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2009年6月26日 (金)

株主総会における退場命令に関する一考察

どこの会社とは申しませんが、株主総会の議長(定款の定めにより社長)が株主総会におきまして、株主に対して退場命令を出す場面に初めて立会いましたので、今後のためにも若干の考察を記しておくことにします。ちなみに2008年版株主総会白書(商事法務1850号89頁以下)によりますと、「退場命令等の有無」について回答のあった1962社のうち、昨年の総会で(議長が)退場命令を発したのはわずか6件だそうであります。ちなみにマイクを取り上げたとかマイクのスイッチを切った、という事実上株主の発言を制止させたものは9件あったそうですが、会社法315条2項に基づいて退場命令を発したのは6件のみ、ということのようで、意外と少ないんですね。(それだけ総会のイメージも変わってきた・・・ということなんでしょうか?)

このたびの退場命令は、総会屋関係というものではなく、いわゆる「苦情申出」タイプの個人株主さんに対するものでして、昨年もかなりハードでしたが、特に発言を制止することはありませんでした。会社と株主さんとの個人的な紛争を総会に持ち出して来られて、ほかの株主さんもかなり困惑されていました。今年は昨年にも増して、かなりハードに立ち回っておられました。議長も最初は冷静に「そのことはすでに会社としても対応済みですし、この総会の報告事項や審議事項とは関係のない話ですので、おやめください」と対応しておりましたが、3分ほども大きな声を張り上げて当該株主さんがどなり続けるため、他の株主さん方も「どうも総会の報告事項とは関係なさそうだ」といったことが理解できたようでした。

その株主さんが、制止を無視して、次々と会社の対応の悪さを並べ立てるものですから、遂に警告の末、議長は「即刻退場」と明確に発しました。私が驚いたのは、議長が退場を命じたその時、会場を埋め尽くした個人株主の方々から一斉に拍手が起こり、数名の株主の方が「はよ出ていけ!」とヤジを飛ばしたことでした。(後で「なんでもっと議長は早く退場命令を出さなかったのか」と苦情を述べる株主の方もおられました)退場命令の直後、その株主のところへ会場整理係がやってきて、他の個人株主の拍手やヤジの中、当該株主は退場されました。(おそらく)例年社長(議長)の穏やかな説明風景しかみたことのなかった一般株主の方々は、株主を睨みつけ、毅然とした態度で退場を命じた社長の姿にビックリして、逆にリーダーとしての威厳がまるでIRであるかのように印象付けられたことは間違いなかったようです。(それが良いのか悪いのかは別として)

さて、上記「総会白書2008」におきましても、退場命令は6件しかなかった、とのことですが、その6件がいずれも「警告を発したうえで退場命令を出した」とのことです。会社法315条2項は、総会の秩序を乱した者、または議長の命令に反した者について、議長が退場させることができる、としています。この文面からしますと、特に警告を発しなくても、議長の権限で退場命令を出すことも法律上は可能だと思われます。ただ、議長の命令が正当な目的で出されたとか、株主の発言が総会運営に支障の出る言動であったということは、やはり明らかにしておく必要があるでしょうし、また退場命令を発しますと、その株主の議決権行使を制限することにもなりますので、「円滑な議事進行上他に手段がなく、やむをえない場合」に限定して発することが必要であります。そうしますと、差し迫った有形力行使の危険があるなどの場合を除き、退場命令については、「これ以上、同様の発言を繰り返されますと、退場命令を出しますよ」と一度警告を発しておくほうがいいのではないかと思います。また、その方が退場命令を出された場合の会場整理係の準備なども整いやすいのではないでしょうか。

つぎに、今回のケースでは当該株主さんは、事業報告に対する質問の時間に登場したわけでありまして、議長の総会運営上の指揮権が発揮できる場面でありました。しかしながら、こういった苦情申出型の個人株主さんは、必ずしも「株主総会」で発言するとは限らず、株主総会の前後に開催される「株主懇談会」もしくは「部門報告会」でも登場することが考えられます。(ちなみに、先ほどの2008年総会白書によると、株主総会とともに「株主懇談会」や「部門報告会」を開催する上場会社は約3割存在するそうです)このような懇談会や報告会は、法的には株主総会とは違いますので、(円滑な議事進行のために認められる)議長の議事運営における指揮権というものは行使できないはずであります。(株主総会と一体となった会議体なので議事運営上の権利を行使しうる、という見解もあるかもしれませんが、ちょっと乱暴なような気がします。まちがっておりましたらご指摘ください)しかしながら、会議場の雰囲気は総会と変わりありませんので、こういった場面で当該株主さんが登場された場合にはどうしたらよいのでしょうか?これは私の思いつきであり、私見にすぎませんが、株主総会と同様、警告を発したうえで退場を命じ、会場整理係によって排除してもいいのではないでしょうか。刑法130条の不退去罪は、そもそも他人の管理する場所に入ることについて正当な権限を有する者について成立するわけで、その管理者より正当な目的で退去を要求されたにもかかわらず退去しない、ということですから、正当な退場命令が発せられれば株主さんにも成り立つ犯罪ではないでしょうか。(東京高裁昭和45年10月2日判決参照)また、株主懇談会も、会社の重要な業務ですから、退場命令に反して退去しないことは威力業務妨害罪にも該当する可能性があると思われます。ただし、会社法315条2項の要件とは別に退場命令が正当な権限の基に発せられたことが条件ですから、やはり当該株主さんの言動を慎重に見極めたうえで、株主懇談会等の業務の平穏が害されるおそれがあると判断した場合に(業務遂行上の管理者の権限として)限定されるものと思われます。なお、こういった退場命令というものは、あまりゴチャゴチャと理由を言わないほうがいいと思います。理由を説明すると、またその根拠あたりでゴチャゴチャと論争になるので、短く明確に「退場ください」でいいと思います。

こういった退場命令の要件を満たしているかどうか、という点など、総会の現場で支援するのはやはり弁護士がいいと思います。総会リハーサルであれば、法律事務の事件性の要件を満たさないため、証券代行さんに支援いただくのも問題ないと思いますが、総会当日に紛糾した場面では、おそらく「総会決議の取消事由(決議方法の不公正)」とか「議長の違法な議事運営権行使による株主への損害賠償」といった「事件性」を満たす可能性があり、そうなりますと事件性を有する法律事務として、これを弁護士以外の者が業務として担当しますと弁護士法第72条違反(刑事犯罪が成立)の可能性があります。ということで、総会当日に演題事務局のところで待機して、有事に議長の支援を行う外部委託者ということでは、やはり企業法務に精通された弁護士に任せるべきではないでしょうかね。(このあたりは、あまりこれまで議論されてこなかったところだと思いますし、単なる私見でありますので、正確なところは顧問弁護士の方と相談されてみてはいかがでしょうか)

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