の中「1Q84」ブームでありますが、先日ご紹介した「兜町コンフィデンシャル」、ホンマにおもろいですよ。。。ひょっとすると、私がこのようなブログの管理人で、いろんなブログのネタが、この高橋篤史氏の著書によってパズルの穴が埋められていくような感覚を覚えるからかもしれませんが。(初版なんでやむをえませんが、中盤以降、誤字脱字や乱丁が散見されますので、若干気になりますね。なお、プロフィールを拝見しておりますと、現在はフリージャーナリスト、と表記されておりますので、前エントリーの記載も「高橋記者」→「高橋氏」と改めました。)

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2009年6月19日 (金)

遂にでましたね「内部統制に重要な欠陥」および「意見不表明」

揶揄するつもりは毛頭ございませんが、BB太田昭和さん→「当社の内部統制には重要な欠陥があり、有効とは評価できなかった」  大木さん→「内部統制監査において意見を表明できないと言われた」

本日現在151社の内部統制報告書が出ましたが、太田昭和さんが、重要な欠陥第1号、大木さんが内部統制監査意見不表明第1号ということになりそうですね。とりあえず、冷静に内部統制報告書と株価への影響を研究してみたいと思います。しかし、適時開示ルールによって、監査法人さんの意見不表明に関する文書受領の場合には開示の対象となり、自社で「重要な欠陥あり」と報告する場合には「探さないとわからない」というのも、やっぱりちょっと違和感があるかもしれません。。。(もちろん、BB太田昭和さんのWEBにも、公告されているわけではありません)とりいそぎ、速報版としてアップしておきます。

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兜町コンフィデンシャル(株式市場の裏側で何が起きているのか)

Kabutochokon 当ブログで最初に「粉飾の論理」をご紹介しましたのは、もう2年半以上前のことでありました(カネボウ事件と内部統制構築論)あれから、何度も上記書籍を引用したり、改めて読み直したりしておりますが、著者でいらっしゃる高橋篤史氏の待望の新刊!ということで、やっと読む時間がとれました。ちなみに「粉飾の論理」を出版したことで、高橋記者は出版社とともに二件の民事事件の被告となり(損害賠償請求額は合計6億円とのこと)、そのうち1件につきましては、不本意ながら裁判上の和解による決着をされた、とのことであります。(本書「あとがき」より)

「兜町コンフィデンシャル(株式市場の裏側で何が起きているのか?)」(高橋篤史著 東洋経済新報社)

まだ半分程度しか読めておりませんが、やはり期待どおり、実におもしろい。 (取材および調査の精緻さには感服いたします)高橋氏の作品の面白さは、株式市場の裏側を紹介するための事実調査の正確性、精密性にもありますが、なんといっても裏社会が点と線でつながっている様子をいくつかの事件紹介を通して表現している点であります。目次をご覧になるとおわかりのとおり、10個ほどのテーマ(実は一つのテーマのなかにも、複数の事件が紹介されておりますので、もっと多くの事件数ですが)の項目だけをツラーっと眺めますと、それぞれが別個のストーリーではないか、との印象を持つわけであります。しかしながら、読み進めていきますと、それぞれのテーマに登場する人物が、またどっかでつながってくるのでありまして、この「裏社会のつながり」というものも、この新刊書における重要なテーマのひとつではないかと思います。

しかし前半のクレイフィッシュ社(および親会社たる光通信社)の株券紛失事件の顛末は実に興味深いものであります。親子上場の「おそろしさ」を背筋が凍るほどに堪能することができます。また、こういった華々しくデビューする新興企業にトラブルが発生するなかで、監査役会(弁護士や大学の先生など5名も監査役さんがいらっしゃったのですね)が若き社長や取締役会、そして顧問弁護士との対立を深めていき、社長解任動議が僅差で否決されるや、その場で5名とも辞表を提出する場面などは、いろいろと監査役制度の実効性が言われるなかで、やはり監査役としての有事の対応が水面下では果たされていることを知らされました。(少しうれしくなりました)

春日電機社の先日のリリースでも、経営権交代に絡むグレーな世界が表現されておりましたし、金融庁スタディグループにおける報告書のなかにおきましても、悪質な第三者割当増資への対応が喫緊の課題であることが強調されておりました。この本を読み、「経営者のほんの少しのスキ」から生じるリスクの大きさを考えますと、裏社会とのつながり、というものは、ある特殊な企業だけのリスクではなく、上場企業であればどこの会社でも、「隣り合わせのリスク」であることが認識できるはずであります。高橋氏の言葉を借りれば、「以前、株式市場で暗躍していた人たちは、相場師であり投機家であった。それはまだ市場の潤滑油として許容されていた人たちだった。しかし現在暗躍している人たちは、市場参加者を食いちぎる人たちであり、企業そのものを侵蝕する人たち」であります。企業として「リスクと真正面から向き合う」姿勢は従来にもまして不可欠であることが認識されるところであります。また、6月11日のエントリーでは、金商法157条と課徴金制度との親和性について検討いたしましたが、こういった事例に触れますと、包括条項を適切に運用する必要性というものも、ちょっと前向きに検討したくなりました。(後半部分は、また明日でも読もうかと思っております)

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2009年6月18日 (木)

日本監査研究学会(西日本支部)「監査現場の課題と再生」

経済産業省・企業統治研究会の「企業統治研究会報告書」が本日リリースされております。(各委員からの意見なども、かなり詳細に資料として添付されております)研究会資料として公表されておりました「報告書案」と若干内容が変わっておりますね。17日の日経朝刊では「親会社やメインバンクから派遣された役員は独立役員としては認めない」と報道されておりますが、私が報告書を読ませていただいた限りでは、とりあえず一般投資家、株主に十分に説明を尽くせば「社外役員」としての親会社、メインバンク出身者でもオッケー・・・と理解したのですが、どうなんでしょうか?(そのために、社外役員の独立性と実効性とがトレードオフの関係にあることの説明がなされているように思うのですが)むしろ問題は当該企業から報酬を得ているコンサルタントなどが明確に独立性要件にひっかかる(ガバナンス上問題を惹起する蓋然性が高い)としている点をどう評価するか、ということではないでしょうか。たとえば顧問の法律事務所出身の方が社外役員として就任する、といった状況ですね。このあたりは、(昭和59年の日弁連決議、昭和61年の最高裁判決にもかかわらず)証券取引所の自主ルールの改訂によって今後規制が盛り込まれる可能性がありそうですね。

さて、本題でありますが、最近仕事などでご一緒させていただく会計士の方や会計学者の方から「山口先生、監査学会で報告されるんですって?どっからそんな声がかかるんですか?」などと聞かれるたびにプレッシャーを強く感じるようになりました。(もっと気軽な会合かと思っていました・・・)

7月4日の土曜日に日本監査研究学会の西日本部会が開催される、ということで、私も基調報告とシンポジウムに参加する予定でありまして、本日その打ち合わせが本町の監査法人事務所で行われました。ちなみに、私は「会計不正に関する判決と課題」ということで特別報告者だそうであります。(本来は学会の会員でないと報告できないのでありますが、私は会員ではございませんので。しかしいつお目にかかっても佐伯先生は元気なオッサンやなぁ・・・(^^; )基調報告では、多少会計士の方々には辛口なことを申し上げることになるかもしれませんが、これからの司法制度と会計制度との融合的な発展・・・ということを祈念する立場から発言させていただく趣旨でありますので、どうかご容赦ください。

今日の打ち合わせの内容からしますと、シンポジウムはなかなかおもしろそうであります。私は部外者なもので、本当に素朴な質問をいくつかさせていただきましたが、これまで会計士さんの世界では、あまり議論されていなかった問題(不都合な真実?)が結構存在することがわかりました。学会の品位を汚すような言動だけはいたしませんが、会計士業界の外から見た興味ある課題、たとえば会計士の処分問題とか、監査調書と「裁判の証拠価値性」の問題とか、会計監査人・経理担当者間の「協議(指導?)」とベターレギュレーションとの関係など、監査現場で頑張っておられる会計士さん方にとって重大と思われる課題について、いろいろと意見を述べてみたいと考えております。また、部外者であるがゆえに発言が許されるのかもしれませんが、監督官庁による懲戒処分と会計士協会における処分との関係(行政手続法との関連で)などにつきましても、「問題提起」として、一言意見を述べさせていただく予定にしております。いずれにしましても、私自身にもたいへん貴重な勉強の機会でありますので、(アウェーの気分ではありますが)当日を楽しみにしております。

また、監査研究学会の会員以外の方も参加可能ですので、土曜日ではございますが、ご興味のある方は本町のあずさ監査法人事務所までお越しくださいませ。

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2009年6月17日 (水)

内部統制報告書の検討(その1-CFOの署名のある報告書)

昨夜(6月16日)の適時開示をご覧になって、「これは当ブログで大きくとりあげないのか?」といったご疑問を抱かれる方もいらっしゃるかもしれませんが、私自身、最近いろいろな局面で当事者に近い立場になることがございます。「あれ?先生、最近あの話題にどうして触れないのですか?」と時々メールでご質問をいただくことがございますが、そんなときは、ブログで気軽にとりあげることができない諸事情が発生した・・・とご理解ください(^^;;このあたりが実名ブログの難しいところでして・・・

さて、6月前半までに株主総会を終えた上場会社の内部統制報告書が次々とリリースされております。6月16日付けで提出されたものまで含めますと、現在19社の内部統制報告書がEDNETでご覧になれます。

とりあえず19社すべての内部統制報告書に目を通しましたが、このうちCFO(最高財務責任者)の署名のあるものが2つあります。やはりCFOの署名のあるものは一味違う・・・という印象を持ちました。とりわけ(東京、大阪同時株主総会開催や株主質問Q&Aの招集通知への記載、豪華なお土産などで)個人株主にたいへん人気のあるトラスコ中山社(6月12日株主総会終了)の内部統制報告書でありますが、やはりいいですねぇ。(ちなみに内部統制監査はトーマツさんですね)

業務プロセスにかかる内部統制の評価範囲は、全事業所および全部署を「重要な拠点」としました。

(もちろん、事業内容や「3分の2」の採り方によって、結果として全事業所が「重要な拠点」となる場合もあるとは思いますが)さすが監査役協会において「わが社の取り組み」として、堂々と内部統制を語っていらっしゃる会社は違いますねぇ。実施基準(意見書)に準拠しつつも、まさに攻めの内部統制を実践されていることが理解されます。こういった自己主張といいますか、「こだわり」の見える内部統制報告書が出されると、経営者(トラスコ中山社の場合はCFO)ご自身が積極的に関与されているように感じられます。(いや、本当はどこもそうでないといけないと思うのですが・・・)

いっぽう某会社のように、業務プロセスにおける評価対象となる勘定項目をひとつも例示していないところもありますね。(普通、「売上」「売掛金」「たな卸し資産」などと例示しているところが多いのでありますが・・・)まあ、これもひとつの「こだわり」といいますか「自己主張」なのかもしれません。。。(^^;

これからも、こだわり、自己主張の強い内部統制報告書に出会いましたら、「内部統制報告書の検討」編としてご紹介していきたいと思います。皆様がたも、なにかお気づきの点などございましたらお気軽にコメントをくださいませ。

PS

商事法務のメルマガからの情報入手は定番でありますが、この時期の株主総会情報の入手方法はなんといっても「株主優待ネタ」を紹介されているブログですよね。私のブログでも人気エントリーのひとつになりました「これはすごい株主総会かも・・・」(パトライト社の株主総会)につきましても、株主総会のお土産紹介のブログを覗いたのがきっかけでした。株主優待ファンの方は横のつながりも強いので、辿っていきますと、いろんな総会の様子が情報として入手できます。

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2009年6月15日 (月)

不提訴理由通知書(会社法847条4項)に対する裁判所の心証とは?

日本興亜損害保険株式会社の元役員の方が、先月「現取締役はわざと保険金支払いを遅らせて(利益をかさ上げして)粉飾決算を行っているので、会社として責任追及せよ」との提訴請求を行ったのに対して、6月12日に日本興亜損保の監査役は「提訴はしない旨を元役員の方へ通知するとともに、あわせて会社法847条4項に基づく不提訴理由通知書を送付した」とのことであります。(日本興亜損保のリリースはこちら。なお朝日新聞ニュースはこちら)一体何が「会社の損害」なのか、そもそも損保ジャパンとの統合に関する紛議の延長線上の問題なのではないか、といった疑問もあるかもしれませんが、いずれにせよ、提訴請求(および提訴しない場合にはその理由を開示せよ、との請求)につきましては、その対応が監査役の方々にはあらたな任務懈怠リスクである、と言われておりますので、こういった事例はとても参考になるところであります。

会社が取締役の責任を追及する訴訟においては、原則として会社を代表するのは監査役であります。(会社法386条1項)これは、代表取締役だと、責任追及の対象となる取締役との間において「なれあい」が生じる可能性があり、本来起こすべき訴訟を提起しなかったり、出来レースの訴訟を提起するなど、代表取締役には株主のため忠実にその職務を執行することが期待できないからであります。そこで監査役に会社を代表して取締役に対する訴えを提起するための権限が付与されるわけでありますが、もし株主から提訴請求がなされた後60日以内に取締役の責任を追及する訴訟を提起しない場合には、監査役は株主や取締役の請求に応じて提訴しなかった理由を通知しなければなりません。そして、その通知方法につきましては、会社法施行規則218条に規定されており、その内容からしますと、事実認定や法律解釈、強制執行による会社損害填補可能性など、法律的素養がなければ判断が困難と思われる理由の開示も必要であります。また、現実には不提訴の判断に対して、株主自身が提訴することになるでしょうから、その際にはこの不提訴理由通知書の内容を裁判所に証拠として提出することになろうかと思われます。したがって、提訴請求を受けた監査役としましては、自身の任務懈怠を極力回避するために、公正な第三者(とくに法律的素養のある第三者)の意見を参考として、そのうえで理由書を発送することになるようです。今回の日本興亜損保の事件でも、粉飾決算が問題とされているようですから、日本興亜損保の監査役さんは、外部の弁護士、公認会計士からなる委員会に調査を依頼したうえで、最終的には自己の調査結果などをもとに提訴しない、との判断に至ったそうであります。(5名の監査役さんの間でも、意見は一致されたそうです)この監査役さんが(会社の顧問弁護士以外の公平中立な立場の)法律家や会計専門家に委託して調査を進める・・・という手法は、同様の場合には一般化するものと思われます。

ところで、この監査役が外部の弁護士、会計士に調査を委託する・・・というのは、提訴請求の内容についての判断ということになるのでしょうか、それとも監査役の調査内容に対する公正性に関する判断ということになるのでしょうか?たとえば、企業不祥事が発生した場合に、社内調査委員会の調査を外部の弁護士が支援する、というものであれば前者のようなイメージとなり、社内調査委員会の調査結果について、その判断の透明性や公正性を社外調査委員会が独自の観点から判断する・・・ということでしたら後者のイメージに近くなるものと思われます。今回の日本興亜損保のリリースからみますと、前者のイメージに近いもののようであります。(つまり、監査役が責任をもって最終判断を下すのでありますが、その判断の参考のため外部の第三者に勝訴見込み等を含めた提訴の可否を検討してもらう・・・というもの)監査役にとって任務懈怠(善管注意義務違反)を問われないためのデュープロセスということであれば前者の考え方が妥当であり、また一般的にもそのような意味で「第三者に委託する」ことが「好ましい」とされているように思われます。しかし、不提訴理由通知書自身が後の株主代表訴訟における書証として提出される場合、その内容が裁判官からみて「公正に作成されたものであり、信用できる」との心証を得やすいのはむしろ後者のほうではないでしょうか。そもそもこのたびの興亜損保の事件のように、取締役による粉飾決算が問題とされるのであれば、監査役といえども「見逃し責任」や「共犯責任」を株主から問われる可能性も大きいのでありますから、そもそも監査役にも公正中立な第三者性を期待することがかなり困難な場面が想定されます。たしかに提訴するか否かという点について、外部第三者の意見を聴取した・・・ということは、それなりに判断の客観性は担保されるかもしれませんが、その外部第三者の意見を踏まえて、さらに監査役としての独自調査のうえで最終判断を下す以上は、どうしてもバイアスがかかってしまうおそれがあると思います。所詮、外部第三者に調査を委託するとしても、これまでの数々の調査委員会報告にみられるとおり、情報へのアクセスが限られている外部第三者の調査によって、どこまで真実に近づけるかは不透明であり、それよりも監査役自身の知見によって調査を進め、最終的な判断に至るまでの過程を第三者に審査してもらうほうが不提訴理由通知書の有用性は高いように思えるのですが、いかがなものでしょうか。監査役の判断の公正性中立性を、外部第三者の目からみて判断する、ということであれば、判断内容に稚拙な点があるかもしれませんが、それでも客観的にみて監査役が公正な第三者的な判断を行ったもの、といった裁判所の心証は得やすいものと思われます。ただ、監査役の判断の元になったものが第三者の意見ではなく、現実の資料によるということでしたら、株主側からの文書提出命令の申し立てによって多くの資料が開示の対象になってしまう可能性は否めないように思われます。

本来この監査役による不提訴理由通知書制度というものは、裁判所もその判断内容をある程度重視して、早期に裁判の終結をさせてしまうための「事前審査制度」(予審制度?)などをイメージして制定されたのではないかと思うのでありますが、そうであるならば、不提訴理由通知書に対する裁判所の心証(監査役が公正中立の立場で、もしくは株主の利益を考慮しながら作成したものかどうか)という点もかなり重要視されるべきではないかと思います。監査役の意見形成に法律・会計的素養のある方が参与するというモデルよりも、監査役の意見形成結果について、その意見形成の過程や結果の相当性につき、法律・会計的素養のある方が第三者の目で事後審査するというモデルのほうが、本来の不提訴理由通知制度の趣旨に合致しているようにも思えるのでありますが。そもそも、株主代表訴訟につきましては、不提訴理由通知制度以外にも、被告取締役側に会社が補助参加する場合の同意権が監査役に付与されていたり、原告株主と被告取締役との和解について会社が応じるか否かの検討の機会も監査役に付与されておりますので、極めて会社代表者(監査役)としての公正性・中立性が問われる場面でありますので、裁判所としても、そのあたりへの関心が高いところではないかと思われます。上記は通説的見解とは反する私見でありますので、未だ思いつきのレベルに過ぎず、自身における今後の検討課題としておきたいと思います。

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2009年6月11日 (木)

第2期関西不正検査研究会メンバー募集のお知らせ

しかしビックリしました。。。○○さん、○○庁に行っても頑張ってきてね~~♪(当分、連絡できないけど・・・私もあと15年若かったらなぁ・・・笑)←おおすぎ先生のような前フリはここまで(笑)

さて、お知らせでございます。CFE(公認不正検査士)資格をお持ちの方による関西不正検査研究会(関西CFE研究会)を、今年も第2期メンバーを募集のうえ、開催する運びとなりました。以下の告知はACFEの会員専用ページにも掲載しておりますが、こちらでも広報させていただきます。

第2期関西不正検査研究会メンバー募集

大阪の弁護士の山口利昭です。ご無沙汰しております。
さて、関西CFE研究会は昨年発足し、6回(特別回を含む)にわたり不正分野に関する研究会を開催いたしました。

昨年参加されたメンバーの方々より、本年度もぜひ継続されたい、との要望がございましたので、世話人間で協議をいたしまして、第2期の関西CFE研究会を開催する運びとなりました。

本年度も、継続研修単位が取得しにくい「不正」分野に焦点をあてて、事例研究を中心に研鑽を積んでまいりたい所存です。そこで、第一期にご参加いただいたメンバーに加えて、さらに第二期より新たに研究会に参加をご希望の方(主に関西在住のCFE資格をお持ちの方もしくは法人加入されていらっしゃる企業様の社員の方)がいらっしゃいましたら、とりいそぎ当職宛て、メールにてご連絡いただきますようお願いいたします。
toshi@lawyers.jp
なお、開催予定日時は、8月24日、9月24日、10月26日、11月30日、12月21日(場所は北浜、堺筋本町あたりを予定しております)です。時間は午後6時半より8時半まで(2ポイント×5=10ポイント取得)

開催に要する実費はメンバーの方にご負担いただきます。(一回1000円程度)なお、第一期にご参加いただいたメンバーの方々は、そのまま参加資格がございますので、あらためてご連絡いただく必要はございません。
現在のところ、第1期にご参加いただいた17名のメンバーのうち、16名の方につきましては継続してご参加いただく予定であります。
どうかCFEのスキルアップのためにも、多数ご参加いただきますよう、よろしくお願いいたします。

企業ご担当者、公認会計士の方を中心に、CFE資格保有者が増えているようにお聞きしておりますので、もしメンバーが多数となるようでしたら、研究会の開催方法も若干変更する必要があるかもしれません。ただ、この研究会は、ご参加いただくメンバーの方に積極的にご発言、ご発表いただくことを目的としておりますので、開催方法を変更するにしましても、そのあたりの趣旨を生かせるよう工夫したいと思っております。メンバーの方より、「成果物を出版化してはどうか?」とのご提案もございますが、これも検討しておきたいと思います。また法曹関係者の方でCFE資格をお持ちの方も、ぜひぜひご参加いただければ幸いです。

第2期より参加ご希望の方は、とりあえず当職あてご連絡いただきますようお願いいたします。(ACFE JAPANにはこちらからメンバー追加登録の連絡をさせていただきます)

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金商法157条と課徴金処分との親和性(金融審SG報告書案)

経産省企業統治委員会の報告書案につづき、本日金融審議会「我が国金融・資本市場の国際化に関するスタディグループ」の「~上場会社等のコーポレート・ガバナンスの強化に向けて~」報告書案がリリースされております。(当ブログにお越しの方でしたら、もうすでにお読みになった方もいらっしゃるでしょうね)日経ニュースによりますと、この報告書案でほぼメンバーの同意が得られた、と報じられておりますので、(株式持合いに関する検討に関する文案を除き)このような内容で報告書が公表される・・・ということになるようであります。金融審SG再開の頃に、もっとも話題となっておりました社外独立取締役の設置義務化の件につきましては、やはり経産省企業統治委員会と同じく、制度義務化は見送りということのようでして、メンバーの方々のご意見について「最大公約数」的な内容で落ち着いた・・・というところなのでしょうか。

この報告書を読んで、ふと「法則」めいたものに気づきました。20ページに及ぶ報告書のなかには数々の提言が盛り込まれておりますが、その提言ひとつひとつの最後の決め台詞(締めの言葉)が「・・・べきである」と「・・・する必要がある」と「・・・に期待したい」に分類できるんですね。これは私の推測でありますが、おそらく「・・・・べきである」と提言されている内容は、近々証券取引所自主ルールの改訂によって、実現される(もしくは強く実現を求める)規制内容でして、「・・・・する必要がある」と表現されている内容は、証券取引所ルールによる早急な改訂までは求めるものではないが、会社法や金融商品取引法(政省令も含む)など、法律改正によって実現を求める規制内容を示しているようであります。そして「・・・に期待したい」なる提言は、金融審としてはすぐに実現することへの要求というわけではないが、今後のさまざまな議論の高まりのなかで実現の方向で検討したい、という「他力本願」にも近い提言内容を示しているのではないでしょうか。(おそらくお読みになって、ムッとされている方もいらっしゃるかもしれませんが・・・・・・あくまでも私の推論にすぎません・・・)こういった「法則」があるからこそ、さきほどの日経ニュースにありますように、「銀行と取引先企業との株式持ち合いについては早急に禁止や保有制限をすべきだ」といった委員の意見が相次いだ・・・という記事内容と「報告書の一文をめぐって、意見が相次いだ」という記事内容とが結びつくように思います。(そういえば、6月9日の日経新聞の「許せる減配・許せぬ減配」~一目均衡~ は、株式の政策的保有に関連してなかなかオモシロイ内容でした)

そこで、かりに私の推測が正しいとするならば、金商法157条規制のエンフォースメントとして課徴金制度をとりいれる・・・ということは、報告書(案)5ページの記述からしますと「期待したい」という締め言葉になっておりますので、日経さんが報道されているほどに、課徴金制度が早急に活用されることはないものと思われます。

(不正行為の禁止)
第157条  何人も、次に掲げる行為をしてはならない。
1  有価証券の売買その他の取引又はデリバティブ取引等について、不正
 の手段、計画又は技巧をすること。
2  有価証券の売買その他の取引又はデリバティブ取引等について、重要な事項について虚偽の表示があり、又は誤解を生じさせないために必要な重要な事実の表示が欠けている文書その他の表示を使用して金銭その他の財産を取得すること。
3  有価証券の売買その他の取引又はデリバティブ取引等を誘引する目的をもつて、虚偽の相場を利用すること。

しかし、こういった包括条項に課徴金制度を導入することが検討される、ということはあまり意識しておりませんでした。インサイダー規制や有価証券報告書虚偽記載への課徴金制度導入ということになりますと、そもそも(ある程度明確な)刑事罰の構成要件が存在するわけでして、また課徴金として賦課されるべき金額の算定基準もそこそこ明確ですから、大きな不安はないわけですが、そもそもどういった行為が157条の規制対象となるのか明確ではないうえに、いったい何をもって(どんな算定方法で)課徴金の金額を決めるのか、という点も曖昧であります。また、課徴金制度は金融庁には原則として摘発するか否かの裁量がない・・・とされておりますので、そういった制度運営上の問題も出てくるでしょうし、(ひょっとしたら)正々堂々と課徴金と憲法違反の論点を争ってくる企業や個人も出てくるかもしれません。ということで、この金商法157条と課徴金導入問題は、ちょっと検討課題が多いのでありまして、やはり「期待したい」の部類に属するのではないかなぁと感じた次第であります。

そしてもうひとつ、エンフォースメントに関する検討課題として金商法192条に基づく裁判所による禁止・停止命令制度の活用が指摘されている点は注目であります。

(裁判所の禁止又は停止命令)
第192条  
裁判所は、緊急の必要があり、かつ、公益及び投資者保護のため必要かつ適当であると認めるときは、内閣総理大臣又は内閣総理大臣及び財務大臣の申立てにより、この法律又はこの法律に基づく命令に違反する行為を行い、又は行おうとする者に対し、その行為の禁止又は停止を命ずることができる。
2  裁判所は、前項の規定により発した命令を取り消し、又は変更することができる。
3  前二項の事件は、被申立人の住所地の地方裁判所の管轄とする。
4  第一項及び第二項の裁判については、非訟事件手続法 (明治三十一年法律第十四号)の定めるところによる。

なぜこれに目がとまったかと言いますと、東京のある「金融商品取引法に詳しい」弁護士の方が、だいぶ前から「この制度を活用すべきである」と自身の著書や法律雑誌の対談などでご主張されていたからであります。(こうやって金融審のSGで提言されるということで、先見の明があったんでしょうね・・・いや、きちんと金融審の議論の流れや法案審議の経過を見続けていらっしゃるからでしょうか・・・)法律違反行為があれば必要な処分をすることができるとしましても、投資家保護の観点からは、それだけでは十分ではない場合がありますので、法は行政庁の申立てに基づいて、裁判所が禁止・停止を命じる制度であります。金商法の平成20年改正で、金融庁が証券取引等監視委員会に申立てを委任できるようになったことで、今後の活用が期待される、ということなんでしょうか。いずれにしましても、この金商法192条はこれまで一度も活用されたことがありませんが、外資系投資銀行の日本法人が「ひょっとして財産を海外に持ち出すかも・・・」といった場面で緊急措置として財産保全をかけるように、また「NTTの株式を51%保有しました」なる大量保有報告書が提出されたような場合の開示への対処が求められるように、公益または投資家保護のために機動的な対応が必要な場面というのも、いろいろなところで考えられるでしょうから、今後の議論の深化に文字通り「期待」しております。

本当はもうちょっと報告書案の本論について感想を書きたかったのですが、ずいぶんと長くなってしまいましたので、別の機会とさせていただきます。

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2009年6月 9日 (火)

会計監査人の「期待ギャップ」リスク

当ブログでも最近とりあげましたが、コーポレートガバナンス改正論議におきまして、会計監査人の選任権を監査役に付与すること、そして報酬決定権 を同じく監査役に付与することについて、いろいろなところで是非について検討されているようです。日経の6月7日社説「会計監査の質高めるために」においても、日本監査役協会、経団連、そして会計士協会の提言内容が紹介され、日経(社説)の立場としては監査役の権限強化への制度改革を推進すべし、とありました。(おそらく会社法上の会計監査だけでなく、財務諸表監査も念頭に置いての議論だと認識しております)会計監査人の外観的独立性を確保して、公正透明な監査証明業務を果たすためにも、また今後ますます重要になると思われる「監査役と会計監査人との連携協調」を実現するためには、制度として監査役による選任、報酬決定が不可欠、とする意見もかなり強いようであります。

かりに監査役による会計監査人選任、報酬決定という制度が実現した場合には、会計監査人としては仕事もやりやすく、また適正な報酬も確保できるということで、「いいことづくめ」のようにもみえるのでありますが、いっぽうで「期待ギャップ」リスクのようなものは発生しないのでしょうか。

Cocolog_oekaki_2009_06_09_01_40 ざっくりとした印象でありますが、会計監査人の方々を取り巻くリーガルリスクとして、いま一番大きな課題とされているのは、会計の分野においては「公正なる会計慣行とは何か?」といった問題ですし、監査の分野においては、おそらく法定監査における目的論(会計監査において、不正発見はどの程度の目的とされているか?)が大きな課題とされているのではないでしょうか。(上図参考)とくに、粉飾決算が発覚して、その企業(おもに管財人)から監査責任を問われるような事態になった場合、細かいところの議論では、監査基準に従った監査が行われたのかどうか、という点が法廷で争われるわけでありますが、司法判断において、まず裁判所が判断するのは、法定監査が何のために行われるのか?という点であります。もちろん、会社の財務報告の内容が会社の実態を適正に映し出しているかどうか、という点への第三者としての意見表明にあることは当然でありますが、そこにどれだけ「不正発見」という目的をとりこむか、という点について、最近の判例などを読みますと、裁判官によって微妙に濃淡があるように思われます。

これまでは会計監査人に厳格な不正発見作業を求めようとしても、被監査会社から直接委託を受けていることや、報酬面での限界(効率的な監査手続き)などから、裁判所としても「不正発見目的」ということを強調することはなかったようであります。(会計監査人の責任を一部認容したナナボシ地裁判決でも、同様かと思われます)しかしながら、もし昨今のガバナンス論議にみられるように、そもそも「取締役の職務執行における不正発見を目的とした」監査役監査との連携が重視されるのであれば、「被監査会社から委託を受けているので、その委託の範囲において監査をする」という概念は後退するでしょうし、また監査役が報酬を決定するということになりますと、会計監査人側としても、リスクアプローチに基づいた監査計画を基準として報酬要求をしやすくなるわけですから、やはり報酬面での限界ということが監査の目的論の根拠とはいえなくなってくるように思います。

そう考えますと、会計監査人と監査役との連携・協調を重視したガバナンス整備が実現される場合には、懸案事項であります「法定監査の目的論」というものも、むしろ会計監査人にとっては要求される法的な注意義務のレベルが上がる(より、不正発見目的が強調されやすい)ことになるのではないでしょうか。つまり、一定程度「期待ギャップ」の隙間が埋められ、会計監査人に厳格な司法判断が下されることで、その会計士さん方の職務への期待感が高まることになろうかと思われます。このあたりは、まだまだ思いつきの意見にすぎませんが、会計監査人のリーガルリスクとして検討されるべき課題のひとつであると思います。

PS 本エントリーは、旬刊商事法務1866号の「コーポレート・ガバナンスにおける会計監査人の役割」(神戸大学志谷教授)の論文に大いに示唆を受けております。アメリカの制度などを参考にされながら、「妥当な解」を目指しておられる教授の論文はたいへん勉強になり、考えさせられる点も豊富であります。

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2009年6月 8日 (月)

カブコム証券元社員によるインサイダー取引事例の衝撃

このたびのカブドットコム証券元社員の方のインサイダー取引(課徴金勧告事例)については、いろいろと考えさせられる点がありますね。事例そのものは典型的な他人名義利用による自社株取引ということでありますが、ちょっと理解に苦しむのが社長さんによる事前のメール送信(社員全員への)というものであります。これ、本当に「ついうっかり」なのでしょうか。

今回の事案が2007年3月から11月ころまでの重要事実(自社に対するTOB)に関するものであり、ほぼ2年前の出来事ではありますが、2年前といえば、すでにインサイダー規制についてのリーガルリスク(社内から犯罪者を出さないためのインサイダー防止体制の構築)は世間でも話題になっていたところですし、ましてや金融機関ということになりますと、率先して体制整備を行っていたところではないでしょうか。かくいう私も、2006年の12月には某企業の役員として「企業統合に関する重要事実」を約2週間ほど抱えていたわけでありまして、定期的に決算情報を抱えるのとは比べ物にならないほどのインサイダーの恐怖に耐えながら正月を迎えた記憶があります。一般の上場企業の役員でさえ、あれだけ恐怖におののいていたインサイダー規制であるにもかかわらず、どうして金融機関の社長さんは重要事実が公表される前にTOBに関する重要事実を全社員にメール送信してしまったのでしょうか?こうやって、後から冷静に批評するのは簡単でありますが、なにかよほどの事情があったのではないかと推測するのでありますが、どうも解せません。自社株売買管理規定によって、おそらく全役職員に対しては自社株売買に関する事前届出が義務付けられていたものと思われますので、まさかあわてて「重要事実が公表されるまでは自社株の売買はしてはいけません」と告知した・・・というわけでもないですよね。

そしてもうひとつきちんと頭で整理できないのが証券取引等監視委員会(SESC)の調査方法であります。先日の某大手証券社員と会計士さんによるインサイダー事例の場合には、社内の情報を社外に持ち出したことで、社外の会計士さんが課徴金処分の対象となったわけですから、調査の段階で社外の会計士さんが対象者として浮上してくることについてはなんら問題はありません。しかし、このたびは親戚でもない社外の知人(昔からの友人)の取引口座を用いて、この知人とともに情報提供者側も割り出された、ということでありまして、そうしますと、どうやってこの金融機関側の対象者を特定できたのでしょうか。この知人に対する事情聴取のなかで、「○○さんから情報を教えてもらった」とか「○○さんから、一緒にやらないかと誘われたからやってしまった」との事情を入手したために調査が進展した、ということなんでしょうか。それとも、インサイダー情報の漏えいが1回きりであったら調査困難だったが、2回も漏えいされたことによって、調査対象が絞られたのでしょうか。もしくは普段から二人が「共同投資家」であったがゆえに、偶然にも社内の人物が特定できた・・・というものなのでしょうか?いずれにしましても、おそらく今回のパターンにつきましては、「これならインサイダー情報を活用して儲けても、バレることはない」と一般の方が安心してインサイダー取引をやってしまうパターンの典型だと思いますので、私的には「こういった情報入手者であっても、こうやって調査することでバレてしまいますよ」といった調査の仕組みについても、公表されたほうが「一般予防的には」意義があるのではないか、と思います。

このたび、カブコム社では、著名な弁護士の方によって構成される特別調査チームを組成したそうであります。この委員会の調査目的によって公表される事実については制限されてしまうかもしれませんが、再発防止策だけではなく、発覚に至った経過などについての詳細な調査結果や、他の社員についても(発信されたメールをもとに)インサイダー取引をしていなかったのか、といったあたりの調査報告などを、厳格に開示していただけたら・・・と期待しております。

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2009年6月 3日 (水)

カッコいい常勤監査役さんの引き際・・・

日本公認会計士協会は、6月1日付けにて、「会計監査人の選任議案及び監査報酬の決定権を監査役等に付与する措置の検討等について」と題する要望書を、法務大臣宛てに提出されたそうであります。(内容は会計士協会HPより閲覧可能です)そこには会計監査人の選任、監査報酬の決定権限を監査役会等が有する仕組みや、社外監査役の独立性強化、監査役スタッフの増員などに関する法改正について、法制審議会で検討されるように、との要望が含まれております。制度改正の側面から、今後の監査役制度や会計監査制度の実効性を高めていく必要性が、そこに明記されております。しかし、個々の企業における監査役制度の実効性を高めるものは、制度改正によるものだけではありません。

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昨年いろいろとお世話になった、ある監査役の方より「ご挨拶」と題するメールを本日頂戴いたしました。私よりもかなり年配の監査役さん(でも、たいへんお元気!)で、長期にわたり常勤を務められ、まさに内部統制監査とともに監査役の道を歩んでこられた方です。監査役在任中、大きな不祥事も経験されました。そして社内のガバナンス改革にも目に見える形で関与されてこられました。以下、そのメールの一部をご紹介いたします。(伏字は管理人の責任によるものです)

山口様

大変ご無沙汰致しております。昨年の○○○では大変お世話になり、眞に有難うございました。

既にご存知かとは思いますが、私は今期で辞任することにしました。

○○○で話しましたように、性弱説に立ちますと経営トップが暴走することはどこでもありうるわけで、その場合の歯止め役は監査役に期待されていると思います。

実は、当社の監査役は皆、任期が一緒になっており、改選期に経営トップが恣意的な人選(自分のいうことを聞く人)を提案してきた場合、同意権があるとはいえ、提案を覆すのは難しい環境にあります。例えば、「自分たちが居残りたいから反対している」などと言われると、反対しにくいものです。

又、監査役になった場合、新しい知識を学び、経験を積み、見識を身につける必要がありますが、そのためにも任期が2年ずれていると監査役会としては、一定のレベルを維持できます。

それで、少なくとも社内監査役(常勤監査役)に「2年の期差任期」を導入することが必要と考えておりました。

これを実現するには、株主以外は社長といえども監査役を解任できませんので、現任の監査役が辞任し、後任の監査役を補欠ではなく新任監査役として選任する以外によい方法はありません。

それで、当社に経営トップを牽制できる体制を築くために、今回辞任することにしました。現社長はその辺の考えをよく理解してくれ、賛成してくれました。

今後も何かの機会にお目にかかることがあるかと思いますが、宜しくお願い致します。      △△

たしかにTDNETを確認したところ、退任予定監査役、とあります。△△さん、カッコいい!カッコよすぎる。。。(涙)

これまで△△さんが監査役としてやってこられた改革をお聞きしていただけですが、今回のご退任の理由をお聞きし、ナットクいたしました。常にこれだけの覚悟をもって自社のガバナンス改革にあたってこられたんですね。

たしかに監査役の任期(とりわけ常勤監査役)が一致している場合に、2年の期差任期を監査役に導入するためには、補欠(定款により退任監査役の退任満了時までとすることが可能)としてではなく新任として監査役を選任するしか方法はなく、また監査役の増員をしないかぎり、現任監査役が辞任しなければこれを実現することは困難であります。監査役の牽制機能を常に充実させるためには、監査役会としてのレベルを一定に保つ必要があることもまさにおっしゃるとおりかと思います。

また、最近どうも監査役選任にあたって、「この監査役さんは、ちょっと会社とのこれまでの関係からみて監査する立場としては『利益相反』に該当するのではないか?」と思われる人選がみられるように思われますが、監査役の改選期が皆同じとなりますと、反対しづらいところもあるのでしょうね。いくら監査役が独任制といいましても、やはり監査役会としての意見というものが単独の監査役の意見よりも事実上影響力が大きいことは自明だと思われます。

△△さんの引き際をみて「監査役はこうでなければ・・・」とまでは申しません。ただ、昨年いろんなお話をさせていただいておりましたので、「あぁ、△△さんらしい引き際だなあ」といった感慨を持ちました。ガバナンスは制度によって作られるだけでなく、こうやって「人によって作られる」ものなんですね。△△さん、どうもお疲れさまでした。そしてこれからも、ご指導のほど、よろしくお願いいたします。m(__)m

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2009年6月 2日 (火)

クオンツ新株発行差止認容決定事件に学ぶ「司法による商法規範形成への期待」

(6月2日夕方追記あり)

ロースクールでの演習も、そろそろ中盤に差し掛かり、今週は株式会社における資金調達(主に上場企業を対象として)に関する討論が予定されております。題材を選択するのは法科大学院の教授でありますが、今年はクオンツ新株発行差止認容決定事件(東京地裁民事8部決定 平成20年6月23日 金融・商事判例1296号10頁以下)をとりあげて討論する、ということのようであります。毎度のことながら、きちんと判決(決定)全文を熟読しておかないと学生に申し訳ないので、とりあえずきちんと読みましたが、この事件はなかなかオモシロイですね。

この金融・商事判例1296号には巻頭、企業法務に詳しい某先生の解説「買収防衛策としての第三者割当て増資-東京地決平成20年6月23日の衝撃」と題する論稿がおさめられており、(その解説によりますと)上記クオンツ事件により、いわゆる判例における(第三者割当による募集株式の発行が差止め対象とされる「著しく不公正な方法によるもの」に該当するか否かを判定するための)「主要目的ルール」の中身が変わった画期的な決定である、と紹介されております。(この決定には、不公正発行を理由とする差止め訴訟の原告適格に関する争点も存在しますが)

ロースクールの演習でも、主要目的ルールを題材として、詳細な事実認定を通じて「会社が株式を発行することで資金調達する意味はどこにあるのか(社債や有利子負債ではいけないのか)」「支配権維持目的を推認させる事実とはいったいどれを指すのか」といったところを中心に議論を進めていくことが予想されます。私も、そういった高尚な議論にも興味はありますし、むしろ実務家としては「原告適格」のほうにも関心がいくわけでありますが、よくよくこの東京地裁民事8部の決定文を読んでみますと、やはり「登場人物」のおもしろさ・・・・に一番興味が湧いてきますね。オープンループさん、クオンツさん、アーティストハウスさん、イチヤさん、クロニクルさん・・・、ということでありますが、本当に話題豊富な企業さんが登場されます。(当ブログは実名ブログですので、「話題豊富」「ヤフー掲示板が盛り上がる」という趣旨でご紹介させていただいております。)先週金曜日に敵対的買収なのか友好的買収なのかよくわからないTOBによって65%の株式を第三者に取得されてしまい、「買われた方は(うちの会社を)どうも100%子会社化するつもりみたいですね」と公表したところもあれば、すでに上場廃止になったところも複数あり、また6月末をもって上場廃止となる企業さんもありますね。(しかし、第三者からTOBを仕掛けられた上場企業の取締役会として、「TOBへの意見ですが、我々は中立です。どうか株主様ご自身の自己責任で」と説明するのってどうなんでしょうね・・・)

上場法制に関わる争点(会社法と金融商品取引法にまたがる法規範を形成するような論点)を裁判所が形成していくことは、あまり期待できないのではないか・・・といったお話を東大大学院のK教授が こちらの講演録でされていらっしゃいますが、(そこではひとりの裁判官があまりにも多くの事件を抱えていることを理由とされておられますが)こういったクオンツ事件の判決を読んでおりますと、日本の企業社会において、とりわけ上場企業どうしが本当の「ガチンコ対決」を繰り広げる土壌というものが(敵対的買収などを除き)なかなか存在しないことにも起因するのではないでしょうか。これは株主代表訴訟の提起についても同様に考えられるところだと思います。ということで、やはり今後ますます証券取引所における自主規制ルールや、証券業協会における業界各社に対する指針公表など、いわゆるソフトローによって上場法制に関する法規範が形成されることに期待がかけられるようになるのかもしれませんね。また、ハードローによる規制とのバランスについても検証されるようになるのかもしれません。

(追記)商事法務メルマガで知りましたが、大林組株主代表訴訟が原告、被告および会社との間で和解成立となったようですね。(この事件では、大林組の監査役会による不提訴理由通知書に関心があったのですが)大林組のリリースによりますと、外部弁護士がコンプライアンス体制の検証をされるようです。なるほど、こういった形で「司法が規範形成に関与」する、ということもあるわけですね。

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