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2009年6月 2日 (火)

クオンツ新株発行差止認容決定事件に学ぶ「司法による商法規範形成への期待」

(6月2日夕方追記あり)

ロースクールでの演習も、そろそろ中盤に差し掛かり、今週は株式会社における資金調達(主に上場企業を対象として)に関する討論が予定されております。題材を選択するのは法科大学院の教授でありますが、今年はクオンツ新株発行差止認容決定事件(東京地裁民事8部決定 平成20年6月23日 金融・商事判例1296号10頁以下)をとりあげて討論する、ということのようであります。毎度のことながら、きちんと判決(決定)全文を熟読しておかないと学生に申し訳ないので、とりあえずきちんと読みましたが、この事件はなかなかオモシロイですね。

この金融・商事判例1296号には巻頭、企業法務に詳しい某先生の解説「買収防衛策としての第三者割当て増資-東京地決平成20年6月23日の衝撃」と題する論稿がおさめられており、(その解説によりますと)上記クオンツ事件により、いわゆる判例における(第三者割当による募集株式の発行が差止め対象とされる「著しく不公正な方法によるもの」に該当するか否かを判定するための)「主要目的ルール」の中身が変わった画期的な決定である、と紹介されております。(この決定には、不公正発行を理由とする差止め訴訟の原告適格に関する争点も存在しますが)

ロースクールの演習でも、主要目的ルールを題材として、詳細な事実認定を通じて「会社が株式を発行することで資金調達する意味はどこにあるのか(社債や有利子負債ではいけないのか)」「支配権維持目的を推認させる事実とはいったいどれを指すのか」といったところを中心に議論を進めていくことが予想されます。私も、そういった高尚な議論にも興味はありますし、むしろ実務家としては「原告適格」のほうにも関心がいくわけでありますが、よくよくこの東京地裁民事8部の決定文を読んでみますと、やはり「登場人物」のおもしろさ・・・・に一番興味が湧いてきますね。オープンループさん、クオンツさん、アーティストハウスさん、イチヤさん、クロニクルさん・・・、ということでありますが、本当に話題豊富な企業さんが登場されます。(当ブログは実名ブログですので、「話題豊富」「ヤフー掲示板が盛り上がる」という趣旨でご紹介させていただいております。)先週金曜日に敵対的買収なのか友好的買収なのかよくわからないTOBによって65%の株式を第三者に取得されてしまい、「買われた方は(うちの会社を)どうも100%子会社化するつもりみたいですね」と公表したところもあれば、すでに上場廃止になったところも複数あり、また6月末をもって上場廃止となる企業さんもありますね。(しかし、第三者からTOBを仕掛けられた上場企業の取締役会として、「TOBへの意見ですが、我々は中立です。どうか株主様ご自身の自己責任で」と説明するのってどうなんでしょうね・・・)

上場法制に関わる争点(会社法と金融商品取引法にまたがる法規範を形成するような論点)を裁判所が形成していくことは、あまり期待できないのではないか・・・といったお話を東大大学院のK教授が こちらの講演録でされていらっしゃいますが、(そこではひとりの裁判官があまりにも多くの事件を抱えていることを理由とされておられますが)こういったクオンツ事件の判決を読んでおりますと、日本の企業社会において、とりわけ上場企業どうしが本当の「ガチンコ対決」を繰り広げる土壌というものが(敵対的買収などを除き)なかなか存在しないことにも起因するのではないでしょうか。これは株主代表訴訟の提起についても同様に考えられるところだと思います。ということで、やはり今後ますます証券取引所における自主規制ルールや、証券業協会における業界各社に対する指針公表など、いわゆるソフトローによって上場法制に関する法規範が形成されることに期待がかけられるようになるのかもしれませんね。また、ハードローによる規制とのバランスについても検証されるようになるのかもしれません。

(追記)商事法務メルマガで知りましたが、大林組株主代表訴訟が原告、被告および会社との間で和解成立となったようですね。(この事件では、大林組の監査役会による不提訴理由通知書に関心があったのですが)大林組のリリースによりますと、外部弁護士がコンプライアンス体制の検証をされるようです。なるほど、こういった形で「司法が規範形成に関与」する、ということもあるわけですね。

6月 2, 2009 未完成にひとしいエントリー記事 |

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コメント

企業は、大阪圏に本社を持つべきではないと思う。

大阪地裁、大阪高裁では代表訴訟で異様に厳しい判決が出易い。

本社を東京に移すか、地方都市に移し、代表訴訟回避を目指すべきかも。

投稿: 山本 | 2009年6月 7日 (日) 11時04分

ちょっと山本さんと視点が違うかもしれませんが、株主代表訴訟を支援する原告団の代理人として、大阪には多くの弁護士がいらっしゃいますよね。ダスキンしかり、最近の三洋電機しかり。また、株主オンブズマンを構成する方々も多くが大阪の学者、弁護士であります。「金銭的損得を抜きにして、ともかく企業のために代表訴訟を提起する」といった気概をもった株主および支援者の輪がかなり大きく広がっていることも要因なのではないでしょうか。

投稿: toshi | 2009年6月10日 (水) 02時01分

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